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学校の怪談 編
四話 稲葉美乃 『連続する死』
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……うふふ。
あたしの所にも、来たのね。
噂は聞いていたわ、貴方が怪談……怖い話を、集めているってこと。
理由も気になるところだけれど、まあいいわ。後々、それは聞けばいいことだもの。
……貴方とは、長い付き合いになると思うから……うふふふ。
さ、もう準備はしているのよ。
そこの空き教室の鍵があるから、そこでお話をしましょう。
……なんで鍵を持っているかって?
色々と人付き合いはしておくと便利なのよ。こういう時のために、仲の良い先生を作っておくの。いざという時に便利でしょう?
さ、こんなところで話していないで、早く入りましょう。
……ふふふ、楽しみだわ。
貴方に怪談を話すのも、貴方がなにを目的にしているのかも……。
―――
もう知っているのかもしれないけれど、自己紹介はしておくわね。
稲葉美乃……三年生、あなたの上級生よ。今後とも、よろしくね。
部活動は、特にはしていないわ。あまりそういう事に興味があるタイプじゃないから。
放課後は図書室で本を読んでいたりする事も多いから、もしもあたしに用事があるのなら今度から図書室へいらっしゃい。
趣味は、貴方と同じよ。
日常に潜む怪異や奇怪な出来事を調べたり、触れてみたりするのは大好きね。未解決の事件やかつてこの町で起きた事件を調べるのも面白いわ。
……ふふふ、似ているのよね、あたしと貴方は。
さて、貴方が来ると思って、面白い話を用意しておいたの。
この学校で起きた怪談を聞きたい、という事だったわね。……うふふ、知っているのよ。
この学校で起きた、数年前の事件について貴方に教えたいの。
……いえ、正確には……数年前『から』『起きていた』事件ね。……ふふ、興味あるでしょう?
数年前……最近まで起きていた出来事ではあるけれど、それを知っている先輩達はもうみんな卒業しているわ。
事件を覚えているのは兄か姉のいた人か……学校の先生方くらいでしょうね。ただ、学校としてはもみ消したい事件のはずだから、時が経つにつれてどんどんあの事件の事を知っている人もいなくなっていく。
だから……そうなる前に、誰かに伝えておきたいの。
数年前から起きていた、この学校の……『連続する自殺』について……。
―――
お話につけた名前の通り。
この学校ではね、数年前から……生徒の自殺が続いていたのよ。
まず一人目は、三年生の男の子。
バスケ部だった彼は、自宅の自分の部屋で首を吊っているのを発見されたわ。
ドアノブにスポーツタオルを固く結びつけて、自分の首にくくりつけ……意識がなくなる量の市販薬を飲んで、そのまま。
彼の傍らにあった遺書には、スポーツでの推薦入学が上手くいかなかったことへの絶望の言葉が綴られていたそうよ。
そんな事で死ぬなんて、と貴方は思うかもしれないけれど……彼にとっては、それほどの事だったみたいね。
二人目は、一年生の女の子。バレー部に所属していたらしいわ。
ショートカットで可愛らしい女の子だったみたいだけれど……どうやら、恋愛が上手くいかなかったみたい。
彼女の死は壮絶だったみたいね。片思いをしていた彼にフラれた、その日の夜……学校へ忍び込んで、カッターナイフを首に突き刺したらしいの。
……告白をした彼の、机の上に突っ伏して倒れているのを朝来た先生が目撃して発見したのよ。
三人目は、三年生の女の子。
勉強熱心なご両親に育てられた彼女は、日々の父や母からの教育虐待、それに受験へのプレッシャーに耐えられなかったみたいね。
彼女はまるでご両親に復讐をするように、夜……二人の目の前で、自らのお腹を包丁で刺したらしいわ。
血が吹き出て、床を真っ赤に染めて……慌ててお父様は救急車を呼んだらしいけれど、間に合わなかったらしいわね。
彼女のご両親は今でも後悔の念を胸に抱きながら絶望の中で生き続けているのでしょう。
