みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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北の大陸蹂躙

盗賊が手に入れたのは絶望を運ぶ馬車

 ***

「なんとか昼までに着きましたね!」

「ああ、早いとこ売り抜けねぇとな!」

 王国内を練り歩く盗賊一行。
 彼らは以前商人から奪った通行手形とそれっぽい服を着てまんまと王国内に忍び込んだ。
 今まではそれらしい売り物がなかったために入れなかったのだが、今日は堂々と入ることができた。
 内情は把握していたため、持ってきたものを全て受け入れてくれるような裏店に持っていく。
 多少足元を見られたとしても、盗品だろうが安全に売買することが可能だ。
 迷うことなく目当ての店まで着けば、裏口から入って闇取引だ。
 ドアを開けて中を覗けば、不機嫌そうに店主が睨みを利かせる。

「見ない顔だな。どうやってここを知った」

 まず警戒されてしまうのは仕方ない。
 しかし、この場所を知っているというだけで第一関門は突破したことになる。
 この情報は襲った商人から仕入れたネタなので、上手いことはぐらかす。

「道行く商人から紹介されたんだ。俺たちみたいな奴からでも買取をしてくれる店だって聞いてな。ちょっと寄ってみただけさ」

「商人からこの場所を? ふん、まあいい。外にあるどれを買い取って欲しいんだ?」

 素っ気ない態度で店主は話を進める。
 ここから外は見えないはずなのに、なぜそんなことが言えるのだろうか? 当てずっぽうと決めつけるには尚早であるが、特に追求しなくても大した問題ではない。
 いちいち疑問を潰していく暇はないので、店主の話に合わせて進めることにする。

「馬車ごと中身全部だ」

「女もか?」

「ああ。あんな上玉見たことねぇ。いたずらはしてないから、もしかしたら掘り出し物かもしれねぇぞ」

「……そうか。いくら欲しい」

 出た。
 指値を要求するということは、恐らく相当な値段なのだろう。
 ここで日和った回答をすれば、たちまち安値で買い叩かれてしまう。
 こういう場になれていない奴がやってしまいがちな誘導尋問だ。

「金貨1万ってのはどうだ?」

「馬鹿言え。帰れ」

「いいのか? こんなチャンス滅多にないぞ」

「うまい話にリスクはつきものだ。1000枚でも多いくらいだからな」

「5000! これで買い取っちゃうくれねぇか?」

 じろりと店主が睨みを利かせれば、フンと鼻を鳴らす。

「2000だ」

「3000!」

「2500」

「売った!」

 二の句を告げようとしていた店主が調子を狂わされて顔を上げる。
 俯いてなにかを考えていたようだが、一息つくと口角を上げてニヒルに笑う。

「……まあいい。持ってけ」

 店主はカウンターに金貨500枚入りの袋を5つ置いた。
 これを受け取れば売買成立だ。

「へへ。時は金なりってね。また頼むぜ」

 フンとまた鼻を鳴らしてそっぽを向く店主。
 だが、満更でもない店主の横顔を見て満足する。なぜなら、これでなにを盗んできたとしても、金に変える当てができたからだ。
 デカイ盗みをしたとしても、足が付くことなく売り捌ける。
 今より未来に投資できた恩恵は後々効いてくるだろう。
 かなり買い叩かれた感は否めないが、後々のことを考えれば笑みが溢れてしまう。
 カウンターに置かれた袋を子分たちに持たせ、店主に一声掛けるとすぐに店から出た。

「良かったんですか? 2500枚じゃ十年分どころか五年分くらいにしかなりませんよ?」

 走りながら子分が不服そうに嘆いた。

「いいんだよ。十年分なんてのは市場価格だ。半値程度で買い取ってくれただけ良心的な店さ。これで俺たちの盗みを帳消しにしてくれるってんだから安いもんさ。それに、今後はデカイ山でもここに来りゃ買い取ってくれるんだ。投資だよ、投資」

「でも……なんだか損した気分ですぜ」

 共に走るもう一人の子分も納得いかないようだった。

「あー、わかったよ! なら、今日おまえらには500枚を分けるから、パーッと使え。後のやつは活動資金として取っておく」

「マジっすか!」

「ああ、大マジだよ。パねぇだろ?」

「うぇーい! やったぜ!」

「今日は飲み明かすぞ!!」

「はは! まだまだ金の当てはあるからパーっとやれや。帰ったらあの男を使ってラージハル商会から金をせびらないとな! はっはっは!」

 不満気な子分たちを分け前で宥め賺し、意気揚々と待機場所まで走る。

 しかし、そう簡単に事は運ばなかった。

 なぜなら、馬車で待機していた者たちと合流してさっさとズラかろうとしたのだが、馬車が置いてあった場所にはなにもなかったからだ。
 そう、文字通り、馬車も子分も皆消えていた。

