みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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プロローグ

明かされる戦争の発端! 真実はどこにあるのか? 誰が正しいのか? 人間を絶望へと叩き落すため、僕は手を抜きません!

 まったく、こいつらはなにをしに来たのか?
 自滅ばかりして、本当に僕を倒す気があったのだろうか? あ、いや、クソは僕のせいだった。

「それで、君たちは何がしたいんだい?」

 僕は、不本意だが彼らに声をかける。
 急に訪れたのは彼らの方なのに、招かれざる客の癖してやたらと手間のかかるやつらだった。
 しかしながら、勇者が僕の声を聞いて立ち上がり、ようやくやる気を出したみたいだ。

「やはり……俺は貴様を許せない」

 西の大陸が誇る勇者は、僕を殺すことを選択したようだ。
 なら、戦う前にこの戦争の意味を知ってもらおう。

「そうか、では、この映像を見てもまだそんな世迷い言がいえるのか楽しみだ」

 僕は映像を切り替え、魔物と人間の戦争の発端を見せてあげることにした。
 映像が、西の大陸から別の場所へと切り替わる。

 その映像は、ある平凡な村の上空から始まる。
 ゆっくりと上空からの映像は下降し、民家そばを通って農地へとたどり着けば……
 そこに映し出されていたのは、農民と一緒に、楽しそうに畑を耕す魔物たちだった。

「なんだよ……これは」

「うそ……うそよ……」

 映像の真偽がわからず、受け入れることができない勇者と僧侶。
 魔女は映像を虚ろな目でみつめていた。
 シーフは……もちろん見ていた。ペチャクチャ喋ることなく紳士的な対応をしている。

 そして、映像は楽しく農業を営む農夫と魔物に近づいていく。
 近くまで寄ると、その二人の表情までが鮮明に映し出され、じつに健やかな笑顔に満ちていることが理解できた。
 やがて、その二人の会話までもが聞こえる位置にまで迫る。

「ラデルさん! こんな感じですか?」

「おお、うまい、うまい! ずいぶん上達したじゃないかガーちゃん」

「やったー! ガァー! ガァー!」

 ガーゴイルの魔物は農夫に褒められてとても嬉しそうに鳴いた。羽を小刻みにばたつかせている。
 農夫も、喜ぶ魔物を暖かく見つめ、健やかな笑顔を見せていた。

 醜い魔物が喜ぶ姿は異質だが、そこには平和を脅かすようなものは何もなかった。
 しかし、この映像は戦争の発端であって、平和な暮らしを見せるためのものではない。
 映像はぐるっと二人の反対を映し出すと、血相を変えてこちらに走ってくる青年が映し出された。

「ラデル! 王都の奴らが来た!」

「なんだと! まだ納税の時期じゃないはずだ! 何しに来た?」

 青年はラデルの前で止まると、膝に手をついて肩で息をする。

「はぁ、はぁ……いや、わかんねぇ……でも、奴ら軍隊引き連れて来やがったんだ!」

「なんだと!? 村長は!? 村長には知らせたのか?」

「今対応してるよ!」

「こうしちゃいらんねぇ! 俺らも行くぞ!」

「おう!」

 二人は村の入口へと走った。
 その後ろをついていくようにガーゴイルたちが飛翔する。

「ガーちゃん来ちゃだめだ! あいつらはガーちゃん達のことを目の敵にしてやがんだ、何されるかわかんねえよ!」

 農夫は後ろから来ていたガーちゃんに気づくと、そう大声で叫んだ。

「ガァー! ガァー! いやだ! 僕も行く!」

「うー、じゃあ、奴らに見つかんねえようにすんだぞ!」

「ガァ!」

 ガーゴイルのガーちゃんは空中で一回転して農夫に答えた。

 そして映像は切り替わり、王都の軍隊と村長達を映し出した。
 村の入口を囲むように村人たちが輪を作っていた。
 その中心には、村人と貴族、そして、数人の兵士が見える。
 村長は縛られており、膝をつき頭を垂れていた。
 やがて映像は、その中心へと向かい、ガヤガヤとした喧騒を通り過ぎ、貴族の声が聞こえる位置にまでたどり着く。
 貴族は取り囲む村人たちに向かって胸を張り、皆に聞こえるような大きな声で叫び出した。

