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第1章 英雄と竜帝
第17話 勇者、苦戦する。
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「さらにもう一度言おう。諦めたまえ。」
ヴァルが圧倒的な力を見せつけ、降伏勧告をする。
「おっと、その前に勇者を倒してしまおうか?そうすれば考えが変わるかもしれん。」
ロアに向き直り、その狙いを定めた。ロアは思わず身構えた。その膝はがくがくと震えが止まらなかった。
「どうすればいいんだ?」
これほどの相手に一体どう立ち向かうのか自問自答していた。
「どうすればよいかだと?決まっているではないか。おとなしく私に倒されれば良い。」
ヴァルはロアに対して容赦なく、剣で必殺の一撃を見舞ってみせた。その瞬間、クルセイダーズの二人は終わったと思った。だが予想に反して金属が打ち合う音が洞穴内に響き渡った。
「私の一撃を受け止めるとはな。以外だったぞ!」
「し、死にたくは無いからな!」
死に物狂い、というよりは体が反射的に防御姿勢をとったと言うほうが正しいだろうか。彼の言動と思考とは裏腹に体はそのような反応を示した。
「これも勇者の額冠の力か?これ以上その力を引き出されては厄介だ。早めに叩いておかねばな。」
鍔迫り合いのまま、ヴァルは剣に一層力を込めてきた。ロアは押し返せずにそのまま後ろに押される形になった。
「あんたほどもんが、あんたほど強いやつがなんでこんなものにこだわるんだ?」
ロアは疑問だった。竜帝の力を手にしながら、明らかにそれ以下の力しか持っていなさそうな額冠を手に入れようとしている。全くもって不可解であった。
「未だ気づいておらんようだな。その額冠には代々勇者の記憶、技術、精神が宿っている。そ額冠を受け継ぐと言うことは、その力を受け継ぐということなのだ。」
「そんなことができるのか?これは?」
驚愕すべき内容だった。能力が使える?ということはまるで……、
「なんだか血の呪法と同じじゃないか。」
「そのとおり。同じだ。いささか呪いじみている。どこの誰が作ったかは知らんがね。」
ロア自身も呪いじみているとは冗談混じりで言ってはいたものの、その認識は間違いではなかったようだ。
「力を引き出していないとはいえ、もう既にその恩恵を得ているではないか。例え別人に代替わりしたとしても、周囲には勇者として認識させる。これは血の呪法よりも大それた事をしているとは思わんかね?」
言われてみれば、最初からおかしかった。見た目も名前も違う全くの別人のはずが、何の疑問もなく勇者として受け入れられていた。それが勇者の額冠の持つ能力だったとは。
「でも、あなたなんかには手にする資格はないはずよ!額冠はあなたを拒んでいるから、ロアの頭からはずれないのよ。」
ジュリアはヴァルに吹き飛ばされた後、未だに立ち上がれずにいた。偽の竜帝との戦いで体力をほとんど消耗してしまっているからだ。そんな状態で気丈にもヴァルを非難する。
「そんなことは大したことではない。優れた物は、優れた人間の元にあるべきなのだ。額冠に選ばれていなかろうと、その力を解析する手段はあるはずだ。見付けてみせるさ。」
この男はどこまで力に対して貪欲なのだろうか?たとえどのような手段を使ったとしても、手にしようとする、底無しの探求心、欲深さだ。
「そのためにも、貴様ごときに手こずっているわけにはいかんのだよ。」
ヴァルはロアをそのまま蹴り飛ばし、間合いを取り、次の攻撃の体勢をとった。
「これで終わりだ。」
ヴァルの渾身の攻撃が来る。袈裟懸けにロアを切り伏せるつもりだ。間も無く殺されるかも知れないというのに、反面、ロアの内心は冷静だった。
(この攻撃に対抗するならこの技しかない。)
ヴァルの攻撃がロアを捉えた瞬間、彼の姿はその場から、忽然と消えていた。
「バカな!どこへ行った?」
ヴァルは完全にロアの姿を見失っていた。ロアは攻撃を掻い潜り、ヴァルの右側へと移動していた。
「空隙の陣!」
ロアはすかさず攻撃を加える。彼は確実にヴァルの動きを捉えたと確信していた。
「ムウ!これしきのことで!」
防がれた。信じられない反応速度だ。ヴァルはロアの攻撃をいなし、彼と間合いをとった。
