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北の大陸蹂躙
ザンジのダンジョン攻略 スニーキングミッション
慣れた足取りでザンジは盗賊が眠る部屋へとたどり着き、静かに扉を開ける。
そのまま眠りこける盗賊に近づくと、腰にぶら下がっている鍵へと手を伸ばした。
ゆっくり、慎重に鍵を括り付けている紐を解き、優しく丁寧に抜き取った。
ちらっと盗賊の顔を覗き込み、寝ていることを確認する。
そして、音を立てないようそろそろと立ち上がり、足音を立てないよう静かに部屋を出た。
「ふぅ……」
ザンジは小さく深呼吸をして牢屋へと向かう。
へっぴり腰で歩く姿は滑稽だったが、盗賊を起こすことなく牢屋へとたどり着いた。
「ザンジ! 馬鹿! なんで戻って来るのよ!」
「あはは。やりましたよ、マーニャお嬢様。今開けますからね」
手に持った鍵を使って牢屋の鍵を開ける。
ガチャン! と、鍵が空いた音が坑道に鳴り響いた。
ザンジはあまりの音の大きさにビクッと肩を跳ねさせたが、そのままゆっくりと扉を開けた。
しかし、またしてもキィー! と、甲高い金属音が鳴ってしまう。
もう今となっては遅いので、ザンジは素早く動いて娘の手に結ばれた縄を解き、手を取って牢屋から抜け出した。
「もう! なんで私なんかのために! どうしてこん……ん!」
「しー……」
娘が声を荒げて不満を述べようとしていたので、ザンジは娘の口を手で塞いで喋らないよう促す。
意外と冷静なんだな、と関心して見ていれば、何事もなく盗賊の部屋の前までたどり着いていた。
静かにそこを通っている時、微かにいびきが聞こえて来る。
二人とも真剣な表情を浮かべて静かに歩いていた。
そして、いびきが聞こえなくなるまで遠ざかれば、ザンジは娘を一瞥して笑顔を作り小さく頷いた。
慎重な二人はその後も口を開くことはせず、黙々と出口へと向かう。
「んっ!!」
しかし、突然くぐもった小さな悲鳴が聞こえた。
それと同時に娘が映像から消える。
ザンジが振り向けば、そこには盗賊に捕まる娘の姿があった。
「んん!! んー!!」
「っち。調子に乗りやがって。俺を出し抜こうなんて甘ぇんだよ。残念だったな」
盗賊は娘の口を塞ぎ、ナイフを首元に添えている。
「お……お嬢様を離せ!」
「馬鹿じゃねえの? 返すわけねぇだろ。オラ! その腰にぶら下げているもんこっちによこしな」
「くっ……」
ザンジは言われるがまま僕が渡した剣を抜き盗賊に向かって放った。
「なんだ、ずいぶん物分かりがいいじゃねぇか。へへっ……ん? おまえ……どっかで……あ! おまえはもしかして、昨日拐ってきたって男じゃねぇか!? なんでおまえがここにいるんだ! 頭はどうした!?」
「……」
「おいおい、答えねぇってなら、この女ぶち殺すぞ!」
「魔王に殺されたんじゃないですかね? 私にもわかりません」
「魔王だぁ? テメェ、今が調子こいていい時だとも思ってんのか? おら!」
「んんん!!!」
口を塞がれた娘の肩にナイフが食い込む。
切られた痛みを訴えるかのように娘は声を上げた!
