【R18】略奪王女と堅物夫の秘密 〜我々は鍵と鍵穴である〜

小判鮫

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12 願いは叶う 〜勘違いの行方〜

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 隣国で行われる婚姻式に向かう国王と王后、外務一位爵と四位爵五名、内務二位爵一名と三位爵二名、法務二位爵一名と三位爵二名、寝殿勤めの侍従・侍女が五台の公用馬車に順次乗り込み、近衛隊二十騎と軍務二位爵一名、三位爵三名が指揮する護衛兵たちが馬に騎乗していく。

 昨日、花嫁行列は予定通りに隣国との国境関門を越えたとの一報があった。
 何十台もの荷馬車と一緒では時間が掛かる為、式に参列する者は今日、出立することがあらかじめ決まっていたのである。

「留守を頼む」

 国王が馬車の窓から声を掛けると、そちらに顔を向けるのは、ユゥシュートとブレンナ、一歩下がった場所にシューサイラとアーナルヤ。その背後には宰相と主だった政務一位爵である。

「お気を付けて、いってらっしゃいませ」

 ユゥシュートが見送りの代表として挨拶をすると、見送りの全員が礼を取り、静かに馬車が動き出した。

 これから月の半分ほどは、ユゥシュートが父王の名代として国の舵取り、王后の代わりをブレンナが、アーナルヤとシューサイラは其々の補佐を務める。

 何度か経験していることだが、ミフォーレが居ない分、厳しい判断を自分がくだすこともあるだろうと、アーナルヤは気持ちと共に背筋を糺した。


 *・゜゚・*:.。..。.:*・'*'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


 細々とした問題はあったが、国の命運を左右する重大事もなく、穏やかに日々は流れ、両親が揃って帰国の途についたとの知らせが届いた日、アーナルヤは執務の小休憩にと第二庭園へと足を運んだ。

 第二庭園は夏盛かせい園とも呼ばれている。
 地下水を汲み上げた人工の川と池があり、美しい花を咲かせる蔓植物を利用した東屋あずまや風の屋根付きベンチが点在していて、王族と国府官吏に開放されている王宮中庭の一つだ。

「殿下もご休憩で御座いますか?」

 アーナルヤがお気に入りの藤棚で作られた東屋あずまや風ベンチに腰掛け、通り抜ける風を受けながらボーッとしていると、不意に声を掛けられて意識を取り戻した。

「ビアイシン卿……ご機嫌よう」

 突然の声掛けに一瞬驚いた表情を見せたものの、ヘルムーズを目にすると微笑して挨拶を口にする。
 恋心が叶わなくても、どんな形であれ彼に会えることそのものが、アーナルヤには喜ばしい出来事なのだ。

「ご機嫌麗しゅう存じます……お付きの方は?」

 返礼に略式挨拶として胸に左手を当て頭を下げたヘルムーズだが、顔を上げると周囲を見回して首を傾げた。

「茶菓子と冷やした飲み物を取りに行かせていてよ。夏盛園は官吏がよく利用するし、近衛の巡回も頻繁だから、危険などない場所だもの」

 ゆっくりと外側に視線を向け、他のベンチで涼を取ってる様子の官吏や、巡回中らしい近衛二人組を見つける。

「左様で御座いますか。ですが、護衛官を必ず一人はお付け下さい。変事に備えることも殿下の為すべき務めかと具申致します」

「忠言、感謝するわ。でも、護衛官はすぐ近くに居るから大丈夫よ」

 いかめしい顔で苦言を呈するヘルムーズにほっこりと胸が温かくなるアーナルヤが、チラリと背後に目を向けながら答えると、左右の太い柱から一人ずつ女性近衛兵が進み出た。

「臣の勇み足で御座いました。無礼の段、ご容赦を」

「問題などなくてよ?ところで、卿は休憩時間?それとももう戻るところ?」

 相変わらず固い口調で謝罪するヘルムーズに少しモヤッとするものの、明るい声で会話を楽しむことに気持ちを切り替える。

「はい、ですが戻るまでは時間が御座います。先程まで川に足を入れて冷やしておりました。今日は伝書鳩の如くあちこちへ陛下方の一報を伝えに飛び回っておりましたので」

「まあ!伝書鳩になったの?ならば、ご褒美を与えなくては。そうね。ずはそちらにお掛けになって?何か欲しいモノはない?」

 普段とは違い、冗談めかした言葉のヘルムーズに嬉しさを隠し切れず、柄にもなくはしゃいだ声をあげて笑う。

「殿下のご尊顔を拝し、同席を許されましたことが、臣に取って何よりの褒美で御座います」

「そうなの?残念ね……本当に欲のないこと」

 再び固い言葉に戻ったことに落胆し、溜め息混じりに本音を漏らしたことを恥じたアーナルヤは慌てて口を手で押さえた。

「どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでも……その、わたくしたちの噂を思い出して……」

 いぶかしげにアーナルヤを見つめるヘルムーズに、なんとか誤魔化そうと彼女が頭を巡らせて出した言葉である。

 その発言に顔色を無くしてふらりと立ち上がったヘルムーズは、アーナルヤの側まで進み出て、その足元に叩頭した。

「申し訳御座いません、臣の不徳の致すところ。殿下には大変不愉快なことと……」

「いいえ、いいえ!顔を上げてちょうだい!迷惑でも不愉快でもなかったのよ!?ただ、わたくしの力が足りないばかりに、卿こそ迷惑だったのでは、と思って……」

 慌てて否定するアーナルヤが身を屈めてヘルムーズの肩に手を置き、顔を上げるように促す。
 結果的に近い距離で見つめ合う形になった二人の間を、初夏の風が吹き抜けた。

「……殿下、そのお言葉、誠でしょうか?臣は自惚うぬぼれてもよろしいのですか?」

「え?自惚れ?……い、今のは!言葉のあやですわ!忘れて……っ!」

 熱に浮かされたようなヘルムーズの言葉に思考が追いつくと、反射的に距離を取ったアーナルヤは紅潮した顔を背け、手をバタつかせる。
 左右するその手が一つヘルムーズに捕まり、ハッと彼に目を向けると、指の甲を額へ押し当てるところだった。

「忘れようにも忘れることは出来ません。他ならぬ殿下のお言葉で御座いますから」

「手を、離して……?」

 額に手を当てた俯き加減のヘルムーズの顔が見えず、不安から声が震えるアーナルヤに、彼はやっとその顔を上げた。

「臣はこの場で、殿下に求婚致します」

「は……え?待って、キュウコン?キュウコン、とは?」

 事態の急展開に半ば自失しているアーナルヤは、言葉の意味を理解出来ずにオウム返しを繰り返す。

「お慕いしております、殿下。臣の元へお降りくださいませんか?……もしも承諾ならば、我が名をお呼び下さい」

「そ、れは本気、なの?わたくしを慕っていると……ヘルムーズ……」

 突然の告白に茫然となるアーナルヤだが、辛うじて名を呼ぶ権利を与えられたことに気付いて、嬉しさの余り涙が滲み出てきた。

「はい。あぁ、やっと!やっと伝えることが出来ました!アーナルヤ殿下、我が愛しき王家・・の至宝!誰よりも大切に思っております!」

力強く首肯し応えるヘルムーズは、アーナルヤのその手に口付ける。


「そう……なのね、有り難う」

 しかし、『王家の』という枕言葉に胸が痛むのを感じたアーナルヤはそれを押し隠して微笑むしか出来なかった。






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