……そして、四人目。二年生の男の子。
彼の自殺は……学校の、屋上からの飛び降り自殺。
しかも生徒達が沢山校内にいる昼休みの時間、白昼堂々と行われたらしいわ。
屋上から校庭への飛び降り……それは教室にいた生徒や、校庭で楽しくおしゃべりをしていた生徒達、何人もの生徒に目撃されてしまったわ。
……平穏な日常が、惨劇の現場に変わる。きっとその時は悲鳴があちこちで響いていたのでしょうね。
……彼の死んだ理由だけは、よく分かっていないの。屋上に遺書らしきものもなかったし……男の子の生活に、自殺に繋がるようなものも特には見受けられなかったというわ。
成績は中の中、容姿もそのあたりの男子と変わらなくて、イジメなどに遭っていた形跡もない……本当にごく普通の男の子。彼が何故飛び降り自殺をしたのかは未だに謎のままなのよ。
この四つの自殺。
連続した、とあたしは言ったわね。
そう。
この四人の生徒の自殺は……一年ごとに起きた自殺なのよ。
正確に西暦は分からなかったけれど、四年連続で自殺が起きた、というのは間違いないわ。この事件は語りたがる先生がなかなかいなくて正確な情報を掴むのが難しかったの。
四年連続の生徒の自殺……それが、あたしや貴方が入学する数年前に、起きていたの。
……うふふ、わかるわ。
単なる偶然。そう言いたいのよね。
四人の生徒に共通点はないし、自殺する理由もバラバラだわ。
日本における年間の自殺者数は毎年二万人を超えているわけだから、あたし達の学校でそれが連続して起きるのも別に不思議なわけではない。
奇妙ではあるけれど、起きない事ではないわ。偶然の一致として処理できる事件……。学校側も世間も、現在までそういう認識でいる。当然よね。
けれど、それが偶然じゃなかったらどうかしら?
生徒の性別、学年、自殺する理由……なにもかもバラバラな四つの自殺。
その連続した自殺の共通点を、あたしは探してみたの。
仮に……『呪い』なんてものが存在して、四人の生徒はそれに巻き込まれて死を選ぶ事になってしまったとしたら?
だとしたら四人には決まったなにかの法則が存在するはずだわ。あたしは四つの事件を出来る限り詳しく調べてみたの。
まず、自殺した月。これは共通しなかったわ。
一人目は卒業間近の一月、二人目は六月、三人目は九月、四人目は五月……。日にちも確認してみたけれど、別に縁起の悪い日に限定して起きた自殺ではなかった。
じゃあ例えば、血液型は?これもバラバラ。何人かはA型だったけれどABも存在した。星座もそれぞれで違うし、干支は……ふふ、当然違うわね。
まあそんな感じで、あたしはありとあらゆる事柄に共通点がないか調べてみたの。
……どうして?うふふ、さっき言ったでしょう。怪異を調べるのが趣味だ、って。パズルを解いていくような、未知の完成に触れていく感覚……あたしはそれが好きなの。
話を続けるわね。
では例えば、人物との繋がりが共通しているか。これも調べてみたわ。
これも、どうしても一致しなかった。四人を担任した先生はそれぞれで違うし、部活動は全て違う。一年ごとに違う学年で起きた事件で、交友関係から共通点が出てくるというのも考えづらい話だわ。
同じ塾に通っていたとか、家が近かったとか、同じ通学路を通っていたとか……どれも一致しない。全く異なる四人の生徒の自殺、という見解は崩せそうになかったわ。
……そう、偶然だった。そう考えるほうが絶対に自然。
たまたま、自殺が毎年起きていた、そういう偶然が重なっただけ。
現にあたしが入学してから今まで生徒の自殺は起きていないし、数年前に四つ連続して起きていただけでそれは止んでいるわ。卒業した先輩に聞いてみても同じことで、自殺が起きていた事実すら知らない先輩も多かった。
いくら考えても共通点なんて見つからないし、あたしもそう片付けてこの事件を調べるのを終えようとしていたの。
……その時、ふとあたしの頭に、微かな繋がりが見えたの。
思い出して。
三人の自殺の理由。
推薦入試の失敗。恋愛の失敗。教育虐待で精神的に追いやられて。
貴方はどう思う?
