みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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北の大陸蹂躙

キラキラ

 転移した先では、クロイツを囲んで会議をしている最中だった。
 国が大きく様変わりをしてしまったため、やるべきことが山積みになっているのだろう。

「魔王様!」

「やあ、忙しそうだね」

 クロイツが僕に気づいて声を上げる。
 こっそり部屋の隅へと転移して、クロイツの働きぶりを見ていたら気づかれてしまった。
 もう少し見ていたかったが、ヘレを置いて来ている最中のため、あまり遅くなるのもよくない。

「なにかあったのですか?」

「うん。じつは、この国にまた異種族が増えることになった。殺した人間はエルフにして転移させるけど、他の異種族は奴隷から解放して送り届ける。どうにかできるかな?」

「そうですか……どの程度の規模になりそうなのですか?」

「そうだなぁ……この国の国民の数より多いかな」

「え!? ちょ、ちょっと待ってください! それはいくらなんでも許容量を超えていますよ!」

 目ざといクロイツは国の状況を把握しているようで、サクッと見通しを計算してしまったようだ。
 クロイツがしっかりしているせいで、はい、わかりましたとはいかなかった。

「うーん。その辺はクロイツならなんとかできるんじゃないかと思っていたんだけどなぁ」

「いや、数日分の備蓄はありますが、食料が足りません! 節約したとしても持って数ヶ月でしょう」

 自分が食事を必要としないため、すっかり食料のことが抜けていた。
 まあ、足りないのなら滅ぼした国から持って来ればいいだろう。
 となると、住む場所も必要か。
 なんか面倒になってきた。

「わかった、じゃあ、滅ぼす国を隣に転移させるから上手く使ってくれ」

「え? 国を転移? ……え?」

「なんだよクロイツ、難しいことは言ってないだろー。クロイツが管理する範囲が増えるだけさ! 国ごと転移されば食料も住む場所も一気に解決だろ? それに、腕利きの商人も確保しておくから大丈夫さ!」

「え……えーっと……大丈夫なのでしょうか?」

 不安そうに顔をピクピクさせるクロイツ。
 不確定要素が多すぎて計算できずにパニックを起こしているようだ。
 あまり介入しないつもりだったが、クロイツの不安が強そうなので仕方ない。

「あーもう、わかったよ。じゃあ、ガーゴイル100体をクロイツのために置いておくから上手く使って! 言えばなんでもできるくらい賢いし、僕の命令なら絶対服従で安心だからさ」

「そう……ですか。あの、それで、転移はいつごろを予定しているのでしょうか?」

「んー? そうだなー。今夜中には終わるんじゃないかな?」

 僕が見通しを示すと、ガタンと音を立ててクロイツの椅子が後ろへと下がった。

「魔王様! こんな夜中に国が三つも増えたら大混乱です! せめて明日の朝まで待っていただきたい!」

 クロイツが目を剥いて声を張り上げた。
 ちょっとびっくりしたのは秘密だ。

「え? ダメ?」

「ダメです! なにも見えない暗闇の中でなにができるとお思いですか!?」

 クロイツの言っていることはもっともだ。やはり、殺すより、救うことは難しい。
 ただ、当面の目的であるクロイツに丸投げは達成できそうだ。なんだかんだやる気もありそうだし。

「クックック……言うようになったな、クロイツ」

「え? いや、その……そういうわけではなく……魔王様の要望をキチンと叶えたい……といいますか」

 魔王に向かって吐いてしまった言葉を省みて焦るクロイツ。
 威勢のよかった口から弱々しい言い訳が羅列されていった。

「なるほど。そこまで考えてくれていたか! いや、クロイツ。さすが僕が見込んだだけある。では、明日の朝までに必ずや三国を攻め落とし、アリフォールの周囲へと転移させよう! そして、そこにいるエルフたちは、神が選りすぐった優秀な者たちだ。おまえを困らせる奴などいないだろう。あと、奴隷にされていた者たちのこと、任せたぞ! じゃ!」

「あっ! 魔王さ——」

 困った表情をしていたクロイツを置いて、僕は天界へと転移する。
 きっと、クロイツは今夜も眠れない夜を過ごすことだろう。昨日と今日、二徹目に突入といったところだろうか?
 まあ、国を救ってあげたんだ。これくらいしてもらわなきゃ困る!

