48 / 80
四章『獣人の むら』
四十五話『平穏 そしてそのおわり』
しおりを挟む――― …
「こっちだ!気配がする!」
クヌギさんが、森を駆けていく。
草木を避け、樹木の根を飛び越え、石に躓かないように… だが、その速度は尋常じゃなく速い。森を知り尽くしてなければ出来ない移動速度だろう。
速度強化の術は俺にもかけたが、追いつくのに必死な俺はとにかく前方のクヌギさんを見失わないように走っていた。
疲れもしたが、今はそれどころではない。カエデとモミジちゃんが危ないのだ。
「クヌギさん!笛は聞こえるんですか!?」
「いや…!だがあっちの方向の木が騒めいている! 何かが起きている可能性が高い、とにかくあちらに向かおう!」
クヌギさんが指さす前方。俺にはさっぱり分からないが、そういった事も長年の勘か何かで分かるのだろう。流石守護剣士といったところか。
…と、今はとにかくカエデの方へ向かわなければ!
「…!?」
少し走った先、信じられないものをクヌギさんと俺は見つける。
それは、両断されたキラーコングの死体だった。
クヌギさんは足を止め、その死体を確認し、判断する。
「… カタナによる斬撃。血が滴っている、まだ新しいぞ。 … まさか、カエデが…?」
「え、ええ…!?まさか…!」
だが、そうとしか考えられない。カエデの獣笛が聞こえた方向で、カタナによる攻撃が行えるのは…カエデしか考えられないのだ。
「… 誰がやったにしろ、まずキラーコングがこの辺りをうろつく事はまず例がない。…カエデとモミジもこの付近にいるはずだ。…うまく逃げれているといいが…」
「… !?」
クヌギさんの耳がピクリ、と動く。どうやら何かの音を探知したようだ。
素早く振り返り、視線の先には木々に隠れるようにある洞窟があった。
「…あそこだ!笛の音がする!」
「… いや、待て…!?」
洞窟に向かおうとしたところで、クヌギさんは足を止めた。クヌギさんはまた振り返り、森の先を指さす。
「だとしたらあちらの騒ぎはなんだ…!?笛の音は確かに洞窟の中からする。だが… あちらの木々が騒めいている。どういうことだ…!?」
「… カエデと、モミジちゃん。二手に分かれているというコトでしょうか?」
「そう考えるのが妥当だな。…くそ、どちらに向かう…!?」
珍しくクヌギさんが焦っている。
洞窟で笛を吹き助けを呼んでいる方か、草木を騒めかせている方か…。
俺は判断をし、クヌギさんに伝えた。
「俺が、森の方へ行きます! クヌギさんは洞窟の方へ! お互い、何かあったら大声で知らせましょう!」
キラーコングなら、俺がどうにか処理できる。森に詳しいクヌギさんが洞窟の方へ行った方が危険は少ない筈。なんとなくだが、咄嗟にそう判断して俺はそう言った。
俺の意見に、クヌギさんも頷く。
「分かった。…恩に着る、マコトくん!」
短く一礼して、クヌギさんは洞窟の方へ駆けていった。
一方の俺も、クヌギさんの指さした方向へ急ぎ走る。
近づくほど、その場所に何かの気配があるのが分かる。
キラーコングの鳴き声、草木の揺らめき、何かの叫び声、金属の音…。
これは…。
カエデ…!?
――― …
「キィィヤァアアアーーーーーッ!!!」
「――― ッ!!」
背後から襲い掛かるキラーコングの気配に気づき、素早く振り返る。
振り返った勢いで、そのままカタナを横に薙ぎ払い… その獣の胴体を斬る。
「ギ、ッ… !!!」
短い断末魔を発して、キラーコングは血を噴出し… 地面に倒れた。
「… … …」
これで、全員。
カエデはそう判断して、カタナについた血を振り払って落とした。
「――― ふゥゥゥッ… !!」
残心。
荒くなった息を整えて、気持ちを落ち着かせ筋肉を緩和させつつ… 周囲への警戒は怠らない。それはいつもの稽古でしている最後の動作だった。
カタナを鞘にしまい、瞳を閉じて周囲の音を聞く。 気配はもう無い。カエデの周囲には斬られた魔獣の死体が散乱していた。
「… カエデ…?」
「!!!」
俺はその姿を見て驚愕する。
気配の先にいたのは… やはりカエデだった。
しかしそれは、俺の知っているカエデではない。恐怖に怯え、魔物を恐れ、身体を縮こまられていた… あの少女ではなかった。
俺を見るその目は、剣士そのものだった。
戦いを終えたがまだ緊張はしていて… 気配を察知すればすぐにでも斬りかかる。そんな殺気に溢れた剣士。
しかし、俺の顔を認識すると…。
カエデは、俺の知っているカエデに戻った。
「ま…」
「マコトしゃああああん… ご、ごわがったよぉぉおお…」
両手を伸ばして、安堵の場所を求めて近づいてくる少女。
俺はその身体を少し驚きながらも支えた。
「か、カエデがやったのか、コレ…」
辺りにはキラーコングの死体が… おそらくは10体以上。これを全て、カエデ1人で…!?
