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東の大陸蹂躙
魔王討伐の軌跡 勇者との対決 無情なるこの世界の理
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あの後、三人共お城の適当な部屋を使って爆睡してしまった。
四魔将軍が一人、ひょうたん将軍にやられたんだ……無理もない。
三人が寝ている最中、僕は何度もガーゴイルの報告を聞かされることになった。
飽きることなく勇者召喚は何度も繰り返され、もうそろそろガーゴイルの報告が子守唄のように聞こえてきたころ、ようやく壊れたように巻き戻されていた時は鳴りをひそめた。
「……ようやくか」
僕はため息をつき、勇者に挨拶してやるようにガーゴイルたちを仕向けた。
まあ結果は惨敗だったのだが、その時の映像を検証していたら面白いことがわかった。
勇者は呪文で時を止め、ガーゴイルたちの体を拘束。そして、空中を飛び回って雷撃を放って空中にいるガーゴイルたちを一気に仕留めたのだ。
このことから、僕と同じ空間の覇者スキルか空を飛べるなにかと、時間を止めるスキル。そして、神技とかいうスキルを持っていることがわかった。
初見殺しは時間を止めるスキルくらいだろう。
ただ……もうそんなことはどうでもいい。
「行くか……」
四魔将軍のお披露目でちょっとはしゃぎ過ぎたせいで、連れて行こうとしていた三人をダウンさせてしまっていたため、仕方なく僕一人で勇者の下へと向かう。
こうなることを予期していたわけじゃない。
あくまで、四魔将軍のお披露目ではしゃぎ過ぎてしまったからだ。
そして、僕は一人で魔法陣の上へと立つ。
「行ってらっしゃいませ……魔王様」
ガーゴイルが僕に向けて深々と一礼した。
「ああ、じゃあな」
軽い挨拶を済ませると、僕の体は魔王城の倉庫へと飛ぶ。
さて……あいつは今どこかな?
——現在勇者は魔王城へと向けて歩き出しています。もうすぐ城へと到着するでしょう。
——お、サンキュー!
ガーゴイルの報告に感謝を述べ、それならばと、僕は玉座の間にて待つことにした。
しばらく待っていると、ガーゴイルの報告どおり勇者が扉を開けて入ってきた。
僕は空間の覇者スキルで成し得る防御障壁をこれでもかと張っている。初見殺し対策はバッチリだ。時を止められたとしても、なにも攻撃は通らないだろう。
「やあ。ずいぶんと遅かったじゃないか……待ちくたびれてしまったよ」
入ってきた勇者に向けて軽く挨拶をしてあげた。
「……待たせたな。だが安心しろ……貴様はもう終わりだ。俺が倒すからな!」
「勇ましいな。じゃあおまえに攻撃させてやろう……いくらでもかかってこい」
僕は勇者に向かって手で来いと挑発した。
しかし、勇者は僕の挑発に乗ることなく詠唱を始めだした。
時間を止める魔法だろうか?
