次の派遣先は"知らない世界"でした

turugi

文字の大きさ
6 / 6
量は質を凌駕する

責任の所在はどこにある?

しおりを挟む


 「……何かあったのか?」

 
 執務室に向かっている途中。二人の無言に痺れを切らしたかのようにテンが切り出す。


 「はい。良くないことであるとだけ回答しておきます。 詳細は旦那様から」


 テンは無意識に大きく息を吸い込み、鼻から息を出す。カンドから伝えられないことであるならば、かなり面倒が起こっているはずである。可能な限り“何とかできること”であってほしいと願いながら、オウトのいる執務室に到着した。


「旦那。 参りました」

「かなり面倒なことになった。 二人の意見を聞かせてほしい。 先ほど中央の税務官がエコノリハの納税調査に来て、2年後からの取り立てを増加すると告知してきた」


 オウトは言い難そうに口を開く。オウトの性格を良く知るテンとしては身構えてしまう。オウトは相談を自分にはあまりしない。基本的には自分で考え、決定事項を伝える方が得意だ。もともと軍部上がりの騎士であったため、トップダウンの指揮命令が身についている。そんな彼が”相談をする”ということは、考えがまとまらなかったのであろうが、税務官からの告知内容を聞く限り、そこまでの面倒ごとには聞こえなかった。


 「それがかなり面倒ってどういうことですかい? 確かに前回からあまり期間が経っていないにしても、あり得ねえ話ではないでしょうに」


 そう。税の取り立て量の増加は、定期的に依頼をされることである。そして各領主との調整の後に、双方の合意が行われた納税額や年貢量を納めることになる。


 「それが新領主のバタール勲爵が、既に納税額を領内の各地で決めてしまったらしい。 エコノリハでは昨年と比べ約1.5倍になるそうだ」

 「なんだって! 相談もなしですかい?!」

 「付け加えさせて頂くと、昨年までのように芋での納税を認められておらず、麦もしくは硬貨にての納付に指定されていました。もし、芋を売り金貨の工面をするとしても、領の内外で需要が無く、麦に関してはそもそもの農地がありません。仮に開墾は出来るにしても水が撒けません。雨が2~3日に1度降ることを祈りながらの栽培はリスクが高すぎます」

 「そういうことらしい。 バタール勲爵が農務の役人として実績を認められ、一代爵位を授与されたと聞いてきたから、農地改良ができるかと期待していたのだが、領の面積で単純な割り当てをしたんだろう」

 「糞野郎が! 中央の好きそうな数字遊びだけで決めやがって」

 「中央との合意の後であるとバタール勲爵から嘆願してもらうしかないが、新任領主として即座に自分の誤りを伝えて貰えるだろうか」

 「難しいでしょうね。 国内でも珍しい統治貴族の居ない領です。そこの領主は役人からしたら最上級の役職と言っても良いでしょう。最初から選択を間違えたとすれば、中央から足を引っ張りたい勢力が大波のように押し寄せます。領主という椅子に座り続けたいと保守に回れば、今回の合意は領で赤字になろうともやり切ります」

 「だろうな。早急に解決策を考えねば……」


 いつの間にか日が落ち始め、ランプに灯を入れる。エコノリハ地を治める男たちの会話はそこからランプの灯が落ちるまで続いた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...