そこへ間髪入れずロアが追撃を入れる。
「落鳳波!」
斬撃の空刃がヴァルへと迫る。しかし、ヴァルは左手を突きだし身構えた。
「フンッ!」
気合いの声共に衝撃波はかき消されてしまった。
「そんな!これも効かないのかよ!」
「舐めてもらっては困る。これがドラゴン・スケイルだ。生半可な攻撃は私には通用せん。」
刺客を一撃で仕留めた攻撃を気合いだけでかき消されてしまった。渾身の一撃がこうもあっさりと防がれてしまっては打つ手がない。
「ほう?先程もそうだったが、これは先代の勇者は使っていなかった技だな。これは貴様独自の技か?」
「俺自身の技じゃない。流派梁山泊の技だ!」
「梁山泊だと?」
ヴァルは片方の眉をつり上げてみせた。
「そういえば聞いたことがある。東方には様々な武芸を統括した流派があると。」
そして、何かを確信したかのように不気味に笑みを浮かべる。
「なるほど。いい技だな。技だけはな。」
「どういう意味だ?」
ロアは反射的に疑問をぶつけた。
「貴様のような実力でも、これほど私を手こずらせることが出来るのだ。もし、私と実力が拮抗していれば、私に手傷を負わせることも可能だったであろう。」
ロアはうなだれた。実力がないのは自身が最も良く理解していた。だからこそ破門になったのだ。
「おもしろい!貴様にこれほどの力を与えるその技に興味が湧いてきたぞ。額冠を手に入れれば、その技についても知ることができるかもしれん。」
恐ろしいことを言い始めた。ただでさえ強いこの男が、流派梁山泊の技を習得してしまったら……、恐ろしいことになる。さらに手の付けられない存在になる。
「そんなことはさせねえ!させてたまるか!」
ヴァルに対しての戦意はほとんどなかったロアだが、技が悪用されるのは我慢がならなかった。破門にされたといえ、技に誇りを持っていた。その誇りを汚されたくはなかった。
「先程も言ったはずだ!優れた物は優れた者の元にあるべきなのだと!その技は必ず私の物にしてみせる。」
「そんなことが認められるかよ!」
ロアは手にした剣を逆手に持ち、構えをとった。
「あの技はまさか!」
ジュリアが見覚えのある姿を見て、何かを察したようだった。
「シャイニング・イレイザー!!」
ロアの剣からまばゆい光が放たれた。それがヴァルの姿を包み込み、その姿を覆い隠す。
「やったか!」
ファルがその光景に思わず声を上げる。
「驚いたな。額冠の力を引き出しきれていないとはいえ、その技を使うとは!」
またしても通じなかった。何事もなかったかのように、平然とした姿でヴァルはそこにいた。
「勇者の一撃シャイニング・イレイザー。この技を使えることは紛れもない勇者の証。弱くとも勇者の資格だけはあるようだな。」
そのような技だったとはロア自身は驚いていた。一度見ただけの技をたまたま無我夢中で無意識で放っただけなのだ。はじめて使ったあの時もだ。
「ある意味この勇者の一撃は、勇者の資格試験のようなものだ。勇者を目指すものはこの技の習得を目指すものだ。」
ロアは異国の人間なので知る由もなかったが、西方の人間にとってこの事はある意味常識なのだろう。現にクルセイダーズの二人はこの事を否定しようとはしていない。
「だが貴様自身の技と同様、使用者の実力に左右される。たとえ優れた技だとしても弱者が使ったとしても、真価は発揮できぬ。」
反論できなかった。実力が足りないゆえにヴァルを倒しきれなかったのだ。
「この私は当然、資格があるぞ。」
自信たっぷりにヴァルが宣言する。
「そんなはずない!あの技は資格のない人にはできるはずがない!」
ジュリアが反論する。
「出来るのだよ。」
ヴァルはすかさず技の体勢をとった。先程のロアと同じ体勢である。
「とくと見よ!シャイニング・イレイザー!」
ロアのものとは比較にならないほどの閃光が迸る。こんなものをくらってはひとたまりもない。しかし、その閃光は自分から逸れていった。背後から破砕音が聞こえる。
「な、何?」
ロアは恐る恐る背後を見た。そこには岩壁を大きく抉ったようなあとが残っていた。先程のドラゴン・ハンド以上の威力である。
「ふむ。やはり慣れぬ技はコントロールが難しいな。やはりこの技は私の性には合わないな。まだ、ドラゴン・ハンドのほうが容易いな。」
恐ろしいことを言っている。この威力で手加減でもしていたのだろうか?
