みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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プロローグ

早速魔王謝る!? 謎に包まれたスキル「絶対時間」がチートすぎて魔女の精神崩壊か!? その最中に犠牲となったのは……

 思いのほか大声で叫んでしまった。
 でも、彼らにもわかるように、簡単なお願いをしただけだ。

 嘘をつくな。

 ただそれだけ。

「……すみません、大声を出してしまって。女僧侶は大丈夫だよ。足を折ったわけじゃない。小指の爪を剥いだだけなんだ。
 だって、僕を殺そうとする悪いやつなんだもん。そんなのって酷いだろう?」

「……」

 勇者は答えない。

「なんで僕を殺そうとするの? 魔物だから?」
「……」

 僕がさっき怒鳴ったから怖いのだろうか?
 悪いことをしたと思う。僕はこんなことになるなんて思わなかったんだ。ごめんよ。

「……わかった。何も答えないなら帰れば? 人の家に無断で入り込んで、殺す! なんて言ったことは水に流してあげるからさ。
 黙ってこんなところに居座られても迷惑だよ。それくらい、わかるよね?」

「……」

 勇者も、他の誰もが口を閉ざしている。
 さすがになんかおかしいと思い始めて……あっ、と、気づいた。
 
 よく見ると、誰もが微動だにしていない。
 固まってしまっている。
 息づかいも、服すらも揺れていない。

「やっちゃった……やっぱりこのスキルは厄介だな。でも、なんだろう。誰もそんな感じは……」

 今、発動してるのは僕のスキル絶対時間だ。
 このスキルの効果は絶大で、なんと、僕以外の時を止めることができるのだ。
 しかし、そう都合よく使えるわけではなく、僕にダメージが通りそうな攻撃の寸前で、なんの前触れもなく時が止まってしまう。
 ありがたいスキルなのだが、自分でもいつ発動したかもわからないし、体感で五分くらいすると突然解除される。

 だから、今、僕に言えることは、ここにいる誰かが僕にダメージを与えるような攻撃をしようとしている……ということだけだ。

「さてさて、どうするかな」

 一番簡単な解決方法は、この時間を使ってこいつらを殺してしまえばいい。
 でも、それじゃあつまらないのと、こういった謎解きは嫌いじゃないってのもあって、絶対時間が発動した理由を考えてみた。

 勇者はクソを案じている。
 クソは……痛そうにしてる。
 戦士は……ってこいつじゃ無理か。
 シーフは……勇者とクソの方を見てオロオロしてるよ。やっぱこいつ普通だな。
 で、残るは魔女だが……やっぱりこいつだ。
 目を瞑って口がほんの少し空いている。これだけで判断するのは不可能だが、消去法でいけば魔女が一番怪しい。

「魔法かな? じゃあ……」

 だいたい当たっていると思うので、スキルを使って楽しい演出を仕込む。
 仕込みが終われば、玉座に戻って同じポーズを維持。正直これが一番辛い。

 ………………そして、時は動き出す。

「フレアバースト!!!」

「なに!?」

 白々しく驚いたフリをして、魔女の炎を正面から受け止める。
 灼熱の業火が僕へと一直線に放たれると、周囲の温度を無駄に上昇させた。

「うわーーー、あついーーー」

 やられたフリも大変だ。
 長々と放たれた灼熱の業火は、僕のスキル、空間の覇者(周囲200m)の力によって、寸前のところで消えていく。
 向こうから見れば僕がやられている風に見えるだろう。

「やられたーーー」

 やられたやつはそんなこと言わないと思うが、一応言ってみた。

「はぁ……はぁ……やった!?」

 いやいやいやいや、あんな演技で、やった!? なんて思える幸せ脳の持ち主だとは思わなかったよ!
 やっぱ魔女は馬鹿だった。

 ようやく止まった灼熱の炎。魔女は静かになった周囲を見渡し……。

「なんで……なんで無傷なのよ!!」

 魔女は叫んだ。
 僕の迫真の演技が効いたのかな?

「ん? なにかな?」

「なにかな? じゃないわ! 私の魔法を受けたでしょう!?」

 僕の仕込みはうまくいったようで、ちゃーんと攻撃が届いていると思っていたらしい。プラカードを持って大成功と叫びたい。
 僕は二、三度指を動かして、魔女の視線を指さした方へ誘導する。
 その先には、真っ黒に焼け焦げになった何かがあった。

「え? なにこれ……」

「なんだろうね?」

 魔女は周囲を見回すと……焦っていたのか異変に気づかない。

「なに!? いったいなんなの!?」

「え!? ……マジかよ……それ、戦士だよ」

「えっ……」

 なにがえっ……だよ! こっちが驚いたよ!

