みんなシネばいい 〜転生したら魔王でした〜

大きな鯨

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北の大陸蹂躙

黄金の果実

♢♢♢

「ここがその入り口か」

「おそらくそうだと思います」

 ヘレが指し示した場所にあったのは、高く険しい山の麓にある洞窟の入り口だった。
 入り口の周囲には装飾の施された柱が立ち並んでおり、神々しいまでに異彩を放っている。
 ご丁寧に立て看板まで用意されており、そこに書かれた説明では、ここはリンポ山といって神の住まう山ということだ。

「フローテ、この山のこと知っているか?」

「ええ、ここは神が生まれ、大昔に住んでいた山ですわ」

「へぇ。今はどうなっているんだ?」

「今は、お母様の庭として管理されているはずです」

「お母様って、全能神の妻のことか?」

「はい」

 フローテは僕と話す時もクザンの腕は離したくないらしい。
 ここまでくると、好かれてしまったクザンに憐れみのような感情を抱き始めていた。
 この分では浮気でもしようものなら殺されてしまうんじゃないかと思う。
 まあ、そんなことになる前に、フローテによって洗脳されてしまうのだろう。
 クザンがいくら強くなったところで、フローテの能力を防ぐことは難しい。
 フローテに好かれてしまえば、その者の運命は決まったようなものなのだ。僕には効かなかったが、そうそう対抗できる者なんていないチート女神であることには違いない。
 やはり、クザンの運はどうしようもないくらいに枯れ果てている。

「そうか、今は神がいないのなら、心配することもないだろう」

 不安要素もないようなので、僕は洞窟へと入ることにした。
 しかし、安易に考えていた洞窟の中は異常なほど仕掛けが施されており、至る所に犠牲となった骸が横たわっている。

「うわぁ!」

 不意にリッカが踏み抜いた地面は、先が見えないほど深く掘られた落とし穴だった。
 僕は咄嗟に拘束したリッカを安全な所へと降ろす。

「あ……ありがと、ルーシェ」

「ああ、それにしても多過ぎる。罠だらけじゃないか」

「確か、こんな遊びが好きな神がいましたわ」

「チッ、神のお遊びってことか。面倒なことをしてくれる」

「ルーシェ……さっきから気になっていたのですが、まだ新しい足跡があります」

「ん? ああ、あれだけ死体があったのに挑戦しようとする奴がまだいるんだな」

「そうですね。でも、ここまでの罠を避けてきたとなると、かなり腕の立つ者ではないでしょうか?」

 フェリの言うとおり、並みの者であればここまで来る前に死んでしまうだろう。
 それだけ異常なほど罠が仕掛けられており、空間の覇者スキルで抑制していなければ、僕以外の者は死んでいたかもしれない。

「ヘレ、あとどれくらいかわかるか?」

「うーん……かなり近い付いているとは思いますが、正確にはちょっとわかりません」

「そうか。しかし、上空から見ても庭なんて無かったからな。内部に作ったのならどこにあってもおかしくない。山の裏手にあるのかもしれない」

「ええ! この山かなり大きかったよ! 裏にあるならあとどのくらい歩けばいいの? 結構歩いたよね?」

 リッカが不満の声を上げ、今にも文句を垂れそうな雰囲気だ。
 真っ暗な洞窟を延々と歩き続けてかれこれ一時間くらいは経つだろうか?
 もし本当に裏にあるならまだまだ序盤といった感じだ。

「もし裏手にあるならまだまだだろうな」

「はぁ……あ! そうだ! 転移魔法陣将軍を先に向かわせて、ゴールに設置すればいいんじゃない?」

 リッカの悪知恵は時々核心を突いてくるから驚きを隠せない。
 たしかにそうすれば安全かつ簡単に攻略できる。こんな面倒なことをする必要もないだろう。

「ふむ……そうだな。今からでも遅くない。転移魔法陣将軍を先に行かせるか」

「無駄ですわ」

 僕とリッカの話を遮るようにフローテが口を挟んだ。

「なにかあるのか?」

「ええ、ここは転移魔法対策が施されていて、移送空間が捻れています。もし転移すれば、体はバラバラになって転移先に届くことになるでしょう」

「なんだそれ? そんなことができるなら、なんで天界までの道筋に仕掛けなかったんだ? そうすれば僕は天界に辿りつけなかっただろうに」

「仕掛けてありましたわ。さらに強力な移送空間の捻れと、分断された層が幾重にも。それをいとも簡単にかい潜ってしまったのに気づいてもいらっしゃらなかったのですね」

「え? ああ、そうだな。まったく気づかなかった」

「……」

 フローテがじと目で僕を睨んでいる。
 そんなことを言われても、わからなかったのだからしょうがない。
 ただ、これで前のフローテがめちゃくちゃ驚いていた理由が理解できた。
 それに、全能神も言っていたな、僕のことを無機物だとか生命体じゃないだとか。
 サタン様を助けるために土の中にいた時も特に圧迫感を感じなかったし、もしかしたら転移した時にバラバラになったけど大丈夫だったというだけなのだろうか?

