みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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北の大陸蹂躙

北の大陸 クザン・ヘレ・フローテside ー 血に染まる街

 ***

「お頭! お頭!」

「なんだ騒々しい」

「寝てる場合じゃないですよ! ガットの野郎がエライもん持ってきましたぜ!」

 頭と呼ばれた男は頭を掻きながら起き上がった。

「なんだよそのエライもんってのは」

「でっけぇ馬車と、金貨と、美女二人に食料です! 俺らの十年分の稼ぎをぶん捕ってきたみてぇです」

「なに寝ぼけたこと言ってんだ。あいつはジジババ脅して金巻き上げる程度が関の山の下っ端だろうが」

「それが本当なんですって! 足が着く前に捌かないと取りっぱぐれちまいますぜ!」

「あー、わかったよ。ったく。こんな朝早くから起こされてチンケな物だったら許さねぇからな!」

「そこは大丈夫です! まあ見てください」

 頭と呼ばれた男は、不機嫌な態度でベッドから降り立ち、調子のいい子分について行く。
 根城にしている炭坑跡を出れば、そこにあった馬車を見て大きく目を見開いた。

「おい……おいおいおいおい、こりゃすげぇな。こんなもん貴族だって持ってねぇぞ! 売ったらいくらになるのか……ハハッ! パねぇな!」

「驚くのはまだ早いですぜ! 中を見てください。美女二人は薬で眠らせてあります。すげぇ上玉ですから!」

「おう」

 御者台をよじ登って中を見れば、二人の美女がスヤスヤと眠っていた。

「おお……マジか! こんな美人見たことねぇよ! この二人を売ったら馬車なんか比じゃねぇくらいの大金稼げるぜ! それに、食料もいいもん揃ってんじゃねぇか! おい! 金貨はどこにやった」

「こっちです!」

 声のした荷台の後ろへと回り、子分が持っていたデカイ革袋を見れば、金貨が半分以上詰まっていた。

「うはっ! こいつもパねぇな! 500枚はありそうだ。こりゃ十年分以上あるんじゃないか? おい! ガットはどこ行った?」

 子分は岩肌に寄りかかって眠るガットを指差す。

「夜通し走って来たようなので寝かせました」

「そうか。後で労っておかねぇとな! っかー! こうしちゃいらんねぇ! 早速動くぞ! こんなもん早いとこ手放すのが賢い盗賊ってもんだ。貴族のいない街じゃ売れねぇから、シャーミッドまで走るぞ! 寝てる奴らは叩き起こせ! ドカンと稼ごうじゃねぇか!」

「へい!」

「ん? で、こいつは誰だ?」

 大金に目を奪われて気づかなかったが、すぐ横に見知らぬ男が寝そべっていた。

「あー、こいつはなんでも、ラージハル商会の娘が惚れている男らしいんですが、ガットの野郎が欲張って拐ってきたようです」

「ラージハル商会の娘がこんな男をねぇ……まあいい、なんかの役に立つかもしれねぇからな。連れてけ」

「へい!」

 子分は手際良く荷台へ男と金貨を乗せる。
 頭と呼ばれた男はギラつく眼差しで炭坑跡へと入っていった。


 ***


 バーン! と勢いよく扉を蹴破っり、俺は大声で叫んだ。

「おら! 出てこい! クソ野郎が!」

 御者の男を送り届けた家の中には誰もおらず、散らかった部屋には空の酒瓶が散乱していた。

「クソが! ふざけやがって……」

 棍棒を振り回して、当てつけのようにガンガンと家具を壊していく。
 どこにも隠れるようなところはなく、このボロい家には誰もいないようだ。
 宛が外れさらに怒りが蓄積されていく。
 失態を晒してしまった焦りで冷静な判断もできなくなっていた。
 もぬけの殻となった家を出て、棍棒を担いで街を歩く。
 大きな音を立てたせいで人だかりができていたが、誰もが道を譲るように左右へ散っていった。
 考えても奴の居場所はわからない。
 だれか知っていそうな奴から聞き出さなければならなかった。

「待て! あの家を壊したのは君だな!」

「ああ!?」

 どこか聞き覚えのある声に振り向くと、そこには仮面の変人がいた。

「おまえ……昨日の……ばあさんを助けた奴だな?」

「昨日? 確かに族に絡まれていたおばあさんを助けたが。なんで知っているんだ?」

「俺はその族にまんまと騙されて有金全部持って行かれたんだよ! 連れの女もろともな。おまえ……あいつがどこにいるのか知らねぇか?」

「そうだったのか。なら、顔を分け与えることはできないが、私が探すのを手伝おう! あの男は炭坑を根城にしている盗賊団の下っ端だ。あの手の輩は排除したところでいくらでも湧いて出てくるから見過ごしていたんだ。申し訳ない」

