みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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プロローグ

魔王爆誕

 僕はひょんなことから魔王になった。
 よくある異世界転生の物語のように、神さまから「手違いで死なせちゃった!」といった件を経て、グロリエスという世界に転生することになったのだ。

 ただ一つ、他の転生物と違ったのは、僕を転生させた神さまが、サタン様と言われている神さまだった。
 サタン様は、天界の神様を酷く嫌っており、その神様が愛でている人間も大嫌いだった。

 現世では散々な人生を送っていたため、僕もサタン様と同じ思いを共有しており、大嫌いな人間であるはずの僕と、どういうわけか馬が合ってしまい、せっかくだから魔王として転生しないかと話を持ちかけられたのだった。
 もちろん、僕は快く受けました。

 で、そんなこんなで、僕はサタン様がお造りになった魔王城の玉座に座っている。

 そして、面白いことに、この世界ではステータスがわかるらしい。
 今の僕はこんな感じだ。

 //
 職業 魔王 lv 999
 
 生命力 99999
 攻撃力 999
 防御力 1
 魔力  999
 魔攻  999
 魔防  1
 素早さ 999
 幸運  1

 スキル
 空間の覇者(周囲200m) 絶対時間 魔を生み出す者 全てを見通す者
 //

 とまあ、防御と魔防と幸運以外はカンストしている。触れる物全てを壊しかねないチート魔王だ。
 防御や魔防に関しては、生命力でカバーしている。幸運は……魔王だしね。
 いろいろ試してみたけど、この力さえあれば、誰も僕に勝つことはできないだろう。

 そして、今日はどうやら吉報から始まるようです。

「魔王様! クロースの街を壊滅いたしました」

 目の前で跪いているのはガーゴイルだ。コミカルな感じは一切無く、汚れた嘴と、深く刻まれたシワの多い鱗状の肌。大きなコウモリのような翼を持ち、手についている鋭い鉤爪は赤黒く汚れていた。
 こいつの爪に傷つけられれば、致命傷でなくても傷口が炎症を起こし、体内に回った雑菌でうなされる日々に苦しみながら死ぬことになるだろう。
 異世界特有の回復魔法さえ無ければ。

「一人残らず殺したか?」

「はっ! 毒霧で苦しめ弱らせた後、一人づつ頭を突いて回りましたので撃ち漏らしはないかと存じます」

 僕はニヤリと口角を上げる。
 こうも簡単に人が死ぬ世界が、楽しくて、楽しくてたまらなかった。

 僕は……
 戯言ばかりで自分さえ良ければいいという考えの人間が嫌い。
 でかい口叩く割に、なにもできない口だけ野郎が嫌い。
 誰にでも優しくて正義の味方のような人間が嫌い。
 自分の気持ち次第で犯罪を犯すやつも嫌い。
 弱いものいじめをするやつが嫌い。
 弱者がいたぶられているのに、知らん顔するやつも嫌い。
 弱者を率先して助けるやつも嫌い。
 恐怖を煽って大勢の人間を操るやつも嫌い。
 大義を持って正義を貫くやつも嫌い。
 権力を振りかざす横暴なやつも嫌い。
 真面目なやつが嫌い。
 不真面目なやつが嫌い。

 まあ、とにかく、人間なんて絶滅させた方がいいと思っている。
 だから、サタン様と意気投合して、クソみたいな人間を辞めて、魔王という素晴らしい生に目覚めることができたのだ。

「あともう少しでこの大陸から人間を排除することができるな」

「はい、もう間もなくでございます」

「ふふふ……ひひひ……あーっはっはっは!」

 喜びで手が震え、笑いが止まらなかった。
 人間を殺せる。ただそれだけが愉悦と高揚を与えてくれた。
 グロリエスの世界は、僕がきっちりぶち壊してやる。
 人間なんていなくても、食事を必要としない魔物はなにも困ることなんてない。
 ただただ、人間の弱さが滑稽で、哀れで、いたたまれないと憐れむことしかできない。

 でも、グロリエスには、サタン様の宿敵、神の使いである勇者が存在している。
 調査に向かわせたガーゴイルたちが半分以下になって帰ってきた時には驚いた。
 勇者の力はとても強く、神様の加護を受けている。
 ガーゴイルたちが束になっても傷一つ残すことはできなかったらしい。

 僕はその報告を受けて、高ぶる感情を抑えるのに必死だった。
 勇者……それは、サタン様が特に大嫌いな人間の一人だ。
 僕も勇者という存在がとっても、とっても嫌いだった。

