みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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西の大陸蹂躙

心に傷を負ったエルフのために魔王がしたこと エルフの価値

 クザンの手当てを観客に任せ、 僕はようやくこいつを処刑することができる。

 そう……リッカを泣かせたクソ野郎だ。

 未だだらしない裸を曝け出し、人形にように拘束したままのクズ。
 エルフの公爵は後回しだ。
 もう我慢できない。

 こいつを眺めていると……とてもとても血が騒いだ。
 早く……早くと……腕が……足が……体が疼く……。

 エルフの悲痛な運命を救う?
 我ながら似合わないことをしている。

 エルフの心を救う?
 壊れたままだって生きていけるだろうに……甘えるな。

 しかしまあ……言ってしまったものはしょうがない。最後までやるさ……最後までな。

 ああ……首を引きちぎりたい……持ち上げて地面に叩きつけたい……恐怖に怯えた目で……僕を……僕を見て欲しい……。

 そして笑うんだ……心からそう……笑えると思うんだ……。

「クックックック……ヒヒヒヒ……」

 僕は、そんな未来を夢見て笑い、顔を近づけてクズをまじまじと見定めた。
 舐めるように……吐息がかかる距離で……じっくりと。

 おっと……エルフたちが怯えている。いかんいかん。

 それじゃあ始めようか。
 エルフたちを救い、クズに絶望を与える時間だ。

 僕はクズをエルフたちが取り囲む輪の中心へと促し、座らせる。
 断罪の時間に魔物がいないのは少し寂しいので、クズの両隣に二体のガーゴイルを生成した。

 そして、スキルの無駄遣いをして、立派な玉座の魔物を作った。背もたれには目が蠢き、龍の翼で背を装飾した。肘掛には白い大蛇をあしらい、脚は、ガーゴイルの嘴を四本添えた。

「リッカ、フェリ。おいで」

 僕の呼び声に呼応して、大蛇が二人に伸びてゆき、優しくその背中に腰掛けさせると、僕の隣に連れてくる。

 僕は二人を抱き寄せて、クズを見下ろす。
 そして、声が出せるように拘束を解いた。

「やあ、お待たせしたね。今日は君からだ」

 どこかで聞いたことのあるフレーズで、僕はクズを優しく迎えた。

「ひっ……ぼ……僕は悪くない! た……ただ、そこの公爵に騙されてただけだ! エルフだなんて知らなかった! 僕は悪くない!」

 クズが最初に口にした言葉は、謝罪ではなかった。むしろ、謝罪すらしていない。すべては公爵に罪をなすりつけようとしている。
 やはり、人間とはこうでなくちゃいけない。

「でもエルフだった。エルフだと知っていたらどうしたんだ?」

「え? エルフだと知っていたら、だ……抱くわけないじゃないか!」

「なぜ?」

「だ……だって、エルフは魔女だから……」

「魔女だから?」

「し……神託に則って……しょ……処刑しなければならないんだ!」

「ほう……では、私が、私の気分に則って、おまえを処刑するのと一緒だな?」

「え? いや……え!? ちが……違う! 神様が、そう定めたんだ! 僕じゃない!」

 自分じゃなければ……知らなければ罪じゃない。
 とても人間らしくていい。
 待っていた……こういった人間を待ち望んでいた。これでは、僕の血が騒ぐのも無理はない。

「おまえが決めたことでなければいいのなら、私がおまえを処刑するのも、おまえが決めたことではないので問題ないな?」

「え? ……いや、だって……そういうことじゃない! 僕のせいじゃない!!」

「クックックック……でも、おまえは何度も抱いたのだろう?」

「そっ……それは……僕は買ったんだ! なにも悪いことなんかしてない! 買っただけだ! リッカだって、フェリアーラだって、僕ので気持ちよくなってたんだからいいだろ!?」

 リッカが下を向いてしまった。
 僕はリッカの頬に手を当て、問いかける。

「どうした? なにをそんなに怖がる必要がある?」

 リッカは僕を見なかったが、ゆっくりとその理由を吐き出してくれた。

「……だって……あなたには知られたくなかったから……」

「なぜ?」

「私があんな男と寝ているなんて、知られたくなかったの!」

 悔しい感情が、声となり、言葉となり、吐き出されていく。

「あいつの言っていることは本当か? 抱かれて、気持ちよかったのか?」

「……本当よ。何度もイッたし……何度も受け入れたわ……」

 知られたくなかった感情……罵られたくなかった己の行い。
 それを、包み隠さずリッカは僕に吐き出してくれた。

「ほ……ほら! 僕はなにも悪いことなんかしてないんだ! む……むしろ、エルフだったなら、僕に感謝してもいいくらいだ!」

「感謝? リッカ、あの男に感謝したいことなんかあるのか?」

「……ないわよ」

「なぜ?」

「そんなの……嫌だったもん! あんな男に抱かれるのなんか、嫌だったもん!! 感謝なんか……絶対しないんだから!!!」

 子供の駄々のように稚拙な思いではあるが、それは誰もが共有しているはずのもの。
 誰であろうがわかるはずの当然の道理。
 そんなこともわからないクソ野郎に感謝など、していいわけがない。

「だ、そうだが?」

「ふ……ふざけるな! 僕がいくらおまえにかけたと思っているんだ! 金で股を開く売女の癖に! おまえが処女の時だって、1000枚の金貨を出したんだぞ!! その時だって優しく抱いてやったのに! ふざけるなよ!」