 魔女は戦士だった黒い物体を見つめる。
 そして、戦士を探すように周囲を見渡した。
 どこを探しても、まるで居なかった者のように戦士の姿はどこにもなかった。

「なんで戦士さん殺しちゃったの?」

「は? ふざけないで! 私が殺すわけないでしょ!?」

「でも……」

「私はおまえに向けて魔法を放ったんだ!」

 僕は自分の体を見回すと、首を少し傾けて疑問を呈す。

「リッカ……」

 おどおどしていたシーフが魔女をなだめるように近づく。
 このメンバーで唯一まともそうなので、僕の好感度はシーフが独り占めしていた。

「来ないで!! 私じゃない!! 私は殺してない!!」

「落ち着け! 誰もリッカが殺したなんて言ってないだろ?」

 シーフが宥め賺すように魔女に話しかける。思い込みの激しそうな面倒な娘だ。
 感情的になるやつはだいたいクソだ。

「嘘!! あなただって私が殺してないにしろ、私のせいだと思ってるんでしょ!?」

「大丈夫だ。仕方なかった」

「なんなの!? なにが大丈夫なの!? 私の魔法で……私の魔法のせいで!!」

 取り乱した魔女に途方に暮れているシーフ。
 特徴のないシーフが僕の中で株を爆上げ中だ。
 ってか、そろそろ切り替えてくれないとみんな置いてけぼり状態で辛い。

「……もういいかな? なんでそんなに取り乱してるの?」

「ふざけないでよ!! あんたのせいじゃない!! 全部、全部あなたのせいでこうなったのよ! ……殺してやる」

「……」

「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! おまえなんか死ねばいいんだ! 死ね! 死ね! 私は悪くない……全部、全部全部全部全部おまえのせいだ!!! 全部……おまえの……」

「……」

 罵声を飛ばしていたかと思えば、急に静かになった魔女。
 ブツブツと何かを呟いている。
 魔女は気が動転し、目の前の現実を受け入れられないようだ。



 戦士がいない……本当に己が放った業火によって焼かれたのだろうか?
 自分は魔王に向かって放ったはずだった。
 あり得ない結末。
 しかし、状況はそれを否定しない。
 横には炭のように黒い何かが未だ燻っていた。
 業火に焼かれた戦士。
 それ以外にその炭を証明するものは何一つない。
 魔女が放った業火の所業。
 結末から導き出される答えは、いくら思いを巡らせようとも、そこへ帰結する。
 
 だから、魔女は結果から導き出される罪の所在を捻じ曲げるしかなかった。
 魔王を倒すための攻撃だったはずなのだ。戦士を狙ったわけじゃない。
 自分のせいではない。
 そんな壊れそうな心を守るために……魔女は否定する。
 現実を、罪を、己の正義を捻じ曲げて、心を守るために……否定する。

 そして、その否定を成就させるためにはどうすればいいのか?
 魔女の目の前には犯した罪をなすりつけるために好都合な魔物がいる。
 なにも難しい話じゃない。こいつに全てをなすりつけ、殺してしまえばいい。
 そうだ、一石二鳥じゃないか! 罪を帳消しにできて、英雄にもなれる。

 こいつを殺せばいい。ただそれだけ。
 そうすれば、自分は救われるのだ。
 神託に従った結果、戦士は死んだのだ。
 自分は神の御心のままに行動しただけ。
 ……なにも問題はない。

 私は、使命を果たすために魔王を攻撃した。

 私は、神託に従い、正しい行いをした。

 私が戦士を殺したわけじゃない。

 戦士はもともとそういう運命だった。

 彼の尊い犠牲は、私が弔ってあげなければ!

 彼は聖戦の末に死んだのだと……彼の死は無駄ではなかったのだと!!

 震える膝をかえりみず、必死で立ち上がろうと手をつき、顔を上げて僕を睨みつける。




「フレア——」

「——やめとけば?」

 さっきからずっと語りかけているシーフを完全に無視して、かなりいっちゃっていた魔女さん。
 しばらく、声をかけられようが、揺さぶられようが、全く反応しなくなっていたのだけれど、おもむろに口角を上げたかと思えば、さっきの呪文を唱えようとしていた。
 これ以上飛んじゃってもアレなので、僕は仕方なく止めてあげた。
 でも、言葉だけでは止まらなそうだったので……

 黒焦げの戦士を指差したように、僕はシーフを指差した。

 いくら馬鹿でもわかるよね?

「バース……」

 目を見開き、呪文を唱えることができなくなった魔女。
 見開いた目で睨んでいた僕から、視線をゆっくりと下へと向け、声にならない声で床に向かって話しかける。

「あぁ……わた……しは……」

 魔法が使えない魔女なんて、ただの女の子だ。

「よかったね! 死ななくて済んだ見たいだよ? シーフさん」

「ああ……」

 やっぱり僕の見込んだ男は違う。
 ちゃんと会話ができるようだ。
 シーフは魔女を気遣うように、ヘタリ込む彼女に寄り添う。
 その横では勇者がクソに寄り添っている。

 僕は、カップリングのために戦士が殺されたみたいだなぁ、なんて不謹慎なことを考えていた。
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