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第1章 英雄と竜帝

第10話 勇者、説明する。

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「……とまあ、そんなわけで、岩だろうが、竜だろうがどんなもんでもまっぷたつって訳よ。」

 ファルに現状の説明を求められ、得意気にロアが破竹撃について語ったところで、周囲に沈黙が流れた。

「……って出来るかよ、そんなこと!大体、物事には限度ってものがあるだろ!」

 ファルはロアがやってのけた大それたことを見て、はっきり言って納得ができないでいた。それはジュリアにしても同様で、ポカンと口を空けて微動だにしていない。よほど衝撃的だったのだろう。

「ま、まあお前がなんか、何て言ったっけ?馬脚をふ~よしてくれたからじゃないのか?」

 聞きなれない単語を耳にしたためか、空耳になってしまっている。固まっていたジュリアも流石にその言葉に対して盛大に吹き出し、腹を抱えて笑ってしまっている。

「何が馬脚だ!馬じゃねーよ!魔力だ、魔力。魔力を付与したんだよ!」

 半ばキレぎみでロアの聞き間違いを訂正する。

「エンチャントしたとはいえ、普通はこうはならん。一体何なんだ?その技は?見たことも聞いたこともないぞ。」

「だから、戦技一0八計だよ。知らねえの?」

 ファルはキョトンとしている。ロアの知る限り戦技一0八計の名を聞いた者は恐れおののくか、平伏するかである。もっともそれは彼の母国での話である。

「知らん!何だそのインチキ臭い名前は。」

 やはり、西方まではその名は知れ渡っていないようである。

「だから、これは由緒正しき梁山泊の…。」

 ロアは構わず説明をしようとする。

「ちょっと、ちょっと!そんなことはどうでもいいから!手伝いなさいよ。」

 先程まで二人のやり取りを見て笑い転げていたジュリアが他の討伐隊のメンバーの傷の手当てを始めている。気付いた頃には、飛竜の撃退は既に終わっていたようで、周囲では怪我人の手当て等の後始末をしていた。ロアたちは難なく撃退に成功したが、他はそうでもなかったようで、半数以上が襲撃の犠牲となってしまったようだった。話を中断させられ、ロアは明らかに不服であったが、状況が状況だけに手伝わないわけにはいかなかった。



「これでよしっと!」

 最後の怪我人の治療を終え、ジュリアは一息ついた。彼女は神官ということもあり、治癒の魔法が使えるようだ。飛竜と激戦を繰り広げたあとも、こうして怪我人の治癒魔法を駆使して怪我人の治療に当たっていたわけだ。ロアは手伝いながら、その様子を見て、自分よりもよっぽど大それたことをしていると感じずにはいられなかった。

「よくもまあ、全滅せずに済んだよなあ。」

 最初は4体、後から3体が加勢に現れたのだった。討伐隊も被害は大きかったとはいえ、その全てを撃退したのである。治療を手伝いながら聞いたのだが、大半はヴァル・ムングが倒したのだという。流石に竜食いと恐れられるだけのことがあるとはいえ、常人離れした強さである。その戦いぶりが見れなかったのは残念であった。

「それは勇者どのの活躍があればこそであろう?」

 ロアの側にいつの間にかヴァルが立っていた。

「あんたの活躍ぶりは聞かせてもらったぜ。ほぼあんたの手柄じゃないか。」

 ロアは立ち上がりながら、ヴァルの活躍ぶりを称賛した。

「貴殿の方こそ。飛竜を一刀両断したという話ではないか。」

「そこまではやってねえよ!なんで、話に尾ひれがついてんだ。」

 一刀両断した覚えはない。ロアは慌てて否定した。話が大袈裟になっている。

「そういうあんたの方こそ、飛竜をバッサ、バッサと斬り倒してたそうだな。あんた一人でも竜帝なんか倒せるんじゃないか?」

 するとヴァルは不敵に笑い、背中の大剣を手にして、ロアの目の前に披露して見せた。

「これのお陰だよ。竜殺しの魔剣グラム・ソード。これ無くして私の活躍などありはすまい。」

 その剣はかなりの大きさがあった。重さも相当ありそうである。魔剣という名に恥じず、仰々しい装飾が施してあり、得たいの知れない迫力というか威圧感を放っているようにも思えた。

「なんかすげえ剣だな。でもこんなのを使いこなせるんだから、あんたも大概だろ。」

 そこでまたヴァルは不敵に笑って見せた。

「貴殿は普通の剣で、何と言ったかな……、そうそう、戦技一0八計と言ったか?それで難なく倒したそうではないか。」

「それはだな、まあなんというか、技がすごいだけさ。」

 ロアは照れながら、頭を軽く掻いてみせた。

「まあそれは今後じっくりと拝ませてもらおう。我が魔剣と貴殿の技をもってすれば、竜帝を相手にするには不足なしだな。」

 そう言いつつ、彼は握手を求めてくる。

「ああ。よろしく頼むぜ。」

 ロアは握手に応じた。しかし、また初対面の時と同じように、その手からは異様な気配を感じ取っていた。しかもあのときよりもさらにその違和感は強くなっているようにも思えた。
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