「ああ? なに言ってんだ? なんでおまえが謝るんだよ? 俺に喧嘩でも売ってんのか?」

「違う! 私が懲らしめていれば未然に防げたはずだった。それだけだ」

「グダグダ言ってんじゃねぇ!」

 怒りに身を任せ、変態めがけて棍棒を振るう。
 しかし、変態は軽やかに身を翻し、俺の攻撃をあっさりと避けた。

「落ち着け、今は頭に血が上っているのだろうが、私が来たからにはもう安心だ! 一緒に奪われたものを取り戻しに行こうじゃないか!」

「ふざけんな! もう人間なんざ誰も信じねぇよ! テメェみたいな変態ならなおさらだ! それに、俺はエルフで魔族だ。おまえが正義を唱えるってんなら俺は敵だからな!」

「エルフで魔族?」

「ああ、そうだよ」

「だからなんだ? 困っている人を助けるのにそんなことは関係ないだろう」

「けっ! 信じねぇってんなら好きにしな。だけど、俺はもう誰も信じねぇ! 炭坑跡ってのも一人で行くからオメェはいらねぇよ!」

 地を蹴って一気に間合いを詰める。
 変態めがけて横薙ぎに棍棒を振り、未来予知で見た変態の行動を先回りして更に棍棒を振るう。

「ぐはっ!」

 予期しない俺の動きについてこれず、棍棒が変態の脇腹に直撃した。
 吹っ飛んだ変態は建物の壁に当たりだらりと項垂れる。

「雑魚が調子に乗るな! おい、おまえら、盗賊が根城にしてる炭坑跡ってどっちだ?」

 野次馬に向かって睨みを利かせる。
 恐る恐る野次馬の一人が指を指したのは、お使いの目的地とは反対方向だった。

「ちっ、逆方面かよついてねぇ」

「待て……一人じゃ危険だ!」

 項垂れていた変態は、脇腹を押さえながら壁に寄りかかって立ち上がった。
 この期に及んでまだ正義のヒーローを演じている。

「ああ? やっぱりおまえ、俺のこと馬鹿にしてんだろう? 俺は魔王様の配下なんだ。テメェの助力なんざ要らねーよ。いっぺん死んどくか?」

「ハハ、私は前世で一回死んでいるんだ。笑えない冗談だね」

「わけわかんねぇことばかり言いやがって……死ねよ!」

 壁に寄りかかる変態めがけて棍棒を突く。
 受け止めるように出した手は弾かれ、変態の腹に棍棒が突き刺さった。

「ぐふっ……かはっ!」

 内臓をやられたようで、勢いよく口から地を吐く変態。
 仮面を伝って変態の血が赤い服をさらに赤黒く染める。
 そして、トドメの一発を脳天へと打ち込めば、鈍い音と共に変態は息絶えた。

「へっ……ははっ……なんだよこれ……死にやがった。あっはっはっは……魔王様はこんなに気持ちいいことしてたのかよ……たまんねぇなぁ」

 人間を殺して狂ったように笑い出す大男。
 集まった観衆の足は地に張り付いたように動かなかった。

「あーなんだこれ……今ならなんでもできる気がする。これは……あれか? 魔王様が使ってる技だな。なんで俺が使えるんだ?」

 なぜだか観衆をこの場に張り付けている感覚が流れ込んできていた。
 逃げ出そうと必死にもがく観衆一人一人の感覚までもが流れ込んでくる。

「ああ……ウザってぇ……死ね!」

 民衆の一人を押し潰すよう念じてみれば、ゴキゴキと鈍い音を立ててありえない方向に体が曲がっていく。
 なんの抵抗もなく、ただ念じるだけで潰されていく人間を見ていると、先ほど感じていた喜びが増幅されていくのを感じた。

「ヤベェ……止まんねぇよ……これ、魔王様と同調してんじゃねぇか?」

 思念だけで潰れていく人間を見てしまえば、後はもう、思うがままに観衆を潰してしまっていた。
 人間を殺す度に溢れでるとてつもない高揚感は、感情を操作されていたころの何倍もの気持ち良さで埋め尽くされていた。
 そして、集まった野次馬を全て殺し尽くした時に気がつく。
 魔王様は人間を殺すとき、絶望に叩き落としてから殺していたことを。
 それも、ただの絶望じゃなく、自分の行いを後悔させるように殺していた。
 そうすればきっと、ただ殺す以上の高揚感を得ることができるだろう。
 俺をハメた人間どもには後悔させてやらなければならない。
 せっかく人間ともわかり合おうとしていたのに、そんな俺を最悪の形で裏切ったんだ。


 そうだ……人間どもは皆殺しだ。


 ようやく魔王様と同じ感覚を得て、その言葉の意味を知った。
 こんな奴らは生きていちゃいけないんだ。
 殺し尽くさなきゃならない。
 魔王様から授かったこの力がなによりの証拠だ。
 俺にこの街の人間を殺し尽くせと言っているんだ。

「ククク……盗賊か。哀れだな。俺が探し当てなくても、こんなことしたら魔王様が黙っているわけねぇじゃねぇか……だって……こんなに気持ちいいんだ。魔王様が殺さないわけがない……」

 薄ら笑いを浮かべて、安易な行動に移った盗賊を哀れむ。

 そして、前を塞ぐ死体を踏み潰せば、夕暮れに染まった街を血の色に染めるための蹂躙が始まる。
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