治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~

百門一新

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プロローグ 私が『エリオ』を名乗るまでのこと

 私の両親は、勇者と聖女だった、とその人は言った。

「生きていて欲しかったから――最大の禁忌をおかした」

 それは、死産だった我が子を生き返らせたこと。

 どうしても死んで欲しくなかった。その二人の想いが、子に宿った魔力と引き換えに命を黄泉から引き戻した。

 海を渡ったその遠い国では、確認されたことのない禁断の魔法だったらしい。

 あり得ない出来事、だから禁忌に指定されていた。想っただけで魔力が動いた――彼女の両親は、それくらい特別な人達だったのだ。

「だからな、捨てられたとか、愛されていないとか思わないで欲しいんだ」

 そんなこと思ったことがなかった。

「ははっ、お前の赤い髪は母の聖女譲り、赤い瞳は父の勇者譲りなんだぜ。どちらの綺麗な真紅も受け継いで良かったな」

 彼は傍若無人な〝師匠〟だったけど、二人を語る時の言葉や、声からも好きだったことが伝わって来た。

 その二人からいったん離れることが、どれだけ辛いかも理解していた。

【王国魔術師団長、ゼット】

 それが、彼の本当の肩書きと名前だった。

 部下達に『数年だけ時間をくれ』と蒸発することを告げて、赤子だったエリザを連れて最長の転移魔術を行使した。

 だからエリザは、両親の顔は知らない。
 けれど、二人が与えてくれたという魔法の指輪があった。

『時が来るまで、あなたを守ってくれますように』

 それは誰にも外すことができない【怪力の加護】だ。魔法が使えない代わりに持たせてくれたものらしい。

 はじめは使い方に手間取った。

 でもその指輪と、そして母から受け継いだ〝性質〟があれば、難なく生きていける場所が選ばれていたのだ。

 聖女だった母の性質か、魔術師という言葉がないこの遠い国で『魔物』と呼ばれる存在は、エリザが触れるとたちまち銀色の光に焼かれ、灰となって崩れた。

 幼少の頃、それを初めて目の当たりにしたゼットも珍しく驚きの表情を見せた。

「――お前、その身一つで浄化できんのか。便利だな」

 何が便利なのかは知らない。魔力がないのに不思議なもんだとゼットは笑っていた。エリザは、母が使っていた魔術と同じだと言われて、ニッと笑い返した。

 何より、ゼットがいい意味で前向きだったからエリザは救われた。

 彼なりの父親代わりの愛情で育てられた。その方法は、ちょっと変わっていたけれど――。

「よっしゃまずはつっこめ!」
「嘘でしょ師匠おおおおおおおおお!?」

 何よりも実践で、体力作りと身体に合った体術の会得をした。

 何度死ぬ思いをしたか分からない。

「魔物に対しては最強とはいえ、浄化する前にかみ殺されたら意味がねぇ。やばい攻撃はかわすんだ。ああ、それから山賊なんかにも気を付けて、体術もそれなのにしっかりな」
「今、魔物の集団に襲われている私を見物しながら言うことですか!? 何その浮く便利な魔術は!? 助けろドアホー!」
「自分で助かれ、その魔物は小さいぞ」

 狼サイズはあるよ、とエリザは思った。

 そういうわけで、異国の地で森を中心に転々としながらめきめき鍛えられた。

 髪が邪魔にならないよう師匠とお揃いにして、似たような格好していたから、男の子にしか見られなかった。

「自衛のためにはいいさ。お前も、旅で実感したろ」
「まぁ、なめられたくはないですね」

 そして十六歳の時、別れは訪れた。

 それはゼットが聖女と勇者、そしてエリザの存在を知る人々に託された期間だった。

「お前は、俺の一番の弟子だよ。なんなら、俺がずっとここにいても――」
「だめですよ。師匠は帰らないと。きっと、みんな待ってる」

 何度も魔術で手紙が来ていた。彼は、最強の魔術師である彼にしか飛べないくらい遠い向こう国で、たくさんの人達に必要とされている。

 エリザは、行けない。

 存在が魔術で感知されたら最後、彼の十六年が無駄になってしまう。

「私、師匠の元を卒業したので一人で気ままに、強く生きます!」

 彼の魔術師団の敬礼だというポーズを決めて、ニッと笑ってやったら、ゼットが泣き顔で笑った。

「てめぇは、たいして弟子だよ。生きろ、それが俺と両親達と、お前を助けてくれたみんなの願いだ」
「うん、生きます。それで好きなところを見付けられるよう、旅を続けます」


 ――それから二年後、エリザは気まぐれのようにまだその国にいた。

 師匠がいなくなってのんびり過ごすせるようになった。とある場所で〝長めの休憩〟したせいで、厄介な友人ができ、とある公爵嫡男様に関わるとは思ってもいなかった。
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