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北の大陸蹂躙
魔王を倒した英雄
ライトはしばらく影の中で魔王を探し続け、その存在が完全に消滅したことを時間をかけて確認していた。今まで散々魔王に遊ばれていたせいで疑り深くなってしまったのだろう。
そんなライトが執念深く探しても魔王の存在を示すものは見つからなかったようだ。
ライトは気持ちの悪い引きつった笑みを浮かべて影の世界を後にした。
しかし、ライトには余韻を噛みしめる時間など与えられることはなかった。
影から這い出たライトは、異常な温度の上昇を肌で感じると同時に、大木が広範囲に燃え上がっている光景を目にすることになる。
太古の昔からこの地に根を下ろし、凄まじい力を秘めた実を成す神樹は、今まさにその生涯を終えようとしていた。
神樹を燃やした犯人はリッカだった。
大火力の魔法を八つ当たりのように放っている。
ライトは慌てて止めに入るも、枝葉に燃え広がった火の勢いは絶望的な状況だった。
神々しかった黄金の光は、紅蓮の業火によって塗りつぶされ、幻想的だった情景は灼熱の地獄を彷彿とさせている。
「リッカ! なにをしているんだ! 止めろ!」
「うるさい! うるさい! うるさい! 私に話しかけないで!」
チリチリと肌を焼くような熱さの中、そんなことは構いもせず、神樹を燃やし尽くさんとリッカはその手を休めることはなかった。
「いつ枝が落ちてきてもおかしくない! それ以上は危険だ! 今すぐここから出るんだ!」
「出ないもん! ルーシェがいない世界なんてなんの価値もないの! もう私に構わないで! 一人で勝手に行けばいいじゃない!」
感情が高ぶったリッカに、ライトの言葉は届かない。
しかし、ライトは勇者パーティの一員として一緒に旅をした仲間を見捨てることができなかった。
「そんなこと言うなよ! 生きていればきっといいこともある!」
「うるさい! もう構わないでって言ったでしょ!! あんたがルーシェを殺したくせに……ルーシェは私の全てだったの! 私はルーシェの側で死ぬって約束したの! あんたなんかにわかってもらうつもりなんてない! もういいでしょ! 行きなさいよ!」
魔王がいなくなってもなお、リッカは交わした約束のために死を選択しようとしている。
側で死ぬ約束なんて、もう今更守る必要もないはずなのに、それほどまで魔王に固執するリッカはとても哀れに見えた。
だから、ライトはリッカを救うために地を蹴った。
リッカを後ろから掴んで影に引き込めば、この危機から脱することは簡単にできる。
力を授かったライトなら、いとも簡単に暴走したリッカを救うことができるのだ。
あと少し、もう少しで届きそうだったその時、タイミングを合わせて放たれた大きな棍棒によって、リッカの救出は阻まれてしまった。
とっさに回避行動をとって棍棒の放たれた方を向けば、真っ黒な肌を晒した人型の悪魔が投げた後の構えを取っていた。
さっきライトが見た時よりも、より醜悪な成りに変貌しており、魔王の小振りな巻角を何倍も大きくした立派な角が生えていた。
「なっ……なにをするんだ! おまえは魔王の仲間だろ! 見殺しにする気か!?」
「ピーピー喚くんじゃねぇよ。テメェはさっさとここから出て行けばいい話だろ? 出ていかねぇなら俺が相手になってやるぞ?」
座った目で見下すように巨躯の悪魔がライトを見下ろす。
悪魔の目には、ライトのことなどどうでもいいかのように映っているのだろう。
魔王を倒したというのに、祝福もされず、敵視されることもなく、ただただ、空気の読めない邪魔者のような扱いをされてライトは困惑していた。
「なんでだ! もう魔王はいない! 私が倒したんだ! なのに、なんでこんなことをする必要あるんだ! もうみんな自由になったんだぞ! もう恐怖に怯える必要なく暮らせるんだ! そうだろう!?」
大手を振ってアピールするも、巨躯の悪魔は話の途中で目を逸らした。
まるでどうでもいいとでも言いたげに、ライトをいない者のようにあしらう。
その様子を見て、ライトの表情は強張りを見せる。さすがのライトも、この状況でその態度は許せなかったようだ。
「もういい! 私の言葉に耳を貸さないというならそれで構わない! だが、リッカは私が安全な場所まで連れ出す! こんなことで命を投げ出すなんて馬鹿げている! 邪魔するなら魔王を倒した私を止めてみせろ!」
啖呵を切って再びライトが地を蹴った。
リッカめがけて飛び出すと、リッカを守るように木の根がライトの行く手を阻んだ。
「くっ、かまいたち!」
横一線に腕を振り、地から湧き立つ木の根を切り裂くも、次々上へと伸びる根には意味がなかった。勢いづいた体を丸め、壁のように伸び上がる木の根の群れに足をついてひらりと翻り着地する。いったいこの技を使ったのは誰なのだろうか?