「お嬢様! やめてください! なんでもしますので、お嬢様には手を出さないでください!」
「へへ……ったりめぇだボケ! さっさと頭の居場所を吐きな」
「すみません。本当に知らないのです。私は魔王に助けられてここにいます。それ以上のことは気を失っていて見ていないのです」
「ああ!? なんだそりゃ。嘘をつくにしてももっとマシな答えがあんだろうよ! 話になんねぇな。もういい。どうせ、おまえはこの娘を釣る餌でしかねえからな。娘が手に入ったんだからおまえは用済みだ」
盗賊は娘を乱暴に床へと押し付け、手早く持っていた縄で手足を縛り、口に詰め物をして塞いだ。
「へへっ……おい、後ろを向けよ」
ザンジは言われたとおり盗賊に背を向けた。
「そのままうつ伏せになれ」
素直に従うザンジはこういった状況に慣れていないらしい。
盗賊が娘を殺すわけがないのだが、それがわからないのだろう。そんな無防備な状態になったら助かるものも助からない。
「よーし、動くなよ」
盗賊はザンジを踏みつけると、手と足を紐で縛った。
「ククク、ザマァねぇな。せっかく助けに来たってのに残念だなぁ!」
盗賊が思い切りザンジの腹部を蹴り飛ばし、仰向けにさせる。
「ぐふっ!」
「んんん!! んー!」
ザンジは横になって背を曲げ、苦悶の表情を浮かべていた。
その光景を見ていた娘はザンジに向かって声を上げるも、詰め物のせいでなにを言っているのか理解できない。
「うは! なに泣きそうになってやがんだよ。あ、そういやおまえ、この男のことが好きなんだって? あー、どうしよう。頭にバレたらドヤされっかもしれねぇけど、こりゃ我慢できねぇな。へへ……」
盗賊は下卑た笑みを浮かべて娘の背後に移動すると、娘を起こして座らせた。
「おい! こっち見ろ。いつまでも痛がってんじゃねぇよ」
ザンジは言われたとおり、盗賊の方へと顔を向ける。
「げほっ。やめろ……。マーニャお嬢様から手を離せ」
「おーおー、いいね、いいね。その感じだと、両思いなのかな? ヒャハハ! 冥土の土産にそこでじっくり拝見させてやっからよ! よーく見ておけよ!」
盗賊は娘の服の中に手を入れ胸を揉みしだく。
舌を出して娘の顔を見せつけるように舐めれば、驚いた娘は体を振って抵抗した。
「んん!! んんん!」
「やめろ! 私を殺せばいいだろう! お嬢様には手を出すな!」
「ヒヒ、そう言われると興奮するなぁ。なぁなぁ、好きな男の前で犯されるってのはどんな気分なんだ? あはははは!」
盗賊がナイフを手に取り、娘の首に添える。
ナイフが肌に触れた瞬間、娘は身を縮めて固まってしまった。
とうとう耐えきれなくなった娘の目からは涙が溢れていた。
そして、耐え切れなくなった者がもう一人……
「ルーシェ! もう我慢できません!」
「え? でも、僕が助けたらダメなんんじゃないの?」
顔を真っ赤にして怒るヘレは立ち上がって叫んだ。
敗色濃厚な状況であることは間違いない。
このままでは娘は犯され、ザンジは殺される。
わかってはいるのだが……
「そんなこと言うなら私が行きます!」
「えー。でもそれじゃ、ザンジの面目丸つぶれじゃない?」
「そ……そうかもしれませんが、このままじゃ……許せません!」
僕としてはザンジが盗賊にやられようが、娘が犯されようがどうでもよかったのだが、しかしながら、このままなにもしなければヘレの機嫌を損ねてしまいそうだ。
面倒だがヘレが喜ぶような形で、なにか手を打たなければならないだろう。
助けるのは簡単だが、それじゃ、ザンジの立つ瀬がない。
どうしようか気のない感じで考えていたら、なにやらザンジが動いていることに気づいた。
ザンジは芋虫のように体を動かして娘へと近づこうとていた。
「やめろ! やめてくれ!」
「なんだおまえ気持ち悪りぃな。こっちくんなボケ!」
盗賊はザンジの顔めがけて蹴りを入れる。
