50 / 331
第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第50話 そんなあなたが好きだから
しおりを挟む
「エレオノーラ、君は遺産を取り戻したんだろう? 魔術師としての誇りを取り戻したんだろう? 私はそのために、君に変わって手を汚そう。母親の幻影は私が倒してみせる!」
「わ、私は……、」
エルは激しく動揺していた。さっきまで、虚ろな目で俺たちの様子を見ていただけだった。それが急に、だ。俺たちの問答で心が激しく揺さぶられているのだろう。遺産を取り戻したいという欲求はあるんだろうけど、優しい彼女が強引な手段を許すはずがない。例えそれが婚約者、信頼している人に求められたとしても。
「遺産は……必要ありません。」
「何を言い出すんだ! ナドラ様に取り上げられた物を取り返したくはないのか! 君にとって掛け買いの無い物ではなかったのか!」
「幻影とはいえ、母であることには変わりありません。母を傷付けてでも手に入れたいなんて思ってません! 例え、あなたでもそんなことをさせたくはないんです!」
エルの目には強い輝きが戻ってきた。しっかりと強い意志を持って、ラヴァンの考えを拒絶している。しかし、記憶が戻ったかまではわからない。それでもいいさ。エルが自分らしくなれるのならば。
「わかった。君がそう思うならば、そうすればいい。だが、私はやる。将来、私は君の夫になる人間だ。君が出来ないことをするのも私の役目だ! 君に嫌われてでも目的は成し遂げる!」
ラヴァンは魔法の準備を始めた。使おうとしているのはおそらく、あの閃光魔法だ。しかし、杖がないためか集中に手間取っている。この隙を逃すわけにはいかない!
「いい加減にしろ! もうやめないか!」
「ぐはっ!?」
俺はありったけの力でラヴァンの綺麗な顔をぶん殴ってやった! 我ながら強引なやり方だな。多分、エルから非難されるかもしれない。ラヴァンがやろうとしていたことを自分も犯してしまったんだからな……。
「やっちまったな。俺がこんなことをしても、コイツのやることは止められない。手段は選ばないだろうし。俺はこれ以上、手は出さない。やり過ぎるとコイツが死んでしまうかもしれないからな。無関係な俺に出来るのはコレが精一杯だ。……じゃあな。」
俺は立ち去ることにした。腑に落ちないが、俺の力ではエルの記憶を取り戻せなかった。ラヴァンの企みを阻止できなかった時点で俺は負けていたんだ。負けを潔く認めて、立ち去……、
「待って!」
異空跋渉で帰ろうとしたところで、エルに制止された。何故だろう? 婚約者を殴り飛ばしたことを咎められるかな?
「……私を置いていくつもりなの、ロア?」
エルは俺の名を呼んだ。さっきみたいに他人行儀ではなく、名を呼んだ。名指しにした!
「記憶がおかしくなりそうだった。ラヴァンさんに助けられたことが正しい思い出になってしまいそうだった。でも、あなたとの思い出がそれは間違ってるって教えてくれた。過去なんかよりもあなたと一緒に乗り越えてきた記憶の方が眩しかったから、ウソの記憶を拒絶できたの。そんなのは関係ないって。」
今のエルの顔は、俺の知っているいつもの顔だ。不自然に冷たかったりしない。それだけで、彼女の記憶が戻ったことが確信できた。
「馬鹿な、新たな記憶を撥ね除けたとでもいうのか! ありえない! そんなことが出来るはずがない!」
「でも、実際に起きました。私とロアの絆が引き起こしたことです。あなたが軽視した人の情念がそうさせたんです。あなたの浅はかな狙いはそれに及ばなかっただけです。」
そうだったのか。俺との思い出がラヴァンの策略に勝っていたんだな。だから、エルは記憶を取り戻せたんだ。
「記憶など所詮、記号に過ぎない。それに付随する感情とは関係ない! 本に書き込まれた記録と大差ないものだ! だからこそ、書き換えれる。不都合な記憶など書き換え、都合のいい記憶に置き換えれば問題ない! 感情など雑音に過ぎないんだ! それを重視するのは愚かだ!」
「別に構いませんよ。愚かでも。それがあるから私は強くなれた。ロアも同じです。いえ、彼は私よりも遙かに凄いんです。」
ラヴァンは怒りを露わにしていた。今まで冷たい表情を崩さなかった男が。今は感情を抑えようともしていない。感情とかを否定しているのに、本人はかえってそれに囚われている。明らかに論理が破綻していた。
「この男のどこが凄いと言えるんだ! 彼は何度も私に出し抜かれ、無様な醜態を晒しているではないか! こんな男が君の足しになるはずがない! 君の品位を落とすだけだと何故わからない!」
「彼はカエルなんです。あなたもそういう表現を使いましたよね?」
か、カエル!? 俺、カエルだったの? 確かにラヴァンに潰されそうになったときに、カエルみたいに潰れろとか言われた。脱出するときは逆にそこから着想を得て脱出した。確かに俺はカエルなのかもしれない。
「それに対して、あなたは王子様なのでしょう。あなた自身も自負しているでしょうし、ほとんどの女性から見たらそうなんだと思います。でも、私は彼を選びます。彼は私にとって、カエルの王子様なんです。私はそんな彼が大好きなんです! 異論は認めません! あなたが意義を唱えるなら、ただでは済ませませんよ!」
「私はカエルなどに劣るというのか!」
う~ん。褒められてはいるんだろうけど、カエルばっかり連呼されるのも、非情に微妙な気分だ。でも、まあ、いいや。とりあえず、一件落着ということで。
「わ、私は……、」
エルは激しく動揺していた。さっきまで、虚ろな目で俺たちの様子を見ていただけだった。それが急に、だ。俺たちの問答で心が激しく揺さぶられているのだろう。遺産を取り戻したいという欲求はあるんだろうけど、優しい彼女が強引な手段を許すはずがない。例えそれが婚約者、信頼している人に求められたとしても。
「遺産は……必要ありません。」
「何を言い出すんだ! ナドラ様に取り上げられた物を取り返したくはないのか! 君にとって掛け買いの無い物ではなかったのか!」
「幻影とはいえ、母であることには変わりありません。母を傷付けてでも手に入れたいなんて思ってません! 例え、あなたでもそんなことをさせたくはないんです!」
エルの目には強い輝きが戻ってきた。しっかりと強い意志を持って、ラヴァンの考えを拒絶している。しかし、記憶が戻ったかまではわからない。それでもいいさ。エルが自分らしくなれるのならば。
「わかった。君がそう思うならば、そうすればいい。だが、私はやる。将来、私は君の夫になる人間だ。君が出来ないことをするのも私の役目だ! 君に嫌われてでも目的は成し遂げる!」
ラヴァンは魔法の準備を始めた。使おうとしているのはおそらく、あの閃光魔法だ。しかし、杖がないためか集中に手間取っている。この隙を逃すわけにはいかない!