「この村は、醜い魔物と共に暮らしていると王都へ報告が入った! 我々はその真偽を確かめるため、このような辺鄙な土地までわざわざ足を運んだのだ! するとどうだ? この村長はなにも悪びれることもなく魔物と暮らしていると罪を認めた!
 よって、これより、神聖なる神託の裁きを与える。
 この者は、死刑! 即刻斬首を執り行う!
 他のものは、これを期に心を改め、魔物と接触することは罪だと自覚せよ!」

 貴族は大義を語る。
 神託に則り、村長を斬首するために。
 横に立つ兵士の手には、重そうな斧が添えられている。

 しかしそこへ、ラデルが走りながら大声を出し、処刑を止めるべく声を上げた。
 
「おーい! 待ってくれ! 村長は何も悪くねぇ! 俺だ! 俺が仲良くしてたんだ!」

 村人が作る輪をくぐり抜け、ラデルが貴族へと村長の無実を語る。
 斬首を待つ村長の前で跪くと、刑を取りやめて欲しいと懇願する。

「お願いだ! 貴族様! どうか……どうかご慈悲を!」

 頭を地に擦り付け。意地汚く減刑を願い出る。
 しかし、必死に懇願したところで貴族には届かない。
 こんなところに使いを出される貴族など、そもそも容赦を与える権限など持ってはいない。
 大勢の兵士が見守る中、神託に背く行為を行えるわけがないのだ。

「前に出て来なければ良いものを……」

 貴族は誰にも聞こえない程度にそう呟いた。
 斬首を嬉々として行える人間などそう多くはない。
 この者は前に出てきて己の罪を自白した。
 だから、貴族がやることは一つ。
 地に転がる首を二つにするだけ。

「よくぞ自ら自白した。そなたの罪は浄化され、天界にて許されることになろう」

 貴族がラデルに手をかざすと、兵士が縄を使ってラデルを縛りあげる。
 村長の隣に膝をつかせ胴を前に倒される。
 それでもラデルは首を貴族に向け、必死に減刑を懇願した。

「貴族様! どうか! どうかご慈悲を!」

 貴族は手を高く挙げて合図する。
 処刑人の腕も上がる。手には大きな斧が握られている。
 ……そこにいる誰もが、次に起こる事実を鮮明に理解した。

 貴族が手を下ろせばこの二人の首は地に落ち、噴き出した鮮血が地を汚すことだろう。
 小さな村にとって、斬首などという行為は初めてで、皆、固唾を飲んでその成り行きを見守っている。
 慈悲を乞えばラデルの隣に並ぶことだろう。
 誰もが後方を守る軍に対抗する術を持たず、愚政の行末を嘆くことすら許されない。

 そうした行為の末、芽生える感情がある。
 弱い心を守る自衛のための大切なプロセス。
 罪の所在をこの二人になすりつけ、今後の人生を穏やかに暮らすために必要なこと。

 それは、恐怖。

 斬首を待つ二人に自身を重ね、軍を見て諦めを覚えれば、抗えない結末に恐怖することは自然な成り行きなのだ。
 だから、誰もが声を上げることはしない。
 誰もが恐怖に身を包まれ、動こうとはしなかった。

 この行為が終われば、またいつものように穏やかな生活に戻れるはずだ。
 しかし、恐怖に駆られながらも、弾圧された者が怒りを宿すきっかけにもなるその行為。
 今はやり過ごし、後日、力をつけてやり返されるかもしれない。

 そんな、人の恨みを買う行為。

 しかし、触発された危険分子を生み出さず、その行為を肯定せざるを得ない仕組みが存在する。
 斬首を行った後も、その権力に平伏させるために必要なもの。

 それが、宗教……神託であった。

 宗教、神託は、罪の所在を皆で共有するというその性質から、人間の集団行動を是とする心理を強力に押しつける。
 この二人は、大勢の人々が信じる罪を犯した。
 だから、処刑されることになった。
 村人は全員を斬首されることなく、この二人の処刑で許されだけなのだ。
 貴族はそう言っていた。
 心を改めよと。
 改めなければ、神託を信じる大勢の敬虔な信者から罪を押し付けられてしまう。
 しかし、自ら信者となる道を選べば、あの兵士たちは村を守る仲間となる。
 彼らに生活を脅かされるどころか、村を守る頼もしい存在へとなるのだ。

 その選択に、宗教の正しさなどは関係ない。
 しかし、表向きはその宗教を守る信者として、慎ましく教えを守らなければならない。
 
 信じる者は救われるわけではない。
 信じる者は救ってやると言われているのだ。
 
 貴族は、腕を振り下ろす。
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