顔を思い切り蹴られ、横に飛ばされたザンジだったが、それでもなお、芋虫のように娘へと向かって地を這いつくばろうとしていた。
「へへっ、根性あんじゃねぇか。そんなにこの女のことが好きなのか? うへへ、いいねぇ、泣かせるねぇ!」
盗賊は嬉しそうにザンジの右足めがけてナイフを突き刺した。
そして、床に落ちていた剣を拾い、今度は左足に突き刺す。
「うぐぁあ!!」
「んん! ん! んんん!」
這いずっていたザンジの動きは止まり、足からは大量の血を流していた。
娘も地に伏して必死に這いずりザンジの下へ向かおうとしていた。
「あはははは! もうそいつは手遅れだぜ、血が流れ過ぎてるからな!」
「んんん! んんん!」
「マーニャ……お嬢様……」
映像が映し出す娘の顔は、這いずったせいで涙と土で酷く汚れていた。
二人はお互いを求めるように見つめ合う。
距離を縮めたところでなにができるわけでもないのに。
「……すみません。助けられなくて……でも、だいじょ——」
「——うるせぇんだよ!」
盗賊はザンジの話を遮り、またしても顔を蹴り飛ばした。
「んんん! んん! んんんん!」
娘は蹴られたザンジのところへ行こうと必死にもがいた。
しかし、盗賊に髪を掴まれて動きを止められてしまう。
「あーあー。綺麗な顔が台無しじゃねぇか。クソ! でもまあ……その顔は悪くねぇな。へへっ」
泣き腫らし、酷く弱々しい娘の表情を見てゴミクズは醜悪に喜んでいた。
そして、娘の髪を引っ張り、強引に仰向けにさせると、着ていた服に手をかけた。
しかし、まあ、これ以上はもう無理だなってことで、仕方なく手を貸してやることにした。
僕は時間を止めてザンジの下へと転移すると、ザンジだけ時の魔法を解いた。
「おい。仕方なく助けに来てやったぞ」
「魔王……様。あ……はは、すいません」
もうすぐ死ぬかもしれないのに、あいも変わらずこいつはヘラヘラと笑っている。
こいつには、今がどういう状況なのかを教えてやらなきゃならないらしい。
「……おまえが娘を説得できなきゃ転生の話はなしだって言ったはずだが……できるのか?」
「ああ……そうでしたね。精一杯頑張ってはみたんですがね……難しそうです」
気持ちではどうにかできない状況だということはわかるらしい。
「……それでいいのか?」
僕はなにを言っているのやら……できなかったのならそれで終いだろうに。
ヘレがいなければとっくに殺していたはずの二人なのに、無駄に気を使わなければならない状況にげんなりしていた。
「……あの、マーニャお嬢様だけでも……転生させていただけないでしょうか?」
「おまえはどうする」
「私は……魔王……様の言い付けを守れませんでしたので……」
もう少し薄汚い心を持っていれば心おきなく殺してやったものを……どこまでもお人好しなザンジの姿を見てチャンスをやることにした。
「はぁ……仕方ない。おまえには最後のチャンスをやろう。なに、簡単さ。僕を楽しませてくれればそれでいい。このクソ野郎を拷問にかけ、おまえの手で殺せ。傷は治してやる」
「え? でも……そんなことは……」
「できないなら、僕はおまえを殺して止めた時間を動かすだけだ。そうなれば、娘は死ぬまで犯され続けることだろう。もうこの辺一帯の人間は殺し尽くしたから、命ある限りこの娘はクソ野郎のおもちゃとして人生を過ごすことになる。それでもいいなら構わないがな」
ザンジの表情が曇る。
自分の力のなさを嘆いているのか、はたまた娘の今後を憂いているのか、どちらにしろゴミクズに情けをかけるようならこいつも同類だ。
助ける価値もない。
「ザンジ……即答しろ……最後のチャンスだ、このゴミを生かしておくな。わかったな?」
「はい…… 」
ザンジはこちらを見なかったが、小さく返事をした。
「クックック……そうだ、それでいい」
僕はザンジを起こし、傷を治してやった。
