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北の大陸蹂躙
死にたがる者たち
「ちょっと、ルーシェ本気なの?」
断頭台を見たリッカが思わず僕に尋ねた。
「ん? もっと違う殺し方の方が良かったかな?」
「そういう意味じゃなくて、王様ルーシェに言われたことを達成するためにすごく頑張ったんだよ? みんなと一緒に魔族にしてあげてもいいんじゃない?」
「私からもお願いします。王様はとても一生懸命に頑張ってました。ルーシェのことをとても好意的に思っていると思います」
リッカだけでなく、フェリも前王の処刑に待ったをかける。
僕は二人を見据えていた視線を、拘束しているクロイツへと向けた。
二人の会話を聞いていたクロイツの反応は特になく、ぼーっと断頭台を見上げていた。
「おまえたちは人間を擁護するのか?」
低く、沈んだ声になってしまった。
その声を聞いて、二人の肩が少し跳ねたのが見えた。
「擁護っていうか、殺すこともないかなって」
「私も、きっとルーシェのために尽くしてくれると思います」
緊張しているのか、二人の声色が少し震えている。
「ふざけるな! 僕はおまえたちがこんなことを言い出すためにここへ仕向けたんじゃない! クソ忌々しい人間どもを殺すためだ! それがどうして人間側に回っているんだ!」
二人は張り上げた僕の声に驚き、今にも泣きそうな感情を押さえ込んでいるようだった。
「だって、王様はルーシェに逆らうこともしないで、自分が処刑されるって知っていながらも、国民を守るために一生懸命頑張ったんだよ! ルーシェの言うクソみたいな人間にはできないよ! この国の王様はいい人間だよ!」
「そうです! この王様は自分の地位も名誉も財産も全てを放棄してルーシェの要求を受け入れたんです! そして、今、自分の命すら国民のために投げ出そうとしています! そんな人を殺していいはずがありません!」
僕の威圧に負けじと声を張り上げて二人が反論する。
この王様がクソどもとは少しばかり違うことはわかっている。
そして、愛する二人の要望だったとしても、僕の心には押さえきれない怒りが生まれてきていた。
「おまえたち! ふざけるのも——」
「——待ってください!」
静かに聞いていた民衆から、僕の声を遮る声がした。
その声の主を見れば、幼い少年が円を乱して駆け寄って来ている。
やがて、断頭台を過ぎて僕の前まで来ると、頭を地に擦りつけて意見を述べた。
「僕は! 前の王様の時、僕はお金がなくて、生きるのも大変で、だから、盗んだ物やお金で生活していました! 僕は魔王様の嫌いなクソみたいな人間です! でも、この王様はそんな僕を咎めるどころか、犯罪を犯さずに生活できる場を作ってくれたんです! 感謝してもしきれません! 僕は王様に救われました! だから、殺すなら、殺すなら僕を殺してください!」
突然のできごと過ぎて唖然としてしまう。
この少年は、まさか王の代わりになれるとでも思ったのだろうか?
王様よりクソみたいな人間だから、代わりに殺してくださいだと?
なぜそんな暴論が通ると思ったのか?
「おい、言っている意味がわからない。顔を上げろ」
少年が顔を上げれば、涙と埃で顔はひどく汚れていた。
「僕は、王様よりダメな人間です。王様なら魔王様の力になれるはずです。僕を代わりに殺してください」
幼いながら必死に考えたのだろう。
しかし、そんな話じゃ王の代わりにはならない。
だが、死にたいのなら殺してやろう。
「そうか、なら死——」
「——ダメ!」
少年に歩み寄る僕の前に、リッカとフェリが立ちふさがる。
二人は少年を守るように大きく手を広げていた。
「おまえたち……いったいどういうつもりだ!!」
「ダメ! ダメったらダメだもん!」
「ルーシェ、考え直してくだだい! こんなの、間違っています!」
「ふざけたことを……一緒に死にたいとでも言うのか? そうか……クックック……ああ、そうか……それなら——」
「——魔王様。何をしているんですか。早く私の処刑を済ませましょう」
「あぁ?」
二人との会話を遮って、今度はクロイツが笑顔で僕に話しかけた。
こいつはなにがそんなに面白くて笑っているのか?
こんな時に笑えるなんて、処刑される人間とは思えない。
頭のネジがぶっ飛んでいることは確かだろう。
「なにがおかしい」
「え? ああ、すみません。命をかける身としては、誇りに思うようなことばかりが起きて光栄だったものですから。自然と笑顔になってしまったようです」
「は? 誇り?」
僕たちの仲間割れを見て笑っているのかと思えば、自尊心をくすぐられたナルシストだった。
「はい。私は圧政に苦しんでいたこの国の国民を救いたくて前王を打ち倒しました。私が救った国民は、とても誇らしい人間ばかりです。こんな幼い少年が、私のために命を投げだそうとしている。そして、この子が私に救われたと言ってくれて、私はとても嬉しく思いました。
そして、そんな国民を、僕はまた救える機会に恵まれた。嬉しい限りです」
僕はその屈託のない笑顔に圧倒されていた。
ねじ曲がった曲解にも程がある。
目的が国民を救うことであり、それが達成できれば命も惜しくないと言っている。
自身の命がとても軽い王様。
しかし、それは、同時に……
「私を代わりに処刑してください!」
「足りないなら、私も処刑してください!」
「僕もお願いします!」
「王様はこの国に必要な人です! 私を代わりに処刑してください!」
「王様には返しきれないほど私たちは救われてきました! 私たちが代わりになれるなら、魔王様、お願いいたします!」
民衆が騒ぎ出す起爆剤となってしまったようだ。
堰を切ったように断頭台の前へと民衆が集まってくる。
王様の代わりに殺してくれと願い出る国民たち。
それはとどまることを知らずに、大勢の死にたい人間が集まってしまう結果となった。
「クックック……ヒヒヒ……そうか、そんなに死にたいのか……」
僕の声は誰にも届かない。
殺してくれと願う民衆の怒号によってかき消されてしまった。
ふと、クロイツのの方へと目をやれば、呆けた顔で口を開け涙を流していた。
またナルに浸っているのだろうか?
僕はそんなクロイツに虫唾が走り、乱暴に引き寄せ断頭台へと添えた。
突然のことに民衆が息を飲む。
訪れた一瞬の静寂を機に、僕は民衆の声を出せなくする。
そして、僕は断頭台に平伏すクロイツの目の前まで移動した。
「うるさい民衆の口は閉じた。最後に言い残したことを聞いてやろう」
クロイツは小さく首を振る。
涙を必死に堪え……そして、笑った。
最後の死ぬ時までクロイツのナルシスト気質は衰えることはなかった。
「クックック……そうか。なら、民衆から最後の言葉を受け取るがいい」
凛とした静寂の中、僕は指を鳴らして民衆の拘束を解いた。
「王様! ダメです! 僕が代わりになります!」
「みんなのために生きてください! また、私たちを導いてください! 私が代わりになります!」
「王様——」
「王様——」
・
・
・
クロイツが必死に涙を堪えて作っていた笑顔が歪む。
もう止められないといった具合に両目から涙が溢れては流れ出していた。
やがて、言葉では飽き足らず、民衆は断頭台に手をかけ、クロイツにかけられた枷を外そうと動き出す。
「やめろ……やめてくれ……せっかく私がみんなのために……これじゃあ……」
クロイツのか細い声は民衆には届かない。
民衆の意思によって、クロイツの願いはかき消されようとしていた。
「クックック……節操のないクソどもめ……」
民衆の力程度で断頭台の拘束が解けることはない。
やがてその頑丈さに気づき、今度は僕に容赦を願い出る始末だ。
「魔王様、お願いです! どうか王様を助けてください! 私の命でどうか!」
「魔王様! お願いします! 王様を、私の命で!」
「魔王様——」
「魔王様——」
・
・
・
殺してくれと、僕に願い出る人間ども。
そんなに言うなら、死をくれてやろう。
……死ね。
人間は皆殺しだ。
僕は足に縋る女性の頭を踏み潰した。
そして、その女性に驚いている男の首を切断した。
恐怖に叫ぶ老婆の頭を殴り、殺した。
腰を抜かした少女を蹴り殺した。
それでも殺してくれと額を擦りつけて願う少年を空高く蹴り飛ばした。
落下地点にいたおばさんが抱き留めようとしたせいで、勢いに潰されて死んだ。
僕はとても気分が良かった。
ようやく解放された渇望が現実となり、気づけば野太刀を手に民衆を斬り殺していた。
「あはっ! あははは!! 死ね!! 死ね!! 死にたい奴は前へ出てこい! クソども! あーっはっはっはっは!!」
白いローブが返り血で真っ赤に染まる。
阿鼻叫喚の中、甲高い僕の笑い声が響いていた。
野太刀を一振りすれば、数十人の命が消えていく。
楽しくなって、もう一振り。