 もしそうなら、フローテの話を聞かずに転移してしまえば僕だけがそこにたどり着き、ほかのみんなはバラバラになってしまったことだろう。

「転移はダメだね! 歩こ!」

 リッカの顔がちょっと青ざめている。生き返らせることは不可能じゃないと思うが、死を体験することは嫌なのだろう。
 好き好んで死を体験したいなどと言う者なんて、かなり頭のネジがぶっ飛んでしまっている残念な物好きしかいないだろう。

「歩くしかなさそうですね」

「バラバラにはなりたくねぇからな」

「クザン様をバラバラになんかさせませんわ!」

「まあしょうがないな。行くぞ」

 気をとりなおして歩みを進めることにした。
 途中分かれ道が何度もあったが、そこにもあった新しい足跡を頼りにして向かう先を決める。
 足跡を残した者はなかなかの手練れだったようで、何度もあった分かれ道の選択を間違えることなく先へと歩みを進めることができた。
 もうかれこれ三時間くらいは歩き続けているだろうか? ここで、一番体力のないヘレが根を上げたので、僕が浮かせて運んであげることにした。
 しかし、その様子を羨ましがったリッカ、フェリまで浮かせると、もう面倒になったので全員を浮かせて飛んでいくことにした。

「ルーシェありがと!」

「ほんと、魔王様にとって俺らはお荷物でしかねぇな」

 リッカは素直にお礼を言ってくれたのだが、クザンは身も蓋もない弱音を吐き捨てる。
 現状分析を怠らないクザンの物言いは、的確なのだが切なすぎる。

「うーん。言われてみれば、連れて来ることもなかったかな。でも、ここじゃ転移できないみたいだし、どうしようもないな」

「ルーシェ、私たちはルーシェの側に居たいって言ったはずです。危ないからって置いてけぼりはもう嫌です」

 僕がみんなのことを思って言った言葉を聞いて、フェリが拗ねたように否定する。
 僕の側で死ねとは言ったが、進んで危険な場所へと赴く必要はない。しかし、それでも僕の側に居たいと言うなら仕方ないだろう。

「ああ、そうだったな。もう少し安全だとよかったんだけど仕方ない」

「ふふ、危なくてもルーシェが守ってくれるんでしょ?」

 いつもどうりリッカは全て僕任せだ。
 ただ、そうしてくれた方が僕も動きやすい。
 連携プレーとまではいかないが、下手に動かれるよりはずっと生存確率は上がるだろう。

「ああ、任せておけ。なにも問題ない」

 話しながらも足跡を頼りに洞窟を飛んでいく。
 今のところ天井が高く、アクロバティックな曲芸を披露することもなかった。飛んでくる者を想定してはいなかったようで、とても安定した飛行で進むことができている。
 しかし、そうは言っても歩くスピードの三倍程度のスピードに抑え、罠を警戒しながら進んでいく。

「この洞窟かなり深いんだね」

「結構飛び続けているはずなのですが……なかなか目的地にたどり着きませんね」

「うーん。どうだヘレ。近づいている感じはするか?」

「えーっと……はい。もうだいぶ近いと思います。このまま行けば、あと少し……十分程度で着く感じがします」

「お! いいね! あと少しじゃん。じゃあ、このまま休まず行くぞ!」

 まだたどり着きそうもなければ、ここら辺で休もうかとも思っていたのだが、ヘレの見立てを信じるなら罠だらけの場所でわざわざ休憩することもないだろう。
 みんなにはもう少し頑張ってもらおう。

 そして、何事もなく数分飛び続ければ、ようやく暗かった通路の先に光が射している場所が見えてきた。
 もし、そこで黄金の果実を見つけることができれば、サタン様を転移させようと思っている。
 サタン様は天使なので、転移させてもバラバラにはならないだろう。
 初めから一緒にとも思ったが、わざわざそんな面倒なことをさせることもないだろうと、あえて呼ばなかった。
 それに、天界の居心地がよくなったのであればそれに越したこともないし、あわよくばそのまま天界に居続けてくれればとも思っていたからだ。

「うわぁ! 綺麗!」

「すごい!」

「はは、こりゃすげぇ!」

「とても綺麗です!」

 光の射す場所へと入って行けば、そこには幻想的な空間が広がっていた。
 入ってすぐ目に飛び込んできたのは、中央にそびえ立つとてつもなく大きな大木。その木の枝葉は天井を覆い尽くすかのように隅々まで伸びており、その枝に実っている光る果実は暗さを感じさせないほどに空間一帯を照らしていた。
 果実からは絶えず表皮が剥がれ落ち、ふわふわと宙を舞いまがら地に落ちていく。表皮は地に落ちてもすぐには輝きを失わず、ゆらゆらと明暗する様は大地に生命が宿ったかのように神々しい。
 また、生い茂る苔や、背の高い草、湧き水が小川のように流れ出しており、自然が創り出した芸術としてはこれ以上ないほどに美しかった。
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