「て、手加減とは、ずいぶんとお優しいことで……。」
「勘違いするなよ。私でも十分、勇者の技は再現可能だということを見せたかったのだ。それに……、」
「それに?なんでございましょう?」
この男は一々発言をもったいぶるところがある。ロアからすればもったいつけずに聞きたいところである。
「下手をすれば、その額冠ごと粉微塵にしてしまいかねんのだ。もっと言えば、この洞穴ごと崩壊させてしまうかもしれん。全力で戦えぬのは、歯がゆいものだ。ただ貴様らを殺すだけなら造作もないことなのだ。」
まるっきり強さの次元が違うではないか!ロアは背中に冷たいものが伝うのを感じた。これでは本当に勝目がない。
「やはり、止めを指すには使いなれた技でないとな。」
ヴァルは剣を上段に構え、新たな技の体勢に入った。次第に剣から光が放たれ始める。
「まさか、あの技以外も使えるというのか!」
ファルが驚愕している。何の知識もないロアには全く見当がつかない。だが、シャイニング・イレイザーに匹敵する技らしいことは察することができた。
「当然だ!勇者の三大奥義は全て使える。そして、この技は私が最も得意とする技だ。」
勇者の一撃が三種類存在していたとは、ロアには信じがたい真実だった。
「食らえ!シャイニング・アバランチャー!」
ヴァルはロアの方へ跳躍し、真上から剣を振り下ろそうとしていた。この勢いでは空隙の陣は間に合わない。間に合ったとしても、逆に吹き飛ばされてしまうだろう。じゃあ、どうするのか?剣で受け止める以外に選択の余地はなかった。それから間も無く、剣にすさまじい衝撃が加わる。とてつもなく重い一撃だった。手首まで折れてしまいそうなぐらいに。だが、その前に剣が悲鳴を上げ始めた。金属片が弾け飛ぶような、音がしたかと思うと、右肩に火が付いたかと思うほど熱くなった。その感触に自らの肩が切られたのだと言うことを悟った。
「これで終わりだ!」
ヴァルは勝ち誇ったように言う。ロアはその瞬間、敗北、そして、自らの死を悟った。そう思うと何だか、足元の重力が無くなったように感じた。
(やっぱり、死ぬのか?)
からだの感覚がなくなっていくを感じながら、何故か目の前にいたヴァルの姿が遠ざかっていくのが見えた。自分の魂が体から抜けていっているのだろうか?そのわりには何故か自分の体が見当たらない。
(……まさか、落ちていっているのか?)
その結論に至った瞬間、彼の意識はそこで途切れた。
ヴァルが圧倒的な力を見せつけ、降伏勧告をする。
「おっと、その前に勇者を倒してしまおうか?そうすれば考えが変わるかもしれん。」
ロアに向き直り、その狙いを定めた。ロアは思わず身構えた。その膝はがくがくと震えが止まらなかった。
「どうすればいいんだ?」
これほどの相手に一体どう立ち向かうのか自問自答していた。
「どうすればよいかだと?決まっているではないか。おとなしく私に倒されれば良い。」
ヴァルはロアに対して容赦なく、剣で必殺の一撃を見舞ってみせた。その瞬間、クルセイダーズの二人は終わったと思った。だが予想に反して金属が打ち合う音が洞穴内に響き渡った。
「私の一撃を受け止めるとはな。以外だったぞ!」
「し、死にたくは無いからな!」
死に物狂い、というよりは体が反射的に防御姿勢をとったと言うほうが正しいだろうか。彼の言動と思考とは裏腹に体はそのような反応を示した。
「これも勇者の額冠の力か?これ以上その力を引き出されては厄介だ。早めに叩いておかねばな。」
鍔迫り合いのまま、ヴァルは剣に一層力を込めてきた。ロアは押し返せずにそのまま後ろに押される形になった。
「あんたほどもんが、あんたほど強いやつがなんでこんなものにこだわるんだ?」
ロアは疑問だった。竜帝の力を手にしながら、明らかにそれ以下の力しか持っていなさそうな額冠を手に入れようとしている。全くもって不可解であった。
「未だ気づいておらんようだな。その額冠には代々勇者の記憶、技術、精神が宿っている。そ額冠を受け継ぐと言うことは、その力を受け継ぐということなのだ。」
「そんなことができるのか?これは?」
驚愕すべき内容だった。能力が使える?ということはまるで……、
「なんだか血の呪法と同じじゃないか。」
「そのとおり。同じだ。いささか呪いじみている。どこの誰が作ったかは知らんがね。」
ロア自身も呪いじみているとは冗談混じりで言ってはいたものの、その認識は間違いではなかったようだ。
