みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

文字の大きさ
84 / 157
東の大陸蹂躙

魔王討伐の軌跡 大規模勇者召喚



 魔王城城壁外の開けた平地。
 以前はここに深い森があったはずだった。
 なぜ魔王城以外の場所までこのように更地へと変えたのか?
 その理由を人間が考えたところで答えにたどり着くはずもない。
 なぜなら、これは単純に魔王城が遠くからでも見やすいようにと施した魔王様の粋な図らいでしかないからだ。

 しかし、今のダリダ王国軍にとっては好都合であり、八十万の兵士が一堂に集まれる場所を探す手間が省けた格好だ。

 見晴らしのいい平原は魔王城に向かってなだらかな傾斜となっており、魔王城側に立てば思いのほか遠くまで見渡せる。
 八十万の兵が綺麗に整列する様は非常に壮観であり、最後に見納める景色としてはこれ以上ない誉れであった。

「ダリダ王様……一同、目の前に集いました。また、術者の用意も万全でございます」

「うむ……ならば早々に始めよ。兵にかける言葉はない……」

「はっ!」

 ヒューロン公爵は準備を終え、王にその報告すれば、早々に結構せよと命令を受けた。
 集まった兵士たちにかける言葉はないらしい。
 しかし、ヒューロン公爵は王からの命令にその場を動けないでいた。
 なぜなら、このような賢王の最後になにも言葉がないということが耐えられなかったからかもしれない。
 もしくは、ただ賢王に縋りたかっただけなのかもしれない。

 理由はいくらでも思いつくが、現実として、ヒューロン公爵の足は動かなかった。

 俯き、跪いたまま動かないヒューロン公爵を見かねて、王は側にいる彼にしか聞こえない大きさで独り言を呟いた。

「今、兵にかけてやれる言葉など全ては偽りであり、真実を説くことは難しい。
 しかし、その罪は私が背負う。
 愚者と罵られようとも構わない。
 今は一刻の猶予もない。
 機を逃せば再考する余力もないだろう。
 八方塞がりで、仕方のない行いかもしれないが……これは私が選択したことであり、決して環境のせいではないのだ。
 そしていつか、私がしようとしている選択が人類の明るい未来の一助として語られることを祈る」

 ヒューロン公爵は顔を上げることができなかった。
 跪いたまま一礼をすると、踵を返して王の下から離れていった。

「くっ……うぅ……」

 術者の準備を整えた場所へ戻る前、公爵は目頭に集まった熱が冷めるのを待った。
 もう、責任の重さに動けない彼ではなかった。
 王の覚悟を耳にして、配下が立ち止まることなどできはしないのだ。
 間も無く公爵は歩みを進めて準備が整った術者たちに命令を下す。

「これより、勇者召喚を結構する!」

 軍隊の周囲を囲むように配置された術者が一斉に呪文を唱えると、円の中ではたくさんの小さな白い光がふわふわと立ち昇り始めた。
 その光が兵にぶつかれば、そこは淡く光り始め、やがて全身が光に包まれる。そして、光は強さを増し、目を向けられないほどの光が柱のように天へとそびえ立った。

***

 僕の名前は近藤翔。
 2年前に会社から暇をもらって、そのままニート生活……をしたくても頼れる親も友人もいないので、生きていくために仕方なくフリーターをやっている42歳だ。

 特に情熱を持って仕事に励んでいたわけでもなく、会社から首を切られれば、資格も、知識も、若さも、体力もないアラフォーには需要なんてない。
 最初は一生懸命職探しをしていたが、あまりに無理ゲー要素がありすぎて挫折……そして、誰でも受かると思っていた人気のないアルバイトの面接ですら落とされる始末。

 しかし、稼がなくてはホームレスまっしぐらだ。だから、めげずに頑張り、ようやく採用を貰えたのは郊外のコンビニだった……しかも深夜帯のみ。
 仕事を貰えてありがたいとは思っているのだが、廃棄弁当をありがたく頂戴し、最低賃金で生計を繋ぐ様は現代における奴隷制度じゃなかろうかと嘆きたくなる。

 仕事は探せばいくらでもあるなんてのは、そう言えるくらい優秀な人の戯言だと改めて痛感した。

「翔さんが来てくれてほんと助かりましたよー。郊外のコンビニなんで高い時給は出せないし、駅から遠いしで人気なくて……僕も勤務時間が300時間を超えたあたりから……いや、すいませんこんな話……はい! 明日もよろしくお願いします!」

 そう笑顔で話すのはオーナーでもなんでもない雇われ店長の鈴木さんだ。
 日本の闇は深い……。

 僕は仕事を辞めてすぐに借りていたマンションを解約して安いアパートに移り住んだ。
 しかし、それでもバイト代の半分は家賃や公共料金へと消えてしまう。
 切り詰めて送る生活に慣れてしまえば、やがては気力も体力も失われていく。
 そして、履歴書の欄に記入するアルバイトの期間が増えていき、ますます再就職の道は閉ざされていった。

 そんないつもどおりの早朝、自転車を漕いで帰っていると、高級車に乗ってホテルから出てくるカップルが目に入る。
 ホテルを見上げれば、色とりどりの電飾で飾られたクリスマス仕様。気づけば今日はクリスマスの朝だった。

「聖夜は家族と過ごすもんだろうが……クリスチャンでもないのに浮かれやがって……」

 無意識に惨めな悪態が口から溢れていた。
 身から出た錆でしかない現状を打破したくてもできない憐れな下層市民の戯言。
 そんな悪態をついた罰なのだろうか?

 くだらない考えごとに耽り、赤信号に気付かず渡ってしまった大通りで、俺はスピードに乗ったトラックに跳ねられて呆気なくその生を閉じることとなった。

 即死であればよかったのに、俺は自分の腹から飛び出した内臓を見ていた。
 痛みを感じてはいるのだが……意識がぼんやりとしていて気にはならなかった。
 そのせいで、自分が間も無く死ぬのだろうと感じる時間が与えられてしまった。

 ……これ……内臓だよな……俺の……腸にタイヤ痕があるんだけど……これじゃ無理かな……今から救急車を呼んだって……間に合わないだろう……

 俺……死ぬんだ……

 ……俺の人生って……なんだったんだろう……こんな……こんな風に……簡単に人って死んじゃうだ……

 死の間際になり、朦朧とした意識の中に囚われていても……思考は止まってくれなかった。
 目に涙を溜める余裕すらあった。
 それは、悔しさのせいじゃない。
 己の人生の虚しさから出た涙だった。

 ……もっと……あっただろう……轢かれそうになる子供を助けたとか……もうこの際、猫だってよかったのに……なんだよ……なんにも報われないじゃないか……ただ……死ぬだけだ……こんなの……こんなの……嫌だ……もっと……誰かの……ため……に……

 最後に目にしたのは、淡い光に包まれる自分の体だった。
 小さな光の粒が体にまとわりつき、やがて汚くばら撒いた肉片までもが発光するように輝けば……おぼろげな意識はそこで途切れた。 
感想 168

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。