怪談あつめ ― 怪奇譚 四十四物語 ―

ろうでい

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学校の怪談 編

十二話 稲葉美乃 『卒業アルバムの男子生徒』

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―――

 ……そう。
 あたしがこれから話すのが、十二話目。

 この学校に伝わる怪談も、随分とあるのね。
 幾つかはきっとあたしの知らない話なのだろうし……面白そうだわ。
 一緒に怪談あつめをしたいところだけれど、きっと貴方は拒否するのでしょうね。

 でも……いつか貴方のする事は、解き明かしてみせるわ。うふふ……。

 さ、今日は……少し、あたしと一緒に考え事をして欲しいの。

 謎の欠片を集めたパズルのピース……。それを解き明かしていく事により、膨らんでいく恐怖もあるわ。

 そのピースは……これ。


 卒業アルバムよ。


 集めるのが大変だったけれど……全部で五冊あるわ。
 ふふふ、どうやってそんなに集めたのかは聞かないでおいて。まあ、色々とツテはあるとこういう時便利なのよ。
 あたしのような、不可解な事件を調べるのが趣味の人間には特にね。

 一番古いものは数十年前のもの……一番新しいのは、去年のものよ。
 
 ……うふふ。貴方に話すのが、今からとても楽しみだわ。

 それじゃ、話を始めましょう。


 『卒業アルバムの男子生徒』……。その不可解な写真について。


―――

 一番初めのアルバムはこれよ。
 三年二組……。このページに写っている、この男子生徒に注目してみて。

 名前は……松浦まつうら雄大ゆうだいくんね。

 ふふふ……とてもいい笑顔をしているわ。表情だけで彼の明るい性格が読み取れるようね。これから卒業をして、明るい未来へ進んでいく事を夢見ている……そんな雰囲気も感じられる。
 さすがに古いアルバムだけあって、周りの男子や女子の髪型や服装も流行が反映されているわね。この松浦くんの髪型も、この当時流行っていたものみたいよ。変わった髪型よね。

 ……アルバムを数ページめくると……三年二組の生徒の、一言文集があるわ。
 テーマは……『これからの夢』。ふふ、素敵。
 松浦くんのは……ここ。なになに……。

 「世の中を変えるようなビッグな男になる!」……か。なんだか、古き良き一文、って感じね。

 まあ、ここから松浦雄大くんの性格もなんとなく読み解けてくるわ。
 明るい、クラスのムードメーカー。成績はそこそこだけれどポジティブで、自分にとても自信を持っている……。
 こういうタイプは起業家やスポーツ選手に向いている気もするわね。卒業をしていたらどこかの業界で名をはせていたかも……。まあ、あたしの勝手な妄想なのだけれど。


 ……そう。卒業していたら・・・・・


 つまり彼は、卒業アルバムに写真を載せているけれど……卒業は、出来なかったのよ。


 この卒業アルバムを撮影し終わり、卒業式まであと一ヶ月足らずというところで……彼は、死んでしまったの。

 心筋梗塞……急性の、誰にでも起こりえるものだったらしいわね。寒い冬の日、登校中の彼の意識は急に途切れて……そのまま息を引き取った。
 きっと松浦くんは、自分が死んだ事すら理解できなかったんじゃないかしら。急に胸が苦しくなり、視界が狭くなったかと思うと……そのまま二度と目覚める事はない。そんな、あまりにも唐突に訪れた死。
 クラスメイトも先生も、きっと悲しんだでしょうね。こんな笑顔を振りまける松浦くんですもの……一緒に卒業まで、道を歩み続けて欲しかったでしょうに……。
 集合写真にしっかり彼は笑顔で映っているけれど、個人写真は少し離れた場所に載っているでしょう?つまりは、そういう事なの。
 ……せめて、卒業アルバムの写真では一緒なのだもの。それに死んだ彼の文章まで載せて……ほんの少しでも、彼の魂を弔ってやりたかったのでしょうね。

 ……松浦くんに関しては、ここまでよ。


 ……うふふ、つまりは本題は、ここから。


 あまりにも突然に命を失った松浦雄大くん。
 だけど時間は進み、彼のクラスメイト達は彼を残して皆卒業していったわ。時間というのは無情なものね。
 そして年は進んで……これは次の年度の卒業アルバムよ。つまりは、一年後の卒業アルバム。
 ここには当然、さっき話した松浦くんの一つ下だった後輩達の卒業写真が載っているわ。
 
 この卒業アルバムの……三年二組。
 その集合写真にね。

 ほら、見えるかしら。
 この煙のような白い影……。
 集合写真で写った生徒達の、一番後ろの方にある影。


 これ……顔に見えるでしょう?うふふふ。


 そして、この顔……笑顔に見えるわよね。

 ……松浦くんの、あの屈託のない笑顔に。



 非業の死を遂げた松浦くんの霊が未だに学校に留まり、生徒達の前に姿を現した。
 しかもそれは自分が遂げられなかった卒業……。生徒達の、卒業アルバムの中に、彼は写ったのよ。あの頃と変わらない笑顔で……ふふふ。

 なんとなく、彼の声が聞こえてこないかしら?

