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量は質を凌駕する
消えない考え
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鋭く風を切る音が響く。
「動きが遅くなっとるぞ!!」
「「「はい!」」」
十数名の男たちが剣の素振りをしている。
男たちは同じ方向を向きながらリズム良くかつ鋭く剣を振るう。
3列に整列した男たちと向き合うように立つのは豪族エコノリハに使える従士長テン。見た目こそ粗暴であるが、剣筋をみれば良く訓練されたことが分かる。上半身の肌を露わにしている彼の身体は、決して見せびらかすための筋肉でなく、より戦いに特化したであろう無駄のない筋肉は剣の鋭さと相まって覇気さえ感じさせる。
それに対峙するように整列した男たちは、エコノリハ地の従士たちだ。
前列に並ぶ古参の従士たちは流石の練度である。全盛期の勢いはないのかもしれないが、鍛え抜かれた剣捌きである。無駄のない技巧とはこのことをいうのであろう。
中列には一般の従士たちが並ぶ。拙いわけではないが、前列の従士たちと比べると数段劣る。威勢と勢いに技術が追い付いていないのが素人目にもわかる。
そして後列。ここは従士階級になる前の人員が並んでいる。私も丁稚として訓練に参加しているが、傍から見ても酷い有り様なのは間違いない。
かれこれ、ここに来てから3か月が過ぎた。当時はシステムが突然切れてしまうかと脅えていたが、今はこの生活に楽しさも感じている。半ば諦めにも近い感情であるが、もしシステムが突然切れてしまった場合には、私は死ぬ可能性が高い。システムが脳波の制御しており、正規の順序を踏まずシステムダウンした場合には、良くて植物状態。想定通りであれば死であることは、開発した自分が一番良く分かっている。ケチらずにアシスタントを待機させておけば良かったというのは後の祭りである。
生活をしていく上で徐々に慣れてきたこともあるが、まだまだ理解は追い付いていない。先日知った魔石に関しては寧ろ謎が深まるばかりである。人為的に製造されていることは分かったが、詳しい製法については分からなかった。都市部に行けばわかるかもしれないが、インターネットも無いこの世界では情報伝達が紙か伝言に限られる。紙でピンポイントに欲しい情報が村にあるはずもなく、知恵袋的な老人や旦那様に伺う他の情報入手手段がなかったのだ。
「止め!!」
テンの号令の後にピタリと男たちの素振りが終わる。後列から順に地面と仲良しになっているのは体力の差か、気力の差かは分からない。
「エイトは癖を直すところから始めるべきだな。剣筋に迷いがなさすぎる」
夕方の日課となっている稽古では終了時にテンが一人ひとりに評価をしている。自分が指摘された内容が変わっていないことに頬が引き攣る。
遥か昔。それこそ6歳~13歳まで剣道をやらされていた。初段を取るまでは辞めさせない古き良き道場主の元、通い稽古をしていた記憶が微かに残っている。目立った強さは無かったが、数年間身に沁み込ませた武道としての剣の癖を取り払うことに苦戦していた。
「一振りずつは芯を捉えられているから、問題ない。 だが相手に切られたらそこまでだ。切った数は戦じゃ評価されねえ。戦に勝った時に生きてたやつが評価されんだ。 怪我をしないのは無理かもしれんが、五体満足で戦は終わらせる剣を覚えろ」
テンのいうことは理解できる。確かに実際の戦場であれば剣道のように面や胴以外にも脚や腹にも攻撃されることもあるはずだ。そんな中、剣に気合が無かったから無効などと言えるはずもない。今の自分の剣はお稽古の剣であるのは認めざるを得ないが、いまいち戦場で剣を振るうことを自分事と想像できておらず稽古に精を出し尽くせていない。一撃必殺を良しとする剣道はあくまでも一対一の剣。戦場の複数対複数の剣とは技術の方向性が異なる。
「努力します」
結果的に回答は歯切れの悪いものになるのは私の良くない癖だ。今までやってきた正解とされていたものを否定され、即座に対応できるか不安な時はいつも同じ回答をする。
「テン様~テン様ぁ~ 剣はそれくらいにしてお戻りください」
「カンドか。もう少し汗を流したい」
「ダメです。仕事が進みません」
当領で身なりを最も気にしているだろう従士のカンド。彼はエコノリハ地の頭脳である。最終決定する権限は持ち合わせていないが、多くの政策を一手に引き受けている。もともとは中央で役職に就いていたようだが詳しいことは教わっていない。魔石のことを調べたときに旦那様よりも中央のことを把握していたことが印象に残っている。
