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東の大陸蹂躙
人間ホイホイ
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拝啓
勇敢なる勇者諸君!
私はこの世界から人間を滅ぼそうと暗躍している魔王です。
突然ですが……皆様は今、わけもわからずこの地に呼ばれて困惑していることと思います。
しかし、そんな皆様の不安を取り除くため、魔王である私がとびっきりの解決策をご提示いたしたいと思います!
現在、東の大陸のど真ん中に魔王城を設け、その内部をダンジョンとして広く公開しております。
それ故、公開記念といたしまして、ダンジョン攻略に励んでくださいました皆さまには、参加賞として金貨一枚を進呈いたします。
また、それとは別で集落以外に派遣されている奴隷の獣人を連れてきたら、一人につき金貨100枚。貴族に仕えていた獣人であれば金貨500枚。王族に仕えている獣人であれば金貨10000枚(上限要相談)を進呈いたします。
なお、危険なダンジョン攻略はせず獣人奴隷の解放にご尽力いただくだけでも構いません。
ただし、この目的に反して獣人をわざわざ奴隷とした者には死が与えられますのでご注意ください。
そして、ダンジョン内には貴重な武器、防具、アクセサリー、金貨などが豊富にございます。
中央、西、南の大陸の人間共から奪ったものはそう簡単に尽きるようなことはありません。
一度潜れば一生遊んで暮らせるだけの大金が舞い込む可能性も十分ございます。
しかし……そんなものでは飽き足らず、全てを奪いたいとお思いの方は……魔王がダンジョンの最上階にてお待ちしております。その時は全力でお相手いたしますので……心して挑戦してください。
是非とも皆さまには魔王討伐を夢見て頑張っていただけたらと思います……。
それでは、皆様のご来城を心よりお待ち申し上げます。
敬具
最強過ぎて誰にも負けない魔王より。
憐れな勇者様たちへ……
//
このビラを眺めながらわなわなと震えている者がいた。
顔には青筋が浮かび上がり、スキンヘッドを真っ赤にして湯気を立てている。
「……して、今はどのような状況なのだ?」
国の重鎮が集まる会議の最中、ダリダ王はビラを見ながらそう問いかけた。
東の大陸は、四つの大きな勢力に分かれていたのだが、ここ数日のうちに量産されたダリダ王国の勇者たちの手によって勢力図は瞬く間に書き換えられ、あっという間にダリダ王国が東の大陸を制定した。
今や時の人となったダリダ王。
しかし、その浮かれた気持ちを吹き飛ばすほどの脅威がすぐ近くに出現してしまったのだから落ち着く暇もない。
このビラに書いてあるとおり、大陸中央にあった深い森の中に、いつのまにか魔王城なるものが出現したのだ。
綺麗な円状に城壁が立ち並び、その中央に荘厳な城がそびえ立っている。
城壁の門は開け放たれており、誰でも出入りが可能であった。
そして、そこで暮らしている人々によって、魔王城の城下町はとても活気付いているという。
……と、このような感じでざっくりと報告を受けた王はうな垂れた。
「それで……なにか被害は出ているのか?」
「はっ! 恐れながら、このビラにも書いてあるとおり、捕らえた獣人が街から忽然と消えてしまう騒ぎが起き続けており、今や対応しきれない状況にあります」
「誰でも連れて行けば金貨100枚など……どうにもならんな……」
「はい……現状、義賊なるものまで現れる始末でして……一部では魔王崇拝まであると耳にしております」
「愚かな……」
王の嘆きは深い溜息と共に吐き出された。
人間を生贄にし過ぎて下級労働者が減り、国の経済は瞬く間に修復不可能なまでに落ち込んでしまった。
その穴を補うために乱獲した獣人たちであったが、魔王にそこを突かれ、もはや打つ手はないかに思われた。
その考えを肯定するかのように静寂に包まれてしまった会議室。
誰もが下を向き、隣にいる者の考えを気にしていた。
それもそのはずで、目の前には誰でも受け入れてくれる活気付いた魔王城がある。
自分たちが重鎮だからこそここに止まってはいるが、ポツポツと下級貴族は成り上がりを夢見て魔王城に赴いていると聞いていた。
経済において、後追いは旨味が減ってしまう。
こんな会議に出なくていいのなら、魔王城に赴いて一稼ぎしたいところなのだ。
「して……どうされますか?」
「……今や我々王国側が完全に悪者になってしまっている。なにかことを起こさねばなるまい」
「仕掛けると……そう仰るのですね」
王はなにかしら行動を起こさねば、ただただ人が減っていってしまうと考えている。
なんとも世知辛い理由ではあるが、これ以上の国民、奴隷の流出は看過できない。
魔王側には圧倒的な財力と、活気を伴う国力、そして、皆の心を掴んで離さないカリスマ性が同時に存在しており、また、一攫千金、成り上がり、下克上などなど、およそ平和とは言い難いやり方で国を異様なまでに活気付かせている。
極め付けは出所不明の食材が潤沢にあり、奴隷制度がなくても皆がなに不自由なく暮らしているということだ。
……魔王に直接なにかされたわけじゃない。
しかし、ただ時間が過ぎていくだけで、ダリダ王国が著しく衰退していってしまうのは目に見えていた。
ここで国民の流出を無闇に制限すれば、一日もしないうちに暴動が始まってしまうだろう。
だから、ダリダ王が下せる命令は一つしかない。
魔王討伐……ただそれだけがダリダの生き残る道であり、破滅への一本道なのである。
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拝啓
勇敢なる勇者諸君!