 やつは、西の大陸から海を渡ってこちらに乗り込んで来ているらしい。
 最強の勇者パーティ。
 なぜそんなにも強いはずなのに、船を使って移動しなければならないのか? 下等生物の力なんてそんなものなのだろう。
 僕はあらかた皆殺しにしたこの大陸を放棄することにしていた。
 しかし、せっかく勇者パーティが魔王城へと向かってきているのだから、顔くらい見ておこうとは考えている。
 でも、そこでは勇者を殺さない。
 そんなことしても面白くないからだ。
 人間をただ殺しただけでも楽しくはあるのだが、もっと心を壊してから殺す方が好みだった。

 だから、魔王城にいる魔物は、勇者と鉢合わせないように全員西の大陸へと向かわせた。
 僕はというと、一人で魔王城の玉座にて勇者が到着するのを待っていた。
 今か今かと勇者を指折り待っていると、予想した到着日より少し前に、勇者は魔王城へと乗り込んで来たようだ。

 玉座の間の扉が開く。
 勇者パーティがようやく到達したようだ。
 体は高揚し、夢にまで見た勇者パーティとのご対面。

 扉から入ってきた勇者たちを愛でると、パーティは五人、勇者と戦士と魔法使いと僧侶とシーフだ。
 なんともバランスの良いパーティで拍子抜けしてしまう。
 僕は玉座から動かず、これから絶望に叩き落す予定の勇者と少し会話をしてみたかった。

 張り詰めた空気を打ち破ったのは勇者だった。

「貴様が魔王か?」

 聞く必要があるだろうか?
 くだらない質問には答えてなどやらない。

「……」

「答えろ!」

 なんとも上から目線で物を言う勇者だ。
 ちょっとかわいそうだし、いきなり斬りつけられても興醒めなので、仕方なく返答を余儀なくされる。

「違うが?」

「嘘をつくな!」

「嘘ではないが……」

「うるさい! どのみち魔物だろう、おまえを生かしておくわけにはいかない」

 魔王だと名乗れば信じたのだろうか?
 救えないほど能天気な勇者だ。

「そうか、しかし私は人間なのだが?」

「戯言を! そのような姿の人間なんているわけがないだろう!」

 不毛な会話が続く。
 殺してしまってもいいのだが、今はまだ殺さない。こいつには、絶望を堪能してもらわないといけない。
 そうでなくては、せっかく新しい生を授かったのに、楽しみがなくなってしまう。

「私はサタン様に転生させてもらったのだ。ここではない異世界では、人間であった」

「ふざけたことを言うな! 俺たちを惑わすつもりだろうが、そうはいかない! その減らず口を呪うんだな!」

 勇者の拙い大義は完成したようで、俺の罪状は魔物だったから……ということらしい。
 実にシンプルでわかりやすい。
 人間とは話のわからない傲慢な生き物で、生きてる価値はないように思う。罪深く哀れな存在、それが人間なのだ。

 今日ここにきた勇者様は、皆の手本となるような素晴らしい人間のはずだ。
 しかし、蓋を開けてみれば、こちらの話しに耳を傾けることもできない、魔物を殺すことを是とした殺戮マシーンのようではないか。

 抑えきれない高揚が全身を駆け巡る。
 殺したい……殺したい……殺したい……。
 でも、まだ駄目。まだまだ足りない。

「待ってくれ! 私は人間を殺したことなんてない! だから、帰ってくれないか?」

「まだそんなことを言うのか!? 貴様が手を下さなくても、配下の魔物がこの大陸のほとんどの人間を殺し尽くしただろうが!!」

「それは……貴様ら人間がそのような態度で私の配下を愚弄したからであろう! おまえたちのせいだ!」

「この後に及んでまだそんな減らず口を!」

「おまえがそんなことを言える立場ではないだろう! おまえたちだって、有無を言わさず楽しそうに同胞を殺していたと聞く! そんなに我が同胞を殺すことが嬉しくてたまらないのか?」

「魔物を倒して何が悪い!」

 勇者の思考はとてもシンプルに洗脳済みだった。
 ここは、僕がしっかりと教えてあげないといけないな。

「おまえの頭は考えるということができないのか? なぜ魔物を殺しても良いなどと卑劣極まりない行いを堂々と断言できるのだ?」

「お……おまえたちが人間を殺すからだ!」

 勇者は、ほんのわずかだが、こちらの正義を理解してしまったらしい。
 叫び声は少し自信を失っているように聞こえた。
 勇者が真理を理解できるなら、真実も理解できるだろう。
 僕はスキルの力「全てを見通す者」の力でこの戦いの発端を知っている。
 もう、誰も知ることのない大昔のできごとだ。
 勇者が知ったらどう思うか? 非常に興味があった。

