51 / 331
第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第51話 未来への遺産
しおりを挟む「エレオノーラ、あなたも大切な人を見つけたのね。」
俺たちのやりとりを黙って見ていたエルのお母さんが突然口を開いた。見てみればさっきと容姿が変わっている。急に大人びた雰囲気を醸し出していた。
「エルフリーデさん、なんかキャラ変わってませんか?」
俺は率直に聞く。豹変ぶりがあまりにもあからさまだったからだ。これも何か意味があるに違いないと思ったから、そうした。
「そちらのラヴァンさんの推測通り、私の残した、この幻影が遺産の封印その物なのです。今、私の娘が封印解放の条件を満たしたので、正体を明かしました。」
「やはり、私は正しかったのではないか! 一体、何が条件になっていたんですか? 答えて頂きましょうか?」
それ見たことか、と言わんばかりにラヴァンが会話に割って入ってきた。俺に諦めが悪いとか言っときながら、この人も大概往生際が悪い。やれやれ。
「解放の条件……それは自分にとって大切な人を見つけるということです。」
「馬鹿な! 一時的にとはいえ、私を慕っていた時のエレオノーラも条件を満たしていたのではないのですか!」
「私の娘が心の底からそう思っていなかったからなのではないですか? 表面上はあなたを慕っていたとしても、心の奥底で此方の勇者様を愛していたのでしょう。あなたの策略がそれには及ばなかったのです。それは私の娘自身も言っていたでしょう? あなたは人の感情を軽視し過ぎたのがいけなかったのですよ。」
「……くっ!?」
親子それぞれから引導を突き付けられてしまったようだな。さすがにここまで言われてしまえば諦めもつくんじゃないか?
「ラヴァンさん、あなたがここに来たのは魔術師協会の意向もあるのでしょう? あなたも今回のことで懲りたのなら、彼らとは手を切るべきです。私も実際、過去に手を切りましたから。彼らは真理を追究するあまり、人その物を軽視しているところがあるのです。」
「他人にとやかく言われる筋合いはありません。私は協会に忠誠を誓った身、裏切ることは魔術を棄てるに等しい行為。私は今後も真理を追究することに命を捧げるつもりです!」
「そうですか。それは残念ですね。ならば私はこれ以上は何も言いません。」
魔術師協会? 新たな団体名が出てきたな。クルセイダーズやら処刑隊やら、色んな勢力があるんだな。俺らを狙う勢力と関係があるんだろうか?
「お母さん? 遺産というのは何? 私は一切、そんな話を聞かされていなかったの。叔母様から“あれ”を取り上げられた時も意味が理解できなかった。私に残そうとした物って何だったの?」
「話をする前にまず……これをあなたに渡しておかないと……。」
エルのお母さんは懐から一冊の本を取り出した。ところどころすり切れたところのある本、それは絵本だった。お母さんはエルにそれを手渡す。
「よかった。あの時のままだわ。やっと再開できた!」
どんな本なんだろうと、俺は横から題名の部分を見てみた。なんと“カエルの王子様”と書かれていた! 表紙にもお姫様とカエルの絵が描かれている。これは偶然なのか? そもそもこの本をエルが読んでいたから、俺をカエル呼ばわりしたのか? 内容が気になる。
「私にとってはこれがあればいいの。これがお母さんと私を繋ぐ大切な物なの。」
「そうね。それでいい。私と同じ考えになってくれて良かった。それこそが私たち親子にとっての大切な遺産。」
「ちょっとお待ちなさい! 遺産は? グランデ家に代々伝わる魔術の奥義書が遺産なのではないの?」
お母さんが加わってきたかと思ったら、次はオバサンだ。だけど、オバサンはまだ若い頃の姿のままだ。中身は現在のあの人のものだとは思うけど。
「ナドラ……。あなたはそんな物を求めていたの? 実は言うと、元々は存在していたわ。でも、魔術師協会と手を切ったときに合わせて処分したのよ。もうあれはこの世に存在しない。」
