みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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東の大陸蹂躙

魔王討伐の軌跡 ダンジョン攻略

 公爵……ヒューロンさんは道すがらざっくりあらましを語ってくれた。
 まず、誰一人として魔王の存在を確認できた人間はいないらしい。
 南の大陸にいた人間は全て殺されてしまったらしく、その情報もドワーフのギルドより寄せられたものだということだ。
 その情報によれば、魔王は人間以外殺す必要がないと発言したらしく、それを裏付けるかのように魔王が撒いたビラにはこの大陸の獣人を保護するかのような文面があった。

 そして、その脅威の程については、二カ国の消失……それも、そこにはなにもなかったかのように消されてしまったらしい。
 その光景を見た者によると、王都全体が地に沈んだかと思えば空から降ってきて、だんだんと液体から砂に変わってしまったとのことだ。

「なんなんですか……その強さ」

 まさに呆れ返るほどに強すぎる。

「ええ……私も耳を疑いました」

 そんな超広範囲攻撃が可能であれば、こんな煩わしいことをしなくても殲滅できたはずだ。
 ではなぜそうしないのか?
 今までの情報から察するに、獣人奴隷の解放が済むまで手を出さない……出せないのかもしれない。人間以外は殺さないのではなくて、もしかしたら殺せない……なんてことも考えられる。
 しかし……そんな考察をしたところでなにも確証はない。

「人間以外は殺さない……ですか」

「はい。着々と獣人奴隷の数は減っており、連れて来た者には文面に書かれている以上の褒賞を支払っているようです」

「はぁ……なんだかこっちが悪者みたいじゃないですか」

「お恥ずかしい話……おっしゃるとおりです」

 なんとももどかしい話なんだけど、なにもしなければ人間は蹂躙されていってしまう。
 ならいっそのこと謝ればいいんじゃないだろうか? 案外許してくれるんじゃないかな?

「ヒューロンさん……魔王に謝ったらどうですか?」

「え?」

 まるで予期していなかった答えにヒューロンさんがめちゃくちゃ驚いている。

「だって……許してくれたらラッキーって感じじゃないですか」

「いや……しかし……」

「……まあ、魔王の姿を見て生きてる人もいないことだし強くは勧めないですけど……ドワーフや獣人を殺さないように努めているんですよね? だったらただの殺戮マシーンじゃないんじゃないですか? いっそのこと獣人奴隷の解放を条件にしてみたらどうでしょう」

「うーん……」

 煮え切らないヒューロン公爵は腕を組んで考え込んでしまった。

「とりあえず……謁見できるか聞いてみましょう? 城下町で入手した情報によれば、初級ダンジョンのゴールに魔王の配下がいるって噂じゃないですか」

「そう……ですね。わかりました。ダメ元で行きましょう。ですが、そこで戦闘になるかもしれません。準備はしっかりしておかないといけませんね」

「よーし! じゃあ、いっちょ行きますか!」

「……はい」

 ヒューロン公爵は重い腰を上げ、どうにか踏ん切りをつけたようだ。
 話を聞く限りでは初級ダンジョン攻略に必要な物はそれほど多くなかったので、食料や薬などを買い込み、あと、先導役として何周も初級ダンジョンを攻略しているという冒険者を雇うことにした。

「俺がいなくても、あんたらなら余裕で攻略できると思うけどな」

「ゴールまでたどり着ければクリア報酬の倍額出しますからから……頼みます」

「わかったよ。ここではいくらでも稼げるからあんまし金には困ってねぇけど……まあいいや。これからまた行こうと思ってたところだ。連れてってやるよ」

「ありがとうございます!」

 ヒューロン公爵はその貴族位に物を言わすことなく丁重に冒険者との交渉を進めていた。
 特にデメリットもない頼みごとなので冒険者も無下に断ったりしないようだ。

 そして、全ての準備は完了し、魔王城の初級ダンジョン攻略へと意気込んで立ち入ってみれば、いきなりデカデカと建てつけられた道案内のような看板が目に入り、そこに書かれているとおり初級ダンジョンへと向かう。

「なんだったんですかね……あの看板。いったいなんのために……」

「……おそらく客寄せ的な意味合いでしょうね。初級ダンジョンでも報酬がもらえますし、もし腕の立つ者が上級ダンジョンで命を落としたとしても、そちらに行かなければいいだけです。……獣人奴隷解放に本気なのでしょう」

「……獣人を集めさせるために客寄せダンジョンを公開したと……」

「そうとしか考えられません」

「……なにもしなくても勝手に集まってくるってことか」

「滑稽ですね」

 ヒューロン公爵は力なく笑う。

「人が集まればそこで商売も始まる。仕入れの時にでも獣人奴隷を連れてくれば金貨の恩賞を受けることができるし、商品は飛ぶように売れる。そしてまた仕入れに戻るを繰り返せば……瞬く間に獣人奴隷は解放され、さらに言えば仕入れ先も潤う。咎める者もいないでしょう」

「そんなもんですかね」

「現にそうなっています」

 食えない野郎……と言いたいところだが、やっていることは善行に近い。
 私財をばら撒き奴隷解放をやってのける様は悪く言ったとしても義賊止まりだろう。
 正直言って……魔王? と疑問符が付く。

 そうこうしてるうちに初級ダンジョンも終盤に差し掛かり、魔物が出始めた。
 腕試しにはもってこいなのだが……犬?

「これが魔物ですか?」

 あまりに可愛いモフモフ加減に雇った冒険者へと質問してしまった。

「ああ、こいつはコボルトって言うんだ。特になにもしてこないから無視していいぞ」

「えっ? じゃあなんで……」

「わからん。殺すやつもいるが、リッカさんのお供だとわかった今じゃ誰もこいつを殺すやつはいねぇ。それより、こいつの死体なんか見つけられたら親衛隊からボコられる。触らねぇほうがいいぞ」

「親衛隊?」

 モフモフモンスターに親衛隊とか……ここがダンジョンの中だとは思えないようなことばかりだ。

「ああ。もう見えてきたあのゴールにいるリッカさんの親衛隊だ。リッカさんはクリア報酬とまかないを冒険者に配る女神だよ」

「魔王の配下……ってことか?」

「……わからん。でも、そうなんじゃねぇか?」

「そう……か。報酬を配っているなら……そうだろうな」

「あ……そろそろ時間になっちまう。初級と中級ダンジョンは時間制なんだ。リッカさんがいなけりゃ報酬は貰えない! 急ぐぞ!」

「お、おう……」

 そう言うと慌ててゴール部屋まで走り出す冒険者。
 面を食らいながらも俺たちはその後についていった。そして、その部屋の中に入れば……列を成す冒険者たちに笑顔を振りまく赤毛の女神がいた。
 俺たちもその列に並び順番を待つ。
 テキパキと仕事をこなす女神は手慣れた手つきで冒険者に一言二言話しかけては次の冒険者に報酬とまかないを配っていた。
 正直言って、なにもかもが想像の斜め上をいく展開だった。
 長かった列は思いの外順調に進み俺たちの番はすぐにやってきた。

「クリアおめでとうございます! これが報酬で、これが簡単なお食事です。どうぞ!」

 柔らかな笑顔を間近で見せられれば、親衛隊ができるのも頷けるほどに引き込まれそうになる。
 しかし、ここに来たのは報酬が目的ではない。
 魔王との話し合いの場を設けて貰いに来たんだ。

「すいません……魔王……様とお話しをする場を設けていただくことはできませんでしょうか?」

 ヒューロン公爵は目的どおり女神……リッカさんに魔王との仲介を願い出る。

「んー? 入り口の階段を上がればすぐいるよ? まあ、そのまま行っても殺されちゃうだろうから、コボルトのポッチ君に伝えておくよう言っといてあげる。お名前は?」

「私はヒューロン・ハーリッツと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「うん。わかった。じゃあ、ポッチ君よろしくね!」

「おう! 任せておけ」

 リッカさんと一緒にお仕事をしていたポッチ君は、見た目と違い野太い声で喋った。ちょっと偉そうなのだが、しっぽが千切れそうな程に振れている。嬉しい……のだろうか?

「じゃ、もう話は通っているから階段上がったら名前と要件を伝えてね!」

「はい。ありがとうございます」

「いえいえ……じゃあ、次の方……」

 公爵がお礼を告げれば、なんでもないかのように仕事をこなし始めるリッカさん。
 部屋の奥にある出口と書かれた通路を行けば、嘘のようにすんなりと地上へ戻ることができた。
 出口は魔王城入口近くに設置されていた。

「……まだ日も落ちてないし、このまま向かいますか……」

「そう……ですね」

 拍子抜け……とも違う、なんとも言い難い心境のまま、お互い待たせちゃ悪いかな……なんてよくわからない気持ちを抱えていたんじゃないかと思う。
 どうにも得体の知れない魔王への恐怖が薄らいでしまい、案外謝罪すればいけるんじゃないか? なんて気持ちになっていた。
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