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一、魔女の国1
しおりを挟む「ポプリ国は大陸の中心に位置する小国だ。
周囲を強国でぐるりと取り囲まれており、いつどの国から侵入されてもおかしくない。
そんなポプリ国は、資源に恵まれているわけでもないし、特産品があるわけでもないのだ。
それでも何千年もの間、平和が保たれている。
それはひとえに代々の女王による魔法の加護のおかげなのだ」
尖塔が銀色に輝く、王宮の奥深くにある女王の執務室で、早朝から歴史書を音読させられていた。
最近の私の日課だ。
毎日、毎日、読まされる。
私が、この歴史書を完璧に暗唱できるまで続けられるらしい。
「ふああああ」
つい欠伸をしてしまう。
昨夜遅くまで、チューちゃんとお喋りしていたので寝不足気味なのだ。
ちなみに、チューちゃんは、はつかねずみの姿をした使い魔である。
チューちゃんはいつもトレードマークの、深緑のベストを身につけていた。
-バシッ-
とたんにこの国の女王でもあるお母様から、勢いよく鞭がとんできたのだ。
「痛い!」
声をあげると、うたれて赤く腫れている左手の甲に視線をはしらせる。
「お母様。もっと手加減してくれない」
「手加減すれば、あなたは眠ってしまうじゃない。
それにここでは、お母様でなく女王様と呼ぶのよ。
いつも言っているでしょう」
執務机に座り、羽ペンで書類に何かを書き込みんでいるお母様は、こちらを見ようともしない。
それでも母親なわけ?
「女王様。私には、この本を暗唱するなんて無理です」
歴史書を閉じて、目の前の執務机に乱暴におく。
「無理じゃないわ。
他の王女にはできたのだから」
「それでも、私には無理です。
私は他の王女とは、色々と違っているのだから。
一緒にしないで下さい」
日頃不満に思っていたことを、たたみかけるように口にした。
さっきの歴史書にもあるように、ポプリ国の代々の女王は魔法がつかえたのだ。
不思議なことに魔法は、王族の女の子にしか引き継がれない。
なので王族の長女は、有力貴族から養子をむかえ、これまで血をつないできた。
「一番上のイリスお姉様は、誰よりも優秀だわ」
私は四人姉妹の三番目で、上に二人の姉、下には妹が一人いる。
イリスお姉様は、金髪碧眼のお母様そっくりの容姿をしていた。
姿だけでなく、男勝りの性質も、強い魔力も引き継いでいる。
現在は、大陸でもトップクラスの魔法大学へ留学中だ。
お母様自慢の娘で、国民期待の次期女王でもある。
「二番目のマーガレットお姉様の素直で優しい性格は、誰からも愛されているわ」
顎に手をあて視線を上にむけ、マーガレットお姉様の面影をなつかしむ。
マーガレットお姉様も、金髪碧眼だったけれど、印象はイリスお姉様とは真逆だ。
とても可憐ではかなげだった。
マーガレットお姉様は、同じ金髪碧眼でもお父様の方に似たのだろう。
そんなマーガレットお姉様が年頃になると、結婚話が殺到した。
そして、大陸でも屈指の豊かな国、ユーレック王国へ嫁いだ。
「マーガレットがローズの年には、もう子供がいたわ。
マーガレットの評判がいいので、ユーレック王国との交渉事もやりやすいのよ」
お母様は、せかせかと動かしていた手をとめて、喜しそうに微笑んだ。
魔法が使えるポプリの王女を、王妃に迎えたい国は多い。
長い歴史の中、ほとんどの有力国にはポプリの王女が嫁いでいる。
我が国の安定は、そういう所からもきていた。
大袈裟に言えば、魔女輸出ナンバーワン国なのだ。
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