「帰ってください! あなたにリッカを救うことなんてできません!! もう私たちに構わないで!」
声は上空から聞こえてきた。
見上げた先には、大きな杖に乗ってライトを見下ろす人影が二人。
陽炎によってその姿はゆらゆらと歪み、その周囲温度の高さが伺える。
「おい! こんな状況で上に行くんじゃない! 熱と煙で死ぬぞ! 危ないから降りてこい!」
「そんなことは言われなくてもわかっています! もうあなたにはどうでもいいことでしょう! 今すぐ立ち去りなさい!」
ここでも厄介者扱いを受けるライト。
ライトはリッカを救おうとしない魔王の仲間たちを理解できないのか、苦々しい表情を浮かべている。
魔王の側で死ぬなんて、くだらない約束に固執する意味がわからないのだろう。
それに、混乱した状況のせいで冷静な判断ができないだけだろうと考えるのが普通であり、真に受けるだけ無駄な時間を要してしまう。
ライトはただ、リッカを救いたいという思いだけで行動していた。
もう時間は残されてはいない。
神樹はその巨大な幹を損傷し過ぎて枝葉の重みで傾き始めている。
なり振り構ってはいられなかった。
「影分身! 魔力吸引!!」
黒い影がライトを包めば、数十体の影をそれぞれの者たちに向けて解き放つ。
影は魔力吸引をしながら魔王の仲間たちへと向かい、相手の反撃を殺しつつ、弱ったところを無理やり影に引き込む算段だ。
まさに力技での一網打尽といったところだろうか?
こんな馬鹿げた力を振るわれれば成す術などない。
上空にいた者は力なく落下し、木を燃やしていた者は魔力を枯らしてその場に倒れこむ。黒い悪魔も地に膝をついて屈したようだ。
「望まれていなくても、見過ごすわけにはいかない! みんなここから連れ出してやるからな!」
影たちは魔王の仲間が弱ったことを確認すると、一斉に飛び出した。影の世界へと引き込むために、逃げ場を塞いで猛進する。
しかし……またしても、寸前のところでその思いは断たれることとなる。
影たちが手を伸ばし、もう少しで触れようかというところで、眩い光が閃光のように周囲を照らし出すと、顕現させていた影は一瞬にして消滅してしまった。
「やれやれ……僕を差し置いてなにをしているのかと思えば……こんな小物になにを手間取っているんだい?」
ライトのすぐ横からその声は発せられていた。
ライトが飛び退いてそちらを見れば、二人の人影が揺らめく陽炎越しに見て取れる。
影はゆっくりとこちらへと歩みを進め、だんだんとその輪郭を鮮明に映し出す。
「サタン様、あそこにいる男は魔王様を消滅させてしまったのです。彼らには荷が重いですわ」
共に歩いているのは、フローテとサタン。
雑談をしながら無防備にライトの下へ向かっている。
「はは、なにを言っているんだい? あんな奴がルーシェをどうにかできるとは思えないけど?」
「そう申されましても、皆、魔王様が消滅する瞬間を目撃しましたわ」
「クックック……冗談は止してくれ。ルーシェが消滅したなんてありえないだろ?」
「そう申されましても……」
二人の雑談を身構えて聞き耳を立てるライト。
影分身を一瞬にして消し去る程の実力者故に、すぐに飛び出す愚行を犯せないでいた。
「まあ、確かにルーシェの気配は感じないけど……うーん、本当に消滅した? ……いやいや、ありえないだろ?」
魔王が消滅した事実を認めず、与太話だと鼻で笑うサタンをライトが睨みつける。
ライトには、いつまでも警戒に当てる時間は残されていなかった。
「魔王はもういない! 私が倒したんだ! おまえが誰かは知らないが、邪魔するな! もう時間がないんだ!」
ライトが大声を上げて真実を告げる。
隙だらけの相手に攻めあぐねるもどかしさをぐっと堪えて、ライトは相手の反応を見ることにしたようだ。
