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第3章 迷宮道中膝栗毛!!

第170話 キミ達の冒険は終わった。

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 景色が変わったと思ったら、何故か別のダンジョンにいた。またわけわからんところに出た。全てが終わったと思ったのに、またダンジョン攻略か。


「終わったのう。とりあえずはご苦労だった、と言っておこう。」

「勇者様、お疲れ様でした。」

「ああ、ありがとう。」


 いつの間にか側に来ていたサヨちゃんとエルちゃんが労いの言葉をかけてくれた。


「一時は父上を圧倒する力を持っていたとはいえ、そなたの技であっさり負けてしまうとはのう。」

「別に俺が開発した技じゃないし、みんなの力がなけりゃ勝てなかった。」

「そうか?彼奴は周りの変化に対応できなかった自称天才の愚か者だったのであろう。長く一カ所に籠もりっきりでは井の中の蛙と同じじゃ。そなたは逆に新たなる力を習得しようと試行錯誤した。その差が今回の結果に繋がったのじゃ。」

(ピキッ……!)


 今度は何か……と思っていたら、音と共に手に持っていた剣が急に軽くなった。なんだ?


「剣が……折れた?」


 剣が半ばから折れていた。残っている部分にもヒビが入っている。空間を斬るときに感じた重さは感覚だけじゃなかったんだ。本当に剣に負荷がかかってしまっていたんだろう。大切な剣が壊れてしまった。


「ゴメン、カレル。あんたの大切な物を壊しちまった。」

《構わないよ。君が勝てたのだから、それでいい。君が成長したのに比べれば大したことじゃない。それに……、》


 カレルが何か言おうとしたところで、背後に気配を感じた。


「勇者よ。」


 気配というより威圧感といったほうがいいかもしれない。俺の宿敵の、あの男だ。


「見事な技だった。私も強くなったが、貴様も更に強くなった。」

「な、何だよ!やるのか!」


 俺は身構えた。今回、共闘することにはなったけど、コイツが敵なことには変わりない。こいつ自身もそう認識しているはずだ。


「やる気があったとしても、貴様は戦えまい?その状態でどう戦うというのだ?」


 ヤツは剣を指差し、俺が継戦不能なことを指摘する。指摘したところで強引に戦うんだろう?お前は。


「剣のない貴様に勝ったところで、何の自慢にもならん。貴様の全力は私が全力で潰す。そうでなければ、意味がない。」


 何だよ!戦わないのか!じゃあ、何しにきたんだ。


「今回の戦利品として、これを頂いていく。」 


 これ、と言って壊れた金属の箱の様な物を取り出した。何このガラクタ?


「ダンジョン・コアだ。ある意味、金剛石の王の本体、いや、心臓と言うべき物か。」

「それで何をするつもりだ!」

「何に使うかは私の勝手だ。」

「持って行かせない、とでもいうのかしら?これでも、妥協してあげているのよ。ヴァル様の御慈悲に感謝なさい。」

「感謝ぁ!?」


 俺たちの話に割って入ってきた魔女が妙なことを言う。確かに今回は助けてもらったようなもんだけど……。


「本来なら、魔王の遺産も頂きたかったのよ?先にあのお嬢ちゃんが手にしてしまったようだけど。」


 エルちゃんの方を指差す。魔王の遺産って……エルちゃんに似つかわしくない、あの物騒な武器のことか?あれが魔王の遺産だったのか。


「もうよい。今回の件は引き分けということにしておく。貴様との勝負は預けておく。それまでに剣を直しておくことだ。」

「じゃあね、坊や。今度会ったときはたっぷりかわいがってあげるわ。覚悟なさい。」


 二人はその場から急に消えた。転移魔法を使ったようだ。アイツらがいなくなった途端、肩の荷が下りたような気がした。


「奴等め、帰りおったか!」

「ああ。……でも、いいじゃないか。みんな疲れてるし、俺もさすがに疲れたぜ。」

「フン!そういう問題ではないわい!」


 サヨちゃんたら、無理しちゃって。俺よりも大分疲れてるだろ?いつもほどの元気が感じられない。


「あーっ!ゆーしゃだ、ゆーしゃ!ゆーしゃを発見!」


 何か場違いなテンションの声が聞こえてきた。声がする方向を見たら、派手な服を着た女の子がいた。誰?でも……どこかで見たような気が……。


「もーっ!そんな無防備に飛び出しちゃいけないでヤンスよ!」


 今度は聞き覚えのある変な声がした。コイツは……、


「ありゃりゃ?こりゃりゃ?皆さん、こんなところで何してるでヤンスか?」


 タニシだった。なんでこんなところに、とはこっちのセリフだ!

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