みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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東の大陸蹂躙

魔王討伐の軌跡 勇者誕生

***

 気づけば平原だった。
 雑草は踏みならされて萎れている。
 そんな光景が見渡す限りに続いており、ここに大勢の人がいたということが窺い知れる。
 全能神が言っていた大規模勇者召喚の跡地なのだろう。

「いったいどれほどの……」

 目算できるような規模は軽く超えていた。
 そして思い出す。
 あのおっさんがさらっと言っていた言葉を。

 ああ……そういえば八十万の犠牲って言ってたっけ。そう……か……この踏み荒らされた平原の上に人がいたんだな。

 あまりのスケールに絶句する他なかった。
 しばらく呆然としていると、どこからか叫ぶような声が聞こえて来た。
 そちらを振り向けば、手を振ってこちらへと駆けてくる者が一人。

 ……誰だ?

 そう思った時、俺の思念に直接訴えかけてくる奇妙な声が聞こえてくる。

 ——あれはダリダ王国のヒューロン公爵。この大規模勇者召喚の発案者です。

「うわ!」

 間近で驚き渡った声に驚き周囲を見渡す。しかし、誰もいなかった。ならば……

 ——まさか、大賢者スキルなのか?

 ——はい。

 自分から問いかけておいて大賢者の返答に肩が跳ねる。
 これに慣れるまではしばらくかかりそうだ。
 走り寄る者の姿は見えるのだが、まだまだ数分かかりそうなほどに遠い。
 だったら、と、それまで大賢者にいろいろ質問をしようと思った。
 あの人と話すにしても、いろいろ知ってから話をした方がいいだろうと思ってのことだ。

 ——大賢者さん。あの人は敵……じゃないよね?

 ——はい。彼はカケル様を導く存在となります。

 ——俺は、どうしたらいいと思う?

 ——私がカケル様の未来を選択することはできません。

 ——うーん……じゃあ、魔王を倒すにはどうしたらいいと思う?

 ——それならば、公爵の後ろに見える魔王城に向かえば魔王と対峙できます。

 大賢者に言われて彼方に見えるお城を見据える。
 目視できる範囲……というか、小高い平原の頂点に城壁っぽいのが見える。

 ——え? あれ……魔王城なのかよ! なんかもっと不気味な感じを想像してたんだけど……それに、モンスターとかいないの?

 ——はい。魔王城はダンジョンとして解放されており、そこにはいるようですが、そこ以外にはいません。

 ——は? なんだよ。じゃあ、そのダンジョンさえ攻略すれば魔王と戦えるわけ?

 ——はい。

 ——そうか……なんの苦労もなく敵陣に乗り込めるって……なんか呆気ないな。

 あまりに拍子抜けする展開に、この世界の魔王が人類の脅威なんて嘘っぽく聞こえてしまう。

 そんな話をしていたら、息を切らせた公爵が目の前までたどり着こうという位置にまで来ていたので、一旦大賢者との会話は終了だ。

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか?」

「あぁ……はぁ……あなたは、勇者召喚でこの地に——」

「——知ってる。で、あそこにいる魔王を倒せばいいんでしょ?」

 俺は魔王城を指差して公爵の言葉を遮った。

「そう……です。ですが、なぜそれを?」

「ん? そういう能力を持ってるんです。あなたは公爵なんでしょ? 爵位とかはあんまりよくわかってないからどれだけ偉いのかは知らないけ——」

 ——ダリダ王国で王族の次に高貴な家柄です。

 喋っている途中に大賢者が割って入って来た……対応に困る。

「……どうかされましたか?」

 急に話を止めて考え込んでしまった俺を見て公爵は不思議そうにしている。

「ああ……いや、すいません。王様の次に偉い人だったんですね」

「え? ああ……平たく言えばそうなりますね」

「あはは……すいません」

 よくわからないけど、とりあえず謝っておけば問題ないだろう。無礼を理由にいきなり処罰なんかされたら魔王討伐後の生活が大変そうだし。
 俺は公爵に深々と頭を下げた。

「いえ! お顔をお上げください! あなたは我々人類の希望となるお方です。私の貴族位など今はどうでもいいこと。それより、魔王討伐を理解し、ご尽力いただけるとの言葉に我々が礼を尽くさねばならない状況にございます。
 どうか……どうか勇者様……この世界をお救いください。微力ながら私共もご協力を惜しみませんので」

 今度は公爵が俺に向けて頭を下げていた。
 ここは全能神の言っていたとおり救いを求めている世界のようだ。
 俺が願ったとおり、誰かのために生きることができるかもしれない。

「あ……いやいや……公爵さんも顔を上げてください。あなた方の思いは十分理解しているつもりです。できる限り力になれればと思っていますので……」

「……ありがとうございます」

 そう言って力強く顔を上げた公爵の目には今にも溢れそうな涙が溜まっていた。

 ……あれ!? 公爵さん泣いてる!? なに? どうなってんの?

 突然大の男が泣きだす様はどうしたらいいのか対応に困ってしまう。
 それほど魔王討伐への思いが強いということなのだろうか? しかし……魔王城付近だというのにのどかな風景に囲まれていて、そんなにも脅威なのかと疑問しか浮かばない。
 そんな状況に俺は苦笑いを浮かべる。

「あはは……それにしても、そんなに魔王って脅威なんですかね? 魔王城付近だっていうのに魔物の一匹もいないし、あんまりにも普通の平原が広がっていて平和って感じなんですけど……」

 公爵は涙を拭いこちらを向くと、少し落ち着くための間をとって話し始める。

「……信じていただけないかもしれませんが、ここら辺はつい最近まで深い森が広がっていたのです。それが、一夜にして森が消え失せ、魔王城が現れました。
 そして、この世界にある五大陸の内、中央、西、南の大陸はすでに魔王の手に落ちているとの情報もあります……拙い表現ではありますが……化け物じみた魔王であることに違いはありません」

「そう……なんですか」

 言葉で説明されてもピンとこないが、そんなことが可能であれば化け物って表現も間違いじゃなさそうだ。

「……はい」

「じゃあ、まあ……ここで立ち話しをしててもしょうがないので、とりあえず魔王城に向かいながら話しますか……」

「……そうですね。魔王城内のダンジョン以外は魔物も出ませんので……安全な城下町でじっくりと対策を練りましょう」

「え? あー、まあ……うん。歩きましょうか……」

「はい」

 城下町が危険じゃないとかよくわからないことを言っているのだが……このままじゃいつまでたっても出発できそうにないので積もる話は移動しながらすることにした。
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