私はこの世界から人間を滅ぼそうと暗躍している魔王です。
突然ですが……皆様は今、わけもわからずこの地に呼ばれて困惑していることと思います。
しかし、そんな皆様の不安を取り除くため、魔王である私がとびっきりの解決策をご提示いたしたいと思います!
現在、東の大陸のど真ん中に魔王城を設け、その内部をダンジョンとして広く公開しております。
それ故、公開記念といたしまして、ダンジョン攻略に励んでくださいました皆さまには、参加賞として金貨一枚を進呈いたします。
また、それとは別で集落以外に派遣されている奴隷の獣人を連れてきたら、一人につき金貨100枚。貴族に仕えていた獣人であれば金貨500枚。王族に仕えている獣人であれば金貨10000枚(上限要相談)を進呈いたします。
なお、危険なダンジョン攻略はせず獣人奴隷の解放にご尽力いただくだけでも構いません。
ただし、この目的に反して獣人をわざわざ奴隷とした者には死が与えられますのでご注意ください。
そして、ダンジョン内には貴重な武器、防具、アクセサリー、金貨などが豊富にございます。
中央、西、南の大陸の人間共から奪ったものはそう簡単に尽きるようなことはありません。
一度潜れば一生遊んで暮らせるだけの大金が舞い込む可能性も十分ございます。
しかし……そんなものでは飽き足らず、全てを奪いたいとお思いの方は……魔王がダンジョンの最上階にてお待ちしております。その時は全力でお相手いたしますので……心して挑戦してください。
是非とも皆さまには魔王討伐を夢見て頑張っていただけたらと思います……。
それでは、皆様のご来城を心よりお待ち申し上げます。
敬具
最強過ぎて誰にも負けない魔王より。
憐れな勇者様たちへ……
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このビラを眺めながらわなわなと震えている者がいた。
顔には青筋が浮かび上がり、スキンヘッドを真っ赤にして湯気を立てている。
「……して、今はどのような状況なのだ?」
国の重鎮が集まる会議の最中、ダリダ王はビラを見ながらそう問いかけた。
東の大陸は、四つの大きな勢力に分かれていたのだが、ここ数日のうちに量産されたダリダ王国の勇者たちの手によって勢力図は瞬く間に書き換えられ、あっという間にダリダ王国が東の大陸を制定した。
今や時の人となったダリダ王。
しかし、その浮かれた気持ちを吹き飛ばすほどの脅威がすぐ近くに出現してしまったのだから落ち着く暇もない。
このビラに書いてあるとおり、大陸中央にあった深い森の中に、いつのまにか魔王城なるものが出現したのだ。
綺麗な円状に城壁が立ち並び、その中央に荘厳な城がそびえ立っている。
城壁の門は開け放たれており、誰でも出入りが可能であった。
そして、そこで暮らしている人々によって、魔王城の城下町はとても活気付いているという。
……と、このような感じでざっくりと報告を受けた王はうな垂れた。
「それで……なにか被害は出ているのか?」
「はっ! 恐れながら、このビラにも書いてあるとおり、捕らえた獣人が街から忽然と消えてしまう騒ぎが起き続けており、今や対応しきれない状況にあります」
「誰でも連れて行けば金貨100枚など……どうにもならんな……」
「はい……現状、義賊なるものまで現れる始末でして……一部では魔王崇拝まであると耳にしております」
「愚かな……」
王の嘆きは深い溜息と共に吐き出された。
人間を生贄にし過ぎて下級労働者が減り、国の経済は瞬く間に修復不可能なまでに落ち込んでしまった。
その穴を補うために乱獲した獣人たちであったが、魔王にそこを突かれ、もはや打つ手はないかに思われた。
その考えを肯定するかのように静寂に包まれてしまった会議室。
誰もが下を向き、隣にいる者の考えを気にしていた。
それもそのはずで、目の前には誰でも受け入れてくれる活気付いた魔王城がある。
自分たちが重鎮だからこそここに止まってはいるが、ポツポツと下級貴族は成り上がりを夢見て魔王城に赴いていると聞いていた。
経済において、後追いは旨味が減ってしまう。
こんな会議に出なくていいのなら、魔王城に赴いて一稼ぎしたいところなのだ。
「して……どうされますか?」
「……今や我々王国側が完全に悪者になってしまっている。なにかことを起こさねばなるまい」
「仕掛けると……そう仰るのですね」
王はなにかしら行動を起こさねば、ただただ人が減っていってしまうと考えている。
なんとも世知辛い理由ではあるが、これ以上の国民、奴隷の流出は看過できない。
魔王側には圧倒的な財力と、活気を伴う国力、そして、皆の心を掴んで離さないカリスマ性が同時に存在しており、また、一攫千金、成り上がり、下克上などなど、およそ平和とは言い難いやり方で国を異様なまでに活気付かせている。
極め付けは出所不明の食材が潤沢にあり、奴隷制度がなくても皆がなに不自由なく暮らしているということだ。
……魔王に直接なにかされたわけじゃない。
しかし、ただ時間が過ぎていくだけで、ダリダ王国が著しく衰退していってしまうのは目に見えていた。
ここで国民の流出を無闇に制限すれば、一日もしないうちに暴動が始まってしまうだろう。
だから、ダリダ王が下せる命令は一つしかない。
魔王討伐……ただそれだけがダリダの生き残る道であり、破滅への一本道なのである。
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