「へぇ……身の程をわきまえることもできない雑魚のくせに、ずいぶん吠えるじゃないか。なにを焦っているんだい? 大した状況でもないと思うけどね」
「ふざけるな! もうあの木は限界だ! いつ倒壊に巻き込まれてもおかしくはないんだ!」
「そう。じゃあ、君は逃してあげるよ。ふふ、きっとルーシェならそうすると思うからね。じゃ、魔王を倒した英雄さん、さようなら」
サタンが戯けた口調でそう言い捨てると、ライトが一歩を踏み出した。
捨て身の突進だったのだろうが、その勢いも虚しく、ライトはサタンによって別の場所へと飛ばされてしまった。
ライトの目の前は一瞬にして様相を変え、目の前に広がったのは大きな街の一角だった。
「きゃっ!」
ライトは踏み出した勢いを殺しきれず、女性の通行人とぶつかってしまった。
周囲を見れば、よく晴れた昼下がりの活気付いた大通り。
倒れた通行人は買い物カゴをひっくり返してしまい、食材が地面へと散らばってしまったようだ。
「す……すいません。お怪我はありませんか?」
「あ……すいません。……いたっ! ……足が……」
ライトがぶつかったせいで倒れた通行人は足首を負傷してしまったようだ。
ライトの手を取って立ち上がろうとした女性は、足の痛みに負けて座り込んでしまった。苦悶の表情を浮かべて足をさすっている。
サタンによって仕組まれたかのように陥ってしまったこの状況は、今すぐにでも戻りたいライトの気持ちを押さえつけ、卑しく良心を動揺させていた。
この女性の相手をしていたら、戻ったところでもう遅いだろう。
しかし、今すぐ影移動で神樹の下へ向かえば間に合うかもしれない。
ライトには女性の相手をする時間なんて残されてなかった。
だから、心苦しい思いを振り払い、ライトは女性を置き去りにして神樹の下へ向かった。
そんなライトが執念深く探しても魔王の存在を示すものは見つからなかったようだ。
ライトは気持ちの悪い引きつった笑みを浮かべて影の世界を後にした。
しかし、ライトには余韻を噛みしめる時間など与えられることはなかった。
影から這い出たライトは、異常な温度の上昇を肌で感じると同時に、大木が広範囲に燃え上がっている光景を目にすることになる。
太古の昔からこの地に根を下ろし、凄まじい力を秘めた実を成す神樹は、今まさにその生涯を終えようとしていた。
神樹を燃やした犯人はリッカだった。
大火力の魔法を八つ当たりのように放っている。
ライトは慌てて止めに入るも、枝葉に燃え広がった火の勢いは絶望的な状況だった。
神々しかった黄金の光は、紅蓮の業火によって塗りつぶされ、幻想的だった情景は灼熱の地獄を彷彿とさせている。
「リッカ! なにをしているんだ! 止めろ!」
「うるさい! うるさい! うるさい! 私に話しかけないで!」
チリチリと肌を焼くような熱さの中、そんなことは構いもせず、神樹を燃やし尽くさんとリッカはその手を休めることはなかった。
「いつ枝が落ちてきてもおかしくない! それ以上は危険だ! 今すぐここから出るんだ!」
「出ないもん! ルーシェがいない世界なんてなんの価値もないの! もう私に構わないで! 一人で勝手に行けばいいじゃない!」
感情が高ぶったリッカに、ライトの言葉は届かない。
しかし、ライトは勇者パーティの一員として一緒に旅をした仲間を見捨てることができなかった。
「そんなこと言うなよ! 生きていればきっといいこともある!」
「うるさい! もう構わないでって言ったでしょ!! あんたがルーシェを殺したくせに……ルーシェは私の全てだったの! 私はルーシェの側で死ぬって約束したの! あんたなんかにわかってもらうつもりなんてない! もういいでしょ! 行きなさいよ!」
魔王がいなくなってもなお、リッカは交わした約束のために死を選択しようとしている。
側で死ぬ約束なんて、もう今更守る必要もないはずなのに、それほどまで魔王に固執するリッカはとても哀れに見えた。