「力を引き出していないとはいえ、もう既にその恩恵を得ているではないか。例え別人に代替わりしたとしても、周囲には勇者として認識させる。これは血の呪法よりも大それた事をしているとは思わんかね?」
言われてみれば、最初からおかしかった。見た目も名前も違う全くの別人のはずが、何の疑問もなく勇者として受け入れられていた。それが勇者の額冠の持つ能力だったとは。
「でも、あなたなんかには手にする資格はないはずよ!額冠はあなたを拒んでいるから、ロアの頭からはずれないのよ。」
ジュリアはヴァルに吹き飛ばされた後、未だに立ち上がれずにいた。偽の竜帝との戦いで体力をほとんど消耗してしまっているからだ。そんな状態で気丈にもヴァルを非難する。
「そんなことは大したことではない。優れた物は、優れた人間の元にあるべきなのだ。額冠に選ばれていなかろうと、その力を解析する手段はあるはずだ。見付けてみせるさ。」
この男はどこまで力に対して貪欲なのだろうか?たとえどのような手段を使ったとしても、手にしようとする、底無しの探求心、欲深さだ。
「そのためにも、貴様ごときに手こずっているわけにはいかんのだよ。」
ヴァルはロアをそのまま蹴り飛ばし、間合いを取り、次の攻撃の体勢をとった。
「これで終わりだ。」
ヴァルの渾身の攻撃が来る。袈裟懸けにロアを切り伏せるつもりだ。間も無く殺されるかも知れないというのに、反面、ロアの内心は冷静だった。
(この攻撃に対抗するならこの技しかない。)
ヴァルの攻撃がロアを捉えた瞬間、彼の姿はその場から、忽然と消えていた。
「バカな!どこへ行った?」
ヴァルは完全にロアの姿を見失っていた。ロアは攻撃を掻い潜り、ヴァルの右側へと移動していた。
「空隙の陣!」
ロアはすかさず攻撃を加える。彼は確実にヴァルの動きを捉えたと確信していた。
「ムウ!これしきのことで!」
防がれた。信じられない反応速度だ。ヴァルはロアの攻撃をいなし、彼と間合いをとった。
そこへ間髪入れずロアが追撃を入れる。
「落鳳波!」
斬撃の空刃がヴァルへと迫る。しかし、ヴァルは左手を突きだし身構えた。
「フンッ!」
気合いの声共に衝撃波はかき消されてしまった。
「そんな!これも効かないのかよ!」
「舐めてもらっては困る。これがドラゴン・スケイルだ。生半可な攻撃は私には通用せん。」
刺客を一撃で仕留めた攻撃を気合いだけでかき消されてしまった。渾身の一撃がこうもあっさりと防がれてしまっては打つ手がない。
「ほう?先程もそうだったが、これは先代の勇者は使っていなかった技だな。これは貴様独自の技か?」
「俺自身の技じゃない。流派梁山泊の技だ!」
「梁山泊だと?」
ヴァルは片方の眉をつり上げてみせた。
「そういえば聞いたことがある。東方には様々な武芸を統括した流派があると。」
そして、何かを確信したかのように不気味に笑みを浮かべる。
「なるほど。いい技だな。技だけはな。」
「どういう意味だ?」
ロアは反射的に疑問をぶつけた。
「貴様のような実力でも、これほど私を手こずらせることが出来るのだ。もし、私と実力が拮抗していれば、私に手傷を負わせることも可能だったであろう。」
ロアはうなだれた。実力がないのは自身が最も良く理解していた。だからこそ破門になったのだ。
「おもしろい!貴様にこれほどの力を与えるその技に興味が湧いてきたぞ。額冠を手に入れれば、その技についても知ることができるかもしれん。」
恐ろしいことを言い始めた。ただでさえ強いこの男が、流派梁山泊の技を習得してしまったら……、恐ろしいことになる。さらに手の付けられない存在になる。
「そんなことはさせねえ!させてたまるか!」
ヴァルに対しての戦意はほとんどなかったロアだが、技が悪用されるのは我慢がならなかった。破門にされたといえ、技に誇りを持っていた。その誇りを汚されたくはなかった。
「先程も言ったはずだ!優れた物は優れた者の元にあるべきなのだと!その技は必ず私の物にしてみせる。」
「そんなことが認められるかよ!」
ロアは手にした剣を逆手に持ち、構えをとった。
「あの技はまさか!」
ジュリアが見覚えのある姿を見て、何かを察したようだった。
「シャイニング・イレイザー!!」
ロアの剣からまばゆい光が放たれた。それがヴァルの姿を包み込み、その姿を覆い隠す。
「やったか!」
ファルがその光景に思わず声を上げる。
「驚いたな。額冠の力を引き出しきれていないとはいえ、その技を使うとは!」