「ヒヒヒ……このゴミの処刑方法は……これだ。受け取れ」
傷が治って驚いているザンジに、僕は処刑道具を手渡した。
「これは……ノコギリ?」
「そうだ。このゴミは僕が張り付けておくから安心して首を切るんだ。できるだけゆっくりとやるんだぞ」
「わ……わかりました」
「クックック……大丈夫……最後はカッコつけさせてやるから……正直こんな温い茶番、退屈過ぎて辛いんだ。僕は人間の絶望が欲しい、苦痛に歪む顔が見たい、泣き叫ぶ悲鳴が聞きたいんだ。だって……僕は魔王なんだ、わかるだろう?」
僕の言葉を聞いて、ザンジのだらけた顔が引き締まる。
マイペースを気取っていたこいつの態度は正直気に入らなかったが、ようやく僕のことを理解してくれたようで嬉しい。
人間が僕を恐れないなんて許されるわけがない。
人間は魔王である僕に恐怖しなければ気が済まないんだ。
僕は人間にとって畏怖の対象でなければならない。
それが、魔王としてこの世界に訪れた目的であり、悲願であるのだから。
そのまま眠りこける盗賊に近づくと、腰にぶら下がっている鍵へと手を伸ばした。
ゆっくり、慎重に鍵を括り付けている紐を解き、優しく丁寧に抜き取った。
ちらっと盗賊の顔を覗き込み、寝ていることを確認する。
そして、音を立てないようそろそろと立ち上がり、足音を立てないよう静かに部屋を出た。
「ふぅ……」
ザンジは小さく深呼吸をして牢屋へと向かう。
へっぴり腰で歩く姿は滑稽だったが、盗賊を起こすことなく牢屋へとたどり着いた。
「ザンジ! 馬鹿! なんで戻って来るのよ!」
「あはは。やりましたよ、マーニャお嬢様。今開けますからね」
手に持った鍵を使って牢屋の鍵を開ける。
ガチャン! と、鍵が空いた音が坑道に鳴り響いた。
ザンジはあまりの音の大きさにビクッと肩を跳ねさせたが、そのままゆっくりと扉を開けた。
しかし、またしてもキィー! と、甲高い金属音が鳴ってしまう。
もう今となっては遅いので、ザンジは素早く動いて娘の手に結ばれた縄を解き、手を取って牢屋から抜け出した。
「もう! なんで私なんかのために! どうしてこん……ん!」
「しー……」
娘が声を荒げて不満を述べようとしていたので、ザンジは娘の口を手で塞いで喋らないよう促す。
意外と冷静なんだな、と関心して見ていれば、何事もなく盗賊の部屋の前までたどり着いていた。
静かにそこを通っている時、微かにいびきが聞こえて来る。
二人とも真剣な表情を浮かべて静かに歩いていた。
そして、いびきが聞こえなくなるまで遠ざかれば、ザンジは娘を一瞥して笑顔を作り小さく頷いた。
慎重な二人はその後も口を開くことはせず、黙々と出口へと向かう。
「んっ!!」
しかし、突然くぐもった小さな悲鳴が聞こえた。
それと同時に娘が映像から消える。
ザンジが振り向けば、そこには盗賊に捕まる娘の姿があった。
「んん!! んー!!」
「っち。調子に乗りやがって。俺を出し抜こうなんて甘ぇんだよ。残念だったな」
盗賊は娘の口を塞ぎ、ナイフを首元に添えている。
「お……お嬢様を離せ!」
「馬鹿じゃねえの? 返すわけねぇだろ。オラ! その腰にぶら下げているもんこっちによこしな」
「くっ……」
ザンジは言われるがまま僕が渡した剣を抜き盗賊に向かって放った。
「なんだ、ずいぶん物分かりがいいじゃねぇか。へへっ……ん? おまえ……どっかで……あ! おまえはもしかして、昨日拐ってきたって男じゃねぇか!? なんでおまえがここにいるんだ! 頭はどうした!?」
「……」
「おいおい、答えねぇってなら、この女ぶち殺すぞ!」
「魔王に殺されたんじゃないですかね? 私にもわかりません」
「魔王だぁ? テメェ、今が調子こいていい時だとも思ってんのか? おら!」
「んんん!!!」
口を塞がれた娘の肩にナイフが食い込む。
切られた痛みを訴えるかのように娘は声を上げた!
「お嬢様! やめてください! なんでもしますので、お嬢様には手を出さないでください!」
「へへ……ったりめぇだボケ! さっさと頭の居場所を吐きな」
「すみません。本当に知らないのです。私は魔王に助けられてここにいます。それ以上のことは気を失っていて見ていないのです」
「ああ!? なんだそりゃ。嘘をつくにしてももっとマシな答えがあんだろうよ! 話になんねぇな。もういい。どうせ、おまえはこの娘を釣る餌でしかねえからな。娘が手に入ったんだからおまえは用済みだ」
盗賊は娘を乱暴に床へと押し付け、手早く持っていた縄で手足を縛り、口に詰め物をして塞いだ。
「へへっ……おい、後ろを向けよ」
ザンジは言われたとおり盗賊に背を向けた。
「そのままうつ伏せになれ」
素直に従うザンジはこういった状況に慣れていないらしい。
盗賊が娘を殺すわけがないのだが、それがわからないのだろう。そんな無防備な状態になったら助かるものも助からない。
「よーし、動くなよ」
盗賊はザンジを踏みつけると、手と足を紐で縛った。
「ククク、ザマァねぇな。せっかく助けに来たってのに残念だなぁ!」
盗賊が思い切りザンジの腹部を蹴り飛ばし、仰向けにさせる。
「ぐふっ!」
「んんん!! んー!」
ザンジは横になって背を曲げ、苦悶の表情を浮かべていた。
その光景を見ていた娘はザンジに向かって声を上げるも、詰め物のせいでなにを言っているのか理解できない。
「うは! なに泣きそうになってやがんだよ。あ、そういやおまえ、この男のことが好きなんだって? あー、どうしよう。頭にバレたらドヤされっかもしれねぇけど、こりゃ我慢できねぇな。へへ……」
盗賊は下卑た笑みを浮かべて娘の背後に移動すると、娘を起こして座らせた。
「おい! こっち見ろ。いつまでも痛がってんじゃねぇよ」
ザンジは言われたとおり、盗賊の方へと顔を向ける。
「げほっ。やめろ……。マーニャお嬢様から手を離せ」
「おーおー、いいね、いいね。その感じだと、両思いなのかな? ヒャハハ! 冥土の土産にそこでじっくり拝見させてやっからよ! よーく見ておけよ!」
盗賊は娘の服の中に手を入れ胸を揉みしだく。
舌を出して娘の顔を見せつけるように舐めれば、驚いた娘は体を振って抵抗した。
「んん!! んんん!」
「やめろ! 私を殺せばいいだろう! お嬢様には手を出すな!」
「ヒヒ、そう言われると興奮するなぁ。なぁなぁ、好きな男の前で犯されるってのはどんな気分なんだ? あはははは!」
盗賊がナイフを手に取り、娘の首に添える。
ナイフが肌に触れた瞬間、娘は身を縮めて固まってしまった。
とうとう耐えきれなくなった娘の目からは涙が溢れていた。
そして、耐え切れなくなった者がもう一人……
「ルーシェ! もう我慢できません!」
「え? でも、僕が助けたらダメなんんじゃないの?」
顔を真っ赤にして怒るヘレは立ち上がって叫んだ。
敗色濃厚な状況であることは間違いない。
このままでは娘は犯され、ザンジは殺される。
わかってはいるのだが……
「そんなこと言うなら私が行きます!」
「えー。でもそれじゃ、ザンジの面目丸つぶれじゃない?」
「そ……そうかもしれませんが、このままじゃ……許せません!」
僕としてはザンジが盗賊にやられようが、娘が犯されようがどうでもよかったのだが、しかしながら、このままなにもしなければヘレの機嫌を損ねてしまいそうだ。
面倒だがヘレが喜ぶような形で、なにか手を打たなければならないだろう。
助けるのは簡単だが、それじゃ、ザンジの立つ瀬がない。
どうしようか気のない感じで考えていたら、なにやらザンジが動いていることに気づいた。
ザンジは芋虫のように体を動かして娘へと近づこうとていた。
「やめろ! やめてくれ!」
「なんだおまえ気持ち悪りぃな。こっちくんなボケ!」
盗賊はザンジの顔めがけて蹴りを入れる。
顔を思い切り蹴られ、横に飛ばされたザンジだったが、それでもなお、芋虫のように娘へと向かって地を這いつくばろうとしていた。
「へへっ、根性あんじゃねぇか。そんなにこの女のことが好きなのか? うへへ、いいねぇ、泣かせるねぇ!」
盗賊は嬉しそうにザンジの右足めがけてナイフを突き刺した。
