【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~

Bonzaebon

文字の大きさ
398 / 401
第2部  第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第56話 炎上する屋敷の前で

しおりを挟む

「疲れたところを一網打尽にでもするつもりか?」


 オバサンに取り憑いた魔王が徐々に俺たちに近付いてくる。今は最悪のコンディションだ。脱出の時点で十分疲労していた。俺はまだ戦えるが、みんなはそうもいかない。この状態で戦うのは無謀だ。犠牲者が出るのは間違いない。なんとしてでも戦いは避けたかった。


「もう戦うつもりはなくてよ。今回はね。素直に負けを認めてあげるわ。私の策は失敗に終わってしまったのよ。」


 意外な展開だ。魔王自身が負けを認めるなんて。なんかこう、もっとガツガツした連中だと思っていたが、そうではないヤツもいたようだ。


「ただあなた達を屠るだけなら容易い事。私はね、力尽くで事を成すのはスマートではないと思っているの。他の下品な魔王達とは違うのよ。私は策で相手を翻弄しないと気が済まない質なの。」


 策にばかりこだわるのはそういう理由があったのか。直接戦っただけでも、今までの牛や虎よりも強いのだろう。オバサンの幻影を使っている時でも、それは十分に感じた。避けたり凌ぐ事は出来ても、その奥から感じられる恐ろしい気配がそれを物語っていた。


「そうそう、あなた達に一つ言っておきたい事があるの。私の魔王としての強さは大体、真ん中より少し上といった所よ。つまり、私よりももっと強い魔王がいるの。例えばキングはあなた達人間の間でも有名でしょう?」


 キング……ラット・キングのことか! 史上最悪の魔王とか言われてる鼠の王! いずれは戦うことになるんだろうか?


「私に一度勝ったからといって、調子に乗らないことね。私にはまだ何十もの策がある。絶望を味わうのが先送りになったのだとお思いなさい。では、また会いましょう。」


 黒い気配がオバサンから抜けていった。抜けていくと同時に、オバサンは力なくその場に倒れ込んだ。近くにいたエルの従姉妹が駆け寄ってそれを支える。


「お母様、しっかり!」


 わがままなお嬢様とはいえ、親子だ。魔王に操られる失態を犯したにも関わらず、助けに入っている。母を大切に思っているのは間違いないだろう。


「叔母様!」


 エルもさすがに心配になったのか、オバサンと従姉妹の元へと駆け寄った。しかし、従姉妹はそれを制止するかのように、エルを睨み付ける。その目には憎しみが籠もっている。


「近寄らないで! アンタのせいでこんなひどい目にあったのよ! みんなメチャクチャになった! お母様も、家も、ラヴァン様も! 一体どうしてくれるのよ!」

「……ヘイゼル……。」


 従姉妹ヘイゼルはエルにありったけの怒りをぶつけていた。エルは何も悪くない。言ってる本人の母親が魔王に利用され引き起こされた事件だ。怒りの矛先を向ける相手が間違っている。彼女自身も被害者なのは間違いないが、エルに責任を求めるのは間違っている。


「アンタは昔から嫌いだった! 私よりも魔術の才能もない癖に、年上だからってお姉さんぶって! しかも、何? 下僕を引き連れてやってきたと思ったら、全部メチャクチャにした! お母様の恩を忘れたの? 忌み子だというのに家においてあげたっていうのに、恩を仇で返すなんて最低よ!」


 俺ら、あのお嬢様からしたら下僕なんか……。ヒドいな。いやいや、俺らのことはどうでもいい。エルのことをヒドく言い過ぎだ。お前、その分、散々エルのこと虐めてきたんだろうが! 俺の中で怒りがどんどん大きくなりつつあった。


「アンタ、自分のこと、悲劇のヒロインとか思ってるんじゃない? そんな自分に酔っちゃってる! 所詮、自分が可愛いのよ! 自分をわざと不幸なポジションに置いて楽しんでるんじゃないの!」


 そこまで聞いて、俺の中で何かが切れるような感触がした。体は自然に動いていた。ヘイゼルのところまで一直線に向かった。彼女が支えているおばさんを突き飛ばし、左手で彼女の胸ぐらを掴み、右手を振り上げる。ヘイゼルの顔は恐怖で引きつっている。そんなのは構わず、右拳を顔面に向かって叩きつける。エルが味わった屈辱を何倍にでもして、返してやる!