「やあルーシェ、話は聞いていたよ。もちろんオーケーさ!」

 場面遷移が終わると、サタン様が僕の転移場所に待ち構えていた。

「あ……ええ、お願いします」

「いいよ、いいよ。そんなに申し訳なさそうにしなくてもさ。長い間溜め込んでいた鬱憤を晴らすいい機会なんだ。じつはクセになりそうなほど楽しくてね! あの全能神が僕に恐れおののいている姿はとても気分がいい」

 いつになく饒舌になるサタン様。
 まるで、子供が笑うように楽しそうだった。
 全能神を顎で使うことなんて、きっと僕がいなければ実現しなかっただろう。
 もう少しこの新しいおもちゃを楽しんでいただきたい。

「あはは……それなら良かったです。お任せしますね」

「ああ、楽しみだよ。じゃあ、僕は全能神のところへ行くよ。奴は鼻が効くからね、逃げられると面倒だからさ」

「あはは……」

 そう言って、サタン様は僕に背を向けて、手を振り行ってしまった。
 僕は一人ポツンとフローテの部屋に取り残される。

「じゃあ……戻るか」

 一人になってしまったフローテの部屋で、僕はひっそりと転移した。
 そして、ラージハル商会へと戻れば、ヘレを囲んでお茶会が始まっていた。
 馬車の中で男の見張りを頼んでいたフローテもいる。ってか、男もいる。

「あの……なにをしているんだ?」

「あ、ルーシェ! ちょっとみなさんとお話ししていました。それで、聞いてください! ザンジさんは、いつも娘さんがお昼に取り立てに来ていたんだと勘違いしてたんですよ! なんで自分だけと悩んでいたみたいなんです」

 ヘレは僕を見つけると、まくし立てるように話し出した。
 しかし、楽しく話していたみんなの表情は強張ってしまっている。
 なんだか邪魔しているようで居心地が悪い。

「ちょっと待て。ザンジとは誰だ?」

「あ、この捕らわれていた人です!」

「あの……この度は、助けていただきましてありがとうございます……なんとお礼をしたらいいのか」

 馬車で寝ていた男が椅子から立ち上がり、物腰柔らかな態度で感謝を告げる。
 これから国落としをするというのに、なんとも場違いな雰囲気だ。

「……礼はいらない。命を差し出せ」

「はい。覚悟はできています。ヘレ様から詳しい話を聞きましたので」

 せっかくの魔王っぽい感じが台無しだ。
 この男の雰囲気に飲まれてしまいそうになる。

「……そうか。なら、令嬢はおまえが説き伏せろ。じゃなければ転生の話は無しだ」

「あの……私なんかが説き伏せられるでしょうか?」

「大丈夫です! きっとお嬢様はあなたと一緒にいたいはずです! 自信を持ってくださいザンジさん!」

「はぁ……わかりました。頑張ってみます」

 ヘレはニコニコとザンジを勇気付けているのだが、娘が本当にこいつを好きかどうかはわかっていない。
 これで勘違いだったら……でも、問題ないな。この男ならすんなりと受け入れるだろう。
 もし本当にこの男のことが好きなのなら、母性本能でもくすぐられたのだろうか?
 見た感じ甲斐性はなさそうだから、そうとしか考えられない。まあ……どうでもいいか。

「もういいか?」

 真っ直ぐなヘレの思いは伝わっただろう。
 早く三国を攻め滅ぼさなければいけないのだが、テンションの高いヘレに困惑されっぱなしだ。
 そろそろ切り替えていきたい。

「ええ! 悪い奴らをやっつけましょう!」

「ああ……でも、僕は魔王だからその言い方はどうかと思うぞ?」

「人間はみんな悪い奴らです!」

「あー、うん。そうだね」

「えへへ。ルーシェ、大好きです!」

「えぇ……」

 なにがどうしてそうなるのか?
 間違ってはいないのだが、主体性がないというか……いや、違うか、ヘレは自分の意思でこの男を……でも、なんかしっくりこないな……まあ、これが、恋は盲目というやつなのだろうか?

 僕が対応に困っていると、ヘレは少し悲しそうな目で僕を見つめていた。

「ルーシェはヘレのこと嫌いですか?」

「いや、好きだよ。大好きだ」

 そんな顔をしてそんなことを言われたら、否定しないわけにはいかない。
 ヘレはクザンのようにTPOをわきまえないところが玉に瑕だが、その純粋さは憎めない。

「ふふふ……よかったですね。ヘレ様」

「うん! ありがと、フローテ」

「……」

 僕は、見つめあって微笑む女子二人の雰囲気にのまれてしまっていた。
 この場だけ、キラキラとした異質な空間が形成されている。
 そんな恥ずかしい舞台の上で呆然と立ち尽くしているわけにもいかないので、そろそろ切り替えなければ。

 うん、人間は悪い奴。皆殺しだー!
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