「いい加減にしろ! もうやめないか!」
「ぐはっ!?」
俺はありったけの力でラヴァンの綺麗な顔をぶん殴ってやった! 我ながら強引なやり方だな。多分、エルから非難されるかもしれない。ラヴァンがやろうとしていたことを自分も犯してしまったんだからな……。
「やっちまったな。俺がこんなことをしても、コイツのやることは止められない。手段は選ばないだろうし。俺はこれ以上、手は出さない。やり過ぎるとコイツが死んでしまうかもしれないからな。無関係な俺に出来るのはコレが精一杯だ。……じゃあな。」
俺は立ち去ることにした。腑に落ちないが、俺の力ではエルの記憶を取り戻せなかった。ラヴァンの企みを阻止できなかった時点で俺は負けていたんだ。負けを潔く認めて、立ち去……、
「待って!」
異空跋渉で帰ろうとしたところで、エルに制止された。何故だろう? 婚約者を殴り飛ばしたことを咎められるかな?
「……私を置いていくつもりなの、ロア?」
エルは俺の名を呼んだ。さっきみたいに他人行儀ではなく、名を呼んだ。名指しにした!
「記憶がおかしくなりそうだった。ラヴァンさんに助けられたことが正しい思い出になってしまいそうだった。でも、あなたとの思い出がそれは間違ってるって教えてくれた。過去なんかよりもあなたと一緒に乗り越えてきた記憶の方が眩しかったから、ウソの記憶を拒絶できたの。そんなのは関係ないって。」
今のエルの顔は、俺の知っているいつもの顔だ。不自然に冷たかったりしない。それだけで、彼女の記憶が戻ったことが確信できた。
「馬鹿な、新たな記憶を撥ね除けたとでもいうのか! ありえない! そんなことが出来るはずがない!」
「でも、実際に起きました。私とロアの絆が引き起こしたことです。あなたが軽視した人の情念がそうさせたんです。あなたの浅はかな狙いはそれに及ばなかっただけです。」
そうだったのか。俺との思い出がラヴァンの策略に勝っていたんだな。だから、エルは記憶を取り戻せたんだ。
「記憶など所詮、記号に過ぎない。それに付随する感情とは関係ない! 本に書き込まれた記録と大差ないものだ! だからこそ、書き換えれる。不都合な記憶など書き換え、都合のいい記憶に置き換えれば問題ない! 感情など雑音に過ぎないんだ! それを重視するのは愚かだ!」
「別に構いませんよ。愚かでも。それがあるから私は強くなれた。ロアも同じです。いえ、彼は私よりも遙かに凄いんです。」
ラヴァンは怒りを露わにしていた。今まで冷たい表情を崩さなかった男が。今は感情を抑えようともしていない。感情とかを否定しているのに、本人はかえってそれに囚われている。明らかに論理が破綻していた。
「この男のどこが凄いと言えるんだ! 彼は何度も私に出し抜かれ、無様な醜態を晒しているではないか! こんな男が君の足しになるはずがない! 君の品位を落とすだけだと何故わからない!」
「彼はカエルなんです。あなたもそういう表現を使いましたよね?」
か、カエル!? 俺、カエルだったの? 確かにラヴァンに潰されそうになったときに、カエルみたいに潰れろとか言われた。脱出するときは逆にそこから着想を得て脱出した。確かに俺はカエルなのかもしれない。
「それに対して、あなたは王子様なのでしょう。あなた自身も自負しているでしょうし、ほとんどの女性から見たらそうなんだと思います。でも、私は彼を選びます。彼は私にとって、カエルの王子様なんです。私はそんな彼が大好きなんです! 異論は認めません! あなたが意義を唱えるなら、ただでは済ませませんよ!」
「私はカエルなどに劣るというのか!」
う~ん。褒められてはいるんだろうけど、カエルばっかり連呼されるのも、非情に微妙な気分だ。でも、まあ、いいや。とりあえず、一件落着ということで。
0
あなたにおすすめの小説
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる