みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

文字の大きさ
128 / 157
北の大陸蹂躙

死にたがる者たち

「ちょっと、ルーシェ本気なの?」

 断頭台を見たリッカが思わず僕に尋ねた。

「ん? もっと違う殺し方の方が良かったかな?」

「そういう意味じゃなくて、王様ルーシェに言われたことを達成するためにすごく頑張ったんだよ? みんなと一緒に魔族にしてあげてもいいんじゃない?」

「私からもお願いします。王様はとても一生懸命に頑張ってました。ルーシェのことをとても好意的に思っていると思います」

 リッカだけでなく、フェリも前王の処刑に待ったをかける。
 僕は二人を見据えていた視線を、拘束しているクロイツへと向けた。
 二人の会話を聞いていたクロイツの反応は特になく、ぼーっと断頭台を見上げていた。

「おまえたちは人間を擁護するのか?」

 低く、沈んだ声になってしまった。
 その声を聞いて、二人の肩が少し跳ねたのが見えた。

「擁護っていうか、殺すこともないかなって」

「私も、きっとルーシェのために尽くしてくれると思います」

 緊張しているのか、二人の声色が少し震えている。

「ふざけるな! 僕はおまえたちがこんなことを言い出すためにここへ仕向けたんじゃない! クソ忌々しい人間どもを殺すためだ! それがどうして人間側に回っているんだ!」

 二人は張り上げた僕の声に驚き、今にも泣きそうな感情を押さえ込んでいるようだった。

「だって、王様はルーシェに逆らうこともしないで、自分が処刑されるって知っていながらも、国民を守るために一生懸命頑張ったんだよ! ルーシェの言うクソみたいな人間にはできないよ! この国の王様はいい人間だよ!」

「そうです! この王様は自分の地位も名誉も財産も全てを放棄してルーシェの要求を受け入れたんです! そして、今、自分の命すら国民のために投げ出そうとしています! そんな人を殺していいはずがありません!」

 僕の威圧に負けじと声を張り上げて二人が反論する。
 この王様がクソどもとは少しばかり違うことはわかっている。
 そして、愛する二人の要望だったとしても、僕の心には押さえきれない怒りが生まれてきていた。

「おまえたち! ふざけるのも——」

「——待ってください!」

 静かに聞いていた民衆から、僕の声を遮る声がした。
 その声の主を見れば、幼い少年が円を乱して駆け寄って来ている。
 やがて、断頭台を過ぎて僕の前まで来ると、頭を地に擦りつけて意見を述べた。

「僕は! 前の王様の時、僕はお金がなくて、生きるのも大変で、だから、盗んだ物やお金で生活していました! 僕は魔王様の嫌いなクソみたいな人間です! でも、この王様はそんな僕を咎めるどころか、犯罪を犯さずに生活できる場を作ってくれたんです! 感謝してもしきれません! 僕は王様に救われました! だから、殺すなら、殺すなら僕を殺してください!」

 突然のできごと過ぎて唖然としてしまう。
 この少年は、まさか王の代わりになれるとでも思ったのだろうか?
 王様よりクソみたいな人間だから、代わりに殺してくださいだと?
 なぜそんな暴論が通ると思ったのか?

「おい、言っている意味がわからない。顔を上げろ」

 少年が顔を上げれば、涙と埃で顔はひどく汚れていた。

「僕は、王様よりダメな人間です。王様なら魔王様の力になれるはずです。僕を代わりに殺してください」

 幼いながら必死に考えたのだろう。
 しかし、そんな話じゃ王の代わりにはならない。
 だが、死にたいのなら殺してやろう。

「そうか、なら死——」

「——ダメ!」

 少年に歩み寄る僕の前に、リッカとフェリが立ちふさがる。
 二人は少年を守るように大きく手を広げていた。

「おまえたち……いったいどういうつもりだ!!」

「ダメ! ダメったらダメだもん!」

「ルーシェ、考え直してくだだい! こんなの、間違っています!」

「ふざけたことを……一緒に死にたいとでも言うのか? そうか……クックック……ああ、そうか……それなら——」

「——魔王様。何をしているんですか。早く私の処刑を済ませましょう」

「あぁ?」

 二人との会話を遮って、今度はクロイツが笑顔で僕に話しかけた。
 こいつはなにがそんなに面白くて笑っているのか?
 こんな時に笑えるなんて、処刑される人間とは思えない。
 頭のネジがぶっ飛んでいることは確かだろう。

「なにがおかしい」

「え? ああ、すみません。命をかける身としては、誇りに思うようなことばかりが起きて光栄だったものですから。自然と笑顔になってしまったようです」

「は? 誇り?」

 僕たちの仲間割れを見て笑っているのかと思えば、自尊心をくすぐられたナルシストだった。

「はい。私は圧政に苦しんでいたこの国の国民を救いたくて前王を打ち倒しました。私が救った国民は、とても誇らしい人間ばかりです。こんな幼い少年が、私のために命を投げだそうとしている。そして、この子が私に救われたと言ってくれて、私はとても嬉しく思いました。
 そして、そんな国民を、僕はまた救える機会に恵まれた。嬉しい限りです」

 僕はその屈託のない笑顔に圧倒されていた。
 ねじ曲がった曲解にも程がある。
 目的が国民を救うことであり、それが達成できれば命も惜しくないと言っている。
 自身の命がとても軽い王様。
 しかし、それは、同時に……

「私を代わりに処刑してください!」
「足りないなら、私も処刑してください!」
「僕もお願いします!」
「王様はこの国に必要な人です! 私を代わりに処刑してください!」
「王様には返しきれないほど私たちは救われてきました! 私たちが代わりになれるなら、魔王様、お願いいたします!」

 民衆が騒ぎ出す起爆剤となってしまったようだ。
 堰を切ったように断頭台の前へと民衆が集まってくる。
 王様の代わりに殺してくれと願い出る国民たち。
 それはとどまることを知らずに、大勢の死にたい人間が集まってしまう結果となった。

「クックック……ヒヒヒ……そうか、そんなに死にたいのか……」

 僕の声は誰にも届かない。
 殺してくれと願う民衆の怒号によってかき消されてしまった。
 ふと、クロイツのの方へと目をやれば、呆けた顔で口を開け涙を流していた。
 またナルに浸っているのだろうか?

