みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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北の大陸蹂躙

神殺しの系譜 些細な不明点

「やあ。フローテ……おまえは天界でも美しいんだね」

 目の前いる美神は、地上にいたころよりも儚く線の細い美しさに見惚れてしまいそうだった。
 たった一枚の白い布を身に纏い、細いくびれを強調するかのように腰回りを紐で結んでいる。

 フローテは突然現れた僕に驚きの表情を見せた。

「嘘……でしょ? なんで肉体を保ったまま天界に存在できるの? そんなの……あり得ないわ!」

「そうなの? でも、僕はここにいる。約束どおり、神殺しの実験を手伝って欲しいんだ……どうかな?」

「嫌……嫌よ! ふざけないで!」

 フローテは少し後ずさるように声を張り上げた。

「なにをそんなに怯えているんだ? 神は死なないんだろう? ならいいじゃないか」

「それはそうだけど、痛みは感じるのよ!」

「あー、そうだね。でも大丈夫。今回行う実験は痛みを感じないはずだ。安心して欲しい」

「いったいなにをするつもりなのよ……」

 自分はなにも情報を提供しないくせに、僕がわざわざ教えてやるとでも思っているのだろうか?
 僕は思わず笑ってしまった顔を隠すように下へと向けてしまったが、隠す必要も無いか……と、表情を取り繕うのをやめてフローテへと向き直る。

「クックック……バカだなぁ……僕に敵対している者に教えるわけがないじゃないか……魔族へと忠誠を誓ったくせに裏切るなんて……おまえはなにを考えているんだか……死ぬまで追われる身になったのはおまえだ……他の神は許しても、おまえだけは絶対に許さない。これは生死を賭けた争いなんだ、裏切り者には死を……当たり前だろ? 慈悲なんてかけたらそいつも裏切り者さ……おまえはいらない……必要ないんだ……そんな者が威勢よく僕を邪魔立てするなら……普通なら殺すだろ? 考えても見ろ、目の前で血を吸おうと蚊が飛んでいたら殺すはずだ。おまえはそれと一緒なんだ。ただそれが蚊ではなく神だった……それだけの違いさ。だから……ほら……」

 僕はフローテへと手をかざした。

「ちょっと! 待って! 待ってよ! 痛いのは嫌!」

 日和気味な態度を見せるフローテに僕は破顔してしまう。
 神様が怯えている。
 それはそれは心を躍らせるとても素晴らしい光景だった。

「大丈夫。痛くはしないよ。ただ……成功すれば、おまえは死んだも同然となる……それだけなんだから……クックック……なにが嫌なんだ?」

「なにがって……嫌よ! なにをするのかもわからないのに、やらせるわけがないじゃない!」

「ふむ……なにをするかなんて教えるつもりはないから仕方ないな……このまま受けるがいい……おまえは裏切り者なんだから」

 僕は突き出した手をもう少しだけ前に出す。
 この動作に意味なんてない。怯えるフローテを揶揄っているだけだ。

「わ……わかったわよ! やめて! 私の負け……なんでもするわ……だからお願い。その手を降ろして」

 こうもあっさり降伏宣言とは……我慢することができないわがままな神様らしい幕切れだ。
 さて……なんでもするって言うのなら、なんでもしてもらおう。こいつには使い道が山ほどある。正直フローテなしで神との対決は避けたいところだった。何事も最初が肝心。しっかり周りを固めてから、万全の体制で挑むことが望ましい。
 特に、今、僕が対峙しているのは神たちなのだから、慎重すぎるということもないだろう。

「そうか……ようやく手を貸してくれる気になったか。最初からそうすればよかったんだ……手のかかる奴だ」

 フローテは胸元にそっと手を当てて、深く溜息を吐いた。
 そして、少し疲れ気味な上目遣いで僕を見て、口元を力なく上げた。

「はぁ……あなたはどこまで本気なのかしら?」

「全部本気だ。要らない者にかける情けなんてない」

「なら……私は必要だってことなのね」

「ああ……天使を殺す。だが、あまりにも情報がなくてな。攻めあぐねいていたところなんだ。なんでもいいから天使に関わる情報をくれ」

「まったく……逃げる、隠れる、許しを乞うなら力になれなくもないけど、殺すなんて言われても本当になにも知らないわよ? むしろ神を殺せるなんて言っている人から聞いた方がいいんじゃない?」

「ああ……方法はもう聞いてる。だけど、少し気になってな。僕は理解できないことを鵜呑みにして行動を起こせるような敬虔な信者ではないんだ。それに……僕でも打ち消すことができない呪いについても知りたいしな」

 こんなチート能力に目覚めても、バットステータスの解放の枷は解除できなかった。
 魔法とは違う理でかけられた呪い。
 誰にかけられたわけでもない。
 これは、サタン様から与えられた物だ……バッドステータスとして。

 もし……仲間を作らなければ……こんなことはしなかっただろう。
 なにも考えることなく人間を殺し尽くしていたはずだ。

 たとえ、サタン様から与えられた不明なバッドステータスが僕の命を奪うものだったとしても、人間を皆殺しにできるのであればそれでもよかった。

 だけど……僕は生きていたいと思ってしまったようだ。わざわざ危険を犯してまでこんな所に来て、不可解なステータスの謎を解く鍵を探している。

 僕がこの世界で人間を殺す以外に求めてしまったもの……魔王が求めるには分不相応だが……手に入らないということもない。それに、求めてはいけないものではない。
 単に、固定観念的に言えば似合わないというだけなのだ。

「どういうこと?」

「呪いに詳しい奴はいるか?」

「呪いって……天界で施せるのは天罰だけよ。下界に降りれば仕方なく使うけどね」

「天罰? 解除できる奴はいるのか?」

「そうね……パパならわかるかもしれないけど」

「全能神か? なら会わせてくれ」

「本気で言っているの?」

 目を細め訝しげな眼差しを僕に向けるフローテ。
 いろいろな意味合いを含んでいるだろうその眼差しは、死にたいの? とでも言いたげだった。

「ああ。難しいのか?」

「そんなことはないけど……どうなっても知らないわよ」

「なにをそんなに不安になることがあるんだ?」

「あのね……パパは長い戦いの末にあらゆる神の頂点に君臨してるの。それこそ親にだって、子にだって容赦はしないわ。戦闘において、あなたが勝てる要素なんて一つもないんだから」

「そうか。別に戦いに行くわけじゃないんだから大丈夫だろう?」

「そんな甘い話が通用すればいいけどね」

「クックック……そうだな。今ここでなにを言っても仕方がないだろう。早く行こう」

「はぁ……まあいいわ。行きましょう」

 僕はフローテに案内を頼み、全能神の下へと向かった。
 天罰かもしれないバッドステータスを解明するために全能神の知恵を借りに行く。
 あまりにも馬鹿げた行いに見えるだろうが、そうでもしないと、この戦局で優位に立つことはできないだろう。

 神とサタン様。

 特に興味もなかったが、僕にバッドステータスを付けた理由、その効果を確かめる前にサタン様の言うことを聞くわけにはいかなくなった。

 なぜなら、死んで欲しくないと願う仲間ができた……ただそれだけのことなのに、僕の優先順位は大きく変更されてしまったようだ。
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