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7話 : 友達

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私は自分の能力が水だとはっきり分かった。
水……か。
確かに水は小さい頃から大好きだった。
落ち着くというか…
能力を知って実感した。自分がどんどん人間でなくなることに。
私は、これからどうすればいいんだろう。


次の日、学校へ行くといつもより人の視線を感じた。もう昨日のことがバレたのか…
すると、誰かに肩を叩かれた。
驚いて振り向くと、真由美が手を振った。
「どうしたの?顔色悪いよ?」
「え?そう?」
「うん。……もしかして、周りの目が気になるの?」
真由美の言葉にギクッとした。
真由美はため息をついた。
「私はヒドラ族あんまり好きじゃないけどね、麻衣は別だよ?」
「え…」
「だって友達だしね。」
そう言って真由美は笑顔で私を見た。
そっか…
ヒドラ族って理由だけで離れていく友達じゃないもんね。
少し勇気が出た。

夜。
私は鈴乃に電話で自分がヒドラ族だということを打ち明けた。
「ヒドラ族!?麻衣が!?」
「…軽蔑した?」
「そんな訳ないじゃん。麻衣大好きだしね」
「……ありがとう…」
「…みんな知ってるの?」
「…うん。誰にも言ってないのにバレちゃって…」
「怪しいね。そういえば真由美は?なんて言ってた?」
「友達だよって言ってくれたよ。」
「………そう」
「真由美はヒドラ族のこと恨んでるって本当なの?」
「え…なんで?」
「だって、全然そんな風に見えなかったよ?相変わらず優しいし」
「麻衣は人のこと信じすぎなんだよ」
「鈴乃が信じてないだけでしょ?真由美は友達なのに…なんでそんなこと言うの…」
「麻衣、ちゃんと周りをよく見てよ。」
「見てるよ、……私ね、ヒドラ族ってバレてからからかわれるんだよ?周りの目が冷たくて…いつかもっとひどくなりそうで…怖い」
「麻衣…」
「でも、真由美達はそれでも優しいんだよ。私は真由美達なら信じられる」
「………」
「唯一信じられないとしたら、そんなこと言う鈴乃の方かな」
そう言って電話を切った。
ただの八つ当たりだ…
でも、鈴乃があんなこと言うなんて…

次の日、私の周りの動きが変わった。
すぐ物を隠されるし、暴言、暴力も増えた。
私が力を使うのを待っているのだろうか…
私はこれからどうなるんだろう…
私は真由美に相談した。真由美は、
「不安になるの、わかるよ。私はヒドラ族じゃないから偉そうなこと言えないけど…」
真由美は少し間をおいてからつぶやくように言った。
「麻衣は、1人じゃないからね。私や鈴乃、香織、他にもいるんだし」
真由美は照れ隠しなのか、急にカバンをゴソゴソいじった。
「ありがとう…」
そう言うと、真由美は満面の笑みで言った。
「どういたしまして」



その頃鈴乃は、麻衣との電話のことを考えていた。
「麻衣…。」
そのうち取り返しのつかないことが起こるような気がする。
麻衣がヒドラ族だと噂を広めた奴がいる。
麻衣は友達を信じすぎている。
私には理解出来ない。
小さい頃、大好きだった親友に裏切られたことがある。信じていた人だから…とてつもない喪失感が私を襲った。
それ以来、人を信じることをやめた……はずだったのに。
麻衣だけは違った。正直で、真っ直ぐな子。正義感が強くて本当に優しかった。
あの笑顔が偽りではないと心から思えるようになるまでそう時間はかからなかった。

だからこそ…麻衣を助けてあげたい。私と同じ道を歩かせたくない。何より…あの笑顔を曇らせるようなことはしない。
麻衣が大好きだから。
私は大急ぎで家を出て、麻衣の大学に向かった。
麻衣の大学についた時にはもう8時だった。
さすがにもう帰っちゃったか…
諦めて帰ろうかと思った時、人影が見えた。
「?」
音を立てないようにそーっと近づいた。
2人いる…?
そのうちの1人を見た鈴乃は鋭い目つきで睨みつけた。
予感が…当たった。
その人は気づかずに誰かと話していた。 
相手は男だった。
「じゃ、約束通りにしてね」
「…………お前…」
「何?」
「ずっと思ってたけど、お前のやりたかったことってこんなことなのか?」
「何よ今更。もちろんそうよ。私はヒドラ族を許さない。」
「……報酬は?」
「後日ね。約束を果たしてくれてから。」
「分かった。………後悔はしないよな?」
「もちろん。」
「………」
男は何も言わずに立ち去った。
私は、その場に立ったままのあいつに声をかけた。


「真由美」
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