「……すぐに戻る。 本日の訓練はこれまでとする!」
残された従士たちは疎らに自室へと向かっていく中、テンとカンドはそそくさと執務室の方へ消えていった。
「動きが遅くなっとるぞ!!」
「「「はい!」」」
十数名の男たちが剣の素振りをしている。
男たちは同じ方向を向きながらリズム良くかつ鋭く剣を振るう。
3列に整列した男たちと向き合うように立つのは豪族エコノリハに使える従士長テン。見た目こそ粗暴であるが、剣筋をみれば良く訓練されたことが分かる。上半身の肌を露わにしている彼の身体は、決して見せびらかすための筋肉でなく、より戦いに特化したであろう無駄のない筋肉は剣の鋭さと相まって覇気さえ感じさせる。
それに対峙するように整列した男たちは、エコノリハ地の従士たちだ。
前列に並ぶ古参の従士たちは流石の練度である。全盛期の勢いはないのかもしれないが、鍛え抜かれた剣捌きである。無駄のない技巧とはこのことをいうのであろう。
中列には一般の従士たちが並ぶ。拙いわけではないが、前列の従士たちと比べると数段劣る。威勢と勢いに技術が追い付いていないのが素人目にもわかる。
そして後列。ここは従士階級になる前の人員が並んでいる。私も丁稚として訓練に参加しているが、傍から見ても酷い有り様なのは間違いない。
かれこれ、ここに来てから3か月が過ぎた。当時はシステムが突然切れてしまうかと脅えていたが、今はこの生活に楽しさも感じている。半ば諦めにも近い感情であるが、もしシステムが突然切れてしまった場合には、私は死ぬ可能性が高い。システムが脳波の制御しており、正規の順序を踏まずシステムダウンした場合には、良くて植物状態。想定通りであれば死であることは、開発した自分が一番良く分かっている。ケチらずにアシスタントを待機させておけば良かったというのは後の祭りである。
生活をしていく上で徐々に慣れてきたこともあるが、まだまだ理解は追い付いていない。先日知った魔石に関しては寧ろ謎が深まるばかりである。人為的に製造されていることは分かったが、詳しい製法については分からなかった。都市部に行けばわかるかもしれないが、インターネットも無いこの世界では情報伝達が紙か伝言に限られる。紙でピンポイントに欲しい情報が村にあるはずもなく、知恵袋的な老人や旦那様に伺う他の情報入手手段がなかったのだ。
「止め!!」
テンの号令の後にピタリと男たちの素振りが終わる。後列から順に地面と仲良しになっているのは体力の差か、気力の差かは分からない。
「エイトは癖を直すところから始めるべきだな。剣筋に迷いがなさすぎる」
夕方の日課となっている稽古では終了時にテンが一人ひとりに評価をしている。自分が指摘された内容が変わっていないことに頬が引き攣る。
遥か昔。それこそ6歳~13歳まで剣道をやらされていた。初段を取るまでは辞めさせない古き良き道場主の元、通い稽古をしていた記憶が微かに残っている。目立った強さは無かったが、数年間身に沁み込ませた武道としての剣の癖を取り払うことに苦戦していた。
「一振りずつは芯を捉えられているから、問題ない。 だが相手に切られたらそこまでだ。切った数は戦じゃ評価されねえ。戦に勝った時に生きてたやつが評価されんだ。 怪我をしないのは無理かもしれんが、五体満足で戦は終わらせる剣を覚えろ」
テンのいうことは理解できる。確かに実際の戦場であれば剣道のように面や胴以外にも脚や腹にも攻撃されることもあるはずだ。そんな中、剣に気合が無かったから無効などと言えるはずもない。今の自分の剣はお稽古の剣であるのは認めざるを得ないが、いまいち戦場で剣を振るうことを自分事と想像できておらず稽古に精を出し尽くせていない。一撃必殺を良しとする剣道はあくまでも一対一の剣。戦場の複数対複数の剣とは技術の方向性が異なる。
「努力します」
結果的に回答は歯切れの悪いものになるのは私の良くない癖だ。今までやってきた正解とされていたものを否定され、即座に対応できるか不安な時はいつも同じ回答をする。
「テン様~テン様ぁ~ 剣はそれくらいにしてお戻りください」
「カンドか。もう少し汗を流したい」
「ダメです。仕事が進みません」
当領で身なりを最も気にしているだろう従士のカンド。彼はエコノリハ地の頭脳である。最終決定する権限は持ち合わせていないが、多くの政策を一手に引き受けている。もともとは中央で役職に就いていたようだが詳しいことは教わっていない。魔石のことを調べたときに旦那様よりも中央のことを把握していたことが印象に残っている。
「……すぐに戻る。 本日の訓練はこれまでとする!」
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