……クックックック……放てるものなら放ってみるがいい……放てるものならな……。
勇者が僕を見定め叫んだ。
「……ストップワールド!」
……その言葉を聞いても、僕はまだ生きているようだ。
気がつけば勇者がその場で倒れ込んでいた。
「なにをしてるんだ?」
「……貴様こそ……いったい……なに……を」
「僕はなにもしていないけど……」
「ふざ……けるな!!」
勇者は酷く気分の悪い体調に抗い必死に体を動かし立ち上がった。
剣を構え、こちらを睨みつける。
「よく立てたな。気分最悪って感じに見えるけど」
「ああ……俺はおまえを倒さなきゃいけないからな!」
「なんで? 罪状は?」
「貴様は罪もない人間をたくさん殺した……それで十分だ」
「おまえもさっきガーゴイルを殺しただろう? そんな正義を掲げるなら自害しろよ……人間」
「は?」
「は? じゃねえよ。人間を殺した僕を悪だと断罪するなら、まずは魔物を殺したおまえが自害しなきゃ正当性のカケラもないじゃないか。裁く者が咎人なんて笑い話にもならない。つまらない人間は嫌いだな」
剣を持った勇者は次の言葉が出せないでいる。
「クックックッ……おまえの頭で考えられないなら大賢者に縋ったらどうだ? 僕を言い負かしたら楽に殺してやるよ」
僕は空間の覇者スキルを使って勇者の足の小指を折ってやった。
「ッ!! リバース! ……うぅ……おえぇぇ」
痛みに耐えかねて蹲り、とっさに足の小指にリバースの魔法をかけた勇者。
しかし、足の小指にかかったのは勇者のリバースした胃液だった。召喚してから食事はしてこなかったらしい。
「勇者君! それはなかなか面白いじゃないか! リバースを掛けた渾身のギャグなんだね? そのために胃になにも入れてこなかったところも評価に値する。前はたくさんリバースされて大変だったからね!」
ニヤケ顔で勇者を見れば、まだ口元を手で押さえている。
面白いのでタネ明かしはしない。きっと、大賢者になにが起こっているのか聞いているだろうからね。
「はぁ……はぁ……クソ! なんで……うぉえぇ……はぁ……」
……なんで? どうも様子が変だ。僕は立ち上がって下を向く勇者の下まで行き、肩に触れてステータスを確認した。
//
職業 勇者 lv999
名前 カケル・コンドウ
生命力 9900
攻撃力 990
防御力 990
魔力 0
魔攻 990
魔防 990
素早さ 990
幸運 500
スキル
順時空魔法(停止・早送り・24時間以内・範囲極大) 逆時空魔法(巻き戻し・24時間以内・範囲極大) エレメンタルマスター(火・水・風・土・威力極大・無詠唱) 大賢者(鑑定・思考支援・行動支援・森羅万象の知識) 神技(パラメータ上昇(極大)・神域(1m以内に攻撃弱体化の領域を展開)・雷魔法(半径1km)) 空間の覇者(周囲100m) 躱しの加護
//
あった……ちゃんと大賢者はあるじゃないか。
それにしても……剣は見せかけか……これじゃほとんど魔法使いだ。属性魔法、時空魔法に雷か……そして、空間の覇者スキルで絶対防御ね……クックックッ……馬鹿だな。経験の浅いやつが考えそうなことだ。これじゃ、いくら魔力があっても足りないだろう。なにをするにも魔力頼り。しかも、瞬発力が大きすぎて同時に発動できるのかも怪しい。
そして、極め付けは幸運を下げたこと……こんななんでもない値だが、今まですんなりここまで来れたのはリッカがいたからだと思っている。
最初にこいつが現れた時、その幸運の高さに戦慄した記憶がある。この中で唯一よくわからない値であり、実感の伴わない半端に見えるステータス。
