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七十四、私らしい幸せ
しおりを挟む目をさますと、いつものベッドの中にいた。
「さっきのは夢だったのかしら」
小首を傾げて、あたりをキョロキョロと見渡す。
「夢なんかじゃないわ。
ローズはね。
カデナ王妃の呪いを解いてから、ずーと眠っていたのよ」
いつものように側で丸まっていたブーニャンが首をもたげる。
「ほら。オイラのベストも金色のままだ。
あれは夢なんかじゃない」
窓からポンと布団の上に飛び乗ってきたのは、チューちゃんだ。
「そうだわ。
私の髪も金色のままなのかしら」
鏡を手にしようと立ち上がった時、荒々しく扉が開いて王様が現れた。
「金色のままだぞ。
ピンク色の髪と瞳のローズは、とても愛らしかったが、金髪碧眼のローズは、ため息がでるほど美しい。
私はどちらのローズも大好きだ」
久しぶりに会う王様は、美しさが倍増している。
以前は、美しさにどこか陰があった。
けれど今は、太陽のように輝くばかりだ。
「『大好きだ』なんて」
照れて布団を頭からかぶろうとしたが、王様に抱えられる。
「バルコニーで気分転換しないか」
王様は返事もきかずに、せかせかと部屋を横切ってゆく。
「ローズ様。せめてこれをどうぞ」
あわててグラスが手渡してくれたのは、シルクのガウンだ。
「王様。
ローズ様はめざめたばかりなんですよ。
あまり無理をさせないで下さい。
私からのお願いです。
毎日、一日何回も様子を見に来てくれた熱意には、感動しましたけどね」
心配げな言葉とはうらはらに、グラスはとてもいい笑顔をうかべている。
「寒くはないか。ローズ。
はやく二人きりになりたくて、つい焦ってしまった」
王様はガウンを着せてくれてから、てれたように長い髪を手でかきあがた。
「大丈夫です。
いつのまにか、すいぶん温かくなっていますから」
バルコニーから見下ろすストーン国にも、
あちこちに濃い緑があふれている。
「ところで、王様。
エレーナ王妃様は、王宮に戻られたんですよね。
これから一緒に薬草を育てるのが、楽しみです」
「それがだな。
母はもう王宮には戻らない。
いや、王妃には戻らないと言うべきかな」
「どういうことですか」
「ただのエレーナとして、あそこの救護施設で働くそうだ」
「なんですって。
王妃様が施設でお仕事を始めるのですか」
目を丸くして驚いていると、王様がクスリと笑う。
「母はな。
『自分の行動を一番理解してくれるのは、きっとローズだわ』と言っていたぞ」
「その通りだわ。
私がエレーナ王妃さまでも、きっとそうしていたと思うわ。
最初はちょっと驚いてしまったけれどね」
「さすが似たもの同士だな。
でも、あなたの方がはるかに芯が強い」
サラリと王様はそう言うと、肩に手をのばしてくる。
二人の身体がピタリと密着してしまう。
相変わらず、レオ王は心臓に悪いことばかりするのね。
「オニキス女官はどうなったのかしら」
「あれからすぐに解雇した。
何度も王妃を傷つけようとしたんだ。
当たり前だろう」
「でも、あれはカデナ王妃のせいだから」
すぐ近くにある整った横側に声をかける。
「けど許せなかった。
オニキスは今は、ユリア騎士の実家で働いているんだ」
「ユリア騎士の所なら安心だわ」
ユリア騎士の実家は名門だと聞いていた。
オニキスの一人や二人雇うことなど、どうってことないだろう。
「それは王様の提案ですか」
「そうだ。
最初はオニキスを国外追放にするはずだった。
けど、ユリア騎士があまりに憔悴するから、しかたがなかったんだ。
私の護衛に支障がでたら困るからな」
「本当にそれだけですか」
「ああ。それだけだ。
最近ユリア騎士は、休みになれば実家にとんで帰っているぞ。
だらしない男だな」
王様の瞳には、優しさがうかんでいる。
「いつかユリア騎士の思いがオニキスに、伝わればいいですね」
「私の知ったことではないな。
そうだ。
バーレン解呪師は正式に解呪師を引退したぞ。
余生は、息子や孫とゆっくり過ごすと笑っていた」
「私が眠っている間に、色々なことがあったんですね。
他にはもうありませんか」
「一つある。
例の立ち入り禁止区域をなくした。
あそこが見えるか」
王様のすんなりした指先の向こうは、薄紫色に染まっていた。
「まあ綺麗ね」
「あそこにラベンダーを植えた。
ローズは、ラベンダー茶も好きじゃないかと思ってな」
「大正解です。
ラベンダー茶は、ストレス解消にいいのよ。
ぜひ王様に飲んでいただきたいわ」
どんな豪華な物より、素晴らしい贈り物だ。
「そんな風に、喜んでもらえてよかった。
呪いを解く為にあなたは大活躍だったが、私は何もできなかった。
気がひけていたんだ」
王様は残念そうにため息をつく。
そんな王様に一生懸命伝えたいことがある。
「そんな風に思わないで欲しいの。
私は、すでに王様から宝物をいただいていますから。
あの時の言葉ですよ。
『他の王女と違って何が悪い。
他の王女と違う幸せが、待っているだけだ』
覚えていますか。
姉妹達にコンプレックスだらけだった私は、あの言葉にとても勇気づけられたんです」
「そうだったのか。
私はただ、思ったままのことを言っただけだったのだが」
「そして、今言葉通りになりました。
私は、私らしい幸せを手にすることができたんですもの」
気持ちが高ぶって泣きそうになっていると、王様が大きな手で優しく頭をなでてくれた。
「これからは、私達らしい幸せをつくっていこう」
「はい」
深く頷いたとたん、顎を持ち上げられた。
「呪いが本当にとけたかどうか、確かめてみないか」
王様の声が耳に届いた時、唇にやわらかい物がふれる。
それは気が遠くなるぐらい甘い。
お飾り王妃のはずだったのに、誰よりも愛されているから。
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