みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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北の大陸蹂躙

北の大陸 クザン・ヘレ・フローテside ー クザンの苦悩2

 受付の人に馬車が欲しいと言うと、後ろに声をかけて髭を生やした中太りの男を呼んだ。
 その男に商談テーブルへ案内されて席につけば、馬車の大きさやら馬の手配やら細かい話をしてくれたのだが、三人ともその手のことに明るくないこともあり、要望だけ告げて全部を任せることにした。
 料金は前金をきっちり取られ、馬車の手配が済んだら残りの半分を支払うということになった。
 ついでに今日の宿も手配してもらおうとお願いしたところ、それならと商会が運営している隣の宿泊施設を勧められた。
 聞けばこの街ではそこが一番豪華な宿泊施設らしい。もともと、商談を円滑に行う目的で建てたものらしいが、商売が繁盛するにつれて豪華な宿泊施設へと変貌していったそうだ。

 そして、商談が終わると男は不思議な形をした木製の板を取り出し、メモとともに差し出した。これを宿泊施設のカウンターに出せば、特別料金で泊まれるそうだ。
 俺たちは男に礼を告げて宿泊施設へと向かった。

「熱心な方でしたね」

「でも、少し話が長すぎます。疲れてしまいました」

 フローテは今の環境にもだいぶ慣れてきたようで、あのころの性格が見え隠れしていた。

「名前はラタンだったか。受け渡しの時にもう一度会わなきゃいけないから覚えておかないとな」

「え? タランじゃなかったですか?」

「もう、二人ともちゃんと聞いておかないとダメじゃないですか」

 珍しくフローテが真面目な物言いをしている。
 あの男の長話をしっかり聞いていたらしい。

「あれ、違ったか? すまん、フローテ教えてくれ」

「なに言ってるんですか? 私が聞いているわけないじゃないですか。つまらない話が長すぎて途中から全く聞いていませんでしたわ」

「……あいつが名を名乗ったのは最初だ」

「なら、もうその時点で聞いてませんでしたわ」

「……」

 少しでも感心した自分が馬鹿だったと後悔する。
 考えてみれば、今旅をしているのは元お姫様と記憶を失った神様だ。
 一般常識が通じる相手ではない。
 自分がなぜこのチームに配属されたかを改めて痛感した出来事だった。

 そんなやり取りをしながら商会を出れば、高い塀に囲まれた屋敷のような宿泊施設へとすぐに到着した。
 馬車がそのまま入れるようで、ラタンだか、タランだかが、その宿宛に馬車を持っていくと言っていたのも頷ける。

 俺たちは馬車が行き交う中を徒歩で入り口まで目指す。
 フローテは馬車に抜かれる度に不機嫌そうな顔をしていた。
 そんな心落ち着かない道中も終わり、施設へと入る。
 そして、フロントの人に男からもらった木の板を渡した。

「少々お待ちください」

 そう言ってカウンター下からゴソゴソとなにかを探して取り出せば、その木の板と取り出した木の板とを重ね合わせる。
 すると、変な形同士がピッタリと合わさり、一枚の板となった。
 どうやら渡された変な形の板は割符だったらしい。

「はい、確かに。タタンからの紹介ですね。えーと、今回の宿泊代ですが……一般室は無料でお泊りいただけます。また、その他の部屋は半額でのお承りとなります」

 俺たちの馬車を手配してくれたのは、ラタンでもタランでもなく、タタンだった。

「では一番上等な部屋をお願いします」

 タタンの名前に気を取られていると、横からフローテがしゃしゃり出てきた。
 こともあろうか一番上等な部屋を要求している。

「ただ今ご案内できる一番上等な部屋というと……ロイヤルスイートが一室だけ空いております。料金は、一泊金貨100枚となっておりますが、その半額の50枚でお泊りいただけます」

 たった一泊で金貨100枚もする部屋とはどんなものなのだろうか?
 そんな高級な部屋なのに、紹介状のおかげで金貨50枚もの割引をしてくれるらしい。恐るべしタタン。
 しかし、そうは言っても寝るだけなのにその部屋を取る必要もないだろう。
 一般室で十分事足りる。
 しかし、そんなことを思っているのは俺だけだったようだ。

「金貨50枚も安く泊まれるなんてタタンさんは凄いです!」

「タタンさんには感謝しないといけませんね」

「……え? いや、一般室でいいんじゃ——」

「——では、そこでお願いします」

「はい、ありがとうございます」

 俺の言葉も虚しくフローテは金貨の入った袋をフロントへと差し出した。
 金は腐るほどあるから問題ないのだが……まあ、この二人の感性からすれば仕方ないことなのだろう。
 咎めるのも面倒なので、女性二人の意見を尊重することにした。
 それに、こんな機会はまたとない。
 自分も興味がないわけではないので、泊まると決まれば、どんな部屋なのか結構楽しみに感じていた。

 そして、フローテはフロントの人と話し終わったようで、案内係が挨拶に来た。

「当ホテルにようこそ。それでは、ご案内いたします」

 ビシッと決めたホテルマンが深々とお辞儀をする。
 金貨50枚ともなるとこんなサービスが受けられるらしい。

 ホテルマンに連れられていく二人の後ろを歩いていると、俺と目があったホテルマンが歩みを止めて目の前まで来た。

「……あの、お連れ様は別の部屋をご用意していますので、フロントにて鍵をお受け取りください」

「あ? 一緒じゃないのか?」

「はぁ……クザン様、異性と同室するおつもりですか?」

「あ……え? あぁ、そうか。そうだな。それはまずいか」

「もう、びっくりしましたよ」

 ヘレがほっと胸をなでおろしている。
 生まれてこのかた異性に気を使ったことなんてないので全く気がつかなかった。

「はは……悪い。で、俺の部屋ってのは?」

「先ほどご自分で一般室と言っていたじゃないですか。そのとおりにお取りしておきましたので、フロントで鍵をもらってください」

「お……そうか。おお、わかった。じゃあ、明日は……朝迎えに行けばいいか?」

「いえ、わざわざお越しいただかなくても、フロントに話を通していただければ、ロビーまで降りてきますので大丈夫ですよ」

「そ……そうか。わかった。じゃあ、今日はゆっくり休んでくれ」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみなさい、クザンさん!」

「ああ、おやすみ……」

 笑顔で手を振り二人を見送る。

 フローテと二人きりにするのはどうかとも思ったが、あのころのフローテとは別人だから大丈夫だろう。
 そもそも、なにかあっても俺がフローテをどうこうできるわけじゃない。
 エルフの里じゃ敵無しだったはずなのに、魔王様と出会ってからというもの、とんだ役立たずに成り下がってしまったようだ。

「はぁ……」

 二人の姿が見えなくなると、深い溜息が出た。

 ……ミラは今ごろどうしているだろうか?

 役に立てない不甲斐なさから、エルフの里が恋しくなる。
 しかし、威勢よく啖呵を切って里を出てきた手前、おずおずと帰るわけにもいかなかった。

 なんとも言えない侘しさが、クザンの背中を丸めていた。
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