治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~

百門一新

文字の大きさ
9 / 58

8話 顔合わせ終了、からのお菓子タイムです?

しおりを挟む
 目隠しって、試したことがあるのだろうか?

 というか、とエリザは思う。

(女である私を前に逃げ出さないということは、彼は私に魅力がないばかりか、女性としての気配さえ欠けていると言いたいのかな?)

 それを表に出してしまわないように、ひとまずにこっと笑顔を作った。

 事情を知らないジークハルトが首を傾けるそばで、ルディオが『目が笑ってねぇよっ』と視線で伝えてくる。

 エリザは笑顔を向けて、目線で『黙れ』と返した。

(――考えられる症状の原因は、二つ、か)

 ルディオが静かになってすぐ、エリザは考える。

 視覚的に女性であると認識した途端に、恐怖心を煽られること。そして気配だけで身体が震えることから、肉体的にも異性という存在も受け入れられなくなっていること――。

「症状は気絶と、それから蕁麻疹でしたか」
「触れられた部分から、場合によっては全身まで広がります」
「ああ、ショックの度合いで、ということでしょうね」

 とすると、やはり彼の恐怖心が鍵になっているのだろう。

 ふむふむと考えるエリザを、ジークハルトがまたしても意外そうに見つめる。ルディオも「専門家っぽい」と呟いていた。

(私は専門家でも魔法使いでもなくて、魔術師の弟子だよ)

 エリザは素人であるので、詳細に分析と治療方法を導き出すのは難しい。

 精神的な問題であれば、その手の専門家に消化しきれていない記憶をどうにかしてもらう方が早いと思う。

 好奇心の強い彼女としては、ふと、男と思われている状態で触ったら無意識に耐性がついたりしないかな、と素人的な方法が脳裏をよぎった。

「蕁麻疹は、全ての女性に対して発症するのですか?」

 紅茶カップを持ち上げつつ、質問だけしてみた。
 するとジークハルトが、頼りなさそうな声で「はい」と小さく言った。

「その、お恥ずかしい話しなのですが……従姉妹であろうと出てしまいます」

 オーケー、これは触らない方が絶対に良い。

 男だと思われていようが、ダメな気がする。エリザは自己完結して、不作法にも紅茶をぐいーっと豪快に飲み干した。

(面談は、三十分くいらだと公爵様と決めていたっけ)

 ふと、先日の打ち合わせを思い出す。

 ラドフォード公爵の話では、ストレスがどうとかで、どの治療係候補も面談は三十分以内にするようにしていたと言っていた気がする。

(話はだいたい聞けたし、そろそろ帰ろうかな)

 その時、新しい紅茶と別の皿が乗った盆を持ってセバスチャンがやって来た。倒れたままの扉を器用に踏み越えて向かってくる。

(……あれ? お代わりなんて聞いてないけど?)

 セバスチャンが、初めて見るニコニコとした笑顔でエリザを見降ろした。

 空になったティーカップを置き、退出のタイミングを考えた矢先だったのでエリザは困惑した。

「新しい紅茶と、こちらのクッキーをどうぞ」
「いや、あの、私はそろそろ――」

 エリザが断ろうと両手を胸に上げた途端、ジークハルトがクッキーを手に取った。先に手本を見せるよう齧って、微笑む。

「侍女長モニカの手作りクッキーです。とても美味しいですよ、どうぞ」
「はぁ。手作りなんですね……」

 先日、覗き見して目元にハンカチを押し当てていたメイド達を思い返す。

 いや、そうではなく、なぜ面談相手にクッキーを勧められているのか。

「好きだろ? 食べてけって」

 ルディオが言う。

(あ。出すならクッキーで、とでも言ったんだな?)