あたしは……自殺するにしては、少し、思い切りすぎなんじゃないかな、って。
当然、本人の気持ちは重要よ。彼ら、彼女らにとっては自殺するに等しい理由なのかもしれないわ。将来に対する希望が見えず、このまま生きていても仕方がない。そう思う理由は、人それぞれだわ。
けれど……やっぱり、少しおかしいのよ。
そして調べていくうちに、奇妙な事が分かっていったわ。
一人目の三年の男子。入試に失敗はしたけれど、友人にそれを明るく話していたそうよ。別に自分の人生が終わったわけではないし、別の学校で一からバスケに打ち込む……そんな風に語っていたそうだわ。
二人目の女子も同じ。片思いの彼にフラれた帰り道、何人もの友達になぐさめられながら帰ったというわ。新しい恋に生きてやる!って、彼女コンビニでたくさん買い食いをして帰っていったそうよ……うふふ。
三人目の女の子。両親から勉強を強要されていたと言ったけれど、そこまでキツいものでもなかったらしいわ。ただ人並みに塾に行かせたり「宿題をキチンとしなさい」と親に言われていたくらいで……彼女自身、サボり癖のある子だったみたいね。客観的に学校や警察、裁判所もそれを認めているそうよ。ある夜、宿題をしていなかった彼女を叱責した両親の前でとった、衝動的な自殺……そういう事になったらしいわ。
……これを聞いて、貴方はどう思う?将来に絶望し、命を絶ち、その後の道を全て失う……それに相応しいと思うかしら。
あたしはね、やっぱりこの事件の背景にはなにかがあると思うの。
自殺をするはずもなかった人たちを、自殺へと誘う黒い影のようなもの……。正体はおろか、存在すら分からない怪異。ちょっとした願望を増幅し、まるで本人の意志のように行動をしてしまうけれど……そこになんらかの悪意が潜まれているとしたら。
……うふふ、なんてね。
あくまで、これはあたしの推論。だけどね、そう思うと朧気ながらこの連続自殺の共通点が見えた気がしたわ。
この三人は自殺した時間も場所もバラバラだけれど……他にもきっと、なにか共通点があったのよ。
……例えば、そう、極端な例えとして……。
『なにか』に魅入られて、そそのかされたんじゃないかしら。
そのよくわからないなにかに、死ぬに足らない理由をさも死ぬ理由のように吹き込まれ……そしてその気持ちが増幅されて、どんどんと気持ちが絶望へと追いやられていった。
そして直前まで明るく振る舞っていた生徒達は次々と死を選んでいった……。
……ふふふ、わかっているわ。
そんな事を出来るものは、当然人間ではないわ。
悪魔か、怨霊か……それともそれ以外のなにか恐ろしいものか。
それがもう少し分かれば、謎は少しずつ解けていくのかもしれないわね。
―――
……え?これで終わりか、ですって?
そうよ。話す前に説明したでしょう?あたしが調べているのは、あくまでも『事件』。全てが紐解かれて謎が明らかになっている事件なんて、ほんの一握りに過ぎないのよ。
全ての事件に落語のように綺麗なオチがついているわけではないわ。だって、あたしが話しているのは……実際に起きた事実、それだけなんだから。
……ふふふ、そんな顔しないで。
まだまだこの事件の謎は、解き明かしている最中よ。なにか分かったら、貴方にも教えてあげるわ。
でも、大丈夫なのかしらね。
自殺をそそのかす怪異など、本当に存在するのか。
その怪異は、何故人に自殺をさせるのか。
四人目の生徒の自殺した理由。
連続自殺が四人でぴたりと終わった理由。
それらが全て分かった時……なにか嫌な事が起きたりして。
連続自殺がまた、この学校が起きて……なんてね。
……あら、そう言えばこの話……。また共通点を見つけた気がするわ。
四。
さっきからなんとなくこの数字を口にしている気がするけれど……気のせいかしらね。
ふふふ。
さ、これであたしの話はおしまいよ。
なにかまた怖いお話があれば、声をかけるわ。
でも、綺麗な終わりがある怪談は、あたしに期待しないでね。
全ての怪異に、ハッピーエンドやバッドエンドがあるわけじゃないんだから。
……それじゃあね。
―――
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