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六十二、魔法使いは兵器じゃない ナール最小視点
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現在わが国は、隣国スベル国とにらみ合いが続いている。
特殊な石が採れる山の所有権をめぐってだ。
山は元々ストーン国の物なのに、以前からなにかと難癖をつけてきていた。
が、最近特にそれがひどい。
王様はまだ若い。
おまけに外面は、女性顔負けの優美さである。
勇猛果敢な内面を知らないスベル国は、王様を馬鹿にしているに違いない。
悔しかった。
「ここはストーン国自慢の最新兵器で、スベル国を威嚇するしかないですな」
会議では何度もこう主張している。
そんな緊縛した日々の中だった。
王妃様が、王様に緊急の話があるという。
「はああ。
あの王妃様に緊急な話があるとは、思えませんがね」
グラスから用件を伝え聞いた瞬間、深くて長いため息をつく。
このところ王様は会議会議である。
王妃様とお茶をする時間も、めっきり減っていた。
それで淋しくなったのだろう。
時間をさいて会った所で、つまらない相談をしてくるだけに違いない。
野ウサギのように子供っぽい王妃様の、やりそうなことだ。
「王様。王妃様のことは後回しにされてはいかがですか。
どうせ、たいした問題じゃないですよ。
薬草園に植えて欲しい木があるとか、そんなところでしょう」
フンと鼻をならして、進言した。
「その可能性は高いが、念の為だ。
王妃に会ってみる」
「そうですか」
チッと、舌打ちをした時だった。
「しばらくローズの顔を見ていない。
淋しかったから、ちょうどいいんだ」
目を細めた王様が、かすかに頬を染めたのは。
こんな表情は、今だかつて見たことがない。
まさか、王様は本気で、王妃様を愛しておられるのだろうか。
正直、あの王妃様の、どこがそんなにいいのかわからない。
「わかりました。
では、私も一緒にまいります」
そう言って王妃様の部屋を訪れたが、王妃様は王様の訪問を、目を丸くして驚くではないか。
王様を呼んではいない、というような意味の言葉を口にした。
そんなわけはない。
はっきりこの耳で、グラスから用件を聞いたのだから。
「ああ。じれったい。
ダリア王女様なら、こんなことはなかったはずだ。
それにダリア王女様だったら、非常時には、戦力にもなりえただろうに」
イライラして、つい口走ってしまう。
すると、王妃様が弾かれるように顔を上げた。
しまった。
痛いところをつかれた王妃様が、立腹されたのか。
とっさに謝罪すると、王妃様は凜とした声で言ったのだ。
「ナール宰相。
魔法使いだって、一人の女なんですよ。
ダリアは、ここへ嫁いで来なくて正解でした。
ただの兵器として、扱われるところでしたから」
王妃様の言われる通りだった。
反論のしようがない。
けれど、それが政略結婚だ。
いや。きっかけは政略でも、王様には愛ある家庭をつくってもらいたい。
常々そう思っているではないか。
動揺している間にも、王妃様はさらに言葉を続け、最後にはこう言い放ったのだ。
「根気よく、話し合いで交渉を続けて欲しいです。
もし、人質が必要なら、私はいつでもスベル国へ向かいますので。
魔法が使えなくても、人質にはなれますから」
王妃様が進んで人質になるだと。
本気なのか。
王様の前で、格好をつけているのではないか。
王妃様の顔に視線を移すと、王妃様の瞳には、強い意志が浮かんでいた。
『こちらが戦力で応じれば、相手も戦力を使ってくるでしょう。
それで、一番被害を被るのは平民ですよ。
それはいけません』
目を閉じて、先ほどの王妃様の言葉を、かみしめる。
そして、目を開き、目の前のピンク色の髪と瞳をした頼りなげな王妃様を、じっくりと見つめた。
王妃に最重要なのは魔力ではない。
周りにいる人や、平民を思う心である。
自分の間違いに気がつき、フッと自嘲した時だった。
「王妃にやられたな。ナール宰相」
王様が最高の笑顔を見せてくれたのだ。
特殊な石が採れる山の所有権をめぐってだ。
山は元々ストーン国の物なのに、以前からなにかと難癖をつけてきていた。
が、最近特にそれがひどい。
王様はまだ若い。
おまけに外面は、女性顔負けの優美さである。
勇猛果敢な内面を知らないスベル国は、王様を馬鹿にしているに違いない。
悔しかった。
「ここはストーン国自慢の最新兵器で、スベル国を威嚇するしかないですな」
会議では何度もこう主張している。
そんな緊縛した日々の中だった。
王妃様が、王様に緊急の話があるという。
「はああ。
あの王妃様に緊急な話があるとは、思えませんがね」
グラスから用件を伝え聞いた瞬間、深くて長いため息をつく。
このところ王様は会議会議である。
王妃様とお茶をする時間も、めっきり減っていた。
それで淋しくなったのだろう。
時間をさいて会った所で、つまらない相談をしてくるだけに違いない。
野ウサギのように子供っぽい王妃様の、やりそうなことだ。
「王様。王妃様のことは後回しにされてはいかがですか。
どうせ、たいした問題じゃないですよ。
薬草園に植えて欲しい木があるとか、そんなところでしょう」
フンと鼻をならして、進言した。
「その可能性は高いが、念の為だ。
王妃に会ってみる」
「そうですか」
チッと、舌打ちをした時だった。
「しばらくローズの顔を見ていない。
淋しかったから、ちょうどいいんだ」
目を細めた王様が、かすかに頬を染めたのは。
こんな表情は、今だかつて見たことがない。
まさか、王様は本気で、王妃様を愛しておられるのだろうか。
正直、あの王妃様の、どこがそんなにいいのかわからない。
「わかりました。
では、私も一緒にまいります」
そう言って王妃様の部屋を訪れたが、王妃様は王様の訪問を、目を丸くして驚くではないか。
王様を呼んではいない、というような意味の言葉を口にした。
そんなわけはない。
はっきりこの耳で、グラスから用件を聞いたのだから。
「ああ。じれったい。
ダリア王女様なら、こんなことはなかったはずだ。
それにダリア王女様だったら、非常時には、戦力にもなりえただろうに」
イライラして、つい口走ってしまう。
すると、王妃様が弾かれるように顔を上げた。
しまった。
痛いところをつかれた王妃様が、立腹されたのか。
とっさに謝罪すると、王妃様は凜とした声で言ったのだ。
「ナール宰相。
魔法使いだって、一人の女なんですよ。
ダリアは、ここへ嫁いで来なくて正解でした。
ただの兵器として、扱われるところでしたから」
王妃様の言われる通りだった。
反論のしようがない。
けれど、それが政略結婚だ。
いや。きっかけは政略でも、王様には愛ある家庭をつくってもらいたい。
常々そう思っているではないか。
動揺している間にも、王妃様はさらに言葉を続け、最後にはこう言い放ったのだ。
「根気よく、話し合いで交渉を続けて欲しいです。
もし、人質が必要なら、私はいつでもスベル国へ向かいますので。
魔法が使えなくても、人質にはなれますから」
王妃様が進んで人質になるだと。
本気なのか。
王様の前で、格好をつけているのではないか。
王妃様の顔に視線を移すと、王妃様の瞳には、強い意志が浮かんでいた。
『こちらが戦力で応じれば、相手も戦力を使ってくるでしょう。
それで、一番被害を被るのは平民ですよ。
それはいけません』
目を閉じて、先ほどの王妃様の言葉を、かみしめる。
そして、目を開き、目の前のピンク色の髪と瞳をした頼りなげな王妃様を、じっくりと見つめた。
王妃に最重要なのは魔力ではない。
周りにいる人や、平民を思う心である。
自分の間違いに気がつき、フッと自嘲した時だった。
「王妃にやられたな。ナール宰相」
王様が最高の笑顔を見せてくれたのだ。
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