「何ということを! お姉様、あなたはグランデ家の家名に泥を塗るような真似をした! 恥ずべき蛮行よ! デーモンの件といい、あなたは一族の面汚しよ!」
「構わないわ。その様に思われても。魔術師協会と同じよ。あれは人として生きる上で必要の無い物なの。それよりも人の心に目を向けるべきだった。あなたにはそれが伝わらなかったみたいね。……私がもっと長く生きていれば、理解しあえたのかもしれない。」
エルのお母さんは魔術の奥義よりも人の心を選んだ。奥義の内容はわからないが、彼女の考えにはそぐわない物だったんだろうな。
「遺産は形のある物で残さなかったのだけれど、私の幻影をこの本に残したの。それはエレオノーラが大切な人を見つけた時に伝えたいことがあったから。」
「それは遺言みたいなもの?」
「遺言とも言えるけれど、あなたに直接伝えたかったから、文章等文字に起こした形では残さなかったの。」
普通、遺言状なら手紙みたいに紙に書いて残したりするもんだが、魔法が使えるならこういう手段もとれるらしい。わざわざ口頭で、娘のエルがある段階に到達するまで解禁しなかったのは何か大きな理由があるんだろう。
「エレオノーラ、あなたに伝えたいことは二つあるの。一つ目はあなたに謝らないといけないことなの。」
「謝る? お母さんが? お母さんが謝ることなんて何もないよ!」
「いいえ。あなたが今まで虐げられてきた原因の一端は私にあると思う。全ては私が魔術師協会と決別したことが始まりだと思うの。私が決別を決めた後、牛の魔王討伐に私を推薦したのが魔術師協会だった。私を体よく始末するためにね。」
あの一件にそんな裏事情があったとは。魔術師協会と揉めてなかったら、討伐隊に参加していなかったかもしれないという訳か。確かに優秀で協会に必要な人材は手放したくないんだろう。逆にそうでなければ、最悪、事故死、戦死扱いで抹殺出来るからな。手を汚さずに。
「ご存じの通り、後遺症は負ってしまったけれど、私は死ななかった。その後、実家に戻ってきて、あなたを生んだ。そして、魔王の呪いまで引き継がせてしまった。その結果、あなたに不幸な思いを一杯させてしまった。私はあの時に死んでおくべきだったのよ……。謝りたかったのはこのこと。」
この人は悪いことは一切していない。むしろ世のため、人のために行動した結果がたまたまそうなってしまった。ただ不運が重なっただけだ。誰が何と言おうと俺はそう思いたい。
「私が良かれと思って行動したことが娘を苦しめる結果になってしまった。その上、後遺症で早死にして、守ってあげることも出来なかった。私は母親としては失格だと思う。恨んでくれてもいいわ。」
「確かに辛かった。生まれてこない方が良かったと思ったこともあったわ。でも……お母さんを恨んだことはないよ。だってお母さんは魔王を倒した英雄には違いなかったもの。むしろ誇りに思ってた。」
「ありがとう。あなたを生んで本当によかったわ。」
二人は涙を流しながら抱き合っていた。親子が感動の再会を果たしたんだ。当然そうなる。ただ、やっぱり遺産のこととか、よこしまな思いを持った奴等がいたから、すぐにはそうならなかった。本当にそれは余計なものだった。心を捨てた奴等がそれを妨害してた。だからこそ俺は必死になって、そいつらの目的を食い止めた。俺はこの光景を見たとき、俺の行為が報われたんだということを実感した。
「二つ目の話もあなたに関係のあることよ。」
「それは何?」
「あなたのお父さんのこと。」
「私の……お父さん?」
「ええ。あなたのお父さんは……、」
その場にいた誰もがその事実に驚愕した。エルのお父さんの正体……それはこの国にすんでいる者なら誰もが知っている人物だったからだ。このときばかりは俺も運命という名のいたずらを実感せざるを得なかった。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる