妖怪たちの夜

江木 三十四

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第二章

願掛け

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 そろそろ、巳の刻(10時くらいですかね)になろうという時間に二つの影が提灯を灯しながら歩いています。
 「この神社ですか?」
 「そうよ」
 番頭の問いかけにままが答えます。
 「まま様、しかしここは縁結びの神様ですよ」
 「良いじゃない。ここだって聞いてるのよ」
 「まあ、いずれにしろ早くお参りして帰りましょう。天狗とやらが出没しているようで物騒ですからね」
 ままの目的を知らない番頭は早く帰りたくて仕方ありません。
 賽銭を入れると手を合わせてお祈りします。
 「ささっ、お詣りも済んだことだし、あら?お嬢様何で社の陰に隠れてるのでございますか?」
 「番頭さん、提灯貸して」
 「あっ、提灯を消したら、真っ暗になってしまいますよ」
 「あたし、神様がお出でになるのを見たいの」
 「そんなことがありますか?」
 「だから、こうやって見張って、いえお待ち申し上げてるんじゃない」
 しばらく、待っていましたが何も起こりません。番頭がしびれを切らしました。
 「まだですか?」
 「まだって、半刻もたってないでしょ」
 仕方なく番頭は待っています。提灯のロウソクも短くなってきました。
 「まだ待つのですか?」
 「もう少し」
 番頭はついにしびれを切らしました。
 「だめですね。神様はお出でになりませんね」
 「もうちょっと、待ちましょうよ。なんか出そうだもの」
 「ダメです。これ以上遅くなると旦那様が心配なさいますよ」
 その晩は、番頭に引きずられるように家にもどりました。

 「番頭さんではダメね。今度は、奉公人の三ちゃんと行きましょ」
 掃除をしている丁稚の三吉を呼び止めます。
 「いい、三ちゃん。あたしと一緒にお参りしましょ」
 「行きます、行きます。そしたら、お嬢様何か食べさせてくださいね」
 「分かった、夜鳴きそばでいいわね。だから黙ってついてきてね」
 夜になり、ままは三吉に言いました。
 「さあ、お参りに行きしましょ」
 二人は連れ立って川向こうのお宮に向かいました。
 「ずいぶん、寂しいところですね」
 「三ちゃん、こわい?」
 「いえ、それよりこんな場所にそば屋はいるんでしょうか?」
 「ちゃんと食べさせてあげるから心配しないで」
 神社の拝殿にぶら下がっているひもを引っ張って鈴をガラガラ鳴らしました。
 「ここでしばらく休みましょう。この鳥居の横が良いわね」
 「おそばは?」
 「この子、うるさいわね」
 半刻ほど待ちましたが、天狗は現れません。
 「今日も、ダメだったみたいね」
 「えっ、おそばはダメなんですか?」
 「大丈夫よ。ほら、ちょうど夜鳴きそば屋が来たわ」
  三吉はようやくおそばにありつきました。
 「どう、満足した?」
 「はい、おいら今すごく幸せです」
 「それは、良かった」
 するとおそば屋さんが二人にこんなことを話してくれました。
 「こんな遅くに子どもが出歩いちゃいけないね」
 「あたし、神様にどうしてもお願いがあるんです」
 「なんか、事情があるんだね。そういえば、墨田の方に天狗が現れたって話だな」
 「墨田ですか・・次はそこかな」

 「結局、今日もだめだったわ」
 一方の三吉はおそばが食べられてご満悦です。
 「また、おいらを連れて行ってくださいね」
 「ただいま、戻りました」
 父親の藤八郎が出迎えてくれます
 「まま、どうでした?」
 「今日もしっかりとお願いしてきました」
 「そうですか?満願成就の日まで続けるんでしょう?」
 「はい」
 「がんばりなさいよ」
 
つづく
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