しかし……おそらくこの値こそが僕を倒し得る唯一の不確定要素だと感じている。
「おまえ……いったいなにをしていたんだ? こんなステータスやスキルで僕が倒せるとでも思ったのか? そして、なんで大賢者に相談しないんだ? こんな窮地なのに……縋ればいいじゃないか」
「……」
勇者は俯いたまま押し黙ってしまった。
選択を誤った勇者。
影に潜むひょうたん将軍によって魔力を吸われてしまった勇者。
今は魔力切れによる酷い倦怠感と気持ち悪さに襲われているのだろう……ふらふらと頭を揺らしている。
呆気なさすぎる……少し待てば、無理やり魔法を発動させてしまった虚脱感は晴れるだろう。
だからといって、魔力を回復させてしまわないよう、僕は勇者の装備を剥ぎ取り、全裸の状態で剣だけを持たせた。
持ち物には魔力を回復させるポーションがあったので、近くにいたガーゴイルに勇者の所有物を渡して倉庫へと向かわせた。
僕はせめてもの情けをかけ、全裸で蹲る勇者の気分がよくなるのを待つことにした。
四魔将軍が一人、ひょうたん将軍にやられたんだ……無理もない。
三人が寝ている最中、僕は何度もガーゴイルの報告を聞かされることになった。
飽きることなく勇者召喚は何度も繰り返され、もうそろそろガーゴイルの報告が子守唄のように聞こえてきたころ、ようやく壊れたように巻き戻されていた時は鳴りをひそめた。
「……ようやくか」
僕はため息をつき、勇者に挨拶してやるようにガーゴイルたちを仕向けた。
まあ結果は惨敗だったのだが、その時の映像を検証していたら面白いことがわかった。
勇者は呪文で時を止め、ガーゴイルたちの体を拘束。そして、空中を飛び回って雷撃を放って空中にいるガーゴイルたちを一気に仕留めたのだ。
このことから、僕と同じ空間の覇者スキルか空を飛べるなにかと、時間を止めるスキル。そして、神技とかいうスキルを持っていることがわかった。
初見殺しは時間を止めるスキルくらいだろう。
ただ……もうそんなことはどうでもいい。
「行くか……」
四魔将軍のお披露目でちょっとはしゃぎ過ぎたせいで、連れて行こうとしていた三人をダウンさせてしまっていたため、仕方なく僕一人で勇者の下へと向かう。
こうなることを予期していたわけじゃない。
あくまで、四魔将軍のお披露目ではしゃぎ過ぎてしまったからだ。
そして、僕は一人で魔法陣の上へと立つ。
「行ってらっしゃいませ……魔王様」
ガーゴイルが僕に向けて深々と一礼した。
「ああ、じゃあな」
軽い挨拶を済ませると、僕の体は魔王城の倉庫へと飛ぶ。
さて……あいつは今どこかな?
——現在勇者は魔王城へと向けて歩き出しています。もうすぐ城へと到着するでしょう。
——お、サンキュー!
ガーゴイルの報告に感謝を述べ、それならばと、僕は玉座の間にて待つことにした。
しばらく待っていると、ガーゴイルの報告どおり勇者が扉を開けて入ってきた。
僕は空間の覇者スキルで成し得る防御障壁をこれでもかと張っている。初見殺し対策はバッチリだ。時を止められたとしても、なにも攻撃は通らないだろう。
「やあ。ずいぶんと遅かったじゃないか……待ちくたびれてしまったよ」
入ってきた勇者に向けて軽く挨拶をしてあげた。
「……待たせたな。だが安心しろ……貴様はもう終わりだ。俺が倒すからな!」
「勇ましいな。じゃあおまえに攻撃させてやろう……いくらでもかかってこい」
僕は勇者に向かって手で来いと挑発した。
しかし、勇者は僕の挑発に乗ることなく詠唱を始めだした。
時間を止める魔法だろうか?