またしても通じなかった。何事もなかったかのように、平然とした姿でヴァルはそこにいた。
「勇者の一撃シャイニング・イレイザー。この技を使えることは紛れもない勇者の証。弱くとも勇者の資格だけはあるようだな。」
そのような技だったとはロア自身は驚いていた。一度見ただけの技をたまたま無我夢中で無意識で放っただけなのだ。はじめて使ったあの時もだ。
「ある意味この勇者の一撃は、勇者の資格試験のようなものだ。勇者を目指すものはこの技の習得を目指すものだ。」
ロアは異国の人間なので知る由もなかったが、西方の人間にとってこの事はある意味常識なのだろう。現にクルセイダーズの二人はこの事を否定しようとはしていない。
「だが貴様自身の技と同様、使用者の実力に左右される。たとえ優れた技だとしても弱者が使ったとしても、真価は発揮できぬ。」
反論できなかった。実力が足りないゆえにヴァルを倒しきれなかったのだ。
「この私は当然、資格があるぞ。」
自信たっぷりにヴァルが宣言する。
「そんなはずない!あの技は資格のない人にはできるはずがない!」
ジュリアが反論する。
「出来るのだよ。」
ヴァルはすかさず技の体勢をとった。先程のロアと同じ体勢である。
「とくと見よ!シャイニング・イレイザー!」
ロアのものとは比較にならないほどの閃光が迸る。こんなものをくらってはひとたまりもない。しかし、その閃光は自分から逸れていった。背後から破砕音が聞こえる。
「な、何?」
ロアは恐る恐る背後を見た。そこには岩壁を大きく抉ったようなあとが残っていた。先程のドラゴン・ハンド以上の威力である。
「ふむ。やはり慣れぬ技はコントロールが難しいな。やはりこの技は私の性には合わないな。まだ、ドラゴン・ハンドのほうが容易いな。」
恐ろしいことを言っている。この威力で手加減でもしていたのだろうか?
「て、手加減とは、ずいぶんとお優しいことで……。」
「勘違いするなよ。私でも十分、勇者の技は再現可能だということを見せたかったのだ。それに……、」
「それに?なんでございましょう?」
この男は一々発言をもったいぶるところがある。ロアからすればもったいつけずに聞きたいところである。
「下手をすれば、その額冠ごと粉微塵にしてしまいかねんのだ。もっと言えば、この洞穴ごと崩壊させてしまうかもしれん。全力で戦えぬのは、歯がゆいものだ。ただ貴様らを殺すだけなら造作もないことなのだ。」
まるっきり強さの次元が違うではないか!ロアは背中に冷たいものが伝うのを感じた。これでは本当に勝目がない。
「やはり、止めを指すには使いなれた技でないとな。」
ヴァルは剣を上段に構え、新たな技の体勢に入った。次第に剣から光が放たれ始める。
「まさか、あの技以外も使えるというのか!」
ファルが驚愕している。何の知識もないロアには全く見当がつかない。だが、シャイニング・イレイザーに匹敵する技らしいことは察することができた。
「当然だ!勇者の三大奥義は全て使える。そして、この技は私が最も得意とする技だ。」
勇者の一撃が三種類存在していたとは、ロアには信じがたい真実だった。
「食らえ!シャイニング・アバランチャー!」
ヴァルはロアの方へ跳躍し、真上から剣を振り下ろそうとしていた。この勢いでは空隙の陣は間に合わない。間に合ったとしても、逆に吹き飛ばされてしまうだろう。じゃあ、どうするのか?剣で受け止める以外に選択の余地はなかった。それから間も無く、剣にすさまじい衝撃が加わる。とてつもなく重い一撃だった。手首まで折れてしまいそうなぐらいに。だが、その前に剣が悲鳴を上げ始めた。金属片が弾け飛ぶような、音がしたかと思うと、右肩に火が付いたかと思うほど熱くなった。その感触に自らの肩が切られたのだと言うことを悟った。
「これで終わりだ!」
ヴァルは勝ち誇ったように言う。ロアはその瞬間、敗北、そして、自らの死を悟った。そう思うと何だか、足元の重力が無くなったように感じた。
(やっぱり、死ぬのか?)
からだの感覚がなくなっていくを感じながら、何故か目の前にいたヴァルの姿が遠ざかっていくのが見えた。自分の魂が体から抜けていっているのだろうか?そのわりには何故か自分の体が見当たらない。
(……まさか、落ちていっているのか?)
その結論に至った瞬間、彼の意識はそこで途切れた。
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