ブンブンと乱暴に野太刀を振れば、気づいたころには殺してくれと願い出た人間は粗方殺してしまったようだ。
「はぁ、はぁ、ヒヒヒ……もう終わりか? まだ死にたい奴はいないのか!?」
僕の叫びに応じる者はもういない。
仕方なく断頭台を見れば、バルコニーにいた兵士がクロイツを守るように隊列をなしていた。
「なんだよそれ……僕に勝てるとでも思っているのか?」
よく見れば、兵士の手に武器は握られていなかった。
なにも言わずに立っているだけの兵士たち。
僕は仕方なく野太刀を隊列に向かって放り投げる。
前にいた兵士が一人、心臓を貫かれて倒れ込んだ。
それでも、彼らは武器を持たず、隊列を崩さなかった。
僕はゆっくりと兵士の前まで歩み寄り、手の届く範囲まで近づくと、野太刀を拾い上げて目の前にいた兵士を順番に斬り殺していく。
なんの抵抗もせずに、ただただクロイツの目の前で死んでいく兵士たち。
王を守る勇敢な兵士たちを全て斬り殺したころには、僕は返り血で真っ赤に染まっていた。
笑っていたと思う。
だって、とても気持ちがよかったから。
しかし、そんな浮かれた気持ちはクロイツの表情を見てどこかへと行ってしまう。
なぜなら、クロイツが笑っていたから。
「……なぜ笑っている」
「やはり、私の考えに間違いはありませんでした」
「……なにが言いたい?」
「魔王様はとても強く、そして……とてもお優しい方です」
「は? ふざけたことを——」
「——だって……」
クロイツは僕の言葉を遮り、さらに口角を上げる。
「願い出ていない者は殺していないじゃないですか」
クロイツの笑顔が、僕を嘲笑っているかのように見えて、とても忌々しかった。
だから、僕は断頭台の刃を落とした。
呆気なく切り落とされて転がるクロイツの頭部。
それを見た断頭台の目玉が嬉しそうに蠢いていた。
断頭台を見たリッカが思わず僕に尋ねた。
「ん? もっと違う殺し方の方が良かったかな?」
「そういう意味じゃなくて、王様ルーシェに言われたことを達成するためにすごく頑張ったんだよ? みんなと一緒に魔族にしてあげてもいいんじゃない?」
「私からもお願いします。王様はとても一生懸命に頑張ってました。ルーシェのことをとても好意的に思っていると思います」
リッカだけでなく、フェリも前王の処刑に待ったをかける。
僕は二人を見据えていた視線を、拘束しているクロイツへと向けた。
二人の会話を聞いていたクロイツの反応は特になく、ぼーっと断頭台を見上げていた。
「おまえたちは人間を擁護するのか?」
低く、沈んだ声になってしまった。
その声を聞いて、二人の肩が少し跳ねたのが見えた。
「擁護っていうか、殺すこともないかなって」
「私も、きっとルーシェのために尽くしてくれると思います」
緊張しているのか、二人の声色が少し震えている。
「ふざけるな! 僕はおまえたちがこんなことを言い出すためにここへ仕向けたんじゃない! クソ忌々しい人間どもを殺すためだ! それがどうして人間側に回っているんだ!」
二人は張り上げた僕の声に驚き、今にも泣きそうな感情を押さえ込んでいるようだった。
「だって、王様はルーシェに逆らうこともしないで、自分が処刑されるって知っていながらも、国民を守るために一生懸命頑張ったんだよ! ルーシェの言うクソみたいな人間にはできないよ! この国の王様はいい人間だよ!」
「そうです! この王様は自分の地位も名誉も財産も全てを放棄してルーシェの要求を受け入れたんです! そして、今、自分の命すら国民のために投げ出そうとしています! そんな人を殺していいはずがありません!」
僕の威圧に負けじと声を張り上げて二人が反論する。
この王様がクソどもとは少しばかり違うことはわかっている。
そして、愛する二人の要望だったとしても、僕の心には押さえきれない怒りが生まれてきていた。
「おまえたち! ふざけるのも——」
「——待ってください!」
静かに聞いていた民衆から、僕の声を遮る声がした。
その声の主を見れば、幼い少年が円を乱して駆け寄って来ている。
やがて、断頭台を過ぎて僕の前まで来ると、頭を地に擦りつけて意見を述べた。
「僕は! 前の王様の時、僕はお金がなくて、生きるのも大変で、だから、盗んだ物やお金で生活していました! 僕は魔王様の嫌いなクソみたいな人間です! でも、この王様はそんな僕を咎めるどころか、犯罪を犯さずに生活できる場を作ってくれたんです! 感謝してもしきれません! 僕は王様に救われました! だから、殺すなら、殺すなら僕を殺してください!」
突然のできごと過ぎて唖然としてしまう。
この少年は、まさか王の代わりになれるとでも思ったのだろうか?