 俺は、卒業したかったんだ。
 学校から羽ばたき、広い世界に飛び出して、自分の夢を叶えたかったんだ。

 ……なんて。

 あくまであたしの妄想だけれど……だとしたら、可哀想な話。
 自分が死んだ事に気付けず、いつまでもこの学校にいる事がどうしてなのか分からずこの学校に居続けてしまっている……。けれども彼は、卒業アルバムに姿を現したの。
 実際、他の心霊写真も探してみたけれど、この白い影が写っているのはこの一枚だけ……。結構色々調べてみたの……大変だったわ、ふふ。

 まあ気付く人にしか気付けないような心霊写真だから、気付かずにアルバムに載せてしまったと考えるのが妥当かしら。
 でも見れば見るほど、この白い影は不自然で……そして松浦くんの表情に似ていると思わない?
 ……あたしは少なくとも……とてもよく、似ていると思うけどね。
 まあとにかく、この年の卒業アルバムには、こんな写真が一枚掲載されてしまう事になったのよ。……松浦くんによく似た、ね。

 ……さ、そこで……更にその次の年のアルバムがあるの。

 ……うふふふ、あたしの言いたい事は、もう分かるわよね。

 三年二組のページ。
 ここの集合写真……。

 もう、見えるわよね。

 同じような白い影が、ぼんやりとだけど映っているわ。

 そしてこれも……また、顔みたいに見えるでしょう?……ふふふ、これも、松浦くんによく似ているわね。

 もうこうなると偶然とも言えなくなるわ。
 同じ色合いの白い影が二年連続で……しかも三年二組の集合写真にだけ写り込んでいるの。
 松浦くんが死んでから二年も経過した卒業アルバムにも、彼は姿を現したわ。
 
 ……あたしは、幽霊の気持ちなんて分からないけれど……卒業アルバムにだけこんな風に姿を現すのには……きっと彼には、なにか伝えたい事やメッセージがあったんだと思うの。
 自分が居た三年二組。そしてその卒業アルバム。果たせなかった『卒業』にしがみつく彼……。

 二年連続で、同じような心霊写真が写ってしまった。
 しかも学校側は気付いていなかったようね。また去年と同じように、この写真をアルバムに掲載してしまった……。
 それとも、集合写真を何枚撮っても同じようにこの白い影が写ってしまって、やむを得ず……とか?……ふふふ、まさかね。

 あたしは断片的な事実を拾い集めているだけだから、そこにある意図や狙いは分からないの。
 だから、この事実だけを纏めるわ。
 松浦雄大くんが不慮の事故で亡くなった次の年、そして更にその次の年の卒業アルバムに、同じような心霊写真が連続して掲載されてしまったの。
 彼が死んだ三年二組、そしてその白い影はどことなく顔に見えて……松浦くんの顔に、似ている気がする。
 
 ……ふふ、あたしが次に言いたい事は分かるわよね?
 じゃあ更にその次の年……つまり松浦くんが死んだ三年後の卒業アルバムに、白い影は写っているのか?また、同じ三年二組の集合写真に……。

 ここに、その卒業アルバムがあるわ。
 ……ふふふ、じゃあ、中を覗いてみましょうか。

 三年二組のページ……。
 そう、ここね。
 集合写真、じっくり見てみて頂戴。

 ……どう?白い影は、存在するかしら?