だから、ライトはリッカを救うために地を蹴った。
リッカを後ろから掴んで影に引き込めば、この危機から脱することは簡単にできる。
力を授かったライトなら、いとも簡単に暴走したリッカを救うことができるのだ。
あと少し、もう少しで届きそうだったその時、タイミングを合わせて放たれた大きな棍棒によって、リッカの救出は阻まれてしまった。
とっさに回避行動をとって棍棒の放たれた方を向けば、真っ黒な肌を晒した人型の悪魔が投げた後の構えを取っていた。
さっきライトが見た時よりも、より醜悪な成りに変貌しており、魔王の小振りな巻角を何倍も大きくした立派な角が生えていた。
「なっ……なにをするんだ! おまえは魔王の仲間だろ! 見殺しにする気か!?」
「ピーピー喚くんじゃねぇよ。テメェはさっさとここから出て行けばいい話だろ? 出ていかねぇなら俺が相手になってやるぞ?」
座った目で見下すように巨躯の悪魔がライトを見下ろす。
悪魔の目には、ライトのことなどどうでもいいかのように映っているのだろう。
魔王を倒したというのに、祝福もされず、敵視されることもなく、ただただ、空気の読めない邪魔者のような扱いをされてライトは困惑していた。
「なんでだ! もう魔王はいない! 私が倒したんだ! なのに、なんでこんなことをする必要あるんだ! もうみんな自由になったんだぞ! もう恐怖に怯える必要なく暮らせるんだ! そうだろう!?」
大手を振ってアピールするも、巨躯の悪魔は話の途中で目を逸らした。
まるでどうでもいいとでも言いたげに、ライトをいない者のようにあしらう。
その様子を見て、ライトの表情は強張りを見せる。さすがのライトも、この状況でその態度は許せなかったようだ。
「もういい! 私の言葉に耳を貸さないというならそれで構わない! だが、リッカは私が安全な場所まで連れ出す! こんなことで命を投げ出すなんて馬鹿げている! 邪魔するなら魔王を倒した私を止めてみせろ!」
啖呵を切って再びライトが地を蹴った。
リッカめがけて飛び出すと、リッカを守るように木の根がライトの行く手を阻んだ。
「くっ、かまいたち!」
横一線に腕を振り、地から湧き立つ木の根を切り裂くも、次々上へと伸びる根には意味がなかった。勢いづいた体を丸め、壁のように伸び上がる木の根の群れに足をついてひらりと翻り着地する。いったいこの技を使ったのは誰なのだろうか?
「帰ってください! あなたにリッカを救うことなんてできません!! もう私たちに構わないで!」
声は上空から聞こえてきた。
見上げた先には、大きな杖に乗ってライトを見下ろす人影が二人。
陽炎によってその姿はゆらゆらと歪み、その周囲温度の高さが伺える。
「おい! こんな状況で上に行くんじゃない! 熱と煙で死ぬぞ! 危ないから降りてこい!」
「そんなことは言われなくてもわかっています! もうあなたにはどうでもいいことでしょう! 今すぐ立ち去りなさい!」
ここでも厄介者扱いを受けるライト。
ライトはリッカを救おうとしない魔王の仲間たちを理解できないのか、苦々しい表情を浮かべている。
魔王の側で死ぬなんて、くだらない約束に固執する意味がわからないのだろう。
それに、混乱した状況のせいで冷静な判断ができないだけだろうと考えるのが普通であり、真に受けるだけ無駄な時間を要してしまう。
ライトはただ、リッカを救いたいという思いだけで行動していた。
もう時間は残されてはいない。
神樹はその巨大な幹を損傷し過ぎて枝葉の重みで傾き始めている。
なり振り構ってはいられなかった。
「影分身! 魔力吸引!!」
黒い影がライトを包めば、数十体の影をそれぞれの者たちに向けて解き放つ。
影は魔力吸引をしながら魔王の仲間たちへと向かい、相手の反撃を殺しつつ、弱ったところを無理やり影に引き込む算段だ。
まさに力技での一網打尽といったところだろうか?
