みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

文字の大きさ
115 / 157
北の大陸蹂躙

北の大陸 リッカ・フェリside ー 終わらない作業

 一方、一階の方へと向かったリッカは手際よく冒険者と受付の女の子たちの首を切っていく。

「ウインドカッター!」

 ブワッとリッカの周囲に風が舞う。

「よーし! いっちょ上がり!」

 広く見通しのいいロビーだから作業はサクッと終わってしまった。
 満足気に頷くと、軽快な足取りでリッカはバックヤードへと入っていく。
 そこにはいくつもの部屋が並び、一つ一つを確認しなくてはいけない現実がリッカに溜息を吐かせる。

「はぁー。ルーシェみたいにドーンと粉砕できたらいいのになぁ」

 しかし、ぼやいても始まらない。心とは裏腹に仕方なく地道な蹂躙を続ける。
 淡々とドアを開け、中にいる人間たちの首を切っていく。

「ウインドカッター」

 誰も反撃しない。
 誰も動かない。

 止まった時間の中で繰り返される単純作業。
 無抵抗の人間の首を切る作業は、思いの外呆気ない。

 ドアを開け、中を確認して、首を切る。
 リッカは味気のないその作業に没頭していった。

「ウインドカッター! ……よーし、これで一階は終了かな」

 十分程度でギルド一階の人間を皆殺しにしてしまったリッカ。
 やはり、勇者パーティのメンバーだった面影は隠せない。
 無駄な破壊をせず、魔力を最小限に抑え、少ない労力で殲滅していく。

「フェリはどうかなー。三階終わったかなー」

 小走りで階段を駆け上がり、二階の廊下を見渡せば、上階で足音が聞こえた。

「フェリー! 一階終わったよ!」

 リッカは階段から上へと声をかる。

「こっちも終わりました。今行きます」

 フェリも終わったようで、すぐに階段を降りてきた。

「お待たせしました。では……私がギルドを、リッカは兵士をお願いできますか?」

「あ、そうだね。わかった! じゃあ、終わったらギルドのロビーで待ち合わせね!」

「はい。それでは、早く終わらせましょう!」

「はーい!」

 フェリに言われたとおり、リッカは階段を駆け下り、ギルドの外へと向かう。
 城門はギルドのすぐ近くにあり、迷うことはなかった。
 まずは外で待機している門兵に向けて魔法を放つ。

「ウインドカッター!」

 疑り深い門兵の首を切れば、次は詰所にいる兵士たちだ。
 近くにある小屋の扉を開けて中に入れば、二人の兵士がいたので、これまたサクッとウインドカッターで仕留める。
 兵士の殲滅は早々と終わってしまい、リッカが帰ろうとした時、ふと、詰所にある書類が目に入り、手にとって中を覗いてみた。

「これ……誰が門を通ったかの記録だ。日付が古い……私たちのもあるのかも」

 せっかく人間を殲滅ても、こんな記録があっては足がついてしまう。
 リッカは急いで書類を漁り、今日の分を探してみるもここにはなかった。
 リッカはその場でどこにあるのかを少し考えて、もしかしたらと外にいる門兵のところへと向かう。

「うー、どこかにあると思うんだけどなー」

 門の周りを散見してみるも、どこにも見つからない。
 しかし、詰所にあった書類を見る限りでは、門兵が記した記録に見えた。
 リッカはなかなか探し物が見つからず首を捻って考え込んでしまった。

「なにをしているんですか? 遅いから心配しましたよ」

 リッカが振り向けば、そこにはちょっと不機嫌なフェリの姿があった。
 探し物に夢中になっていたので心配されるくらい時間が経っていたようだ。

「あ……ごめん。門を通った人の記録があったから処分しようと思って探してたんだ」

「そうだったんですか。それは処分しないといけませんね」

「でもねー。いくら探しても今日の分が見つからなくて」

「まだ門兵が身につけているかもしれませんね」

「あ! そっか!」

 リッカはフェリの助言を受けて門兵の装備を探った。すると、腰袋の中からメモ用の記録用紙が見つかる。
 そこにはリッカとフェリらしき記録があり、あとでギルドから詳細を確認と書いてあった。