「ダメ!」


 俺の拳は別の人物に命中していた。それは……エルだった。腕を振り上げたのを見て、俺とヘイゼルの間に割って入ったみたいだ。彼女を傷付けたヘイゼルを懲らしめようとしたつもりが、結果、エルを傷付けることになってしまった。俺はなんてことをしてしまったんだ……。


「ご、ごめん、俺……。」


 予期せぬ出来事に俺は激しく動揺した。本来守るべき人を傷付ける罪を犯してしまった。予期していなかったとはいえ、そうしたことには変わりない。


「いいの、あなたは気にしなくていい。女の子を傷付ける罪を背負ってほしくなかったから……。」


 エルはヘイゼルを庇う目的で割って入ったようだ。平然と彼女自身を罵り侮辱した相手を、だ。俺でさえ怒りが収まらなかった相手に情けをかけた。ハッキリ言って想定外の行動だった。俺もまだ、彼女への理解が足りていないことを実感した。自分の不理解が引き起こした過ちだといえる。そう思うと自分が情けなくなった。


「何よ、アンタ! 私に恩でも売るつもり? だったら筋違いよ! 償いたかったら、今すぐここで死になさい!」


 従姉妹とはいえ姉同然のエルになんてことを言うんだ! 恨みがあるとはいえ、いくら何でも言いすぎだ。ますます許せなくなったが、怒りを収めることに俺は尽力した。再び失態を犯してしまわないように。


「……ええ、死ぬわ。……エレオノーラ・グランデはここで死にます。」

「何を言い出すんだ、エル! バカなことを言うな!」

「違うの。あくまでグランデ家の私はここで今、死にます。……これからはただのエレオノーラとして生きてゆきます。今日以降はグランデ家には一切関わりません。近寄らないことを誓います!」

「エレオノーラ! 諦めてはいけない! 私が必ず復権させてみせる!」


 エルの突然の宣言にラヴァンまで声を上げた。彼女が家名を捨てる決断に納得がいかない様子だ。死ぬと言いだしたときははらはらしたが、俺は彼女の意見を尊重することにした。


「もういいんです。これが私なりのけじめなんです。やっぱり私が関わると碌なことになりませんから。」


 エルはヘイゼルやラヴァンに背を向け歩き出した。俺に一緒に付いてくるようにも促した。俺は黙ってそれに従う。


「何よ! 逃げるつもり? アンタなんか、いつか本当に殺してやる! どこまでも追いかけて、地獄に落としてやるんだから!」


 去り際の俺たちへ追い打ちをかけるように、ヘイゼルは恨み言を言う。その言葉を聞いて、エルは振り返った。


「構わないわ。いつ来てもいいよ。あなたの気の済むようにしたらいい。でも、私ではなく、ロアや私の友達に危害を加えたら、ただでは済まさない。それだけは肝に銘じておいて。」


 エルはキッと殺気のこもった目でヘイゼルを睨み付けた。本気だ。ここまで本気の目は大武会で宗家と戦ったときしか見たことがない。彼女は大切な人のためなら、心を鬼にする。それだけ愛情が強いということの裏返しなのだろう。


「知るもんか! アンタなんか死んじゃえ! 死んじゃえばいいんだ!!」


 ヘイゼルは全く懲りていない。いつまでもエルに恨み言を言う。……でも、少し声が震えているような気がする。もしかしたら、精一杯の虚勢を張っているのかもしれない。だとしたら、憐れだ。そうすることしか出来ないのだろう。やりきれない思いで一杯だが、俺たちは炎上する屋敷を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...