王様よりクソみたいな人間だから、代わりに殺してくださいだと?
なぜそんな暴論が通ると思ったのか?
「おい、言っている意味がわからない。顔を上げろ」
少年が顔を上げれば、涙と埃で顔はひどく汚れていた。
「僕は、王様よりダメな人間です。王様なら魔王様の力になれるはずです。僕を代わりに殺してください」
幼いながら必死に考えたのだろう。
しかし、そんな話じゃ王の代わりにはならない。
だが、死にたいのなら殺してやろう。
「そうか、なら死——」
「——ダメ!」
少年に歩み寄る僕の前に、リッカとフェリが立ちふさがる。
二人は少年を守るように大きく手を広げていた。
「おまえたち……いったいどういうつもりだ!!」
「ダメ! ダメったらダメだもん!」
「ルーシェ、考え直してくだだい! こんなの、間違っています!」
「ふざけたことを……一緒に死にたいとでも言うのか? そうか……クックック……ああ、そうか……それなら——」
「——魔王様。何をしているんですか。早く私の処刑を済ませましょう」
「あぁ?」
二人との会話を遮って、今度はクロイツが笑顔で僕に話しかけた。
こいつはなにがそんなに面白くて笑っているのか?
こんな時に笑えるなんて、処刑される人間とは思えない。
頭のネジがぶっ飛んでいることは確かだろう。
「なにがおかしい」
「え? ああ、すみません。命をかける身としては、誇りに思うようなことばかりが起きて光栄だったものですから。自然と笑顔になってしまったようです」
「は? 誇り?」
僕たちの仲間割れを見て笑っているのかと思えば、自尊心をくすぐられたナルシストだった。
「はい。私は圧政に苦しんでいたこの国の国民を救いたくて前王を打ち倒しました。私が救った国民は、とても誇らしい人間ばかりです。こんな幼い少年が、私のために命を投げだそうとしている。そして、この子が私に救われたと言ってくれて、私はとても嬉しく思いました。
そして、そんな国民を、僕はまた救える機会に恵まれた。嬉しい限りです」
僕はその屈託のない笑顔に圧倒されていた。
ねじ曲がった曲解にも程がある。
目的が国民を救うことであり、それが達成できれば命も惜しくないと言っている。
自身の命がとても軽い王様。
しかし、それは、同時に……
「私を代わりに処刑してください!」
「足りないなら、私も処刑してください!」
「僕もお願いします!」
「王様はこの国に必要な人です! 私を代わりに処刑してください!」
「王様には返しきれないほど私たちは救われてきました! 私たちが代わりになれるなら、魔王様、お願いいたします!」
民衆が騒ぎ出す起爆剤となってしまったようだ。
堰を切ったように断頭台の前へと民衆が集まってくる。
王様の代わりに殺してくれと願い出る国民たち。
それはとどまることを知らずに、大勢の死にたい人間が集まってしまう結果となった。
「クックック……ヒヒヒ……そうか、そんなに死にたいのか……」
僕の声は誰にも届かない。
殺してくれと願う民衆の怒号によってかき消されてしまった。
ふと、クロイツのの方へと目をやれば、呆けた顔で口を開け涙を流していた。
またナルに浸っているのだろうか?
僕はそんなクロイツに虫唾が走り、乱暴に引き寄せ断頭台へと添えた。
突然のことに民衆が息を飲む。
訪れた一瞬の静寂を機に、僕は民衆の声を出せなくする。
そして、僕は断頭台に平伏すクロイツの目の前まで移動した。
「うるさい民衆の口は閉じた。最後に言い残したことを聞いてやろう」
クロイツは小さく首を振る。
涙を必死に堪え……そして、笑った。
最後の死ぬ時までクロイツのナルシスト気質は衰えることはなかった。
「クックック……そうか。なら、民衆から最後の言葉を受け取るがいい」
凛とした静寂の中、僕は指を鳴らして民衆の拘束を解いた。
「王様! ダメです! 僕が代わりになります!」
「みんなのために生きてください! また、私たちを導いてください! 私が代わりになります!」
「王様——」
「王様——」
・
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・
クロイツが必死に涙を堪えて作っていた笑顔が歪む。
もう止められないといった具合に両目から涙が溢れては流れ出していた。
やがて、言葉では飽き足らず、民衆は断頭台に手をかけ、クロイツにかけられた枷を外そうと動き出す。
「やめろ……やめてくれ……せっかく私がみんなのために……これじゃあ……」
クロイツのか細い声は民衆には届かない。
民衆の意思によって、クロイツの願いはかき消されようとしていた。
「クックック……節操のないクソどもめ……」
民衆の力程度で断頭台の拘束が解けることはない。
やがてその頑丈さに気づき、今度は僕に容赦を願い出る始末だ。
「魔王様、お願いです! どうか王様を助けてください! 私の命でどうか!」
「魔王様! お願いします! 王様を、私の命で!」
「魔王様——」
「魔王様——」
・
・
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殺してくれと、僕に願い出る人間ども。
そんなに言うなら、死をくれてやろう。
……死ね。
人間は皆殺しだ。
僕は足に縋る女性の頭を踏み潰した。
そして、その女性に驚いている男の首を切断した。
恐怖に叫ぶ老婆の頭を殴り、殺した。
腰を抜かした少女を蹴り殺した。
それでも殺してくれと額を擦りつけて願う少年を空高く蹴り飛ばした。
落下地点にいたおばさんが抱き留めようとしたせいで、勢いに潰されて死んだ。
僕はとても気分が良かった。
ようやく解放された渇望が現実となり、気づけば野太刀を手に民衆を斬り殺していた。
「あはっ! あははは!! 死ね!! 死ね!! 死にたい奴は前へ出てこい! クソども! あーっはっはっはっは!!」
白いローブが返り血で真っ赤に染まる。
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野太刀を一振りすれば、数十人の命が消えていく。
楽しくなって、もう一振り。
ブンブンと乱暴に野太刀を振れば、気づいたころには殺してくれと願い出た人間は粗方殺してしまったようだ。
「はぁ、はぁ、ヒヒヒ……もう終わりか? まだ死にたい奴はいないのか!?」
僕の叫びに応じる者はもういない。
仕方なく断頭台を見れば、バルコニーにいた兵士がクロイツを守るように隊列をなしていた。
「なんだよそれ……僕に勝てるとでも思っているのか?」
よく見れば、兵士の手に武器は握られていなかった。
なにも言わずに立っているだけの兵士たち。
僕は仕方なく野太刀を隊列に向かって放り投げる。
前にいた兵士が一人、心臓を貫かれて倒れ込んだ。
それでも、彼らは武器を持たず、隊列を崩さなかった。
僕はゆっくりと兵士の前まで歩み寄り、手の届く範囲まで近づくと、野太刀を拾い上げて目の前にいた兵士を順番に斬り殺していく。
なんの抵抗もせずに、ただただクロイツの目の前で死んでいく兵士たち。
王を守る勇敢な兵士たちを全て斬り殺したころには、僕は返り血で真っ赤に染まっていた。
笑っていたと思う。
だって、とても気持ちがよかったから。
しかし、そんな浮かれた気持ちはクロイツの表情を見てどこかへと行ってしまう。
なぜなら、クロイツが笑っていたから。
「……なぜ笑っている」
「やはり、私の考えに間違いはありませんでした」
「……なにが言いたい?」
「魔王様はとても強く、そして……とてもお優しい方です」
「は? ふざけたことを——」
「——だって……」
クロイツは僕の言葉を遮り、さらに口角を上げる。
「願い出ていない者は殺していないじゃないですか」
クロイツの笑顔が、僕を嘲笑っているかのように見えて、とても忌々しかった。
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