みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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東の大陸蹂躙

お嫁騒動



「なんで先に行っちゃったの! 私たちも行くって言ったじゃない!」

「いや、だって……みんな寝てたし……」

 怒られるかなーとは思っていたが、思いのほかお怒りのご様子のリッカ。その他三人は呆れ顔だ。

 しっかり勇者の消滅を確認した後、ガーゴイルから連絡があり三人がお怒りの様子で手がつけられないと泣きが入った。
 ちゃんと勇者を倒したと言っておいたはずなのに、怒りは収まらなかったらしい。

「寝てたしじゃないよ! 起きたらルーシェがいなくてすっごく心配したんだから!」

「そっ……そうか。それはすまなかったな」

「もう! 全然反省してない!」

 だめだ、リッカは納得がいかないといった感じで手がつけられない。

「まあまあ、リッカ、もう済んだことだしいいじゃねぇか。勝ったんだからよ」

「そういうことじゃないの!!」

 いやはや……幸運の女神様のお怒りはとても根が深いようだ。

「どうすれば許してくれるだろうか?」

「……そういうことでもないもん……」

「はは……参ったな。あまりこういったことに慣れてないからな……どうすればいいかわからないんだ」

「…………じゃあ、もう一人で行かないで……私を置いて行かないでよ……」

 俯いて、駄々っ子のように拗ねてしまったリッカがとても愛おしかった。
 フェリはそこら辺大人なので、こういったことはしないのだが……

「私もですよ! 私もリッカと同じくらい怒っているんですからね!」

 リッカの癇癪を静かに聞いていたフェリだったが、堪らず入ってきた。
 そういえば、フェリは表には出さないが根に持つタイプだったっけ……これは僕が感じている以上にまずい状況かもしれない。

「ごめんなさい」

 僕は深々と頭を下げた。魔王だけど、そんなことは関係ない。きちんと謝罪ができる魔王なのだ。

「おいおい、魔王様がそんな簡単に頭を下げていいもんなのか?」

「うるさいクザン! おまえにとっては主人だが、リッカとフェリは僕にとって特別なんだ! 魔王なんて関係あるか!」

「へぇ~。そこまでこの二人を思ってくれてるのか。ありがたいことだな」

「なんでおまえに感謝されなきゃいけないんだ」

「同胞……ってか狭い里の仲間だ。ほとんど家族みたいなもんだからな……俺にとっては」

 エルフの里はそこまで大きなものではなかったが、みんなが家族だと言えるほど小さくもなかったはずだ……ただ、そう言ってしまうほどに里を愛していた者があんなことをやらされていたのかと思うと、少々居た堪れない気持ちが芽生える。クザンのくせに生意気だ……。

「ふん……そんなことを言うならおまえたちはもう僕の家族みたいなものだ。エルフの里のみんなも、ドワーフたちだってそうだ。大切なんだ。あんなぽっと出の勇者なんかに殺されてたまるか!」

「おーおー、お優しいこって」

「ふん!」

「私も……家族なの?」

 なぜだかリッカが不安そうな顔でこちらを見つめていた。そんなに変な話でもなかったはずなのだが……。

「どうした? 嫌か?」

「ううん。でも、もう家族だとしたら、私はルーシェにとってなにになるの?」

「リッカはなにがいいんだ?」

「え? あ……えっと……」

「私はルーシェの妻がいいです!」

 いつもより攻めの姿勢のフェリがグイグイと迫る。どうしたのだろうか……。

「はは……僕もそうだといいなと思っていたよ」

「……嬉しいです。ずっと一緒ですよ……」

「ああ……すまなかったな」

「ダメ!! 私もルーシェの妻がいい!」

 慌ててリッカが割って入る。

「はは、ダメってことはないだろ? 妻が二人じゃダメか?」

「で……でも、エルフはひとりを愛する——」

「——僕は魔王だ。そして、わがままなんだ。エルフのしきたりなんか知らない。リッカは嫌か?」

「え……嫌……じゃない。私……フェリとも離れたくない」

 なんだかとても愛らしく萎れてしまったリッカが可愛い。フェリを見れば、優しく微笑んでいた。二人とも仲が良くて助かったな。

「なら問題ないな」

「ふふ……ありがと、リッカ」

「フェリ……」

「はっはっは! 二人とも、こっちへ来い。今日は悪かった。そこまで僕のことを思ってくれていたのならもう一人で危ないことはしない。約束しよう」

「そうですよ。とっても心配したんですからね」

「……うん。わかった」

 なんとか機嫌を直し、和解できた二人と仲直りのハグをして一件落着だ。

「おーおー、一気に嫁さん二人とは……魔王様、やるねぇ!」

 両手に花の僕をクザンが茶化しにかかる。しかし、今日は許してやろう……そこまで不快じゃないしな。

「あ……あの。おめでとうございます」

 ヘレが突然のことに祝辞を述べた。

「はは、ありがとう。ただ……ヘレはどうする? ヘレも僕にとっては特別な存在だ。いつでも歓迎するぞ?」

 僕は茶化すつもりだったのだが、この発言が思わぬ方向へと発展してしまう。

「へ? な……なら、私ももらってください!」

「え? そんな急に決めて大丈夫なのか?」

 恥ずかしそうに俯くヘレに問いかける。すると、なにか吹っ切れたようにヘレは言葉を紡ぎだした。

「私は……皆さんが大好きなのです。夜中に集まって朝まで話し込んだ日はとてもとても楽しかったですし、ルーシェ様が約束通り救いに来てくれた時は信じられないくらいに私の心は洗われてしまいました。
 私を面倒な出世の道具としか見てくれない両親が死んだ時にはなにも感じませんでしたが、ルーシェ様が死んでしまうかもと感じた時、とても胸が苦しかったのです……。
 お二人よりかは短い時間ですが……私もルーシェ様を……皆さんを愛しています……。
 私も……私も……もらってはいただけませんでしょうか?」

 今までおとなしく付いて来てくれたヘレがそんなことを思っていたとはわからなかった。
 いい意味で幼く、純粋なヘレだからこそ、僕はその想いに気づけなかったのだろう。
 僕が生きてきた人生の中で、この子はダントツに清い心を持っている。だから、人間を殺して回っている僕には不釣り合いだろうと心のどこかで感じていたのだが……どうやら認めてもらっていたらしい。

「いいのか? 平穏には暮らせないぞ?」

「……私は……平穏に暮らせたことなんてありません。それに……そんな火中の中でも死ぬことはありませんでした。そう簡単には死なない運命にあると思っています」

「あはは! そうだったな。わかった……今日は三人で楽しもうじゃないか!」

「……浮気者」

「ほんとですよ。二人をお嫁にしたら、すぐ三人目ですからね」

「そう言うな。ヘレは二人のことも好きなんだぞ?」

「わかってます。私もヘレのこと好きですよ」

「えへへ……私も……おいで……ヘレ」

 リッカが嬉しそうにヘレを呼ぶと、恥ずかしそうにおずおずとヘレが僕の胸へと顔を埋めた。
 さすがに収まりきらないが、僕は三人を抱きしめる。

 そして……

「ありがとう」

 カッコいい言葉は思いつかなかった。
 三人に伝える思いは簡単な単語となってしまったが、ちゃんと伝わったと信じることにする。
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