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北の大陸蹂躙

神殺しの系譜

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 そう、それだけのこと。

 勝てばいい。

 殺し尽くせばいい。


 そのためならなんだってする?
 死にものぐるいで頑張る?


 いや……僕はそんな真面目じゃないけど、どうしようもない不真面目でもない。

 綺麗事を言うつもりもないし、自分だけが良ければいいなんて考えでもない。

 口だけ野郎でもない。

 誰にでも優しい正義の味方でもない。

 弱い者いじめをしているわけでもない。

 弱者がいたぶられているのに知らん顔をするような奴でもない。

 だからといって、弱者を率先して助けるつもりもない。

 恐怖を煽って誰かを操ることもしない。

 大義を持って正義を貫く気なんてさらさらない。


 ただただ……普通の魔王であり、元人間だ。


 やった方がいいことをやる。

 淡々と……粛々と。

 過去になにがあろうとも、たとえ、殺しあうような仲だとしても……自分が必要だと思えば実行すればいいんだ。
 もし、やる前から言い訳を並べ、行動に移せないのであれば……僕はきっとこの世界に呼ばれていないだろう。


 だから、僕はフローテへと意識を飛ばした。


 ——フローテ……生きているか?

 ——あら……久しぶりに声を聞いたかと思えば……神は死なないわよ?

 ずいぶんと落ち着いた声で返されてしまい、僕は少し拍子抜けしてしまった。
 あれだけの苦痛と恥辱を与えたにも関わらず気にしていない様子だ。

 ——天界か?

 ——そんなことまでわかるのね。

 ——そうか……天界といってもあまり変わらないんだな。

 僕はフローテの視界越しに天界の様子を見ていた。五感共有が天界にまで及ぶとは思わなかったので、この結果はとても都合がいい。

 ——そうね……でも、退屈なところよ。

 ——じゃあ、僕に手を貸してくれ。

 ——はぁ……本気で言っているの?

 ——ああ。

 ——私をあんな目に合わせておいて……よくそんなこと言えるわね。

 ——お互い様だろ?

 ——……だとしても、私があなたの力になるとでも思っているの?

 ——ああ。

 ——ふふふ……そんなことありえないわよ。どうしたらそんな考えになるのかしら?

 ——おまえは魔族に忠誠を誓ったからな。当たり前だろう?

 ——ふふっ……あーあ、まさか天界にまで呼びかかけが通じるとは思わなかったわ。あんな気まぐれな約束するんじゃなかった。

 ——後悔しているのか?

 ——んーどうかな? 今はそうでもないかも。

 ——今は?

 ——そ! だって、あなたがまた私に声をかけてくれたからね。

 ——寂しかったか?

 ——そうね……少しだけ。

 ——ふん……おまえがあんなことをしなければ僕はすんなり受け入れていたというのに。バカなことをしたな。

 ——だって……あなたを独占したかったのだもの。しょうがないでしょ?

 ——わがままな奴は嫌いだ。

 ——私は他の神に比べたらそこまでわがままじゃないわよ?

 ——ふん。まあいい。天使について聞きたいんだ。天使と神はなにが違うんだ?

 ——天使? あれはパパの使いの者よ。

 ——神より厄介だと聞いているんだが。

 ——そうね……その世界でも器を必要としない分、あなたたちには厄介かもね。

 ——そうか。なら……お手上げか?

 ——ふふ……天界の者に死の概念はないわ。敵対すれば、あなたが死ぬまで追って来るわよ。

 ——なるほどな。あと、神は殺せると聞いているのだが……なにか知っているか?

 ——知らないわ。知っていたとしても……教えられないわね。

 ——そうか……なら、おまえたちはどうやって生まれたんだ?

 ——そんなことを聞いてどうするつもり?

 ——なんでもいいから神を殺す手がかりが欲しくてな。

 ——あ……酷いわね。私は手を貸すなんて言ってないわよ。

 ——なら、もし僕が神を殺せるようになったら、まず最初におまえで実験しよう。神殺しの記念すべき一人目としてな。

 ——……私を脅しているの?

 ——僕にとって、おまえが一番殺し易いってだけだ。それに、魔族へ忠誠を誓っておいてその態度は許し難いからな。裏切り者には死を与えてあげたい。

 ——なら、天使長にお願いしちゃおうかなぁ。あなたを殺せって。

 ——クックック……いいだろう。天使長を殺したら真っ先におまえを殺してやろう……もう十分生きただろう? 安らかな眠りに着くといい……。

 ——だから……殺せないって言っているでしょう?

 ——ああ、知っている。だが……いや、やめておこう。切り札を晒すわけにはいかないからな。

 ——なんなの? そんな嘘に騙されると思っているの?

 ——嘘? 僕が嘘をついてなんの得があるんだ?

 ——私から情報を引き出したいんでしょ?

 ——クックック……今更なにを言っているんだ? おまえはなにも知らない下級神なのだろう? そんな奴に用はない。ただ、魔族に引き入れた手前、僕なりに思うところがあっただけに過ぎない。もし、おまえが本当に僕を独占したくてしたことなら、容赦することも考えていたのだが……そんな必要はないみたいだな。

 ——……独占したかったのは本当よ。

 ——なんでだ?

 ——惹かれたの。理由なんてないわ。

 ——なら、なぜ魔族になった。

 ——面白そうだったから。

 ——そうか。なら、なぜ裏切ろうと思った?

 ——あなたじゃ神に勝てないわ。だからよ。

 ——そうか。強い者が好きなんだな。せいぜい全能神のパパに守ってもらうんだな……フローテちゃん。

 ——は? 調子に乗らないで……本当に告げ口するからね。せっかく私が黙っていてあげたのに……もうあなたは終わりよ。

 ——クックック……早くそうすればよかったんだ。これで、僕は心おきなくおまえを実験台にできる……あの時のような生温いお仕置きじゃ済まさない……おまえが死ぬまで付き合ってもらおう……まずは……そうだな、僕がそちらへ行けるか試してみようか。

 ——来れるわけないでしょ?

 ——どうかな? ……転移!

 僕はフローテに繋がった意識を手繰り寄せ、天界へと続く道をイメージして念じた。

 すると、呆気なく転移は発動し、僕の視界は暗転する。
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