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ろうでい

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九話 『五人の、季節』

エピローグ:山賀美 柚子

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――

「……進学、ね」

ここは、私の学校の生徒指導室。
白の長机を挟んで、担任の高峰先生が私の渡した進路希望の用紙を、眼鏡をくいっと上げて読み上げた。

「はい。……すいません、遅くなって」

「まったくだ。……ま、無事に決意も固まった事だし、良しとしてやろう。
私はてっきり実家をすぐに継ぐものだと思ったんだがな」

苦笑する高峰先生に、私は答える。

「……ずっと、それで悩んでいたんです。
でも、私、まだまだ民宿を継ぐには……人への理解と、自分への理解が足りないなあ、なんて思って」

「ほう?」

「勉強も勿論大切な事なんですけれど……私、大学で、自分をもっと見つめ直したいなあ、って。
……夏休みに、従姉妹に言われたんです。柚子ちゃんはもっと、自分に自信を持つべきだ、と。
……私、自信を持つなんて発想自体、持ったこともなくて。
人からどう見られるかばっかり気にしていて、自分が自分をどう思うか、気にしたことがなかったんです」

高峰先生はジッと、私の事を微笑んで見つめてくれていた。私の言葉を待ち構えるように。
だから私も、言葉を続ける。

「家業を継ぐ前に、どうしても……自分がどんな人間なのか、知ってみたいんです。
どんな事ができるのか。どんな事に夢中になるのか。……自分が、どんな人間なのか。
大学で勉強をしながら、私、今までに考えていなかった事を、考えてみたいんです、先生。
……あの、不純な動機だったら、申し訳ないんですけれど……」

言っているうちに、進学する理由には程遠くなっていないか心配になり、先生に謝る。
しかし高峰先生は、微笑みながら首を横に振ってくれた。

「その気持ち、しっかり志望校の面接でぶつけてみろ。もっとしっかりした言葉にしてな。
それをしっかり受け止めてくれる大学に行くんだぞ、山賀美」

「……!ありがとうございますっ、先生!」

私は思わずパイプ椅子から立ち上がり、先生に向かって礼をした。

――

『そっか、進学するんだね、柚子ちゃん』

「あはは、そうなの。……清海ちゃんのおかげだよ。あの言葉がなかったら、きっと私、まだフワフワしてた」

『そんな事ないよ。柚子ちゃんはきっと、私なんかが助言しなくてもしっかり自分で決められてたよ。……私もね、なんとなく柚子ちゃん、進学するって思ってたの』

「え、そうなの?」

その夜。
私は自分の部屋で、清海ちゃんに電話をかけていた。
まず一番に、その事を彼女に伝えたかったから。

『ふふふ、私、柚子ちゃんの事、大好きだからなんでも分かるんだよ』

「……な、なんか怖いなぁ。……あ、そうだ。今度勉強教えてね。あと入試対策とか、色々さ」

『うん、勿論。お正月の前に会えたりしたら会おうよ』

「オッケー。じゃあ今度は民宿が暇な時に、私が清海ちゃんの家行くね」

『わあ、本当?柚子ちゃんが来るの久しぶりだから楽しみだなー。待ってるね』

「よろしくっ。そいじゃあ、また連絡するからね!おやすみー」

「おやすみ、柚子ちゃん」

電話を切ると、夜の風が窓から吹き込む。
少し涼しい、夏の夜の風。
私の髪を揺らし、部屋を通り、新たな空気を送り込む。


きっと、大丈夫。
そんな事を、思わせてくれる、優しい風。


「…… がんばるぞー!山賀美柚子っ!!」


私はベッドに横たわり、天井に向けて、そう宣言するのだった。


―― 完
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みんなの感想(2件)

帆足 じれ
2025.01.07 帆足 じれ

登場人物たちがいずれも個性的かつ魅力的で引き込まれました。個人的には夏ちゃん推しです。ギャップカワイイ!笑

みんなの選択や未来に希望が感じられて良かったです。
素敵な作品をありがとうございました! 続編、読んでみたいですね^^

解除
帆足 じれ
2025.01.06 帆足 じれ

おすすめから来ました。子供の頃、家族と一緒に旅館や民宿に泊まっていた記憶が蘇り、ハマってしまいました! 
もう長いこと旅行に行けていないのですが、旅気分と柚子ちゃん達のほのぼのとした日常を味わえて何とも言えない幸福を感じています。
こんな素敵な作品に、もっと早く出合いたかったー!笑
まだ読み始めたばかりなので、ゆっくり浸りたいと思います^^

解除

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