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閑話2 謀(はかりごと)
しおりを挟むエシモワ王国第一王女ミフォーレ・ルナ・ヨゥ・アイスワーレの花嫁行列が、隣国ツォーカ王国との国境を越えた頃、アーナルヤとヘルムーズの醜聞に塗れた噂は収束していた。
ウラミーナ・ソンダースが農具の技術分野限定ではあるが『異才』と名高いサーレン男爵嫡男、ナールス・ダーマネンに求婚され、本人もそれを受けたという事実があっという間に流れたからである。
サーレン男爵ダーマネン家と言えば、ワルエトージ領で起きた天災の時、その復興に尽力したことで家名が知られることとなった。
国内有数の穀倉地帯を救った男爵家は、他家からも注目を集め始めている。
建国前に遡れば、ワルエトージ地方サーレン郡ダーマネン町の大地主であり、耕地活用法、肥料の試行錯誤、農具の研究開発に注力していたところをビアイシン家の庇護を受け、建国当初に叙爵された貴族家の一つだということも、調べればすぐに分かる事実でもあった。
他貴族からはワルエトージ侯爵家の寄子貴族の一つという認識であるが、叙爵の際に初代ビアイシン当主の末妹が嫁いだことで分家となり、それに関しては秘匿されている。
ダーマネン家は研究家を輩出する一族であり、権力闘争にはなんの興味もないからだが。
そして、ビアイシンの血に因るものか、『主家至上主義』はダーマネン家の嫡男にも色濃く出ていた。
ーー時は少々遡りーー
「若様、この美しいお嬢様に求婚したら、新しい農具が出来るってぇのは本当っすか?」
「新しい農具が出来るかは分からんが、かねてより貴様の念願だった工芸技師とは話が出来ると思うぞ?」
「農具に必要なのは強度なんすわ。工芸品はその脆さを『何か』で覆い隠す技術があるらしいですぜ。俺はそれが何か知りたいんす」
「ナールス、『俺』はダメだ。貴様は何処ぞの愚連隊にでも所属しているのか?せめて『僕』、出来れば『私』に言い換えろ。あと、マジでとですぜも止めておけ」
真顔で告げるヘルムーズに、美しく装うウラミーナ・ダーマネンの絵姿を眺めていたナールスが、眼前の主人に顰めっ面で頷いた。
「へい。ですがね、俺……じゃない、私は末端の田舎貴族の倅でしかありやせんで。こんな都会のお綺麗なお嬢様が相手にしてくれんすかい?」
「私は素の貴様も好ましいが、それでも、農具開発に必要ならば、王都の貴婦人に合わせた口調を学ぶよりほかないだろう」
「うわっマジっすか!?綺麗な娘っ子は好きなんすけど、そんなんメンドクセーんすわ!」
両の頬に手を添えて嘆くナールスに苦笑しながらヘルムーズが応える。
「だが、我慢して学んだ後は、好きなだけ研究に邁進出来るのだぞ?」
「マジで!?ぃよし!やってやらーですぜ!」
「だからマジとですぜは止めろと」
大叔父モースウィンの一声がきっかけになった茶番劇は、ヘルムーズが画策したものである。
思ったよりも時間が掛かったのは、肝心要のナールスが、貴族的言語を身に付けるのが進まなかったのもあるし、農作業で鍛えている大柄な彼の衣服を作る為でもあった。
普段から農家人に混じって仕事をしているナールスは、王都に出ることが滅多にない為、まともな衣服を持っていなかった。
どんなに愚かであろうとも、目だけは肥えていそうな王都育ちのウラミーナをしっかりと罠にかけるべく、ヘルムーズは手を抜かずに準備した。
自分が利用する服飾店にナールス用の正式礼装を二着、略式礼装を二着、普段着五着を注文し、それぞれの衣服に合わせた小物から靴までフルオーダーメイドで整えたのである。
愛する王女殿下に『醜聞』という瑕疵を付ける加害者の一人にされたヘルムーズは、噂を作っては流すウラミーナに、自身の受けた屈辱を倍にして返す為、強烈な一撃を与えてやる!と息巻いた。
あの求婚の日、ナールスに侍っていた令嬢は、ビアイシン分家筋の情報を得た一族外の貴族の令嬢たちである。
ナールスの持つ技術力と同時にビアイシン一族に繋がる縁を、他家が欲しがっているのを利用した。不名誉な噂を垂れ流す貴族たちへの仕返しも込めているものだ。
あとは、不名誉な噂を美談に変えて本物にしてしまえば良い。
そんな単純な思考でヘルムーズは計画したのだ。
愛する王女から、別方向に誤解をされているとは思いもせずに。
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