 ……うふふふ。


 なにも、映っていないわよね。


 ごく普通の集合写真。
 目をいくら凝らしても、怪しい影は存在しないわ。こじつけでなにかを言おうとしても、それらしいものの姿形すら見えない……。

 そう、卒業アルバムの三年二組の白い影は、二年で消えたのよ。

 ……普通の人ならば、なんとなく納得できちゃうわよね。
 ああ、松浦くんの霊魂は成仏をしたのだ、と。
 やっと彼は三年二組から離れ、死後の世界へと旅立つ事が出来たのだ……と。

 ……くすくす。

 どうなのかしらね。

 ごめんなさい。
 実はあたし、ちょっと気になる出来事を知っているの。

 この年の卒業生ね……この学校を卒業した後に何人か、若くして亡くなっているんですって。

 交通事故や、急病……なかには飛び降り自殺……。このアルバムに載っている生徒の数人は、もうこの世にはいないのよ。
 その他にも細かい怪我や病気など、この三年二組の生徒達には不幸な出来事が続いたというわ。偶然という言葉では片付けられないほどにね……。
 事故に、大病、あまりにも不運な出来事もあれば、予期せぬ災厄も……。
 貴方が今見ているこの三年二組の生徒達の多くが、そんな出来事に巻き込まれていったのよ。

 不思議よね。

 松浦くんによく似た白い影が集合写真に写っていた二年間の生徒達には、そんな出来事が降りかかったという話は聞かなかったわ。
 けれど……白い影が写っていない、この年度の生徒達には、不幸な出来事が頻発してしまった。
 当時の事を知る先生達や、町の住人達の語り草よ。少し調べれば、貴方もこの年度の生徒達に降りかかった出来事が分かると思うわ……。それくらい、有名な話なの。

 仮に心霊写真の呪い、なんてものがあれば普通は逆よね。
 霊が映ってしまった写真の生徒達に災厄が降りかかる、というのがよくある話だと思うけれど……このお話は、逆なの。

 松浦くんの幽霊が写った年の生徒達は無事で、映らなかった年の生徒達には災いが降りかかった。

 ……これで、あたしの知っている事の話は、おしまいよ。

 ……くすくす。

 驚いた顔しないで。
 これがオチ、だなんて言わないかあら。

 ねえ、貴方はどう思うかしら。それを考える事が、このお話の面白いところなのよ。

 不慮の出来事で亡くなった男子生徒。
 その翌年、更にその次の年に相次いで掲載されてしまった、彼の亡霊と思わしき白い影の心霊写真。卒業アルバムの、三年二組……。
 そしてその白い影が消えた、男子生徒の死亡から三年後の卒業アルバムに掲載された三年二組の生徒達に、次々と不幸が襲った……。

 松浦くんの呪いというものが存在したのならば、何故三年後なのか。
 何故彼が姿を現さなくなった三年後の生徒達に、それが降りかかったのか。
 そもそも何故松浦くんは、三年二組の生徒達にそんな事をしたのか……。


 貴方の考えがきっと、この怪談を完結させるのよ、うふふふ。


―――

 ……え?あたし?


 ……ふふ、仕方ないわね。折角だから、あたしの考えを聞かせてあげるわ。

 
 松浦くんはね、きっと今でも死んだ事に気付いていないのよ。 
 心臓の発作で急に亡くなった彼は、自分が現世にいない事が理解できなかったの。
 だから毎年、卒業アルバムの集合写真に彼は姿を現し、まるで生きている人間のように笑顔で写りこみ、卒業に思いを馳せていたの。

 仮に、自分の事だと考えてみて。

 もし自分のクラスで集合写真を撮っていて、そこに自分が写るのは当たり前の事よね。
 ……けれども、ある年。

 自分が写ったはずの集合写真に、自分の姿が見えなかったら……どうかしら?

 しっかり写ったはず。けれども悪意ある誰かが、自分の姿を……例えそれが白い影だったとしても、修正や加工、あるいは自分の写っていない写真をチョイスして集合写真に載せたとしたら……。
 しかもそれは、卒業をして未来への大きな夢を抱いていた男子生徒だった。自分は卒業をして、未来へ、夢へ向かっていくんだ。
 けれどもそんな自分が、あろうことか卒業アルバムに写っていないだなんて……。

 貴方は、どう考えるかしら?

 あたしの考えではね……。


 松浦くんは、きっと……すごく、怒ったんでしょうね。


 ……ふふふふ。


 え?更にその次の年の卒業アルバムでは、どうなっているかって?

 ふふふ、自分の目で確かめてみるのが一番よ。
 蔵書先は教えられないけれど……まあ、それを調べるのも一つの楽しみだから。

 怪異に近づきたい貴方には、ぴったりの楽しみよ……きっとね。

 
 それじゃ、また。

 ……怪異に触れすぎるのは、あまり褒められたことじゃないと思うけれど……。
 貴方にはきっと、それが必要なのね。

 ……応援しているわ、いつでもね。

―――
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