「クックックック……そうか……おまえがリッカの処女を奪ったのか……でも、今は僕の女だ。もうおまえが抱くことはない……どうだ? 悔しかろう? せっかく大金を叩いて囲っていたのに、あっさり僕に奪われてしまったのだからな」

「ふっ……ふん。もう僕は飽きるほど抱いた。使い古しだ! せっかく毎回おまえのことも気持ち良くさせてやったのに! そいつらは誰のものでも良がる汚れた女だ! 身も心も恥辱に塗れ、その事実を知られたくなかったなんてほざく詐欺女に誰が悔しいなどと思うか! 僕を甘く見るな!」

 クソはこの期に及んで己のプライドを優先する。
 クソの罵詈雑言を聞き、リッカを見れば泣いていた。
 体は小刻みにに震え、怯えた目で焦点を狂わせている。

「なぜ僕に知られたくなかったんだ?」

「……嫌なの……私はあいつの言うとおり……汚れている……何度も……何度も……汚された……あなたには知られたくなかった……あなたに嫌われたくなかった……汚れた女だって知られたくなかった」

「なぜ?」

「………………好きなの……私を助けてくれたあなたが好きなの……優しくしてくれた……あなたのことが……だから……身も心も汚れた女だって……知られたくなかったの」

 好きだから知られたくない。
 罵られたくない。
 幻滅されたくない。
 ……卑しいことだろうか?
 ……詐欺女だと言うのだろうか?
 問題はそこじゃない。

「どこが汚れているというんだ?」

「うぅ……あ……あんなやつに抱かれても……気持ちよければそれでよかった……誰に抱かれても……なにも思わなかった……そんな女は……誰だって嫌でしょう?」

 リッカは僕を見ない。
 僕にほんのすこしでも期待してしまえば、裏切られた時に心が壊れてしまうから。
 でも、それでも自分の気持ちを伝えてくれたのは、こいつを許せないという思いからだろう。

「あいつのことが好きなのか?」

「好きなわけ……ないじゃない!」

「クックックック……そうか……だ、そうだが?」

「は? 自分の女が他の男に抱かれても平気だなんて、そういう性癖でも持っているか、貴様もその女のことなんかどうでもいいと思っているんだろう!?」

「なにをそんなに嘲笑っているのかよくわからないが……まあ、おまえには、人の価値を推し量ることができる知能など持ち合わせてはいないか……」

「なんだと!? 僕はおまえのような変な性癖を誇るようなことはしない! それに、その女の価値なんて、その見た目以外に何もない!」

「見た目? 馬鹿な無能でも、美しさはわかるようだな。安心したよ」

「僕を馬鹿にするのか? ふざけるな! 見た目だけの痴女、売女に、僕が価値を見出すわけないじゃないか! 世には慎ましく、気品のある淑女が大勢いるんだ! そいつらとは比べものにならないくらいな!」

 気品のある淑女。
 何も知らないお姫様。
 優雅で、煌びやかで、汚れた世界を知ろうともしない痴呆。
 人の上に立つ者でありながら、下々の努力を貪り、己の欲のためにしか行動できないゴミクズ。
 高貴な存在であるがゆえに、同じ人間をなんのためらいもなく見下すことのできる異常者。

「ああ、それは、何もできない……地位と権力に溺れ、その身を着飾ることしか考えていないクズのことか……はっはっは! やっぱりおまえは見た目だけしか価値を見出せないのではないか! そんな無能に何を言われたところで僕が感じるのは、おまえがその空っぽな知能のせいで、欲望を貪る豚のように醜悪であり、臭く、クソ塗れな姿であることも理解できない動くゴミクズだということだけだな」

「き……貴様……おまえは僕に自分の女が抱かれて悔しいだけなのだろう!? 何度も、何度も、その身に僕のものをぶち込み、ぶちまけてやったんだ! どうだ? その汚い売女を手に入れた気分は? 悔しいだろう! 僕はそいつの初めての男でもあるんだ! その女の全てを奪ったんだ! 悔しいに決まっている!」

 僕はリッカとフェリを抱き寄せる。
 二人とも、震えていた……俯いていた……何も言葉を紡げずにいた……。
 そうだ……売女と罵られた者が何を叫ぼうとも虚しいだろう。
 このように価値のわからない輩が多いのも事実。
 誰にも理解されなかったおまえたちの叫びは……僕が救ってやる……。

「黙れゴミクズが! エルフたちは、クソ共のおもちゃにされ、弄ばれて泣いていたのだ!
 逃げ場を塞がれ、奴隷のように扱われようとも、次の犠牲者を出さないために懸命に己の心と戦っていた!

 それは全て快楽のためなどではない!!
 おまえらクソ共のためなどでもない!!
 仲間のために、その身も心も削りながら、ゴミクズ共の欲望を満たさなければいけないという恥辱に耐え忍んでいたのだ!!

 何が汚してやっただ……自惚れるな!!!

 おまえらクズ共に、エルフたちの心を汚すことなどできはしなかった!
 その全ては、エルフたちが、優しく、尊く、仲間を思う心、慈愛の精神を持っているからこそ、おまえたちが欲望を貪ることができたのだ!!!

 おまえたちが勝ち誇れば誇るほどに、エルフたちの美しい心が証明されていくのだ!!!」

 ……急に大きな声を出したため、ゴミクズは恐れ慄いている。
 僕はそのゴミクズを侮蔑の眼差しで睨みつけ、事の真理を教えてやる。



「……教えてやろう……おまえたちが嬉々として……必死になって汚していたもの……それは、他でもない……おまえたち自身だ。



 ……これより……断罪を決行する……」
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