 まったく、人の個人情報を勝手に流さないでほしい。

 長居する気がなかったエリザは、気が進まないままクッキーを口に運んだ。だが、一口食べて大きな赤い瞳を見開く。

「うわっ、美味しい! しっかり甘くてびっくりしました」

 素直な感想を口にした。

 その厚みがあるクッキーは、新しく淹れてもらった紅茶に蜂蜜を入れない方がよく合う。

(さすが貴族の屋敷に出される高級菓子)

 ジークハルトが、その様子にまた驚かされたような顔をした。やがて小さく噴き出して言う。

「僕の話しを聞くだけではつまらないでしょうから、甘くて美味しいので、好きなだけ召し上がってください」
「そんなことはないのですけれど――有り難くいただきます」

 エリザが小さな口でもそもそと食べている間に、ジークハルトは、最近は周りから特に結婚しろと言われることが多いのだという悩みをこぼし始めた。

 話を聞くに、結婚はしなければならないとは分かっていて、彼自身も結婚願望がないわけではなさそうだ。

 こちらの公爵家の方針が、義務的な政略結婚でないらしい。

 ジークハルトは暖かな家庭を持ちたい、という希望はあるようだった。

(なんか――思っていたよりも普通、かも?)

 そんな悩み話は、年頃の男女と変わらないように思えた。

 結婚なんて絶対にしたくない、と嘆くほど女性を心から毛嫌いしている感じはない。メイドがいるからという理由だけで、部屋に引きこもるみっともなさを省けば、ただ恋愛に臆病なヘタレだ。

「――エリオ、顔に気持ちが出てる」
「――だから、読むなっての」

 クッキーを食べながら言い返したものの、物珍しげな感じで眺めているルディオが気になった。

 まぁ、何はともあれ面談が無事に済んでよかった。

 初対面の魔法使いにストレスが爆発して暴れるだとか、いくつか想定していた最悪な状況は全て避けられたことには安堵する。

(うん、そうならないとは限らないから辞退しよう)

 二杯目のティーカップも、クッキーと共にぺろりと完食してしまった。

「ジークハルト様、本日はお話をありがとうございました。顔を会わせてすぐ、プライベートな事を聞き出してしまい、すみませんでした」

 立ち上がり、退出の挨拶をしつつ心から詫びを伝えた。

 謝られるとは思っていなかったのか、ジークハルトが「とんでもない」と慌てたように言った。

「えっと、僕の方こそ一階でお待ちしていなくて申し訳なかったと思ってます。あっ、見送りますよ」
「あ、お気遣いなく。大丈夫です」
「ジーク、俺が見送るから扉のことセバスチャンさんによろしく。夕食前の仕事をしているメイド達にうっかり会いたくないんだろ?」

 それは事実だったようで、ジークハルトは「それなら……」と言って、座ったまま見送った。

 ルディオが見送りのために立ち上がる。

 入れ違いでセバスチャンが入室するのを見つつ、エリザはルディオと共に部屋を出た。

「やっぱり俺の勘は正しかったなぁ。初対面でジークが拒絶しなかった治療係って、お前が初めてだぜ」

 二階の廊下を歩きながら、ルディオが緊張もほぐれた様子で頭の後ろに手を組む。

 そう言われて初めて、エリザは面談も危険だったと勘ぐった。

 クッキーを持ってきたセバスチャンが笑顔だったのは、第一印象は良好だったようだと満足したからだろう。

「……一応訊いておくけど、他の人はどうなったの?」
「大抵は話してもらえないし、十分も待たずに部屋を追い出される。しつこく聞き出そうとする奴には力づくで、という暴挙に出るな」

 そういったことは、前もって警告して欲しかった。

 まるで嵌められたようじゃないかと、エリザは憮然と唇を引き結んだのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。 現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。 現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、 嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、 足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。 愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。 できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、 ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。 この公爵の溺愛は止まりません。 最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。 さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。 “私さえいなくなれば、皆幸せになれる” そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。 一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。 そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは… 龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。 ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。 よろしくお願いいたします。 ※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

処理中です...