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四章『獣人の むら』
四十七話『終わりと さいかい』
しおりを挟む――― …
「… ふうッ」
カエデは、刀身を鞘に納め、張りつめていた息をふう、と吐き出した。
両断した首から血が噴き出る前にカエデは魔獣の身体から跳躍し、地に降り立った。
そして、ボスキラーコングの身体は、岩盤が倒れるようにその場に倒れる。
「… … …」
「まごどざぁぁぁん、ご、ごわがったよぉぉぉ… !!」
まるで別人になったようなカエデが、俺の所へ涙と鼻水を垂らしながら近づいてきた。
「あ、あははは… カエデ…よく、がんばったよ…! 本当に…」
俺はその小さな身体を抱きとめて、頭を支える。
力を溜め込んだ、斬撃。隙の大きい技だが、威力は抜群… あの大きい魔獣を、一撃で倒す程の技だ。
やはり、カエデの才能はクヌギさんが見込んだ通り… …。
「… あ」
俺も、カエデも勝利で我を忘れていたが、もっと大事な事を思い出した。
振り返って、その場に座り込んでいるクヌギさんに慌てて近づく。
「し、師匠! 大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい、クヌギさん!今、回復魔法をかけますから… 待っていてください」
「…ふ、ふふ… 有難う。助かるよ」
クヌギさんは疲れ切った笑顔を俺達に向けた。だが、その笑顔は心底楽しそうな表情だった。
「… 似ているな。カエデも、マコトくんも」
「… カエデ。本当に、成長したな。…恐怖心を捨て去ったかと思えば、もう巨大な敵にも怯まないようになってきた」
「もうお前は、私を超えているのかもしれない」
「そ、そんな事ないです!ボク、ようやくスタートラインに立っただけで… 師匠やマコトさんが居なければ、ボク…!」
「… 少なくとも、これだけは言っておいてやろう」
クヌギさんはふっと優しい笑顔を見せて、跪いてクヌギさんの心配をしているカエデの頭に、ポン、と手を置いた。
「お前は 剣士になったんだ」
「… … …!」
その言葉に、カエデの瞳から涙が一筋落ちた。
「――― ッ。 有難う、ございます…ッ! 師匠…!!」
カエデは跪いたまま頭を下げて… 心からの感謝を、自分の師に述べた。
「… … …」
俺はクヌギさんの回復をしながら、なるべく息を殺していた。
せめて、この場の邪魔をしないように…!
… なんというか。
とても、回復しづらい…!!
――― …
「すごいすごい!! カエデおねーちゃん、しゅごけんしさまみたいだったよー!!」
「あ、あはは… ありがとう、モミジちゃん。モミジちゃんも無事で良かったよ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねてカエデの周りを駆けるモミジちゃんに、カエデは照れくさそうに頬を掻きながら言った。
「アタシもぜったい、クヌギさまやカエデおねーちゃんみたいなけんしになるんだー!もう決めたもん!!」
「そ、それは… なによりで…。 も、もういいから、ね?」
興奮冷めやらぬモミジちゃんを、カエデは恥ずかしさを隠すように抱きかかえた。
「… 大丈夫ですか?クヌギさん」
「ああ。さすが、僧侶だな。さっきまでの痛みが嘘のように引いていて… 腕も動かせる。…本当に、恩に着る。マコトくん」
クヌギさんは立ち上がり、自分の身体を確認するように腕をブンブンと振ってみせた。
猫の顔を笑わせて、気持ちのいい笑顔を俺に見せてくれる。
「お礼を言うのは俺の方です。恩返しが少しでも出来ていれば…」
「これで、長老のキミに対する考えも少しは変わってくれただろう。村の危機を救ってくれた英雄なんだ。私がしっかりと説得に当たるからな」
「あ、ありがとうございます。でも… 英雄は、カエデの方ですよ」
「… … …」
クヌギさんと俺は、モミジちゃんと楽しそうにはしゃいで、照れているカエデの表情を見つめた。
「あの子に戦いは、向いていないかもしれない」
「血生臭い戦の場にあの少女を置くことは、正しくないのかもしれない」
「でも、キミとカエデが居なければ… 私やモミジが、どうなっていたか、分からない」
「だから… これで良かったのかも、な」
「… … … はい。俺も、そう思います」
クヌギさんとモミジちゃんを、助けられた。
そして、カエデの… 剣士になる、道しるべを与えるきっかけになれた。
今回の出来事の主人公は、他でもない、獣人達だ。
だが、そこに… プレイヤーで、現実世界の人間である俺が介入して… そして、無事にこの出来事を、乗り越えられた。
俺だけが強くて、何かが成り立つワケじゃない。
人が。プレイヤーが、モブキャラが… たくさんの人達が、このセカイを形成している。
俺は、僧侶として… 誰かが強くなるサポートをしていくべきなのかもしれない。
そして、人と一緒に、強く、逞しくなれる。
それはきっと… すべてのセカイで、共通して言える事なのだろう。
「 マコトおにーちゃん!クヌギさま! ポポンの実、たくさんとれたんだよ! おいわいにたべよーよ! 」
俺が考え事をしていると、モミジちゃんが籠いっぱいの実を持って近づいてきてくれた。
サクランボより一回り大きい、真っ赤な実。つやつやと光沢を放ち、甘い匂いがこちらにまで伝わるほどだった。
「おお、モミジ。ありがとう。 マコトくんも食べてみるといい。初めてだろう?」
「は、はい。こんなに美味しそうなものだったとは…」
「たべてみてたべてみて! ほっぺがおちちゃうんだからぁ~!」
ごくり。
戦いで疲れ切った頭と身体に、この果物の甘さは至高のご褒美だろう。
俺は遠慮なく籠からその実を一つ手に取った。
「そ、それじゃあ遠慮なく。 いただきま――― 」
「!!!!」
口に、その実を運ぼうとした瞬間。
俺は慌ててその実を戻して、『それ』の方向へ走った。
「え…?マコト、さん…?」
カエデ達はその様子に、目を丸くした。
――― …
「… … …」
それは、木の枝に止まり、こちらをじっと伺っていた。
いつからそこに居たのだろう。どこまで、俺達を監視していたのだろう。
… いや、そんな事はどうでもいい。
「… 久しぶりだな。 …会いたかったよ」
「ま、マコトさ~ん! ど、どうしたんですか…!?」
カエデ、クヌギさん、モミジちゃんがこちらに近づいてくる足音がした。
そして俺の後ろで立ち止まり… 俺と同じ方向へ、顔を上げた。
「… マコトくん? なんだ…?」
「マコトさん… なんですか、あの… 鳥…。 マコトさん、知ってるんですか…?」
「… ああ」
「ずっと探していた… 俺の運命を決める、凶鳥だよ」
「 … イシエル…!! 」
その黒い身体の鳥は、半透明の身体をこちらに向けて、紅い瞳を光らせた。
『久しぶりだね、マコト』
『ゲームを楽しんでいてくれて、何よりだよ』
『そして… 生き延びていてくれて、本当に嬉しいよ ―――』
イシエルは、感情のない声で、そう喜んだ。
――― …
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