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20 信じたくない 〜嘆き〜
しおりを挟む半時もすると、様子を見に行かせたハニヤと女官がアーナルヤの居室に戻った。
「姫さま。この女官が言う部屋ですが」
「中に人は?」
「それが、その、男女が一名ずつおりまして……閨事を行っておりましたが」
「そんなバカなことが!!」
ハニヤの言葉にモニーチェが悲鳴に近い声を上げる。
「ですが!ご夫君だとも言えません!部屋は暗く、男女が睦みあっている様子しか確認出来ませんでした」
「……そう。有り難う、分かったわ。そうだ、銀河間は……」
休憩室に滞在する者の特定が出来なかったとハニヤが項垂れて報告する間、隣に居る女官の妙に落ち着いた様子を目にしたアーナルヤは、そのことに不信感を募らせた。
「銀河間はメイドが数人で片付け作業をしておりました」
「ではご夫君はそろそろお戻りになることでしょう」
「大丈夫ですとも。ご夫君が不貞などなさるハズが御座いません」
ハニヤの言葉にアーナルヤが思案していると、次々と侍女たちが励ましとも取れる言葉をかける。
「もういいわ。今すぐ衣装部屋に予備の寝台を入れてちょうだい。ヘルムーズが戻ってきたら、そちらに案内して」
王族として品行方正に生きてきたアーナルヤが、初めて口にするとんでもない我が儘に、その場に居る侍女たちが息を呑む。
「いいこと?絶対に、わたくしの寝室には入れないで」
そう言い捨てたアーナルヤが寝室の扉を開けて中に入り、音もなく閉めて鍵を掛けた。
「ヘル……信じたくない……でも、分からないの……だって、わたくし達は……愛し合ってると、言えるのかしら」
放心したようにフラフラと寝台に近付き、その身を投げ出す。
「わたくしが王家の者でなければ、彼は見向きもしない。王家、王家、王家!わたくしは貴方の妻なのに!もう王家の姫ではなくってよ!!」
枕を勢いよく両手で掴んで寝具の上に叩きつけながら、涙を浮かべて叫ぶアーナルヤの声は誰にも届かない。
忠実な侍女たちの指示のもと、衣裳部屋に寝台を入れるべく、寝殿は蜂の巣を突いた騒ぎになっているのが、扉越しに聞こえる。
(一人になりたい)
感情を昂らせたアーナルヤは、寝室にある隠し通路に足を踏み出した。
特に行くあてもなく、フラフラと隠し通路を歩いていると、ところどころに空いてる空気穴から人の声が聞こえてくる。
それを避けるように、人の居ない場所を選んで歩き、気が付けば寝殿の奥庭に続く扉の前に居た。
奥庭に出て、夜を照らす月を見上げると、ほぅ、と息を漏らす。
背の高い木は奥庭を縁取るように配置されている為、月明かりでも東屋の場所が浮かんで見えた。
東屋のベンチに腰掛け、ぼぅとしているアーナルヤは、誰も居ない場所だと安心していたのか、それとも油断していたのか。
パキっという何かが折れる音に我にかえると、音源に方へ顔を向ける。
「アーナルヤ姫?」
声を掛けたのは王家の分家ともいえる公爵家の一つ、イクーサ公爵三子・アルースだった。
「ここは王家の庭よ?いくら王家の血を継いでいても、こんな時間に供も連れずに来るのは非常識ではなくて?」
本来なら、厳しい言い方をするのは彼の為なのだが、虫の居所が悪いアーナルヤは不機嫌さを隠そうとせずに言い切る。
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「側に寄っていいとは言ってませんわ!」
「やだなぁ。僕が許可もなくアーナルヤ姫に何かするわけないでしょ?……何があったの?」
アルースから放たれた気遣うような問い掛けに、アーナルヤはポロっと涙をこぼした。
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