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21 秘め事 〜過ちの始まり〜
しおりを挟む静かに涙を零したアーナルヤは、やがて堪え切れずに嗚咽まで漏らす。
「どうしたの?いつもの鉄壁の仮面は」
「だって、分から、ないからっ!」
落ち着くまでの時間を計ったら、半刻も経ってないだろうが、アルースは中々泣き止まないアーナルヤに辛抱強く付き合い、この状況の原因を聞きだした。
「ビアイシン卿が浮気、ねぇ?」
「本当のことは分からないわ。でも、女官が見たという部屋では、男女が睦み合ってたと……」
そう言うとアーナルヤはまた涙が込み上げて、話が途絶える。
「彼を信じたい?それとも信じられない?あなた方は相思相愛なのではなかった?」
「それも、わからないっ!わたくしは、何を信じて、いたのかも!」
「悲しいんだね?ビアイシン卿に裏切られたと感じて」
「裏切り……?違うわ……彼は、王家の姫であるわたくしを、裏切らない」
「じゃあ何が辛いの?こんなに泣くほど」
涙を拭うハンカチを目元に当てるアルースからの言葉は、アーナルヤの心を突き刺していく。
通常であれば、その言葉の裏を読んだに違いないアーナルヤだが、心が乱れた今の状態では、悪い方にばかり思考が傾いてしまう。
泣き腫らした両頬を手で包まれて上向けさせられたアーナルヤに、戯けるような笑顔のアルースが囁いた。
「僕は君のそんな慟哭より、もっといつものような甘やかな声が聞きたいな」
「アルース……やめて」
「ねぇ、姫。ここには僕と貴女、それと月と草花しかない。貴女の夫は他の女を抱いたところを見られたかもしれないけど、僕たちの関係は誰にも知られたりしないよ?僕たちが言わなきゃ、ね?」
羞恥を覚えてアルースから目を逸らすアーナルヤに、目の前の男が顔を寄せて耳元で甘美な一言を告げる。
「そんなこと……」
「大丈夫。ここで泣いたことも、僕に会ったことも、全部秘めておけば誰にも知られないんだから」
血族である気安さも含めて、アルースの囁きはアーナルヤの乱れた心に染み渡る。
密着されても抵抗しないアーナルヤに何を思ったのか、アルースが耳殻を食んだ。
「あ、アルース…あ、あん」
「うん、可愛い声。もっと聞かせて」
耳元で囁かれた言葉に、ヘルムーズも似たようなことを言っていたと思い出し、微かな抵抗をする。
「あ、あぁ……ダメ、こんなの……あっ」
「大丈夫。これは泣いてる姫を、お慰めしているだけ」
アルースが耳殻を覆うように口の中に取り込み、舌先が形をなぞるように動く。
次第に片方の鼓膜を揺さぶる粘りを含んだ水音は、アーナルヤの背筋をびくりと震わせた。
「お待ちなさい。わたくし、ここでは、イヤだわ」
薄明かりと水音、そして自分を包む他者の体温。それはアーナルヤのスイッチだった。
スイッチが入ればアーナルヤは変化する。ヘルムーズが望む『女王』に。
突然の変化に驚いたアルースの口が、アーナルヤの耳から離れる。
「お前、わたくしを組み伏せるつもりなのでしょう?そんなことしたら体に傷がついて侍女に悟られるわ」
両腕で胸を強調する様に自らを抱きしめながら流し目を向けられ、アルースはごくりと喉を動かした。
「僕が……下になるから……」
「当然よ」
気負いのないアーナルヤの微笑みとは裏腹な傲慢さを滲ませる声に、自然とアルースがその場に跪く。
「お座りしたの?偉いわね。ご褒美よ」
そう言って、アーナルヤは両足をソファの上に乗せて開き、部屋着をたくしあげて隠されているべき場所をアルースに見せた。
本来なら、ヘルムーズの為に下着を着けていなかったアーナルヤの秘部は別の男の前に曝け出される。
「これが欲しいのでしょう?耳のように好きなだけ舐めてよくってよ?」
アーナルヤが浮かべる微笑みは、日の光の下では慈愛に満ちたものであるが、月明かりに照らされた今は、淫靡でしかない。
アルースはフラフラと誘われるように、たくしあげられた部屋着の中へと顔を近付ける。
この瞬間、彼女の過ちは始まった。
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vv0mako0vv様、ご感想頂きまして、誠に有り難う御座います🙇♀️
タグにありますように、アーナルヤは踏み外し、ヘルムーズは疑惑なだけ、なのですが……
なんというか、彼は特殊ですので😅
この先は……彼女があーなってこーなる……のは🤫{ナイショ)なのですわ🫢
凛蓮月先生、再度のご感想有り難う御座います。
よくあるネタとして、使ってみました🤣
疲れて寝ちゃう新婚夫婦、楽しいです❣️
次回、大変です😅
まだ書き終わってません💦💦
頑張ってます、主にヘルさんが❗️←
ご期待に沿えると良いのですが😅
きゃーっ❗️凛蓮月先生❣️
ご感想、有り難う御座います💕💕
仰る通りなのです❗️
『王家に求婚』とか、なんて残念なヘルムーズさん⁉️なのです💦💦
さて、この両片思いがどんな悲喜劇をもたらすのでしょうか🧐
初っ端から不倫してますからね🤣🤣
乞うご期待⁉️であります🫡