こんな馬鹿げた力を振るわれれば成す術などない。
上空にいた者は力なく落下し、木を燃やしていた者は魔力を枯らしてその場に倒れこむ。黒い悪魔も地に膝をついて屈したようだ。
「望まれていなくても、見過ごすわけにはいかない! みんなここから連れ出してやるからな!」
影たちは魔王の仲間が弱ったことを確認すると、一斉に飛び出した。影の世界へと引き込むために、逃げ場を塞いで猛進する。
しかし……またしても、寸前のところでその思いは断たれることとなる。
影たちが手を伸ばし、もう少しで触れようかというところで、眩い光が閃光のように周囲を照らし出すと、顕現させていた影は一瞬にして消滅してしまった。
「やれやれ……僕を差し置いてなにをしているのかと思えば……こんな小物になにを手間取っているんだい?」
ライトのすぐ横からその声は発せられていた。
ライトが飛び退いてそちらを見れば、二人の人影が揺らめく陽炎越しに見て取れる。
影はゆっくりとこちらへと歩みを進め、だんだんとその輪郭を鮮明に映し出す。
「サタン様、あそこにいる男は魔王様を消滅させてしまったのです。彼らには荷が重いですわ」
共に歩いているのは、フローテとサタン。
雑談をしながら無防備にライトの下へ向かっている。
「はは、なにを言っているんだい? あんな奴がルーシェをどうにかできるとは思えないけど?」
「そう申されましても、皆、魔王様が消滅する瞬間を目撃しましたわ」
「クックック……冗談は止してくれ。ルーシェが消滅したなんてありえないだろ?」
「そう申されましても……」
二人の雑談を身構えて聞き耳を立てるライト。
影分身を一瞬にして消し去る程の実力者故に、すぐに飛び出す愚行を犯せないでいた。
「まあ、確かにルーシェの気配は感じないけど……うーん、本当に消滅した? ……いやいや、ありえないだろ?」
魔王が消滅した事実を認めず、与太話だと鼻で笑うサタンをライトが睨みつける。
ライトには、いつまでも警戒に当てる時間は残されていなかった。
「魔王はもういない! 私が倒したんだ! おまえが誰かは知らないが、邪魔するな! もう時間がないんだ!」
ライトが大声を上げて真実を告げる。
隙だらけの相手に攻めあぐねるもどかしさをぐっと堪えて、ライトは相手の反応を見ることにしたようだ。
「へぇ……身の程をわきまえることもできない雑魚のくせに、ずいぶん吠えるじゃないか。なにを焦っているんだい? 大した状況でもないと思うけどね」
「ふざけるな! もうあの木は限界だ! いつ倒壊に巻き込まれてもおかしくはないんだ!」
「そう。じゃあ、君は逃してあげるよ。ふふ、きっとルーシェならそうすると思うからね。じゃ、魔王を倒した英雄さん、さようなら」
サタンが戯けた口調でそう言い捨てると、ライトが一歩を踏み出した。
捨て身の突進だったのだろうが、その勢いも虚しく、ライトはサタンによって別の場所へと飛ばされてしまった。
ライトの目の前は一瞬にして様相を変え、目の前に広がったのは大きな街の一角だった。
「きゃっ!」
ライトは踏み出した勢いを殺しきれず、女性の通行人とぶつかってしまった。
周囲を見れば、よく晴れた昼下がりの活気付いた大通り。
倒れた通行人は買い物カゴをひっくり返してしまい、食材が地面へと散らばってしまったようだ。
「す……すいません。お怪我はありませんか?」
「あ……すいません。……いたっ! ……足が……」
ライトがぶつかったせいで倒れた通行人は足首を負傷してしまったようだ。
ライトの手を取って立ち上がろうとした女性は、足の痛みに負けて座り込んでしまった。苦悶の表情を浮かべて足をさすっている。
サタンによって仕組まれたかのように陥ってしまったこの状況は、今すぐにでも戻りたいライトの気持ちを押さえつけ、卑しく良心を動揺させていた。
この女性の相手をしていたら、戻ったところでもう遅いだろう。
しかし、今すぐ影移動で神樹の下へ向かえば間に合うかもしれない。
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だから、心苦しい思いを振り払い、ライトは女性を置き去りにして神樹の下へ向かった。
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