「な……なんだこりゃ」

「誰もいないですね」

「やられたんじゃねぇんですか?」

「ああ? あいつらが裏切ったってことか?」

「そうとしか……」

「ふざけんな! こっちはもう金を貰ってんだ。今更返すなんて……ん? な! なんだこりゃ!」

 突然のトラブルに慌てふためいていると、三人が立っていた場所がいつのまにか光始めた。
 光は地面から三人を照らし出すと、一瞬で景色が様相を変える。
 眩んだ目を開けてよく見れば、馬車と子分たちが目の前に姿を現した。

「クソ……どうなってんだ?」

 周囲を見渡せば、だだっ広い丘の上だった。
 めぼしい目印もなく、ここがどこだか見当もつかない。

「お頭!」

「あー! お頭が来てくれた!」

 待機していたはずの子分たちが頭を見つけて駆け寄る。

「お頭! よかった、もうどうしようかと思ってましたよ!」

「おい、ここはどこだ?」

「いや、それが、足元が光ったと思えば、こんなとこに飛ばされてて。ここがどこかなんてまったくわからなくて」

「おまえたちも同じか」

 状況を見れば子分たちがなにかを知っているなんてことはないだろう。
 これからどうするかを考えるも、とりあえずどこでもいいから街を探すしかない。
 金ならいくらでもあるが、食料は心許ない。
 この人数で馬車にある食料を分ければ、二、三日ってところだろう。

「おい、馬車にある食料を確認しろ」

「へい!」

 御者台に座っていた子分が幕を開けて中を確認する。
 すると、バン! と乾いた音と共に、まるでおもちゃを蹴り飛ばしたかのように子分が宙を舞った。
 地面を数回バウンドして転がり、子分の体はあり得ない方向に曲がった形で止まった。

「は?」

 驚きのあまりに二の句が出ない。
 いったいなにが起きたのかと理解が追いつかないでいた。

「どうもー。こんにちは」

 こんな状況で、素っ頓狂な声がこちらに向かって発せられた。
 どこからした声かと見回せば、幼い顔をした黒髪の男が荷台の幕から顔を出していた。

「お……おまえがやったのか?」

「え? ええ。だっていきなり覗くなんて失礼でしょ? 僕も不可抗力だったんですよ? 驚いて叩いちゃっただけですからね!」

 人が一人死んでいるはずなのに、まるでなんでもないことのようにふざけた面を見せる黒髪の坊や。
 いくら幼かったとしても 、イタズラじゃ済まされない。
 まして、盗賊の子分を殺したとなればなおさらだ。

 しかし、やり返そうにも体が拒否反応を示している。
 今すぐここから立ち去らなければ命はない。
 そう警笛を鳴らすかのごとく、小刻みな震えが全身を強張らせていた。

「そっ……そうか。そりゃ、わる——」

「——お頭! こいつ、ヤっちまいましょう!」

「このガキ、どうやったかは知らねえが、こっちはまだ九人もいるんだ。ぶっ殺してやる!」

「おい! ちょっとま——」

「「——うおあああ!!」」

 逆上した子分たちが一斉に荷台へと詰め寄る。
 誰もお頭の抑制に聞く耳を持たずして突っ込んで行ってしまった。

 どうするのかと荷台を見上げれば、幼い男は不気味な笑みを浮かべて幕の中に顔を引っ込めてしまった。
 それを追う止まらない子分たち。
 子分たちがが幕に手をかけ中に入ろうとすると、飛び込んだ奴らは荷台の後ろから地面へダイブする。

「ぐはっ!」
「ぐへっ!」
「ごはっ!」

 まるで喜劇のように全員がおり重なれば、今度は荷台の後ろの幕を開けて幼い男が顔を出した。

「ぷぷぷ、なにしてるんですか? 面白い人たちですねぇ」

「重い! どけ! この野郎! なにしやがった!」

「え? いや、僕にはあなたたちが自ら飛び込んで行ったようにしか見えなかったんですけどねぇ」

「ふざけんな! テメェ! 人を小馬鹿にしやがって……ぶっ殺す!」

 顔を真っ赤にして怒り狂う子分たち。
 その様子をとても楽しそうに幼い黒髪の男が眺めていた。

「クククク……そうだよーバーカ」

 ついに、子分たちをおちょくって遊んでいるのを隠そうともしなくなった。
 願わくば、気を良くして帰ってくれると嬉しいのだが……

「ざけんなぁ!!」

 またまた、馬鹿にされたと頭に血がのぼる子分たち。
 自分がなにをされたかもわからないのに、なぜ勝てると思えるのか?
 短絡的な思考回路では、到底思いつけない恐ろしさをこいつは持ち合わせている。
 そうでなければ、今まで起きた事象を説明できないからだ。

「はは……こりゃ、死んだかな」

 子分がしている行いを乾いた笑みで見届けることしかできなかった。
 これが人生最後の喜劇になるかもしれない。
 そんな現実逃避的な考えが脳裏を過ぎった。
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