 僕はそんなクロイツに虫唾が走り、乱暴に引き寄せ断頭台へと添えた。

 突然のことに民衆が息を飲む。
 訪れた一瞬の静寂を機に、僕は民衆の声を出せなくする。
 そして、僕は断頭台に平伏すクロイツの目の前まで移動した。

「うるさい民衆の口は閉じた。最後に言い残したことを聞いてやろう」

 クロイツは小さく首を振る。
 涙を必死に堪え……そして、笑った。

 最後の死ぬ時までクロイツのナルシスト気質は衰えることはなかった。

「クックック……そうか。なら、民衆から最後の言葉を受け取るがいい」

 凛とした静寂の中、僕は指を鳴らして民衆の拘束を解いた。

「王様! ダメです! 僕が代わりになります!」
「みんなのために生きてください! また、私たちを導いてください! 私が代わりになります!」
「王様——」
「王様——」




 クロイツが必死に涙を堪えて作っていた笑顔が歪む。
 もう止められないといった具合に両目から涙が溢れては流れ出していた。
 やがて、言葉では飽き足らず、民衆は断頭台に手をかけ、クロイツにかけられた枷を外そうと動き出す。

「やめろ……やめてくれ……せっかく私がみんなのために……これじゃあ……」

 クロイツのか細い声は民衆には届かない。
 民衆の意思によって、クロイツの願いはかき消されようとしていた。

「クックック……節操のないクソどもめ……」

 民衆の力程度で断頭台の拘束が解けることはない。
 やがてその頑丈さに気づき、今度は僕に容赦を願い出る始末だ。

「魔王様、お願いです! どうか王様を助けてください! 私の命でどうか!」
「魔王様! お願いします! 王様を、私の命で!」
「魔王様——」
「魔王様——」




 殺してくれと、僕に願い出る人間ども。

 そんなに言うなら、死をくれてやろう。

 ……死ね。

 人間は皆殺しだ。



 僕は足に縋る女性の頭を踏み潰した。
 そして、その女性に驚いている男の首を切断した。
 恐怖に叫ぶ老婆の頭を殴り、殺した。
 腰を抜かした少女を蹴り殺した。
 それでも殺してくれと額を擦りつけて願う少年を空高く蹴り飛ばした。
 落下地点にいたおばさんが抱き留めようとしたせいで、勢いに潰されて死んだ。


 僕はとても気分が良かった。


 ようやく解放された渇望が現実となり、気づけば野太刀を手に民衆を斬り殺していた。

「あはっ! あははは!! 死ね!! 死ね!! 死にたい奴は前へ出てこい! クソども! あーっはっはっはっは!!」

 白いローブが返り血で真っ赤に染まる。
 阿鼻叫喚の中、甲高い僕の笑い声が響いていた。
 野太刀を一振りすれば、数十人の命が消えていく。
 楽しくなって、もう一振り。
 ブンブンと乱暴に野太刀を振れば、気づいたころには殺してくれと願い出た人間は粗方殺してしまったようだ。

「はぁ、はぁ、ヒヒヒ……もう終わりか? まだ死にたい奴はいないのか!?」

 僕の叫びに応じる者はもういない。
 仕方なく断頭台を見れば、バルコニーにいた兵士がクロイツを守るように隊列をなしていた。

「なんだよそれ……僕に勝てるとでも思っているのか?」

 よく見れば、兵士の手に武器は握られていなかった。
 なにも言わずに立っているだけの兵士たち。

 僕は仕方なく野太刀を隊列に向かって放り投げる。
 前にいた兵士が一人、心臓を貫かれて倒れ込んだ。
 それでも、彼らは武器を持たず、隊列を崩さなかった。

 僕はゆっくりと兵士の前まで歩み寄り、手の届く範囲まで近づくと、野太刀を拾い上げて目の前にいた兵士を順番に斬り殺していく。
 なんの抵抗もせずに、ただただクロイツの目の前で死んでいく兵士たち。
 王を守る勇敢な兵士たちを全て斬り殺したころには、僕は返り血で真っ赤に染まっていた。

 笑っていたと思う。
 だって、とても気持ちがよかったから。
 しかし、そんな浮かれた気持ちはクロイツの表情を見てどこかへと行ってしまう。


 なぜなら、クロイツが笑っていたから。


「……なぜ笑っている」

「やはり、私の考えに間違いはありませんでした」

「……なにが言いたい?」

「魔王様はとても強く、そして……とてもお優しい方です」

「は? ふざけたことを——」

「——だって……」

 クロイツは僕の言葉を遮り、さらに口角を上げる。

「願い出ていない者は殺していないじゃないですか」

 クロイツの笑顔が、僕を嘲笑っているかのように見えて、とても忌々しかった。



 だから、僕は断頭台の刃を落とした。

 呆気なく切り落とされて転がるクロイツの頭部。

 それを見た断頭台の目玉が嬉しそうに蠢いていた。
感想 168

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。