みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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北の大陸蹂躙

北の大陸 リッカ・フェリside ー 罪の行方

 血飛沫が辺りを赤く染める。
 二人が殺した人間たちの首は地に転がり、胴体は重力に抗うことなく倒れていく。

 遊んでいた子供。
 座り込んでいた大人たち。
 門兵。
 ギルド内にいた人間。

 それらはまるで、大地や建物になにかを描くように赤い血を撒き散らす。
 芸術的でもあり、それでいてどこか汚い。
 こと切れてしまった人間には物としての価値はないとでも言いたげに、ただただ無意味な肉体が転がっている風景。

 二人はなにも言わずにその風景を眺めていた。

「クックック……汚いな。あれでは掃除が面倒だ」

 ルーシェの言葉を聞いて、二人の鼓動が早くなる。
 最初からそうだった。
 わかっていたつもりだった。

 ルーシェは人間が嫌い。
 ルーシェは人間を殺すことを楽しんでいる。
 ルーシェにとって、人間とは……

 憂さ晴らしの対象でしかないのだ。

 それでも……そうだとしても……どうしようもなくルーシェを愛してしまっている。

 なぜなのか?

 助けてくれたから……
 エルフを救ってくれたから……
 汚れてしまった自分たちを愛してくれたから……

 どれもが答えで、どれもが答えじゃないように思えた。
 
 人間……人間とはいったいなんなのだろうか?
 自分たちにとって、人間とは……いい思い出はない。
 同胞を殺され、何度も汚された。
 いわれのない罪で縛られ、力でねじ伏せられた。

 なのに……なぜこんなにも心が痛むのだろうか?

 自分たちが殺した人間にはなにもされていないから。
 なんの知識もない子供たちだったから。
 力のない大人たちだったから。

 しかし、それは今の時点での話だ。
 もし、自分たちがエルフだとバレてしまえば……魔女狩りと称して殺されるのだろう……

 なぜ……なぜ……なぜ……やり場のない悲しさが溢れ出してくる。
 二人は言葉では言い表せられないどうしようもない気持ちに苛まれていった。

「フェリ。エルフを生き返らせたいという気持ちは残っているか?」

「……え? それは……」

 エルフを生き返らせるという話は、あの時からずっと考えてはいたが、フェリはまだ答えが出せていなかった。
 なぜ今そんなことを言うのだろうか?
 フェリにはその意図が掴みきれない。

「ふふ……なら、今ここで実験をしようじゃないか。二人が殺した人間たち……今から僕が生き返らせよう。二人がせっかく殺してくれたのに申し訳ないが、やはり、人間を殺すのは僕の役目だろう。ふふ……ククク……あーっはっはっは!!!」

 ルーシェが楽しそうに笑っている。
 恐ろしくもあり、頼もしくもあったこの笑い声。今はその中に不気味さも混じっていた。

 ルーシェは地上に手を掲げて呪文を唱えた。

「アリフォール王国をリバースワールド!」

 そう唱えた途端、瞬く間にアリフォール王国が様相を変えた。
 一瞬のこと過ぎて、なにが起きたかわからないほどに。

 子供たちが遊んでいる。
 大人たちが項垂れ座り込んでいる。
 門兵はだるそうな目をしながらも、凛々しい立ち姿で門を守っている。
 地面に描かれていた血はなくなり、静かだった世界に喧騒が訪れていた。

「ふふふ……じゃあ、行こうか」

 ルーシェがそう言うと、門兵の前に全員で降り立った。
 突然空から現れた者たちに驚き、構える門兵をルーシェはニヤニヤと見据えていた。

「お……おまえたちは! さっきギルドへと向かわせたはずだろ! なぜこんなところにいる! それに、この二人は何者だ!」

 門兵はリッカとフェリを見つけると、あり得ないとでも言いたげに驚きの言葉を投げかける。

「やぁ。君、僕の仲間をハメようなんてナメた真似をしてくれたようだね。しかし、いきなり殺してしまうのも味気ないから弁解の機会をあげよう。どうだい? 謝罪でもしてみるかい?」

 ルーシェは楽しそうに門兵へと話しかけている。なにも間違ってはいない。突然そんなことを言われて謝罪などできはしないだろう……きっとこの門兵は殺される……いや、絶対だ。

「なにを言っている! ふざけたことを!」

「ふざけてなんかない。二人はギルドマスターに危うくなにかされるところだったんだ。ふざけたことをしたのはそっちの方だろう?」

「ギルドマスターが? なら、そいつらは危険だということだ!」

 門兵は持っていた槍をルーシェへと向けてしまった。 
 案の定、状況を飲み込めない門兵が謝罪することはない……もう一度死ぬことになる。

「こんなもので僕に立ち向かうというのか? 僕は魔王なんだよ?」

「まっ……魔王!?」

「ああ、そうだ。謝罪する気になったかい?」

「……クソ! なんだって俺のところに……ますます謝罪なんかできないね」

「そうか……」

 ルーシェが門兵へと手を掲げて横に払う。
 すると、門兵の首はコロリと地に落ちた。
 しかし、血飛沫は舞わなかった。

「汚れてしまうからね。フレイムウインドカッターってところかな。ククク……」

 よく見れば、切られたところが炭化していた。
 しかし、全く血が出ないところを見ると、心臓も潰されているのだろう。

「じゃあ、行こうか」

 なに事もなかったかのように、ルーシェは門をくぐってギルドへと向かった。
 詰所にいるはずの門兵が出てこないのは、ルーシェがなにかをしているからだろうか?

 そして、なんのためらいもなくギルドの扉を開け、受付の後ろにあるバックヤードへと入ろうとすると……

「ちょ! ちょっと! 駄目ですよ! 勝手に入っちゃ!」

 あまりに堂々としていたので呆然と見ていたお姉さんが慌てて止めに入る。

「まあいいじゃない。そんなこと言わずに通して欲しいな。僕はギルドマスターに用があるんだから」

 「ギルドマスターにですか? では、お取り次ぎをするのでご用件をお願いしたします」

「なら、こう伝えてくれないかな。僕の仲間を陥れようとした落とし前をつけにきたと」

「え? あの……それはどういうことでしょうか?」

「ここのギルドマスターは、この二人になにやらいかがわしいことをしようとしていたんだ。僕はとても怒っているんだよ? 早くしろ」

「あ……はい! では、お待ちください!」

 受付のお姉さんは足早にバックヤードへと入って行く。
 仕方なく受付で待っていると、しばらくして奥の扉からダンが出てきた。

「おまえか……俺に喧嘩を売ってきたって奴は……」

 ダンがルーシェを睨みつける。

「喧嘩? その前にやることがあるんじゃないか? この二人を見て、僕がなにを怒っているのかわかるだろう?」

 ダンは隠れるようにルーシェの後ろにいたリッカとフェリを見据えると、驚きの表情を浮かべた。

「なっ……なんでここにいるんだ! 突然消えたと思えば……おまえたちは何者だ!」

「クックック……もうわかっているんだろう? こんなことができるのはどんな奴らなのか……」

 威勢のよかったダンの目が見開かれる。
 思い当たる結果が絶望的だったからだ。

「まさか……魔王……」

「そうだ。よくできました! 謝罪する気になったかな?」

「な……なにを——」

「——惚けるなら殺すぞ」

 ルーシェの目がダンを射抜く。蔑むような柔らかな笑みは鳴りを潜め、吸い込まれそうに澄んだ目には怒りの感情がこもっていた。
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