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東の大陸蹂躙

魔王討伐の軌跡 魔王への謁見と勇者の絶望

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 本日二週目にして魔王の間へと続く階段を登っていた。
 まさか召喚初日に魔王と会うことになるとは思わなかった。
 共に階段を登るヒューロンさんは緊張しているのか無口になっていた。黙々と二人で階段を登り、見えてきたのは大きな両開きの豪華な扉だ。
 扉の脇には二体のガーゴイルが立っている。
 ここまでの道中も何もなく、すぐに魔王がいると思われる部屋の前までたどり着いてしまった。
 すると、ガーゴイルが槍を交差して俺たちの行く手を阻む。

「魔王様に謁見を申し込んだ者です。ヒューロン・ハーリッツと申します」

 ヒューロン公爵は深々とガーゴイルに頭を下げる。
 俺も同じく頭を下げた。

「話は聞いている……通れ」

 流暢に言葉を話し、大きな扉を開けてくれたガーゴイル。
 ここから見える部屋の中はとても広く、100mはあろうかというくらい先に翼の生えた玉座に座る者がいた。魔王は白い蛇のような肘掛に手を乗せこちらを見ている。両隣にはガーゴイルが立っていた。
 俺たちは一礼をして部屋に入り、歩みを進めて魔王の前まで歩み寄る。
 だんだんと見えてきたその姿は、とても魔王というには華奢な体躯だった。
 やがて、魔王の前までたどり着けば、膝をついてこうべを垂れる。

「この度は不躾な申し出にも関わらず、このような場を設けていただけたこと、誠に感謝いたします」

 公爵は丁寧に感謝の意を伝えた。

「……で、なんの用?」

 魔王の第一声は、飾り気のないありふれた疑問の声だった。

「はっ! 私共がここに来た理由ですが、魔王様に謝罪を申し出たいと思い参上いたしました」

「謝罪? なんの?」

「……申し上げます。魔王様は獣人奴隷の解放にご尽力しているようでしたので、私共の行いが魔王様の思いを侵害してしまったのではないかと思い謝罪に参りました。つきましては、獣人奴隷解放を宣言いたしたく参った所存にございます」

「へぇ……じゃあ、三日待つ。それで解放できるか?」

「三日……それではダリダ王国に戻るのが精一杯にございます。もう少し——」

「——じゃあ、ガーゴイルを使いに出す。今すぐ経てば深夜には着くだろう。その後も周辺諸国に回り、獣人を解放して来い。あと、獣人の集落にいる人間共の首を差し出せ。話はそれからだ」

 魔王は公爵の言葉を遮ったかと思えば、まくし立てるように条件を突きつけ話しを終えてしまった。
 取り付く島もない。

「いや、たとえ帰れたとしても、そのような時間では……国内の政治を動かすには……」

「じゃあ僕も行こう。魔王城のダンジョンは一旦閉鎖する。そのくだらない政治とやらに僕の時間を費やそうものならおまえの国は終わりだ。
 よし……すぐに出る。みんなを集めろ」

「はい!」

 魔王の一声で、両脇にいたガーゴイルが駆け足にて部屋を出て行った。

「あ……あの! 本当にダリダ王国まで来るつもりですか!?」

「ああ。そうだが。なにか問題でも? おまえが言ったんじゃないか。獣人を解放してくれるんだろう?」

「え……ええ。それは勿論ですが……魔王様にとって、お見苦しい輩も多く——」

「——大丈夫だ。そんなクソ共は即刻殺してやる。おまえが進めやすいようにな」

 魔王は不気味な笑みを浮かべて公爵を見据えていた。
 およそ交渉と言えるような話し合いではない。瞬く間になにもかも一方的に差し出さなければならない状況に追い込まれていた。
 役者が違う。そんな言葉が相応しいほどに公爵は手のひらで踊らされている。

「か……かしこまりました……」

「クックック……ヒューロンと言ったか? おまえのような者は初めてだ。人間にも殺すのが惜しい者もいるのだな」

「あ……ありがとう……ございます」

 横目で見えた公爵は尋常じゃない汗をかき、目も泳ぎっぱなしだ。
 ……ただ、当初の目的はとりあえず進み始めている。魔王は謝罪を受け入れてくれる気があるような口振りで、公爵の話をとりあえず受け入れてくれている。
 このまま穏便に進めばいいのだが……

「それで……おまえの隣にいるやつは何者なんだ? ああ、そうそう、嘘をつけばこの話は無しだ。おまえの進言なんて受け入れなくても直に解決するからな」

 ……ここに来て俺の存在がまずい立場になってしまった。召喚した勇者だと答えれば、今までの話が全て無駄になりかねない。
 しかし……嘘を見破られればこの場で殺されるかもしれない……やばい……やるしかないのか?

「この者は……ここに来てもらうために呼んだ者でございます。恥ずかしながら一人では心細く、最低限の見栄えを考えてのことでございます。
 魔王様に会うにも単身では失礼かと思いまして」

「……あははは! なるほどな。嘘ではない……か。面白い。おい……横の者、顔を上げてこちらに来い。武器は置いてな」

「……はい」

 ヒューロン公爵が切り抜けてくれたピンチを無駄にはできない。
 俺は全能神が持たせてくれた剣を置き、魔王の前に赴き跪いた。
 それを見て、魔王は立ち上がり俺の肩に手を置いた。

「……名前はなんというんだ?」

「カケル・コンドウと申します」

「……そうか。下がっていいぞ」

「はい」

 魔王は俺の名前を聞くと、早々に下がらせた。
 なにかを試したかったのだろうか?

 ——おそらくステータスを読み取られたものと推察いたします。

 俺の疑問に大賢者が答えた。
 その瞬間、さっと血の気が引いた。
 慌てて魔王を見据えれば、もうこちらには目を向けていなかった。

 ——……本当に読み取られたのかな?

 ——確証はありませんが、魔王が持つスキルの中に全てを見通す者がありました。実行は可能です。

 ——マジかよ! こっちも読み取れたのか?

 ——はい。私のスキルはカケル様が見たものの全てを鑑定可能です。

 ——じゃあ……魔王のステータスはもう把握済みってわけだ。

 ——はい。

 大賢者から教えてもらった魔王のステータスは非常に尖った振り分けをされており、スキルも俺のとは違うものが設定されていた。

 ——勝てる……かな?

 ——非常に厳しいと進言せざるを得ません。

 ——マジかよ……なにがやばいんだ?

 ——レベル差がありますので全てのスキルがこちらに有効であり、魔王のスキルに唯一対抗できる手段が神技の神域スキルのみとなります。また、こちらから攻撃を仕掛ければ負けが確定となるでしょう。

 ——は!? なんでだよ!

 ——攻撃を機に絶対時間によって時間が止まり、カケル様は成す術もなく殺されることになります。

 ——嘘だろ……

 こんなにもチートなスキルを持っているし、ステータスも負けてはいないはずの魔王に対抗できる手段はないらしい。
 大賢者によって知らされた現実は、あまりにも残酷な未来だった。
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