みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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西の大陸蹂躙

勇者の終わりから始まる魔王の物語

「ララ! ララ!! おい! 嘘だろ!? おい! おい!!! なんでおま——」

 あの時見た映像と同じ光景。
 しかし、一つ違うのは、返り血を浴びたのがララではなく、ライトだった。

 動けないままテオの首から吹き出す返り血を浴び、真っ赤に染まるライト。
 場に静寂が訪れ、二人の死が、ただただそこにあった。
 ライトは呆然とその光景を見つめる。
 いつのまにか縛られていた拘束は解かれており、それでもなお、縛られたように手を伸ばしたまま固まっていた。

 静寂を破ったのはリッカだった。

「怖いわね……」

 ポツリとそう呟く。

「怖かったか? それは良かった」

 魔王がそれはそれは嬉しそうに答えた。

「ライトよ。そなたはテオを絶望に叩き落としたが、ララを奪うことができなかった」

 魔王が自分を見つめてそう言い放った。
 反論してもよいのだろうか?
 しかし、真実を述べなければ殺される。
 そう感じた。

「あ……私は、ララに愛していると言われたはずだったのですが……」

「あれは僕だ。ララは叫び続けていたぞ? 嫌だと、泣き叫んでいた。ずっと、ずっとな。
 おまえに犯される全てに絶望していた。
 私の助力なしにはあのような快楽を堪能できるはずもなかっただろうに。ふざけた女だ」

「あ……そ……そうでしたか。申し訳ありません」

 ライトは最愛の女に深い絶望を与え、死にゆく最後を悲痛なものへと変えた。
 ライトが邪魔をしなければ、彼らは愛に満ち溢れた最後を遂げられたはずだったろう。

「では、私は……いったいなにを?」

「おまえは僕のために……この最高の処刑を演出するために良き働きをしたのも事実。
 失敗を許そう。だが、ここから去れ。西ではない大陸に渡り、魔王の恐怖を轟かせよ。
 そして、生贄を寄越すのだ……勇敢で、正義感が強く、我こそは最強と自負する人間をな。
 いくらでも相手にしてやろう」

「なぜ? そのようなことを……」

「楽しいからだ。人を殺すのがとても楽しい……その者が苦痛に顔を歪め、絶望しながら死にゆく様はとても愉快だ。
 今回のそれはとても良かった。
 それもこれも、リッカが気づかせてくれたおかげだ。よくやったぞリッカ」

「私はなにもしてないわ」

 リッカはそっけない態度で魔王をいなす。
 ライトの目にはその態度が嘘のように信じられなかった。
 魔王に忠誠を誓ってもいない、人として怒りを宿しているわけでもない。
 リッカは、ただなにも感じていないような態度だった。

「そうか……そうだな。まあいい。行け! 北でも、東でも、南でも、好きなところで魔王の存在を声高に叫ぶのだ!!」

「はい!!」

 ライトは急ぎ立ち上がり、魔王城を後にする。
 自ら体験した恐怖と絶望を伝えに。
 抗えない死が迫っていると。
 呑気に構えているであろう海を越えた大陸の人間に。

「行ったか……」

「静かになっちゃったわね」

「ああ」

 リッカはおもむろに二つの死体へと近づき、ララの持っていたナイフを手に取った。

「これならあなたを殺せるかしら?」

「試してみたことはないな」

「試したい……」

 恍惚した表情でナイフを見つめるリッカ。
 気が狂ったように自分の思っていることを淡々と口にする。

「試して僕が死ななければどうなると思う?」

「死ぬのは嫌。快楽の呪いで私を抱いて」

 ふざけたことをのたまい続けるリッカ。
 まるで試すかのような言動だが、そこに感情はこもっていない。
 不思議と怒りは湧き上がらなかった。

「では試すといい」

「うふふ……いいの?」

 不敵な笑みを浮かべて魔王を見つめる。
 そして、ゆっくりと近づき、そのナイフを僕の腹部に刺した。
 強烈な痛みが全身を襲う。
 絶対時間は発動しなかった。

「うっ……なぜだ……絶対時間が発動しなかった……だと?」

 急いでステータスを確認すると……

 //
 職業 魔王 lv 999
 
 生命力 96800
 攻撃力 999
 防御力 1
 魔力  999
 魔攻  999
 魔防  1
 素早さ 999
 幸運  1

 バッドステータス
 裂傷

 スキル
 空間の覇者(周囲200m) 絶対時間 魔を生み出す者 全てを見通す者
 //


 生命力が減っていた。
 新たにバッドステータスの欄が現れ、状態異常が表示されている。

 たった一突きで3100もの生命力が奪われてしまった。
 なぜ絶対時間が発動しなかったのかはわからないが、察するに、自分が受け入れたからなのかもしれない。

「絶対時間?」

 リッカはナイフを抜き僕に質問した。

「ああ……くっ……気にするな」

「そう」

 素っ気なくリッカが短く答える。

「しかし……おまえには教えられることが多いな……」

「……」

「ふん……未だかつて僕にダメージを与えられた者なんかいなかった。素直に喜べ……」

「……」

 なにも答えなくなったリッカは、微動だにしていなかった。

「……発動したか」

 さっきは発動しなかった絶対時間が発動していた。
 リッカがまた刺そうとしたのだろう。

 僕は傷口に手を当て、魔を生み出す者の応用で傷口を治す。
 魔王など、魔そのものであり、傷口を塞ぐことなど容易いことだった。

「ふぅ……もう一度確認するか……」

 //
 職業 魔王 lv 999
 
 生命力 96800
 攻撃力 999
 防御力 1
 魔力  999
 魔攻  999
 魔防  1
 素早さ 999
 幸運  1

 スキル
 空間の覇者(周囲200m) 絶対時間 魔を生み出す者 全てを見通す者
 //


「なっ!」

 驚きを隠せなかった。
 ステータスに表示されている生命力が回復しないのだ。
 どこも悪くない。
 痛くもない。
 完全に治癒を果たし、傷口は完璧にふさがれているはずなのに……
 しかしながら、バッドステータスは改善していた。

 強すぎる魔王の弊害なのだろうか?
 回復できないとは思わなかった。

 もしリッカに刺されなければ、寸前のところで下手を踏むことになりかねなかった……。

 リッカを見回せば、ナイフを突こうとしているのがわかった。
 背後に手を回し、心臓を狙っている。
 そこを突かれれば、どの程度のダメージだったのだろうか?
 背中に寒気が走る。

「クックック……気の抜けない女だ」

 しかし、そんなリッカを見ても怒りは湧いて来なかった。
 そればかりか、さっきまで何度も果てたというのに、またしても欲情してしまっている。

 せっかく着せた上等なドレスを剥ぎ、ナイフを持った手を玉座の背もたれに括り付ける。
 今度は自分も全ての着てる服を脱いで玉座に座り、リッカをゆっくりと僕へと沈めた。

 ………………そして、時は再び動き出す。

「んっ! え!?」

 ずっと座っていた目は、信じられない光景でも見たかのように見開かれた。

「ようやく目覚めたか……おまえの行動が遅すぎて、支度を済ませて待っていたのだ。
 さあ……気がすむまで果てるがいい」
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