……クックックック……放てるものなら放ってみるがいい……放てるものならな……。
勇者が僕を見定め叫んだ。
「……ストップワールド!」
……その言葉を聞いても、僕はまだ生きているようだ。
気がつけば勇者がその場で倒れ込んでいた。
「なにをしてるんだ?」
「……貴様こそ……いったい……なに……を」
「僕はなにもしていないけど……」
「ふざ……けるな!!」
勇者は酷く気分の悪い体調に抗い必死に体を動かし立ち上がった。
剣を構え、こちらを睨みつける。
「よく立てたな。気分最悪って感じに見えるけど」
「ああ……俺はおまえを倒さなきゃいけないからな!」
「なんで? 罪状は?」
「貴様は罪もない人間をたくさん殺した……それで十分だ」
「おまえもさっきガーゴイルを殺しただろう? そんな正義を掲げるなら自害しろよ……人間」
「は?」
「は? じゃねえよ。人間を殺した僕を悪だと断罪するなら、まずは魔物を殺したおまえが自害しなきゃ正当性のカケラもないじゃないか。裁く者が咎人なんて笑い話にもならない。つまらない人間は嫌いだな」
剣を持った勇者は次の言葉が出せないでいる。
「クックックッ……おまえの頭で考えられないなら大賢者に縋ったらどうだ? 僕を言い負かしたら楽に殺してやるよ」
僕は空間の覇者スキルを使って勇者の足の小指を折ってやった。
「ッ!! リバース! ……うぅ……おえぇぇ」
痛みに耐えかねて蹲り、とっさに足の小指にリバースの魔法をかけた勇者。
しかし、足の小指にかかったのは勇者のリバースした胃液だった。召喚してから食事はしてこなかったらしい。
「勇者君! それはなかなか面白いじゃないか! リバースを掛けた渾身のギャグなんだね? そのために胃になにも入れてこなかったところも評価に値する。前はたくさんリバースされて大変だったからね!」
ニヤケ顔で勇者を見れば、まだ口元を手で押さえている。
面白いのでタネ明かしはしない。きっと、大賢者になにが起こっているのか聞いているだろうからね。
「はぁ……はぁ……クソ! なんで……うぉえぇ……はぁ……」
……なんで? どうも様子が変だ。僕は立ち上がって下を向く勇者の下まで行き、肩に触れてステータスを確認した。
//
職業 勇者 lv999
名前 カケル・コンドウ
生命力 9900
攻撃力 990
防御力 990
魔力 0
魔攻 990
魔防 990
素早さ 990
幸運 500
スキル
順時空魔法(停止・早送り・24時間以内・範囲極大) 逆時空魔法(巻き戻し・24時間以内・範囲極大) エレメンタルマスター(火・水・風・土・威力極大・無詠唱) 大賢者(鑑定・思考支援・行動支援・森羅万象の知識) 神技(パラメータ上昇(極大)・神域(1m以内に攻撃弱体化の領域を展開)・雷魔法(半径1km)) 空間の覇者(周囲100m) 躱しの加護
//
あった……ちゃんと大賢者はあるじゃないか。
それにしても……剣は見せかけか……これじゃほとんど魔法使いだ。属性魔法、時空魔法に雷か……そして、空間の覇者スキルで絶対防御ね……クックックッ……馬鹿だな。経験の浅いやつが考えそうなことだ。これじゃ、いくら魔力があっても足りないだろう。なにをするにも魔力頼り。しかも、瞬発力が大きすぎて同時に発動できるのかも怪しい。
そして、極め付けは幸運を下げたこと……こんななんでもない値だが、今まですんなりここまで来れたのはリッカがいたからだと思っている。
最初にこいつが現れた時、その幸運の高さに戦慄した記憶がある。この中で唯一よくわからない値であり、実感の伴わない半端に見えるステータス。
しかし……おそらくこの値こそが僕を倒し得る唯一の不確定要素だと感じている。
「おまえ……いったいなにをしていたんだ? こんなステータスやスキルで僕が倒せるとでも思ったのか? そして、なんで大賢者に相談しないんだ? こんな窮地なのに……縋ればいいじゃないか」
「……」
勇者は俯いたまま押し黙ってしまった。
選択を誤った勇者。
影に潜むひょうたん将軍によって魔力を吸われてしまった勇者。
今は魔力切れによる酷い倦怠感と気持ち悪さに襲われているのだろう……ふらふらと頭を揺らしている。
呆気なさすぎる……少し待てば、無理やり魔法を発動させてしまった虚脱感は晴れるだろう。
だからといって、魔力を回復させてしまわないよう、僕は勇者の装備を剥ぎ取り、全裸の状態で剣だけを持たせた。
持ち物には魔力を回復させるポーションがあったので、近くにいたガーゴイルに勇者の所有物を渡して倉庫へと向かわせた。
僕はせめてもの情けをかけ、全裸で蹲る勇者の気分がよくなるのを待つことにした。
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