「… たぶん。 …ボク、無我夢中でさっぱり分からなかったけれど…」
「昨日、マコトさんに言われた言葉を思い出したんです。目を閉じるな、って」
「そうしたら… なんだか身体が勝手に動いて。攻撃が避けられて。ボクのカタナが当てられて。それを繰り返していたら… いつの間にか…」
「… … …」
クヌギさんが言っていた。カエデは、剣の腕だけなら私を凌駕する存在になれる、と。
それを確信した。
カエデは単に、戦いの経験が無くて、ただただ脅えているだけだった。
しかし、内に秘めた才覚が開花すれば、あとは勝手に身体が動くのだ。一度恐怖を克服してしまえば、あとはその才能にだけ従えばいい。
考える必要もない。避け、斬り、動作する。それはカエデの身体にしっかり染みついているのだろう。
「… 頑張ったな、カエデ…!」
俺はとにかく、腕の中にいるその少女の頭を無茶苦茶に撫でた。
無事でよかった…!それだけが、何より嬉しかった…!
「… にゃにゃ…っ! う、うううう…!! ぐすっ、ううう…!!」
カエデは頭がボサボサになりながらも、泣きながら俺の服に顔を擦り付けてきた。
――― …
「… お恥ずかしいところを」
「… いや、俺も… すまん」
冷静になると何をしていたんだろう。抱き合って、撫でて…。 それが恥ずかしくなって、俺達は顔を合わせないようにして洞窟の方へ歩いていった。
その間に、俺はカエデに状況を聞いていた。
「ポポンの実を採ったところで、キラーコングに襲われて… モミジちゃんは洞窟に隠れています。笛を鳴らしていたのもモミジちゃんです」
「キラーコングの狙いがボクだって分かったから、ボク、急いで洞窟から離れて… でも、その時はすごく怖かったんです。ここで食べられて… 死んじゃうんじゃないか、って」
「きっと… 昨日、マコトさんがボクの前で戦ってくれて、ボクに言ってくれたから… 勇気が出せたんです」
「マコトさんと会わなければ、ボク… 死んでた、かもしれません…」
… だが、生き延びることができた。俺だけのおかげではない。クヌギさんがカエデの才能に気付き、日々の鍛錬を欠かさなかったから、あれだけのキラーコングと戦えたのだろう。
「カエデがスゴイんだよ」
「俺は、そのカタナを抜くきっかけになれただけだよ。…本当に頑張って、勇気を出して、スゴイのは…カエデ自身なんだ」
「自信をもてよ。…お前のカタナが、モミジちゃんを助けられたんだから」
「… … …」
「はいっ!!」
俺の言葉に、カエデはにっこりと笑って頷いた。
それは、幼い少女のとびきり明るい笑顔だった。
「さ、洞窟で師匠とモミジちゃんが待ってる筈だ。早く行ってやろう、カエデ… …」
「ギィオオオオオオオーーーーーーーーーッ!!!!!」
耳を劈くようなその鳴き声に、ひと時の平穏は掻き消された。
森が震え、大地が動くようなその雄叫び。
それは、その獣の大きさ。 そして強さを誇示しているかのような轟きだった。
「…ッ…!?」
「この鳴き声… な、なんだ…!?」
キラーコングのものではない。だが… 声は似ている。
カエデは頭の耳をピク、と動かして、声の方向を察知し… そして、驚愕した表情を浮かべた。
「… 洞窟の、方から…ッ…!? も、モミジちゃんが… !!!」
カエデは腰元のカタナに手をかけ、慌てて洞窟の方へ駆けだした。
「か、カエデ…!! 待て…ッ!」
俺も慌ててその後ろについていく。
洞窟の方にはクヌギさんも行っている筈だ。…大丈夫だと信じたいが…。
だが、今の咆哮は… 一体…!!
――― …
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる