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北の大陸蹂躙
北の大陸 リッカ・フェリside ー 心を痛めた者たち
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「……謝れば許してくれるのか?」
大人しくなったダンが出した答えはとても狡猾なものだった。
「ほう……なにを言うかと思えば……なら、おまえがしようとしていたことはなんだ? 許されるようなことなら許してやってもいいぞ?」
「お……私はその者たちを拘束しようとしただけだ。魔王の仲間だという疑いがあったからな」
「拘束するだけか?」
「当たり前だ! ここはギルドだぞ? 下手なことをすれば私の地位が地に堕ちる」
「ほう……だが……あの首飾りには拘束以上の呪いがかかっていたが……」
「……ある程度強い者でも自白するような呪いがかかっている」
「おまえ……僕を騙せるとでも思っているのか?」
ダンはルーシェを一瞥すると、苦虫を噛み潰したように表情を強張らせた。
「……なんでも言うこと聞く呪いだ」
「ふん……いったいなにをしようとしたんだ? 囮にでもしようとしたか? それとも人質か?」
「両方だ」
「魔王の仲間と決まったわけでもないのに……その仕打ちは最低な行いだな」
「こちらも必死だったんだ。必ず訪れるだろう魔王襲来に備えるために。打てる手はなんでも打っておきたかった」
ルーシェの目を見ずに答えたダンの言葉は本当なのだろう。ダンの行いは、ギルドマスターとして、とても当たり前な行為。魔王の脅威を軽く見てはいない者だからこその備えだ。
「そうか……なら、許してやらないこともない」
「……え?」
慈悲なのだろうか?
ルーシェが人間を許すなんてことがあるとは思わなかった。
ダンも驚いたように顔を上げる。
「どうした?」
「いや……なんで……なんで許してくれるんだ?」
「なんで? 逆に許さない理由を教えてくれないか? それとも……まだ僕たちを排除しようとでも思っているのかな?」
「え? あ……いや、我々に危害を加えないなら……戦うことはないだろう」
「なら……魔族となって僕に従え。忠誠を誓えば殺すことはない」
「は? 魔族になる?」
フェリはルーシェの進言に意外そうに首を傾げ、リッカは溜息を吐いた。
「ああそうだ。僕は人間を殺すために生まれた魔王だ。だから、おまえが人間であれば、近い将来殺すことになる。しかし、僕に忠誠を誓い、魔族となれば話は別だ。人間ではないから殺すことはない。どうだ? 謝罪をすると言うなら魔族となれ。なに、肉体的にも、精神的にもなにも変わりはしない。僕の庇護下に入り、同時に監視下に入るだけだ」
先程とは打て変わり、柔らかな笑みを浮かべるルーシェに困惑するダン。
魔族となれば殺されないで済むと言われても、お願いしますと簡単には言えなかった。
「……いや……それは……」
「ふむ……なら、争いを望むということだな?」
「あ……いや……そうじゃない! 不可侵的な共存はできないのだろうか?」
慌てたようにダンは解決策を提案する。
不可侵条約を結んで和平を築く……とても普通でありきたりな答え。
しかし……
「クックック……面白い……そんなこと……節操のない人間が守れるとでも思ったのか? おまえの生きているうちに破られることはないかもしれないが……なにも知らない次の世代はどうだ? 本当にそんなことが可能かどうか……わかっているのだろう?」
「そっそれは……」
「ああ、それと……この二人はエルフだ。おまえが魔族になれば、この二人の言うことを聞いてもらう」
「エルフ……エルフの言うことを聞くだと?」
「ああそうだ。おまえたちが殺し尽くしたエルフたちに付き従ってもらうんだよ。……許して欲しいんだろう?」
ルーシェの優しい微笑みは悪びれたものへと変わっていく。
人の業を嘲笑うかのごとく楽しそうにダンを見据えていた。
「エルフ……本当なのか?」
「エルフに従うのは不満か? すぐにでも殺した方がいいかな?」
「それは……」
ダンが言葉に詰まっていると、周りにいた冒険者たちが辛抱堪らずに割って入ってきた。
「おいダン! エルフは殺さなきゃなんねぇって言ってやれよ! こいつらが本当に魔王かどうかもわかんねぇのにヘコヘコしやがって! おめぇら調子乗んのもいい加減にしろよ!」
「おう! そうだそうだ! エルフってのは聞き捨てならねぇな! ここじゃ、エルフ一人につき多額の報酬がでるんだ。たっぷり可愛がってから公開処刑してやるよ!」
「おいおい! 抜け駆けはよくねぇぞ! 俺にも分け前寄越せよ?」
「エルフ二人となりゃ今日は大宴会が開けるぜ! へへ、楽しくなりそうだな!」
エルフ迫害の悪習は、世界的に根強くはびこっているようだった。
わらわらと周囲を取り囲もうと立ち上がる冒険者たち。
昔のトラウマが蘇ったのか、この状況にリッカとフェリは小さく震え出していた。
「ルーシェ、こいつらは僕がやろうか?」
サタンが冒険者たちを見据えて、つまらなそうにルーシェへと進言する。
「クックック……すみません、もう少し待っていてください……今……とてもいいところなので」
「ふふ……わかったよ。君は変わらないね」
「ええ……」
サタンは両手を頭の後ろで組むと、満足そうに向き直った。
「おいおい、この状況でずいぶんナメた態度を取ってくれるじゃねぇか。エルフじゃないからって安心してるようだが、庇う奴も同罪なんだぞ? それなりに報酬も出るんだ。魔物退治なんかより多額の報酬がな!」
まるでとびっきりの獲物を見るように醜悪に笑う冒険者たち。
さっきまで殺してしまったと心を痛めていたはずの人間たちの姿。
あんなにも悲しい気持ちになったはずなのに……今では……
「あーっはっはっはっは!!! ダン! 見ろ! 不可侵的な共存? 言った側からこれじゃないか! 人間なんてこんなものなんだよ……クソ……信じるに値しない……ゴミどもなんだ。だから、僕は魔王として人間を排除する。これは言わばゴミ掃除なんだ。わかるかい? だから、僕に忠誠を誓い魔族にならないなら死んでもらう……クックック……ダン、僕は気が短いんだ……早く決めてくれ。どうする? どうするんだ!?」
ルーシェに捲し立てられ、後ずさるダン。
冒険者たちと一緒に戦うか、それともルーシェの言葉に従うか……手に入れた魔王の情報を鵜呑みにすれば、この戦力では話にならないだろうことは理解しているはずだった。
しかし……
「おいおい! おまえはギルドマスターだろう! 魔王に加担するつもりか? 本当にこいつが魔王かもわからねぇのに……ここで怖気付くようじゃギルドマスターは降格だな! 俺たちが仕留めた後、しっかり協会に報告してやるよ! ダンは腰抜けだってな! あははは!」
周囲の雰囲気がそれを許さなかった。
冒険者たちはダンを嘲笑い、魔王の存在を否定する。
美味しい獲物を前にして、頭の中は報酬の算段でいっぱいになっているのだろう。
大人しくなったダンが出した答えはとても狡猾なものだった。
「ほう……なにを言うかと思えば……なら、おまえがしようとしていたことはなんだ? 許されるようなことなら許してやってもいいぞ?」
「お……私はその者たちを拘束しようとしただけだ。魔王の仲間だという疑いがあったからな」
「拘束するだけか?」
「当たり前だ! ここはギルドだぞ? 下手なことをすれば私の地位が地に堕ちる」
「ほう……だが……あの首飾りには拘束以上の呪いがかかっていたが……」
「……ある程度強い者でも自白するような呪いがかかっている」
「おまえ……僕を騙せるとでも思っているのか?」
ダンはルーシェを一瞥すると、苦虫を噛み潰したように表情を強張らせた。
「……なんでも言うこと聞く呪いだ」
「ふん……いったいなにをしようとしたんだ? 囮にでもしようとしたか? それとも人質か?」
「両方だ」
「魔王の仲間と決まったわけでもないのに……その仕打ちは最低な行いだな」
「こちらも必死だったんだ。必ず訪れるだろう魔王襲来に備えるために。打てる手はなんでも打っておきたかった」
ルーシェの目を見ずに答えたダンの言葉は本当なのだろう。ダンの行いは、ギルドマスターとして、とても当たり前な行為。魔王の脅威を軽く見てはいない者だからこその備えだ。
「そうか……なら、許してやらないこともない」
「……え?」
慈悲なのだろうか?
ルーシェが人間を許すなんてことがあるとは思わなかった。
ダンも驚いたように顔を上げる。
「どうした?」
「いや……なんで……なんで許してくれるんだ?」
「なんで? 逆に許さない理由を教えてくれないか? それとも……まだ僕たちを排除しようとでも思っているのかな?」
「え? あ……いや、我々に危害を加えないなら……戦うことはないだろう」
「なら……魔族となって僕に従え。忠誠を誓えば殺すことはない」
「は? 魔族になる?」
フェリはルーシェの進言に意外そうに首を傾げ、リッカは溜息を吐いた。
「ああそうだ。僕は人間を殺すために生まれた魔王だ。だから、おまえが人間であれば、近い将来殺すことになる。しかし、僕に忠誠を誓い、魔族となれば話は別だ。人間ではないから殺すことはない。どうだ? 謝罪をすると言うなら魔族となれ。なに、肉体的にも、精神的にもなにも変わりはしない。僕の庇護下に入り、同時に監視下に入るだけだ」
先程とは打て変わり、柔らかな笑みを浮かべるルーシェに困惑するダン。
魔族となれば殺されないで済むと言われても、お願いしますと簡単には言えなかった。
「……いや……それは……」
「ふむ……なら、争いを望むということだな?」
「あ……いや……そうじゃない! 不可侵的な共存はできないのだろうか?」
慌てたようにダンは解決策を提案する。
不可侵条約を結んで和平を築く……とても普通でありきたりな答え。
しかし……
「クックック……面白い……そんなこと……節操のない人間が守れるとでも思ったのか? おまえの生きているうちに破られることはないかもしれないが……なにも知らない次の世代はどうだ? 本当にそんなことが可能かどうか……わかっているのだろう?」
「そっそれは……」
「ああ、それと……この二人はエルフだ。おまえが魔族になれば、この二人の言うことを聞いてもらう」
「エルフ……エルフの言うことを聞くだと?」
「ああそうだ。おまえたちが殺し尽くしたエルフたちに付き従ってもらうんだよ。……許して欲しいんだろう?」
ルーシェの優しい微笑みは悪びれたものへと変わっていく。
人の業を嘲笑うかのごとく楽しそうにダンを見据えていた。
「エルフ……本当なのか?」
「エルフに従うのは不満か? すぐにでも殺した方がいいかな?」
「それは……」
ダンが言葉に詰まっていると、周りにいた冒険者たちが辛抱堪らずに割って入ってきた。
「おいダン! エルフは殺さなきゃなんねぇって言ってやれよ! こいつらが本当に魔王かどうかもわかんねぇのにヘコヘコしやがって! おめぇら調子乗んのもいい加減にしろよ!」
「おう! そうだそうだ! エルフってのは聞き捨てならねぇな! ここじゃ、エルフ一人につき多額の報酬がでるんだ。たっぷり可愛がってから公開処刑してやるよ!」
「おいおい! 抜け駆けはよくねぇぞ! 俺にも分け前寄越せよ?」
「エルフ二人となりゃ今日は大宴会が開けるぜ! へへ、楽しくなりそうだな!」
エルフ迫害の悪習は、世界的に根強くはびこっているようだった。
わらわらと周囲を取り囲もうと立ち上がる冒険者たち。
昔のトラウマが蘇ったのか、この状況にリッカとフェリは小さく震え出していた。
「ルーシェ、こいつらは僕がやろうか?」
サタンが冒険者たちを見据えて、つまらなそうにルーシェへと進言する。
「クックック……すみません、もう少し待っていてください……今……とてもいいところなので」
「ふふ……わかったよ。君は変わらないね」
「ええ……」
サタンは両手を頭の後ろで組むと、満足そうに向き直った。
「おいおい、この状況でずいぶんナメた態度を取ってくれるじゃねぇか。エルフじゃないからって安心してるようだが、庇う奴も同罪なんだぞ? それなりに報酬も出るんだ。魔物退治なんかより多額の報酬がな!」
まるでとびっきりの獲物を見るように醜悪に笑う冒険者たち。
さっきまで殺してしまったと心を痛めていたはずの人間たちの姿。
あんなにも悲しい気持ちになったはずなのに……今では……
「あーっはっはっはっは!!! ダン! 見ろ! 不可侵的な共存? 言った側からこれじゃないか! 人間なんてこんなものなんだよ……クソ……信じるに値しない……ゴミどもなんだ。だから、僕は魔王として人間を排除する。これは言わばゴミ掃除なんだ。わかるかい? だから、僕に忠誠を誓い魔族にならないなら死んでもらう……クックック……ダン、僕は気が短いんだ……早く決めてくれ。どうする? どうするんだ!?」
ルーシェに捲し立てられ、後ずさるダン。
冒険者たちと一緒に戦うか、それともルーシェの言葉に従うか……手に入れた魔王の情報を鵜呑みにすれば、この戦力では話にならないだろうことは理解しているはずだった。
しかし……
「おいおい! おまえはギルドマスターだろう! 魔王に加担するつもりか? 本当にこいつが魔王かもわからねぇのに……ここで怖気付くようじゃギルドマスターは降格だな! 俺たちが仕留めた後、しっかり協会に報告してやるよ! ダンは腰抜けだってな! あははは!」
周囲の雰囲気がそれを許さなかった。
冒険者たちはダンを嘲笑い、魔王の存在を否定する。
美味しい獲物を前にして、頭の中は報酬の算段でいっぱいになっているのだろう。
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