そして、床に落ちていた剣を拾い、今度は左足に突き刺す。
「うぐぁあ!!」
「んん! ん! んんん!」
這いずっていたザンジの動きは止まり、足からは大量の血を流していた。
娘も地に伏して必死に這いずりザンジの下へ向かおうとしていた。
「あはははは! もうそいつは手遅れだぜ、血が流れ過ぎてるからな!」
「んんん! んんん!」
「マーニャ……お嬢様……」
映像が映し出す娘の顔は、這いずったせいで涙と土で酷く汚れていた。
二人はお互いを求めるように見つめ合う。
距離を縮めたところでなにができるわけでもないのに。
「……すみません。助けられなくて……でも、だいじょ——」
「——うるせぇんだよ!」
盗賊はザンジの話を遮り、またしても顔を蹴り飛ばした。
「んんん! んん! んんんん!」
娘は蹴られたザンジのところへ行こうと必死にもがいた。
しかし、盗賊に髪を掴まれて動きを止められてしまう。
「あーあー。綺麗な顔が台無しじゃねぇか。クソ! でもまあ……その顔は悪くねぇな。へへっ」
泣き腫らし、酷く弱々しい娘の表情を見てゴミクズは醜悪に喜んでいた。
そして、娘の髪を引っ張り、強引に仰向けにさせると、着ていた服に手をかけた。
しかし、まあ、これ以上はもう無理だなってことで、仕方なく手を貸してやることにした。
僕は時間を止めてザンジの下へと転移すると、ザンジだけ時の魔法を解いた。
「おい。仕方なく助けに来てやったぞ」
「魔王……様。あ……はは、すいません」
もうすぐ死ぬかもしれないのに、あいも変わらずこいつはヘラヘラと笑っている。
こいつには、今がどういう状況なのかを教えてやらなきゃならないらしい。
「……おまえが娘を説得できなきゃ転生の話はなしだって言ったはずだが……できるのか?」
「ああ……そうでしたね。精一杯頑張ってはみたんですがね……難しそうです」
気持ちではどうにかできない状況だということはわかるらしい。
「……それでいいのか?」
僕はなにを言っているのやら……できなかったのならそれで終いだろうに。
ヘレがいなければとっくに殺していたはずの二人なのに、無駄に気を使わなければならない状況にげんなりしていた。
「……あの、マーニャお嬢様だけでも……転生させていただけないでしょうか?」
「おまえはどうする」
「私は……魔王……様の言い付けを守れませんでしたので……」
もう少し薄汚い心を持っていれば心おきなく殺してやったものを……どこまでもお人好しなザンジの姿を見てチャンスをやることにした。
「はぁ……仕方ない。おまえには最後のチャンスをやろう。なに、簡単さ。僕を楽しませてくれればそれでいい。このクソ野郎を拷問にかけ、おまえの手で殺せ。傷は治してやる」
「え? でも……そんなことは……」
「できないなら、僕はおまえを殺して止めた時間を動かすだけだ。そうなれば、娘は死ぬまで犯され続けることだろう。もうこの辺一帯の人間は殺し尽くしたから、命ある限りこの娘はクソ野郎のおもちゃとして人生を過ごすことになる。それでもいいなら構わないがな」
ザンジの表情が曇る。
自分の力のなさを嘆いているのか、はたまた娘の今後を憂いているのか、どちらにしろゴミクズに情けをかけるようならこいつも同類だ。
助ける価値もない。
「ザンジ……即答しろ……最後のチャンスだ、このゴミを生かしておくな。わかったな?」
「はい…… 」
ザンジはこちらを見なかったが、小さく返事をした。
「クックック……そうだ、それでいい」
僕はザンジを起こし、傷を治してやった。
「ヒヒヒ……このゴミの処刑方法は……これだ。受け取れ」
傷が治って驚いているザンジに、僕は処刑道具を手渡した。
「これは……ノコギリ?」
「そうだ。このゴミは僕が張り付けておくから安心して首を切るんだ。できるだけゆっくりとやるんだぞ」
「わ……わかりました」
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僕の言葉を聞いて、ザンジのだらけた顔が引き締まる。
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