「はぁ……もう昔の話なのだが、先に手を出したのは人間なのだぞ? 今のおまえのように、慈悲もなく、蔑まれ、意味もなく殺された同胞がいたのだ。それは、その仕返しをしたまで……どうだ? これでも魔物が悪いのか?」

 勇者は目が泳ぎ、構えに迷いが出始めていた。
 以外と洗脳は緩かったようで、理解の早い勇者は、人間と魔物を天秤にかけ、罪の重さを計っているようだ。

「そのような醜い姿を晒しておいて……それが悪の証拠だと神託に記されているのです! 勇者様、騙されてはいけません!」

 女僧侶が勇ましく神託をのたまう。
 なるほど、サタン様はこのように横暴な神託を告げる卑劣極まりない神という存在が許せなかったのか。
 僕もそう思う。

「勇者よ……おまえも哀れだな。このような者どものために、今まで身を削って尽くしていたのだ。どこぞの誰かが起こした過ちの尻拭いをさせられて、さぞ悔しかろう?」

 図に乗った女僧侶が日和った勇者の前に立ち、僕の言葉を遮るようにしてこちらへと構える。そして、勇ましく啖呵を切った。

「人を惑わす魔王に何を言われようと聞いてはいけません! 私たちがしてきたことが尻拭いだなんてあり得るはずがないでしょう! 神の神託を受けた私が、勇者様は正しい行いをしたと断言いたします!
 それに、西の大陸で助けた人たちも、みんな同じ思いのはずです!」

「ララ……」

 勇者がララと告げた女僧侶を見る目は、未だ曇りがちに泳いでいる。
 活気に満ち溢れていた先ほどの威勢は消え失せていた。

「おまえのような醜い魔物に正しさを語る資格なんてない! 私たちが必ずおまえを倒し、この世界を浄化してみせる!」

「……」

 僕は彼女の啖呵なんて聞くだけ無駄だと思ったので、そっぽを向いてあくびをかいていた。
 せっかく勇者と楽しい会話をしていたのに、ヒステリックな女僧侶にはうんざりだ。

「おのれぇ! その態度、神への冒涜とみなす!」

「ふぁああ……威勢のいい娘だな。いつでもいいぞ、かかってくるなら殺す」

「くっ……」

 何が「くっ……」だ。
 正々堂々一騎打ちでも仕掛けてくれば、楽に殺してやったのに。
 こいつも簡単には殺さないことにした。

「そもそも、初めて会ったばかりだというのに、無礼を働いているのはどちらだ?
 神への冒涜云々の前に、知的生命体としての誇りはないのか?
 そんな礼節もわきまえていない幼子が神官だとは笑わせてくれる……馬鹿も休み休み言え」
「馬鹿だと!? 言わせておけば……魔物の分際で!」

「だから、私はもともと人間なんだよ。異世界から来た転生者なんだ」

「まだ言うのか!」

 僧侶の悪態も尽きかけてきたころ、後ろで控えていた三人が前に出る。

「もういいだろ。俺たちはこいつを倒すためにこんなところまで来たんだ。使命を果たそうじゃないか」

 戦士が僧侶の横に立ち、俺に向かって剣を構える。

「そうだ、私にはおまえたちが何をためらっているのか理解できん」

 シーフは戦士の後ろで今にも飛び出しそうな勢いだ。

「もう、早く魔王を倒して帰ろう?」

 そう言って気だるそうに杖を構えた魔女は、小刻みに唇を動かしている。

「そうです勇者様! 魔王討伐は我らの使命です!」

 屑理論で脳が麻痺している僧侶は威勢を取り戻した。

「みんな……」

 唯一、話を理解できそうな勇者は、友情パワーによって洗脳されてしまった。
 パリピーが雰囲気に流されて思考を停止している。
 赤信号、みんなで渡れば怖くないって感じかな。

「もう、御託は沢山だ! 貴様を倒せば全てが終わる! かくご——」

「——ちょっと待って。まあ、落ち着いてこれを見てくれ」

 勇者の啖呵を遮り、僕は入念に下準備を整えた出し物を披露することにした。
 中央に設置されている水晶玉に魔力を送り、城を出た魔物たちを勇者たちの前に写し出す。

 きっとこれを見れば、彼らもわかってくれるだろう。
 僕はどんな反応をするのか、わくわくしながら彼らの動向に注視していた。
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