「これだ! さすがフェリ! じゃあ、これはすぐに処分だね。ファイア!」

 リッカの魔法で用紙は燃え上がり、これで自分たちの痕跡は全て消え、アリフォール王国に潜伏できるようになったと喜びの表情を浮かべた。

「これで、あとは周辺を燃やせば大丈夫だね!」

「そうですね」

 とりあえず、絶対時間内に人間の処分ができたことにホッとする二人。

「ルーシェ! 終わったよ! 私たちが王都の中まで行ったら絶対時間を解除して!」

 リッカがルーシェへと話しかける。
 しかし、これで完了とはいかなかった。

 ——なかなか早かったな。

「えへへ。二人で頑張ったもんね!」

 ——ただ……これではまだ終われないな。

「討ち漏らしがありましたか?」

 ——いや。ギルド内にいる者たちはもう全員死んでいる。だが、二人はもっと多くの人間に見られているんじゃないか?

「えー。そんなこと……ギルドの人間も、門兵も殺したし……あとは……」

「……貧困街……ですか?」

「あ……」

 フェリが気づき、リッカはフェリの言葉で思い出す。
 貧困街の子供たち、そして、覇気のない大人たちの多くの人間に見られていたことを。

「でも、あの人たちなら問題ないんじゃない?」

「……いえ、これだけの事件です。きっと、貧困街にも調査が入るでしょう」

 ——だろうな。

「ええ! それじゃ、あの街の人たちを殺すまで、この国に潜伏することはできないってこと!?」

「そうなりますね」

「うー……あそこ、結構広かったよね?」

「全員を殺すのには二人で手分けをしても一週間で終わるかどうか……」

「一週間……」

 フェリの概算にリッカが項垂れる。
 一週間もの間、人間を殺す作業をし続けなければいけない現実に心が折れかかっていた。

 ——クックック……一週間で終わるかどうか……もうお手上げかな?

「頑張るもん!」

 ルーシェの物言いに、ムキになってリッカが反論した。

 ——そうか。この絶対時間が解けるのが先か、二人が貧困街を殲滅するのが先か……じっくり見させてもらうよ。ではな。

「あ……ルーシェ! ちょっと! ルーシェ!」

 そのあと、リッカの呼び声にルーシェが答えることはなかった。
 虚しい静かな空間にリッカの溜息が漏れた。

「二人で乗り越えろってことでしょうね」

「もー! 範囲魔法でドーンとかやっちゃおうか?」

「魔力が切れるのが先でしょうね。また動けなくなりますよ」

「じゃあ、またウインドカッターで一人一人殺していくの?」

「それが一番早くて確実な方法でしょうね。範囲魔法を撃って、瓦礫に埋もれた生存者を探すとなれば、もっと時間がかかるでしょうからね」

「あー。なんか、思ってたのと違うなー」

「そうですね」

 二人は理想と現実の乖離を噛み締めていた。
 魔王として人間を殲滅するルーシェの行いはとても大胆で、それでいて美しくも思えた。
 腐ったクソどもを殺す様は、二人を魅了し続け、あたかもそれが正しいことだと思えるくらいに強大な力の差を持って行われていたからだ。

 しかし、今、自分たちがしていることといえば、無抵抗な人間の首を切るつまらない作業。
 なんの罪もない少年の首まで切った。
 正義というには程遠い虐殺に他ならなかった。

「……あの子たちも殺さなきゃいけないんだよね」

 無慈悲な現実が立ちはだかる貧困街を見つめて、リッカからは弱音が漏れた。

「ええ……」

 フェリも同じことを思い描いていたようだ。小くリッカに頷いた。

 二人はそれでも門を抜け、橋を渡って貧困街へと足を運ぶ。
 橋の近くには門の側で遊ぶ子供たちの姿があった。
感想 168

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。