お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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四十五、白い結婚二

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シルクでできたガウンに身をつつみ、侍女達を従えて閨房へ進む。

「まるで今から戦に行くようね」

隣にいるグラスにソッと笑いかける。

そうでもしないと、緊張で心臓が破裂しそうなのだ。 

「シッ。ローズ様。
これも神聖な儀式なのですよ」

グラスは自分の唇に人差し指をたてる。

「王妃様。ここでございます」

一番年かさだろうか。

白髪の目立つ侍女長が、王家の紋章が刻まれた扉の前で足を止めた。

王と王妃の初夜は、必ずこの扉の先にある部屋で迎える。

ストーン国のしきたりだった。

そして、扉の外では重臣、上位貴族が夫婦のことがおわるまで控えているという。

その為に扉の回りには、つくりのいい椅子がいくつも並べられている。

「あら。誰もいらっしゃらないわ。
さすがに、皆さん辞退されたのね」

ヘレン侍女長にたずねた。

「いえ、そうではありません。
王妃様が入室されると、席につく手はずなのです」

ぶっきら棒な返事に肩を落とす。

こんなプライバシーを無視したしきたりは、ポプリ国になかった。

今すぐにでも、とりやめて欲しいわ。

とため息をついた時、侍女長の手によって扉が重々しく開かれた。

「それではごゆるりと」

ヘレン侍女長は低く頭を下げると、丁寧に扉を閉じる。

「まあ」

すでに天蓋付きのベッドに腰をかけているレオ王を見て、思わず声をあげた。

少しはだけたガウンから、かいま見えるたくましそうな胸板、艶やかに光る髪、うるんだ瞳は、まるで彫刻のように美しかったからだ。

「なんだか照れるわね」

モゾモゾと言いながら、レオ王の隣に腰をおろす。

とたんに両手で抱きしめられた。

「今夜のローズはまるで砂糖菓子のようだな。
はやく食べてしまいたい」

レオ王の胸に顔をうずめるような形になって、ドキマギしていると甘い声が落ちてくる。

オニキス女官がいながら、何を言っているの。

ううん。王にとってこれは子孫を残す義務なのよ。

なら、私も王妃として義務をはたさないと。 

覚悟はできたわ。

ギュッと目を閉じた時だった。

「ハハハ。
またいやらしい事を考えているようだな」

レオ王が手をゆるめて身体を離す。

「こんな時にからかうなんて、ひどすぎるわ」

恥ずかしいやら、悔しいやらで思わず涙があふれてくる。

「すまん。悪かった。
だが、私は今夜あなたを愛せないんだ」

そう言いながら、レオ王は頬につたう私の涙を指でぬぐう。

「運命の人。
オニキス女官がいるものね」

「ああ。
けどその運命を変えてみせる。
私を信じて、しばらく待っていてくれないか」

レオ王は真剣な眼差しをむける。

「それってどういう意味なのかしら。
オニキス女官を愛しているんでしょ」

泣きはらした目のまま小首を傾げた。

「それは。実は」

珍しくレオ王が言いよどんでいると、扉がバタンと開く。

大きな音に驚いてふり向いた先には、オニキス女官が佇んでいた。

「オニキス女官。
どうしたんだ。こんな所にまでやって来るなんて。
失礼にもほどがあるぞ」

レオ王が怒りをおさえたような声をあげる。

「いえね。
王様があたいとの約束をやぶりそうだったから、忠告にきたんだよ」

オニキス女官がジロリとこちらをにらむ。

「『あたい』って、いつものオニキス女官じゃないわね。
おかしいわよ」

そう言ったとき胸に激痛が走る。

「息が。息が苦しいわ」

胸をおさえて背中を丸くした。

「やめるんだ。オニキス女官。
私はもうこれで退出する。
王妃とは二度と寝床を共にしない」

「わかればいいんだ」

短いやりとりをおえて、二人が部屋から消えてゆく。

すると先ほどの胸痛は嘘のようになくなってしまう。

こうして初夜がおわる。

白い結婚生活が幕を切ったのだ。
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